こちらはドラキュラ&キャッスルヴァニアシリーズ全般のパラレルネタ総合スレです。
本スレのほうでパラレルネタ話が長引いたり、
「触発されてSS書いちゃった」
「ネタ思いついたけど長文に…」なんて場合は迷わずここにイラッシャ〜イ。
( ´_ゝ` ) <ドラキュラ学園は萌えの産物だ…その姿はけしてひとつではない
基本的にカプ・シチュ・設定は投下人の完全自由裁量。
効率私立共学男子校通学寮制戦隊社会人なんでもアリアリ。
同キャラ・同カプも人によって設定が違ったりするのはむしろ当然。
だってパラレルなんだもん。
ただし、読む側の混乱を避けるために
投下品の最初にそのネタの設定とカプ傾向は明記しておくこと(これ重要!)
他の人の設定が自分と違っててもスルースルー。だってパラレル(ry
それではみなさま、以上をお読みになった上で
楽しい萌え萌えスクールライフを。
あ、ほら、始業のチャイムが……。
本スレのほうでパラレルネタ話が長引いたり、
「触発されてSS書いちゃった」
「ネタ思いついたけど長文に…」なんて場合は迷わずここにイラッシャ〜イ。
( ´_ゝ` ) <ドラキュラ学園は萌えの産物だ…その姿はけしてひとつではない
基本的にカプ・シチュ・設定は投下人の完全自由裁量。
効率私立共学男子校通学寮制戦隊社会人なんでもアリアリ。
同キャラ・同カプも人によって設定が違ったりするのはむしろ当然。
だってパラレルなんだもん。
ただし、読む側の混乱を避けるために
投下品の最初にそのネタの設定とカプ傾向は明記しておくこと(これ重要!)
他の人の設定が自分と違っててもスルースルー。だってパラレル(ry
それではみなさま、以上をお読みになった上で
楽しい萌え萌えスクールライフを。
あ、ほら、始業のチャイムが……。
……指先をなめたピンクの舌を思い出すと、ちょっとまた具合が悪いことになりそうなので
やめておく。
ただでさえ、隣からバニラとチョコのいい匂いが、まだほんのりと香ってくるのに。
「洗っても取れないんだもんなー」
黒いケモノ耳をそっと撫でてやる。
眠りながらアルカードはくすぐったそうに身動きし、ぴこぴこと耳を振る。
他人が見たら目を疑いそうな笑顔で、ラルフはもう一度頭をくしゃくしゃしてやり、毛布
代わりのハンドタオルを引き上げてやって、また横になって目を閉じる。
夜空に響いた誰かの悲鳴のことなど、そらもうカンペキに忘れ去って。
――数日後、ドラキュラ学園になんかいつも目の下にクマ作ってるような感じの、銀髪の
社会科講師がやってくることになるのだったが、もちろん、そんなことはまだ知らないラルフ
たちなのだった。
またいつか、つづく。
やめておく。
ただでさえ、隣からバニラとチョコのいい匂いが、まだほんのりと香ってくるのに。
「洗っても取れないんだもんなー」
黒いケモノ耳をそっと撫でてやる。
眠りながらアルカードはくすぐったそうに身動きし、ぴこぴこと耳を振る。
他人が見たら目を疑いそうな笑顔で、ラルフはもう一度頭をくしゃくしゃしてやり、毛布
代わりのハンドタオルを引き上げてやって、また横になって目を閉じる。
夜空に響いた誰かの悲鳴のことなど、そらもうカンペキに忘れ去って。
――数日後、ドラキュラ学園になんかいつも目の下にクマ作ってるような感じの、銀髪の
社会科講師がやってくることになるのだったが、もちろん、そんなことはまだ知らないラルフ
たちなのだった。
またいつか、つづく。
ということでバレンタイン話でしたw
愛ざっくがサン○オマニアなのは何故なのか謎。
へくたぁ先生がどうやって学園に就職したかも追求しないでください(;´∀`)
愛ざっくがサン○オマニアなのは何故なのか謎。
へくたぁ先生がどうやって学園に就職したかも追求しないでください(;´∀`)
「んー……ちょっと右手肩まで上げてくれる? そうそう。どう? きつくない? ひっかかる
感じとか」
「ない。快適だ。リディーはほんとうに裁縫が上手なのだな」
「……おい」
「あはは、ありがと。じゃ、これで縫っちゃうね。ブレードの色、金でよかった? こないだ
銀色の縁取りテープ見つけたから、髪の色にあわせてそれ使ってもいいよ」
「リディーに任せる。いつも感謝している。新しいシャツも、とても着心地がいい」
「……おい。あのな」
「ん、じゃあちょっと試しに使わせてもらおうかな。あーほんと、こう言っちゃうとなんだけど、
アノレカード君みたいに素敵なモデノレ使ってる人形モノなんていないわよねえ。なんかそう思うと
自慢したいみたいな感じ。もちろんしないけどねー、あはー」
「……話を聞けッそこの人形女!」
「ん?」
片手にまち針、片手に裁断した布を掲げて振り返るリディー。
その拍子に、リディーの陰にかくれていたアノレカードがけげんそうに顔を出す。
「なに? なんか言った、ラノレフ君」
「何を怒っているのだ、ラノレフ?」
「…………ッッ」
だから何か着ろこっちを向くな何か履け脚を見せるな胸を隠せ。続き3行
感じとか」
「ない。快適だ。リディーはほんとうに裁縫が上手なのだな」
「……おい」
「あはは、ありがと。じゃ、これで縫っちゃうね。ブレードの色、金でよかった? こないだ
銀色の縁取りテープ見つけたから、髪の色にあわせてそれ使ってもいいよ」
「リディーに任せる。いつも感謝している。新しいシャツも、とても着心地がいい」
「……おい。あのな」
「ん、じゃあちょっと試しに使わせてもらおうかな。あーほんと、こう言っちゃうとなんだけど、
アノレカード君みたいに素敵なモデノレ使ってる人形モノなんていないわよねえ。なんかそう思うと
自慢したいみたいな感じ。もちろんしないけどねー、あはー」
「……話を聞けッそこの人形女!」
「ん?」
片手にまち針、片手に裁断した布を掲げて振り返るリディー。
その拍子に、リディーの陰にかくれていたアノレカードがけげんそうに顔を出す。
「なに? なんか言った、ラノレフ君」
「何を怒っているのだ、ラノレフ?」
「…………ッッ」
だから何か着ろこっちを向くな何か履け脚を見せるな胸を隠せ。続き3行
何しろ今はリディーによるアノレカードの新作衣装の採寸と仮縫いのまっ最中。
採寸、ということはつまり身体のサイズをはかるということであって、つまりは衣服を
着ているわけにはいかないので、つまりすなわちそういうことで。
「…………???」
不思議そうに首をかしげているアノレカード(お人形サイズ)の、しなやかな細い首筋がまぶたの
裏でちかちかする。
もちろんリディーもうら若い乙女ではあるので、礼儀上アノレカードもすっぱだかというわけでは
なくて、タオノレハンカチを裁って作った簡単なガウンに、人形用のショーツをつけてはいるのだが。
いくら人形サイズとはいえ、いろんなところに血の気が溢れまくるお年頃であるところのラノレフ
には刺激の強すぎる格好およびポーズが、机の上できゃっきゃと展開されるのを延々聞かされれば、
血管切れそうになるのも無理はないのである。
「……いや、もういい……もういいから、とりあえず、おまえ服着ろアノレカード。なんでもいいから
着ろ。肌を隠せ。頼むから」
でないと某所がますます大変なことになりそうなのである。
どっちにしろ、なにがどうなってもナニができるようなサイズではないというのに。
「あ、もうこんな時間なんだ?」
裁縫セットを片付けながら、時計を見たリディーがあわてたように立ち上がった。
「じゃああたし、そろそろ帰るね。ジュストたちに夕ご飯作ってあげなきゃいけないし。アノレカード続き5行
採寸、ということはつまり身体のサイズをはかるということであって、つまりは衣服を
着ているわけにはいかないので、つまりすなわちそういうことで。
「…………???」
不思議そうに首をかしげているアノレカード(お人形サイズ)の、しなやかな細い首筋がまぶたの
裏でちかちかする。
もちろんリディーもうら若い乙女ではあるので、礼儀上アノレカードもすっぱだかというわけでは
なくて、タオノレハンカチを裁って作った簡単なガウンに、人形用のショーツをつけてはいるのだが。
いくら人形サイズとはいえ、いろんなところに血の気が溢れまくるお年頃であるところのラノレフ
には刺激の強すぎる格好およびポーズが、机の上できゃっきゃと展開されるのを延々聞かされれば、
血管切れそうになるのも無理はないのである。
「……いや、もういい……もういいから、とりあえず、おまえ服着ろアノレカード。なんでもいいから
着ろ。肌を隠せ。頼むから」
でないと某所がますます大変なことになりそうなのである。
どっちにしろ、なにがどうなってもナニができるようなサイズではないというのに。
「あ、もうこんな時間なんだ?」
裁縫セットを片付けながら、時計を見たリディーがあわてたように立ち上がった。
「じゃああたし、そろそろ帰るね。ジュストたちに夕ご飯作ってあげなきゃいけないし。アノレカード続き5行
「ダメだ。ぜったいダメ。死んでもダメ。ダメだったらダメ」
「うー、わかったわよう。そんなに念押さなくてもいいじゃないー。だってこんなに綺麗なのに、
似合ってるのに、勿体ないよー? 世界的損失だと思うなー、あたし」
だから綺麗だから勿体ないから他人なんぞに見せたくないんだ馬鹿者。
という言葉がやっぱり喉で引っかかる。
リディーは不満そうにほっぺたを膨らましている。
いくら綺麗でもお人形サイズでも、アノレカードは一応もとは人間サイズの男子高校生だった
のである。
それが学園マッドサイエンティストのよくわからん薬で縮んだだけであって、単なる綺麗な
お人形さんとは事情が違う。
どうもリディーは美麗な上に、自分でちゃんとポーズを取ったり脱ぎ着をしてくれるモデノレを
手に入れて、喜んでいるように気が最近するのだが。
マッドと変態の幼なじみは、やっぱりなんかどっかがおかしいのか。
「と、とりあえず、あのマッドにはとっととアノレカードを元に戻す方法を発見するなり開発する
なりしろと言っとけ。さすがにそろそろ病欠でごまかすのも苦しくなってきた。なんか校長と
理事長が、裏で動いてるとかいう噂も聞いてるし」
「あ、それあたしも聞いてる。廊下をぴょんぴょん飛び回って人突き倒してアノレカード君のこと
訊いてくるちっちゃい人とか、階段の上でガイコツみたいな蝙蝠がくりんくりん回ってよだれ
垂らしながら『あるかーどさまどこですかーどこですかーあるかーどさまー』って鳴いてたり続き4行
「うー、わかったわよう。そんなに念押さなくてもいいじゃないー。だってこんなに綺麗なのに、
似合ってるのに、勿体ないよー? 世界的損失だと思うなー、あたし」
だから綺麗だから勿体ないから他人なんぞに見せたくないんだ馬鹿者。
という言葉がやっぱり喉で引っかかる。
リディーは不満そうにほっぺたを膨らましている。
いくら綺麗でもお人形サイズでも、アノレカードは一応もとは人間サイズの男子高校生だった
のである。
それが学園マッドサイエンティストのよくわからん薬で縮んだだけであって、単なる綺麗な
お人形さんとは事情が違う。
どうもリディーは美麗な上に、自分でちゃんとポーズを取ったり脱ぎ着をしてくれるモデノレを
手に入れて、喜んでいるように気が最近するのだが。
マッドと変態の幼なじみは、やっぱりなんかどっかがおかしいのか。
「と、とりあえず、あのマッドにはとっととアノレカードを元に戻す方法を発見するなり開発する
なりしろと言っとけ。さすがにそろそろ病欠でごまかすのも苦しくなってきた。なんか校長と
理事長が、裏で動いてるとかいう噂も聞いてるし」
「あ、それあたしも聞いてる。廊下をぴょんぴょん飛び回って人突き倒してアノレカード君のこと
訊いてくるちっちゃい人とか、階段の上でガイコツみたいな蝙蝠がくりんくりん回ってよだれ
垂らしながら『あるかーどさまどこですかーどこですかーあるかーどさまー』って鳴いてたり続き4行
「ま、とにかく、あたしもジュストにはきつく言っとくわ。なんとかしなくちゃいけないのは
本当だしね」
「世話をかける。よろしく頼む、リディー」
「いいのよぉ、アノレカード君は気にしなくって。もともと悪いのはジュストだし」
律儀に頭を下げるアノレカードに、きゃらきゃらとリディーは笑って、
「あ、そうだ。これ、ラノレフ君にプレゼント。はい♪」
「プレゼントぉ?」
どうもうさんくさい。
また何か、あのマッドのろくでもない発明品ではなかろうか。
そう思いながら、手渡された箱の蓋をおそるおそる開いてみる。
中に入っていたのは、一体の……
「……俺?」
「ぴんっぽーん」
とっても楽しそうに、リディーは「いえーい」のポーズをしてみせた。
「いいでしょ、それ。人形仲間の子に、素体からカスタムしてもらったのよー。アノレカード君の
衣装に並んでも違和感ないように、デザイン苦労したんだから。すごいでしょ」
「すごいって言うか、お前な」
「凄いな」
ぱたたた、とコウモリ羽で飛んできたアノレカードが、箱の縁に肘をついて熱心にのぞき続き4行
本当だしね」
「世話をかける。よろしく頼む、リディー」
「いいのよぉ、アノレカード君は気にしなくって。もともと悪いのはジュストだし」
律儀に頭を下げるアノレカードに、きゃらきゃらとリディーは笑って、
「あ、そうだ。これ、ラノレフ君にプレゼント。はい♪」
「プレゼントぉ?」
どうもうさんくさい。
また何か、あのマッドのろくでもない発明品ではなかろうか。
そう思いながら、手渡された箱の蓋をおそるおそる開いてみる。
中に入っていたのは、一体の……
「……俺?」
「ぴんっぽーん」
とっても楽しそうに、リディーは「いえーい」のポーズをしてみせた。
「いいでしょ、それ。人形仲間の子に、素体からカスタムしてもらったのよー。アノレカード君の
衣装に並んでも違和感ないように、デザイン苦労したんだから。すごいでしょ」
「すごいって言うか、お前な」
「凄いな」
ぱたたた、とコウモリ羽で飛んできたアノレカードが、箱の縁に肘をついて熱心にのぞき続き4行
そう、それは一体のカスタムメイドのキャラクタードーノレ。
某メーカーの、関節や腰回りが動く精巧な可動素体に、ラノレフ本人そっくりの顔を作って
(顔の向こう傷まできっちり再現して)くっつけてある。
衣装は学生服ではなく、アノレカードが今着ているゴシックな服に合わせたような、クラシック
な長いコートと革の胴着にベノレトにブーツ、ベノレトには短剣やその他の小物が吊され、くるくると
巻いた革の鞭が腰の後ろに止められている。
「この衣装もリディーが作ったのか? ベノレトや剣や鞭まで、大変だっただろう」
「そーんなの。趣味は楽しいから趣味って言うのよ!」
感心したようなアノレカードの褒め言葉に、元気にこぶしを握りしめるリディー。
「やっぱりね、お人形って服だけ着せても楽しみは半分なの。大事なのはシチュエーションよ、
シチュエーション! そのお洋服に似合うシチュエーション演出には、だれか相手になってくれる
人が必要なのよね」
「それで、なんで俺が人形になるんだ……?」
「あら。じゃ、他の人のほうがよかった? アノレカード君の相手」
……う。
「…………よくない…………。」
「そう、よかった。じゃ、これ、はい♪」
きっちり箱を押しつけられてしまった。
「じゃあねー。また何か進展があったら連絡するから」続き3行
某メーカーの、関節や腰回りが動く精巧な可動素体に、ラノレフ本人そっくりの顔を作って
(顔の向こう傷まできっちり再現して)くっつけてある。
衣装は学生服ではなく、アノレカードが今着ているゴシックな服に合わせたような、クラシック
な長いコートと革の胴着にベノレトにブーツ、ベノレトには短剣やその他の小物が吊され、くるくると
巻いた革の鞭が腰の後ろに止められている。
「この衣装もリディーが作ったのか? ベノレトや剣や鞭まで、大変だっただろう」
「そーんなの。趣味は楽しいから趣味って言うのよ!」
感心したようなアノレカードの褒め言葉に、元気にこぶしを握りしめるリディー。
「やっぱりね、お人形って服だけ着せても楽しみは半分なの。大事なのはシチュエーションよ、
シチュエーション! そのお洋服に似合うシチュエーション演出には、だれか相手になってくれる
人が必要なのよね」
「それで、なんで俺が人形になるんだ……?」
「あら。じゃ、他の人のほうがよかった? アノレカード君の相手」
……う。
「…………よくない…………。」
「そう、よかった。じゃ、これ、はい♪」
きっちり箱を押しつけられてしまった。
「じゃあねー。また何か進展があったら連絡するから」続き3行
「……ラノレフ?」
「――………………。」
「ラノレフ。何を怒っているのだ」
「――別に何も怒ってねえよ」
「いや、怒っている。少なくとも機嫌が悪い。ほら、ここにシワが」
ぱたたたた、といきなり間近に綺麗な小さい顔が上がってきて、指で額を撫でられた。
「寄っている」
ラノレフは心臓が口から飛び出そうな思いで飛びすさった。
アノレカードはぱたぱたとコウモリ羽をはばたかせながら、心配顔(あまり表情が変わらないので
わかりにくいが、よく見ると少し眉がへにょんと下がっている)をしている。
「何かリディーとの話で気に入らないことでもあったか?」
「……別に、何も怒ってないと言ってるだろうが」
いや、ある。
実はものすごくあるのだが、正確に言えばそれは会話にではなくて。
箱から出されて、今はアノレカードがよく座っているティッシュの箱に並んで腰掛けさせられて
いる、小さな『ラノレフ』の人形。
アノレカードと並ぶと頭一つ大きいのも、自分とそっくりだ。きりっとした彫りの深い顔立ち、
怒ったように結んだ唇、左半面の向こう傷と濃い青の強い眼光を放つ瞳。
見れば見るほど、小さい自分がそこにいるように見える。続き2行
「――………………。」
「ラノレフ。何を怒っているのだ」
「――別に何も怒ってねえよ」
「いや、怒っている。少なくとも機嫌が悪い。ほら、ここにシワが」
ぱたたたた、といきなり間近に綺麗な小さい顔が上がってきて、指で額を撫でられた。
「寄っている」
ラノレフは心臓が口から飛び出そうな思いで飛びすさった。
アノレカードはぱたぱたとコウモリ羽をはばたかせながら、心配顔(あまり表情が変わらないので
わかりにくいが、よく見ると少し眉がへにょんと下がっている)をしている。
「何かリディーとの話で気に入らないことでもあったか?」
「……別に、何も怒ってないと言ってるだろうが」
いや、ある。
実はものすごくあるのだが、正確に言えばそれは会話にではなくて。
箱から出されて、今はアノレカードがよく座っているティッシュの箱に並んで腰掛けさせられて
いる、小さな『ラノレフ』の人形。
アノレカードと並ぶと頭一つ大きいのも、自分とそっくりだ。きりっとした彫りの深い顔立ち、
怒ったように結んだ唇、左半面の向こう傷と濃い青の強い眼光を放つ瞳。
見れば見るほど、小さい自分がそこにいるように見える。続き2行
なさけない。
あれは、人形だ。
ただの大量生産に手を加えた作り物のプラスチックのお人形で、立派な人間様である、この
ラノレフ・C・ベノレモンド様がうらやましく思うような理由はどこにもないはずだ。
なのに。
「ラノレフ?」
……この、ちっちゃくなってしまった綺麗なアノレカードと、ならんで座ることのできるあの
人形に、嫉妬してるなんて、誰が言えるか。
ドーノレサイズになってしまったアノレカードの手は、うっかり触ったら壊してしまいそうに細くて
小さい。
ごつくて実際あまり器用でない自分が、さわるのも怖いくらいなのに。
ぼうっとしているようでも、アノレカードがときどき、夜中に起きてじっと窓際に座って外を眺めて
いることがあるのも知っている。
その時に、自分があのプラスチックの人形くらいだったら、そばに座って手を握ってやれるのに。
小さくなってしまって苦労しているいろいろなことや、心配や不便を、分かち合ってやれるか
もしれないのに。
……もっと、近くにいてやれるかもしれないのに。
続き5行
あれは、人形だ。
ただの大量生産に手を加えた作り物のプラスチックのお人形で、立派な人間様である、この
ラノレフ・C・ベノレモンド様がうらやましく思うような理由はどこにもないはずだ。
なのに。
「ラノレフ?」
……この、ちっちゃくなってしまった綺麗なアノレカードと、ならんで座ることのできるあの
人形に、嫉妬してるなんて、誰が言えるか。
ドーノレサイズになってしまったアノレカードの手は、うっかり触ったら壊してしまいそうに細くて
小さい。
ごつくて実際あまり器用でない自分が、さわるのも怖いくらいなのに。
ぼうっとしているようでも、アノレカードがときどき、夜中に起きてじっと窓際に座って外を眺めて
いることがあるのも知っている。
その時に、自分があのプラスチックの人形くらいだったら、そばに座って手を握ってやれるのに。
小さくなってしまって苦労しているいろいろなことや、心配や不便を、分かち合ってやれるか
もしれないのに。
……もっと、近くにいてやれるかもしれないのに。
続き5行
アノレカードはぱたぱたぱた、とティッシュの箱に座らせたお人形ラノレフの所まで飛んでいくと、
よいしょ、と人形をかかえ上げた。
なにしろ自分より一回り大きくて重いのでなかなか一気にはいかない。しかし、ラノレフが
あわてている間に、アノレカードはお人形ラノレフを箱からおろし、もとどおり手足をのばして、
リディーが持ってきた箱の中に寝かせてしまった。
よいしょ、とボーノレ紙の蓋を閉める。
閉めて、その上に手をついたままラノレフを見上げた。
「……アノレカード?」
なんか俺って、やっぱ馬鹿かも。
と思うまでもないことを思いながら、ぽかんとラノレフは繰り返した。
「ラノレフ」
強い口調でアノレカードは言った。
「私は、お前がそうやってそこにいてくれることが、とても嬉しいと思っている」
「……は?」
「大きくても、がさつでも、騒々しくても、私は、生きている今のお前がいい。人形は、どんなに
私の大きさに近くても、人形だ。私は、生きている今のお前が、好きだ」
「え、は、その、え……?」
ちょっと待て、い、いま、す、好きって……!?続き5行
よいしょ、と人形をかかえ上げた。
なにしろ自分より一回り大きくて重いのでなかなか一気にはいかない。しかし、ラノレフが
あわてている間に、アノレカードはお人形ラノレフを箱からおろし、もとどおり手足をのばして、
リディーが持ってきた箱の中に寝かせてしまった。
よいしょ、とボーノレ紙の蓋を閉める。
閉めて、その上に手をついたままラノレフを見上げた。
「……アノレカード?」
なんか俺って、やっぱ馬鹿かも。
と思うまでもないことを思いながら、ぽかんとラノレフは繰り返した。
「ラノレフ」
強い口調でアノレカードは言った。
「私は、お前がそうやってそこにいてくれることが、とても嬉しいと思っている」
「……は?」
「大きくても、がさつでも、騒々しくても、私は、生きている今のお前がいい。人形は、どんなに
私の大きさに近くても、人形だ。私は、生きている今のお前が、好きだ」
「え、は、その、え……?」
ちょっと待て、い、いま、す、好きって……!?続き5行
「――いや、ちょっと待て」
ぱたたた、と重そうに箱を抱えて飛びあがろうとするアノレカードのちっちゃな背中に、ラノレフは
声をかけた。
顔が自然に笑み崩れてくる。
アノレカードが、好き、と言ってくれた。自分のことを。
むろん、究極の世間知らずで箱入りかつ天然のおぼっちゃまのことだから、もしかしたら、
こちらの期待するような気持ちは、ちっとも含まれていないのかもしれないけれど。
「いいじゃないか、せっかくリディーがプレゼントしてくれたんだ。そこに飾っておこう。
こう、よく見ると、俺もなかなかかっこいいじゃないか。いい気分だ。お前と並ぶと、確かに
よく映えるしな」
「ラノレフ……?」
「いいんだよ」
ぱたたたた、と箱をかかえたアノレカードが、ラノレフの手のひらに舞い降りてくる。
ふわふわのやわらかい銀髪を、大きな指でそっと撫でる。
そうだな。
俺まで縮んじまってたら、お前の世話とか、できないしな。
ちゃんと生きて、動いて、お前のこと守ってやれる、今がいちばんいい。続き10行
ぱたたた、と重そうに箱を抱えて飛びあがろうとするアノレカードのちっちゃな背中に、ラノレフは
声をかけた。
顔が自然に笑み崩れてくる。
アノレカードが、好き、と言ってくれた。自分のことを。
むろん、究極の世間知らずで箱入りかつ天然のおぼっちゃまのことだから、もしかしたら、
こちらの期待するような気持ちは、ちっとも含まれていないのかもしれないけれど。
「いいじゃないか、せっかくリディーがプレゼントしてくれたんだ。そこに飾っておこう。
こう、よく見ると、俺もなかなかかっこいいじゃないか。いい気分だ。お前と並ぶと、確かに
よく映えるしな」
「ラノレフ……?」
「いいんだよ」
ぱたたたた、と箱をかかえたアノレカードが、ラノレフの手のひらに舞い降りてくる。
ふわふわのやわらかい銀髪を、大きな指でそっと撫でる。
そうだな。
俺まで縮んじまってたら、お前の世話とか、できないしな。
ちゃんと生きて、動いて、お前のこと守ってやれる、今がいちばんいい。続き10行
※基本おやゆび貴公子と同じ学校ですが、アノレたんはおやゆび化してません。
二人とも普通の大きさで、学校帰りの突発フルリレロネタということで(゚∀゚)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「フルリレロ」
「…フリルレロ」
「フルリレロ」
「フレリルロ…」
「フールーリーレーロ」
「フーリーレールーロ…?」
しばし沈黙。
「とうきょうとっきょきょかきょく」
「…とうきょうとっきょきょかきょく」
「あかまきがみあおまきがみきまきがみ」
「あかまきがみあおまきがみきまきがみ」
「となりのかきはよくきゃくくうかきだ」
「となりのきゃくはよくかきくうきゃくだ」続き11行
二人とも普通の大きさで、学校帰りの突発フルリレロネタということで(゚∀゚)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「フルリレロ」
「…フリルレロ」
「フルリレロ」
「フレリルロ…」
「フールーリーレーロ」
「フーリーレールーロ…?」
しばし沈黙。
「とうきょうとっきょきょかきょく」
「…とうきょうとっきょきょかきょく」
「あかまきがみあおまきがみきまきがみ」
「あかまきがみあおまきがみきまきがみ」
「となりのかきはよくきゃくくうかきだ」
「となりのきゃくはよくかきくうきゃくだ」続き11行
本日はめずらしく、ラノレフとふたりで放課後デート(という認識はあくまでラノレフ側であって、
アノレカードがどう認識しているのかというのがもひとつわからないのが難ではある)という運びに
なり、顔面はなんでもない風を装いつつも、心の奥底では限りなく万歳三唱していたラノレフで
あったのだが。
ちょっと腹ごしらえでもするか、と入ったハンバーガー店でやっていたキャンペーンに、アノレカ
ードが妙な引っかかり方をしてしまった。
なにやら合い言葉をカウンターで言えば、新メニューの割引券がもらえるらしいのだが。
「フルリレロ」
「…フリルレロ」
「フルリレロ」
「フレリルロ…」
いっこうに正しい順番にならない。
しかも聞いているうちにだんだん聞いている方もなんだかよくわからなくなってくるのがさらに
始末に負えない。
「トウキョウトッキョキョカキョクにくらべりゃ、こんなもんカスみたいなもんだろうが。なんで言えないんだよ」
「努力はしているのだが…」
続き11行
アノレカードがどう認識しているのかというのがもひとつわからないのが難ではある)という運びに
なり、顔面はなんでもない風を装いつつも、心の奥底では限りなく万歳三唱していたラノレフで
あったのだが。
ちょっと腹ごしらえでもするか、と入ったハンバーガー店でやっていたキャンペーンに、アノレカ
ードが妙な引っかかり方をしてしまった。
なにやら合い言葉をカウンターで言えば、新メニューの割引券がもらえるらしいのだが。
「フルリレロ」
「…フリルレロ」
「フルリレロ」
「フレリルロ…」
いっこうに正しい順番にならない。
しかも聞いているうちにだんだん聞いている方もなんだかよくわからなくなってくるのがさらに
始末に負えない。
「トウキョウトッキョキョカキョクにくらべりゃ、こんなもんカスみたいなもんだろうが。なんで言えないんだよ」
「努力はしているのだが…」
続き11行
それに対して、内心ラノレフはきわめて満足だった。
うはうはだった。
(……うむ。やはり可愛い)
実際のところアノレカードの困り顔を見て楽しみたいだけなのだった。
要するに、ただのいぢめっこなのである。
だがしかし、そういう心にはやはり天罰が下されるものである。
「いーかー、もう一回やるぞ? フ・ノレ・リ――っッッッ!?」
不自然な沈黙。
「……ラノレフ?」
完全に硬直しているラノレフに向かって、天然箱入り王子様が小首をかしげる。
「どうしたのだ? 早く続きをやってくれ。ちゃんと注意しているから」
「………!! ……………!!! ……………………!!!!!!」
「……? ……???」
…………と!!!と???が飛びかう珍妙なこの状態であるが、つまり、
1,ラノレフが「フルリレロ」言おうとして口を開ける続き19行
うはうはだった。
(……うむ。やはり可愛い)
実際のところアノレカードの困り顔を見て楽しみたいだけなのだった。
要するに、ただのいぢめっこなのである。
だがしかし、そういう心にはやはり天罰が下されるものである。
「いーかー、もう一回やるぞ? フ・ノレ・リ――っッッッ!?」
不自然な沈黙。
「……ラノレフ?」
完全に硬直しているラノレフに向かって、天然箱入り王子様が小首をかしげる。
「どうしたのだ? 早く続きをやってくれ。ちゃんと注意しているから」
「………!! ……………!!! ……………………!!!!!!」
「……? ……???」
…………と!!!と???が飛びかう珍妙なこの状態であるが、つまり、
1,ラノレフが「フルリレロ」言おうとして口を開ける続き19行
少しずつ視界が明るくなってきた。
「…………ん?」
「ラノレフ?」
どこかほっとしたような声が遠くから聞こえる。
「気がついたのか、ラノレフ? よかった。いきなり倒れるから驚いた」
目を開くと、ぺたぺたしたビニーノレ張りのソファに寝かされていた。
どうやらお店のバックヤードの休憩スペースか何からしい。おでこには冷え○タがくっつき、
腹の上にはタオノレケットがかけられている。
アノレカードがそばの床に膝をついて、心配そうにのぞき込んでいた。
「体調が悪いなら、早くそういってくれればいい。倒れるほど気分が悪いなら、無理をすること
などなかったのに」
「いや……その、な……」
とりあえず、体調は悪くないのだった。体調は。
いや血圧がかなり急上昇したのは間違いないが。
なにしろアノレカードの細い指がいきなり口に突っこまれ、そのひんやりした繊細な指先が、
こちらの舌を誘うように弄ってくるのである。
まるでハッカ飴を舐めたみたいな冷たさと甘さと、なにより、アノレカードの指が今自分の口の
中にあるという、もうこうなんというかどう表現していいかもわからないような驚天動地の出来事続き9行
「…………ん?」
「ラノレフ?」
どこかほっとしたような声が遠くから聞こえる。
「気がついたのか、ラノレフ? よかった。いきなり倒れるから驚いた」
目を開くと、ぺたぺたしたビニーノレ張りのソファに寝かされていた。
どうやらお店のバックヤードの休憩スペースか何からしい。おでこには冷え○タがくっつき、
腹の上にはタオノレケットがかけられている。
アノレカードがそばの床に膝をついて、心配そうにのぞき込んでいた。
「体調が悪いなら、早くそういってくれればいい。倒れるほど気分が悪いなら、無理をすること
などなかったのに」
「いや……その、な……」
とりあえず、体調は悪くないのだった。体調は。
いや血圧がかなり急上昇したのは間違いないが。
なにしろアノレカードの細い指がいきなり口に突っこまれ、そのひんやりした繊細な指先が、
こちらの舌を誘うように弄ってくるのである。
まるでハッカ飴を舐めたみたいな冷たさと甘さと、なにより、アノレカードの指が今自分の口の
中にあるという、もうこうなんというかどう表現していいかもわからないような驚天動地の出来事続き9行
(……俺、だっせー……)
がっくりとソファに頭を落とす。
中学生か俺は。
あるいは、赤面性のリヒ夕ーか。
とにかく何かといえば100円均一の熟れすぎトマトみたいな顔色になっているリヒ夕ーのこと
をしょっちゅうからかっていたのに、これでは奴を笑えない。
フルリレロで遊びすぎたお返しか。あるいはバチがあたったか。
大息ついて額に手をあて、またソファに寝ころんだラノレフを、アノレカードは心配そうに見ていた
が、やがてつと立ち上がって出ていった。
(電話でもする気かな……)
鼻血びたしのティッシュを取り出しつつ、我ながらあらためて情けなくなる。
なにしろ奴は学園理事長の息子であって、大変な箱入りおぼっちゃまなのである。
ハンバーガー屋、などという場所に足を踏み入れたのも今日が初めてで、青い瞳を子供のように
大きく見開いて、珍しそうにきょろきょろしていた。
なのに、連れの自分がこんなことになって、恥ずかしくなったのではなかろうか。
少なくとも、俺だったら恥ずかしい。帰りたい。
家に電話して、迎えの車でも寄こさせるつもりだろうか。
…今日は、せっかくあいつといっしょに、長いこといられると思ったのにな…。
続き8行
がっくりとソファに頭を落とす。
中学生か俺は。
あるいは、赤面性のリヒ夕ーか。
とにかく何かといえば100円均一の熟れすぎトマトみたいな顔色になっているリヒ夕ーのこと
をしょっちゅうからかっていたのに、これでは奴を笑えない。
フルリレロで遊びすぎたお返しか。あるいはバチがあたったか。
大息ついて額に手をあて、またソファに寝ころんだラノレフを、アノレカードは心配そうに見ていた
が、やがてつと立ち上がって出ていった。
(電話でもする気かな……)
鼻血びたしのティッシュを取り出しつつ、我ながらあらためて情けなくなる。
なにしろ奴は学園理事長の息子であって、大変な箱入りおぼっちゃまなのである。
ハンバーガー屋、などという場所に足を踏み入れたのも今日が初めてで、青い瞳を子供のように
大きく見開いて、珍しそうにきょろきょろしていた。
なのに、連れの自分がこんなことになって、恥ずかしくなったのではなかろうか。
少なくとも、俺だったら恥ずかしい。帰りたい。
家に電話して、迎えの車でも寄こさせるつもりだろうか。
…今日は、せっかくあいつといっしょに、長いこといられると思ったのにな…。
続き8行
アノレカードが戻ってくる足音がした。
「ラノレフ?」
「…なんだよ」
つい乱暴な言い方になった。
帰るのか。
帰るんだったら、鼻血野郎の俺のことなんか心配しないで、早く帰れ。
もう少しでそう言いそうになったとき、ひた、と頬に冷たいものがあたった。
驚いて目を開く。
紙カップに入った冷たいデザート――例の、新製品の――が、アノレカードの手の中にちょんと
収まっていた。
「フルリレロ」
ちょっと恥ずかしそうに、アノレカードが言った。
「ラノレフが教えてくれたので、ちゃんと言えるようになった。お店の人に言ったら、これをくれた。
冷たいものを食べれば、気分が良くなるかもしれない」
冷たい固めのシェイクに、クッキーのチップ。
スプーンのささった冷たいデザートを、ラノレフはちょっと唖然として見る。
「…どうした? まだ気分が悪いのか?」
「いや…」続き30行
「ラノレフ?」
「…なんだよ」
つい乱暴な言い方になった。
帰るのか。
帰るんだったら、鼻血野郎の俺のことなんか心配しないで、早く帰れ。
もう少しでそう言いそうになったとき、ひた、と頬に冷たいものがあたった。
驚いて目を開く。
紙カップに入った冷たいデザート――例の、新製品の――が、アノレカードの手の中にちょんと
収まっていた。
「フルリレロ」
ちょっと恥ずかしそうに、アノレカードが言った。
「ラノレフが教えてくれたので、ちゃんと言えるようになった。お店の人に言ったら、これをくれた。
冷たいものを食べれば、気分が良くなるかもしれない」
冷たい固めのシェイクに、クッキーのチップ。
スプーンのささった冷たいデザートを、ラノレフはちょっと唖然として見る。
「…どうした? まだ気分が悪いのか?」
「いや…」続き30行
※世界樹未プレイの方のための簡単ジョブガイド。鞭かと剣とかは使用武器
・ダークハンター:鞭・剣。鞭で相手を拘束して止めをさすのが得意。
・パラディン:剣。主に盾と高い防御力でパーティの壁役になる。
・ソードマン:剣・斧。いわゆる剣士。さまざまな剣技で物理攻撃の中心に。
・アルケミスト:杖。攻撃魔法(術式)を使う、いわゆる黒魔導師。
・メディック:杖。治癒魔法を使う、いわゆる白魔術師。
※他にレンジャー、バード、ブシドー、カースメーカー等がある
(ブシドーとカースメーカーはある程度ゲームを進めないとなれません)
「と、いうわけでパーティ【Vania】が結成されたわけですねお義父さん!」
「非常に喜ばしいことですねお義父さん!」
「本当に、強そうな若い方が来てくださって、わたしも嬉しいですわ。ねえアノレカード」
「はい、母上。…父上? どうなさいました、何かご気分でも悪いのですか?」
「…………いや…………」
と答えるマティアス(レベル5、パラディン)。
息子によく似た端整な顔立ちが、なんか微妙にひきつっている。ひくひくと。続き29行
・ダークハンター:鞭・剣。鞭で相手を拘束して止めをさすのが得意。
・パラディン:剣。主に盾と高い防御力でパーティの壁役になる。
・ソードマン:剣・斧。いわゆる剣士。さまざまな剣技で物理攻撃の中心に。
・アルケミスト:杖。攻撃魔法(術式)を使う、いわゆる黒魔導師。
・メディック:杖。治癒魔法を使う、いわゆる白魔術師。
※他にレンジャー、バード、ブシドー、カースメーカー等がある
(ブシドーとカースメーカーはある程度ゲームを進めないとなれません)
「と、いうわけでパーティ【Vania】が結成されたわけですねお義父さん!」
「非常に喜ばしいことですねお義父さん!」
「本当に、強そうな若い方が来てくださって、わたしも嬉しいですわ。ねえアノレカード」
「はい、母上。…父上? どうなさいました、何かご気分でも悪いのですか?」
「…………いや…………」
と答えるマティアス(レベル5、パラディン)。
息子によく似た端整な顔立ちが、なんか微妙にひきつっている。ひくひくと。続き29行
そしてお義父さんお義父さん連呼するうるさい二人組に挟まれながら、潜りはじめた樹海第一層。
「いいお天気で気持ちがいいですね、母上」
「そうね、アノレカード。あら見て、きれいな蝶々が、ほら」
「本当ですね。あ、あちらに別な道がありますよ。たくさん花が咲いていますし、ちょっとあとで
行ってみましょうか。母上のお薬の材料が採れるかも」
後衛列がこんな感じなのに対して、前衛列では何かすごい勢いで、剣と鞭と斧が飛びかい血しぶき
火花が舞い踊っていた。
「うぉりゃあああああ! どけどけどけどけ──ぃいいいい! 俺のアノレカードに近づくんじゃねえ
このケダモノどもがッ! ご安心くださいお義父さん! 死んでも後ろのアノレとお義母さんには手を
出させませんからッ!」
「ちょっと待て誰が『俺のアノレカード』だねえお義父さん! アノレカードは俺のだっつってんだろー
がアナコンダくらわすぞ貴様! だいたいこいつ子孫のくせに生意気ですよねねえお義父さん!」
「はっ、そっちこそ先祖面して偉そうなこと抜かしてんじゃねえよねえお義父さん! こっちの世界
じゃみんなタメくらいだろうがねえお義父さん! むしろ月下後設定の俺のほうがよっつ年上じゃ
ねーかやーいやーい年下年下ー! 年下の男になんか大切な息子さんを預けられませんよねねえ
お義父さん!」
「………………………………。」続き34行
「いいお天気で気持ちがいいですね、母上」
「そうね、アノレカード。あら見て、きれいな蝶々が、ほら」
「本当ですね。あ、あちらに別な道がありますよ。たくさん花が咲いていますし、ちょっとあとで
行ってみましょうか。母上のお薬の材料が採れるかも」
後衛列がこんな感じなのに対して、前衛列では何かすごい勢いで、剣と鞭と斧が飛びかい血しぶき
火花が舞い踊っていた。
「うぉりゃあああああ! どけどけどけどけ──ぃいいいい! 俺のアノレカードに近づくんじゃねえ
このケダモノどもがッ! ご安心くださいお義父さん! 死んでも後ろのアノレとお義母さんには手を
出させませんからッ!」
「ちょっと待て誰が『俺のアノレカード』だねえお義父さん! アノレカードは俺のだっつってんだろー
がアナコンダくらわすぞ貴様! だいたいこいつ子孫のくせに生意気ですよねねえお義父さん!」
「はっ、そっちこそ先祖面して偉そうなこと抜かしてんじゃねえよねえお義父さん! こっちの世界
じゃみんなタメくらいだろうがねえお義父さん! むしろ月下後設定の俺のほうがよっつ年上じゃ
ねーかやーいやーい年下年下ー! 年下の男になんか大切な息子さんを預けられませんよねねえ
お義父さん!」
「………………………………。」続き34行
f.o.e『狂える大鹿』があらわれた!
「うおあ!? ちっちょっと、ちょっと待て! 俺らいまめっちゃHP下がってんぞ!?」
「母上、父上とラノレフたちにキュアを!」
「あの、すみません、わたしもうあまりTP(※MPと同じ)が……ここまでに使いすぎたみたい
で、せいぜいあと一回か二回しか……」
「なにいいいいいい!?」
「アノレカード、おまえ術式は!?」
「火と氷は取っているが……その……雷は、まだ……」
「どああああああああ!?」
ちなみに『狂える大鹿』の弱点は雷による術攻撃である。
「くそっ、こうなったらっ……て、おい、アリアドネの糸(※ダンジョン緊急脱出アイテム)ない
じゃねぇか! 買い忘れてんぞ!」
「く……っ、駄目です父上、逃げましょう! メディカ(※HP回復薬)ももうありませんし、
このままでは──ッ」
「いかん、そんなことはできぬ! 敵に後ろを見せぬのが騎士としての誇りだ! アノレカード、
リサ、後ろに回れ! 私が、おまえたちを守り抜いてみせる!」
「お、俺だってお二人を守りますお義父さん!」
「そうですともお義父さん! 義理の息子として、お義父さんお義母さんを置いて逃げるなんてで続き48行
「うおあ!? ちっちょっと、ちょっと待て! 俺らいまめっちゃHP下がってんぞ!?」
「母上、父上とラノレフたちにキュアを!」
「あの、すみません、わたしもうあまりTP(※MPと同じ)が……ここまでに使いすぎたみたい
で、せいぜいあと一回か二回しか……」
「なにいいいいいい!?」
「アノレカード、おまえ術式は!?」
「火と氷は取っているが……その……雷は、まだ……」
「どああああああああ!?」
ちなみに『狂える大鹿』の弱点は雷による術攻撃である。
「くそっ、こうなったらっ……て、おい、アリアドネの糸(※ダンジョン緊急脱出アイテム)ない
じゃねぇか! 買い忘れてんぞ!」
「く……っ、駄目です父上、逃げましょう! メディカ(※HP回復薬)ももうありませんし、
このままでは──ッ」
「いかん、そんなことはできぬ! 敵に後ろを見せぬのが騎士としての誇りだ! アノレカード、
リサ、後ろに回れ! 私が、おまえたちを守り抜いてみせる!」
「お、俺だってお二人を守りますお義父さん!」
「そうですともお義父さん! 義理の息子として、お義父さんお義母さんを置いて逃げるなんてで続き48行
さて。
「あそこだ! 見つけたぞ!」
「相手がでかいから逃げてく道も見つけやすかったな」
「てめえが木蹴飛ばして俺の足引っかけなきゃもっと早く着いたんだけどな、子孫」
「あんたこそ、うっかり俺にレッグボンデージ(※鞭で足を封じるダークハンターのスキル)かけ
なきゃもうちょっと早く走れたのにな、ご先祖」
「てめえ!」
「なんだあ!?」
「ねえ、少しよろしいかしら、お二人とも」
あくまでふんわりと横入りされて、勢いを失う入り婿(希望者)二人。
「な、なんでしょうか、お義母さん」
「ちょっと、あれを見てちょうだいな」
息子さんによく似た白い手で、す、と先を指ししめす。
「なんだかあの子、ずいぶんおもてなししていただいているみたいなんだけど」
「──……は……??」
──本当だった。
しかもマジに、文字通りの意味で、『おもてなし』されていた。
ちょっと開けたきれいな草原に、さっきのf.o.e『狂える大鹿』がどっしりと横たわっている。続き18行
「あそこだ! 見つけたぞ!」
「相手がでかいから逃げてく道も見つけやすかったな」
「てめえが木蹴飛ばして俺の足引っかけなきゃもっと早く着いたんだけどな、子孫」
「あんたこそ、うっかり俺にレッグボンデージ(※鞭で足を封じるダークハンターのスキル)かけ
なきゃもうちょっと早く走れたのにな、ご先祖」
「てめえ!」
「なんだあ!?」
「ねえ、少しよろしいかしら、お二人とも」
あくまでふんわりと横入りされて、勢いを失う入り婿(希望者)二人。
「な、なんでしょうか、お義母さん」
「ちょっと、あれを見てちょうだいな」
息子さんによく似た白い手で、す、と先を指ししめす。
「なんだかあの子、ずいぶんおもてなししていただいているみたいなんだけど」
「──……は……??」
──本当だった。
しかもマジに、文字通りの意味で、『おもてなし』されていた。
ちょっと開けたきれいな草原に、さっきのf.o.e『狂える大鹿』がどっしりと横たわっている。続き18行
「あ、あ、あ、アノレカー、ド……???」
「ああ、ラノレフ。それにリヒ夕ー、父上、母上」
動物たちに向けていた笑顔をそのままに、アノレカードはほんわりと笑った。
「見てください、みんな、とても親切ですよ、果物も、ほらこんなにたくさん。父上、母上、皆も
いっしょに食べませんか。私一人では、とても食べきれないから」
「こ、攻撃されてないのか? f.o.eは……」
「ああ」
そういえば、と気づいたように隣の大鹿を見あげて、
「彼も、好きでこういうことをしているのではないのだ、と説明してくれた。本当は私のような人間
とは仲良くしたいのだが、このあたりの森の動物を守る立場上、森を荒らしに来る人間にはああ
やって脅しをかけるしかないそうで。自分も辛い立場なんだ、と」
「……それでパーティ全滅の目に合わされるほうの気持ちはどうなるんだよ……」
(※リアル初遭遇の時、何も知らずにレベルも装備もスキルも足りずに突っこんでいって、パーティ
瞬殺→二時間分の経験値とアイテムをパアにされた恨みは忘れませんよ?)
「なんでも、私を見たとたん、これはほかの人間のように動物たちをいじめたりしない者だ、と
思ってくれたようで」
言いながら、嬉しそうにアノレカードは頬を上気させている。
「それで、よければずっとここにいて、一緒に暮らしてほしい、と。生活に不自由はさせない、
なんといっても自分はこのあたり一帯の主で、誰にも口はださせ──父上? どうなさいました、
父上?」続き40行
「ああ、ラノレフ。それにリヒ夕ー、父上、母上」
動物たちに向けていた笑顔をそのままに、アノレカードはほんわりと笑った。
「見てください、みんな、とても親切ですよ、果物も、ほらこんなにたくさん。父上、母上、皆も
いっしょに食べませんか。私一人では、とても食べきれないから」
「こ、攻撃されてないのか? f.o.eは……」
「ああ」
そういえば、と気づいたように隣の大鹿を見あげて、
「彼も、好きでこういうことをしているのではないのだ、と説明してくれた。本当は私のような人間
とは仲良くしたいのだが、このあたりの森の動物を守る立場上、森を荒らしに来る人間にはああ
やって脅しをかけるしかないそうで。自分も辛い立場なんだ、と」
「……それでパーティ全滅の目に合わされるほうの気持ちはどうなるんだよ……」
(※リアル初遭遇の時、何も知らずにレベルも装備もスキルも足りずに突っこんでいって、パーティ
瞬殺→二時間分の経験値とアイテムをパアにされた恨みは忘れませんよ?)
「なんでも、私を見たとたん、これはほかの人間のように動物たちをいじめたりしない者だ、と
思ってくれたようで」
言いながら、嬉しそうにアノレカードは頬を上気させている。
「それで、よければずっとここにいて、一緒に暮らしてほしい、と。生活に不自由はさせない、
なんといっても自分はこのあたり一帯の主で、誰にも口はださせ──父上? どうなさいました、
父上?」続き40行
「ちょっとすみません、あなた。失礼しますわね」
と、そこへするりと横から出てきた人が。
「お、お義母さん!? 危ないですよお義母さん、メディックだってアルケミストと同じくらい体力
なくて装甲薄くて──、っ」
「大丈夫ですよ。──ねえ、あなた」
とこれは敵f.o.e『狂える大鹿』に向かって。
「わたし、アノレカードの、この子の母です。うちのこの子のこと、気に入ってくださって本当に
うれしいですわ、ありがとうございます」
とにっこり。
聖母の微笑みの効果か、がちがちに固まっていた場の空気が、少しだけゆるむ。
「主人のこと、申しわけありませんでした。この子のことになると、つい夢中になってしまって
しょうがないのですけれど、一人息子のことですから、わたしたち、とても大事に可愛がっており
ますの。それは、おわかりいただけますかしら」
はらはらどきどきしながら見つめる父上および(人間の)入り婿希望者約二名。
ごく穏やかでありながら、何人の介入も許さない、断固たる母の御姿であった。
「それで、あなたがこの子のことをお気に召したのはとてもよくわかるのですけれど、親としては、
そう急に息子を手放すというのもむずかしいということも、おわかりいただきたいんですの。わたし
にとっても本当にかわいい子供ですし(とアノレカードを見やってにっこりして)、すっかり甘やかし
てしまって、世間知らずもいいところですから。
何事も、一足飛びにことを急ぎすぎるのはよくありませんわ。ここはひとつ、お友だちから始めて続き15行
と、そこへするりと横から出てきた人が。
「お、お義母さん!? 危ないですよお義母さん、メディックだってアルケミストと同じくらい体力
なくて装甲薄くて──、っ」
「大丈夫ですよ。──ねえ、あなた」
とこれは敵f.o.e『狂える大鹿』に向かって。
「わたし、アノレカードの、この子の母です。うちのこの子のこと、気に入ってくださって本当に
うれしいですわ、ありがとうございます」
とにっこり。
聖母の微笑みの効果か、がちがちに固まっていた場の空気が、少しだけゆるむ。
「主人のこと、申しわけありませんでした。この子のことになると、つい夢中になってしまって
しょうがないのですけれど、一人息子のことですから、わたしたち、とても大事に可愛がっており
ますの。それは、おわかりいただけますかしら」
はらはらどきどきしながら見つめる父上および(人間の)入り婿希望者約二名。
ごく穏やかでありながら、何人の介入も許さない、断固たる母の御姿であった。
「それで、あなたがこの子のことをお気に召したのはとてもよくわかるのですけれど、親としては、
そう急に息子を手放すというのもむずかしいということも、おわかりいただきたいんですの。わたし
にとっても本当にかわいい子供ですし(とアノレカードを見やってにっこりして)、すっかり甘やかし
てしまって、世間知らずもいいところですから。
何事も、一足飛びにことを急ぎすぎるのはよくありませんわ。ここはひとつ、お友だちから始めて続き15行
「ありがとうございます。わかってくださったのね」
と喜ぶ母上。
「ではアノレカード、こちらの皆さんにおもてなしのお礼をなさい。そのウサギの赤ちゃんたち、
とてもかわいらしいこと。わたしもちょっと抱いてみていいかしら」
「はい、彼らがいいと言うなら」
「そう、じゃあ、……あらあら、本当にふわふわして、まるで毛糸玉みたいだこと。あなたが赤ちゃ
んだったころを思い出しますよ、アノレカード。あなたもこんな風にふわふわして、やわらかくて、
とてもかわいらしい赤ちゃんだったの、覚えていて」
「私のことはどうでもいいでしょう、母上」
自分のことを言われてちょっと赤くなってしまう、リアル十八歳。
なんだかなしくずしに『もふもふどうぶつランド』が再開されてしまった今、かやの外の野郎ども
三人は、あっけにとられてキャッキャウフフのしあわせ光景を、一段落つくまで眺めているしかなか
ったのだった。
さてそんなことのあった翌朝、長鳴鶏の宿の寝室のドアをあけたラノレフは、そこに白い花に
うずもれて座っているアノレカードを発見してあっけにとられた。
「……何やってんだ。おまえ」
「起きて、窓を開けたら、落ちてきた」
窓を指さす。続き24行
と喜ぶ母上。
「ではアノレカード、こちらの皆さんにおもてなしのお礼をなさい。そのウサギの赤ちゃんたち、
とてもかわいらしいこと。わたしもちょっと抱いてみていいかしら」
「はい、彼らがいいと言うなら」
「そう、じゃあ、……あらあら、本当にふわふわして、まるで毛糸玉みたいだこと。あなたが赤ちゃ
んだったころを思い出しますよ、アノレカード。あなたもこんな風にふわふわして、やわらかくて、
とてもかわいらしい赤ちゃんだったの、覚えていて」
「私のことはどうでもいいでしょう、母上」
自分のことを言われてちょっと赤くなってしまう、リアル十八歳。
なんだかなしくずしに『もふもふどうぶつランド』が再開されてしまった今、かやの外の野郎ども
三人は、あっけにとられてキャッキャウフフのしあわせ光景を、一段落つくまで眺めているしかなか
ったのだった。
さてそんなことのあった翌朝、長鳴鶏の宿の寝室のドアをあけたラノレフは、そこに白い花に
うずもれて座っているアノレカードを発見してあっけにとられた。
「……何やってんだ。おまえ」
「起きて、窓を開けたら、落ちてきた」
窓を指さす。続き24行
「これだけあれば、リヒ夕ーの新しいショートソードが買えるかな」
当事者は何も気づかず、いつものようにほんわりにこにこしている。
「そ、そうだ……な」
窓枠をめきめきいわしつつつかんでわなわな震えているラノレフは、むりやり笑みを作りながら、
リヒ夕ーとお義父さん(しつこい)に、このことをどうやって報告し、対処したものか、すでに考
え始めていた。
ちなみにその後、アノレカードと母上を宿に残したパーティ【Vania】の残り三人は、リヒ夕ー
(<ショートソード買いました)の義妹でメディックのマリアと、雷と毒のスペシャリストたる
マッドサイエンティスt、もといアルケミストのジュストをこっそりスカウトしてきて(※そんな
システムはありません)、みごとB2Fのf.o.e『狂える大鹿』を倒したのだった。
人間ってひどい。
ただ、この時まだラノレフたちは知らなかった。
f.o.eはたいていある一定の期間、この場合は七日間たてば普通に復活することを。
そして留守中の長鳴鶏の宿に、二人の新規加入者が尋ねてきたことを。
「あ、あのー、ここにパーティ【Vania】の有角、じゃないや、アノレカードって人いません……続き23行
当事者は何も気づかず、いつものようにほんわりにこにこしている。
「そ、そうだ……な」
窓枠をめきめきいわしつつつかんでわなわな震えているラノレフは、むりやり笑みを作りながら、
リヒ夕ーとお義父さん(しつこい)に、このことをどうやって報告し、対処したものか、すでに考
え始めていた。
ちなみにその後、アノレカードと母上を宿に残したパーティ【Vania】の残り三人は、リヒ夕ー
(<ショートソード買いました)の義妹でメディックのマリアと、雷と毒のスペシャリストたる
マッドサイエンティスt、もといアルケミストのジュストをこっそりスカウトしてきて(※そんな
システムはありません)、みごとB2Fのf.o.e『狂える大鹿』を倒したのだった。
人間ってひどい。
ただ、この時まだラノレフたちは知らなかった。
f.o.eはたいていある一定の期間、この場合は七日間たてば普通に復活することを。
そして留守中の長鳴鶏の宿に、二人の新規加入者が尋ねてきたことを。
「あ、あのー、ここにパーティ【Vania】の有角、じゃないや、アノレカードって人いません……続き23行
・なんか現代社会で同居している刻印・月輪の兄弟妹弟子達の日常の様です。
・築20年、一戸建てで互いの師匠達も一緒に暮らしている。
・一応 ネイサン→←ヒュー アルバス(傍観者)な流れです。
「待てっ!」
「いくらなんでも剣を振り回している状態で近づけると思っているのか!?」
「……またいつもの喧嘩か。仲の良い事だ」
「家に帰って来た途端すぐこれだ! 止めんか! 大概にしろっ!」
――ズガシャーン!
いつものように次男ヒューはヒス全開で築20年の一戸建て家屋全体に衝撃を与え
たため、長兄アルバスにアガーテぶっ放されて彼はのされた。
それから恒例の反省会にてアルバスは卓袱台にトントンと指を叩きながら呆れ顔
でヒューを詰問し、改善策の提示と考えを聞いていた。
アルバスは胡坐を掻き、ヒューは勿論しょげ返って正座で叱責を受けている。
ア「お前はもう少し日常会話の語彙と感情の幅を増やせ」
ヒ「何でお前にそれを言われなきゃならない?」
ア「シャノアはさほど気にしていないようだからいいが、ネイサンの事を考えてみろ。
いつも気を使ってお前の逆鱗に触れないようにしているのに、少し気に障った
からと言って常に嚇怒するのはどうかと思うぞ」
ヒ「いつも悪いとは思っているが――」続き21行
・築20年、一戸建てで互いの師匠達も一緒に暮らしている。
・一応 ネイサン→←ヒュー アルバス(傍観者)な流れです。
「待てっ!」
「いくらなんでも剣を振り回している状態で近づけると思っているのか!?」
「……またいつもの喧嘩か。仲の良い事だ」
「家に帰って来た途端すぐこれだ! 止めんか! 大概にしろっ!」
――ズガシャーン!
いつものように次男ヒューはヒス全開で築20年の一戸建て家屋全体に衝撃を与え
たため、長兄アルバスにアガーテぶっ放されて彼はのされた。
それから恒例の反省会にてアルバスは卓袱台にトントンと指を叩きながら呆れ顔
でヒューを詰問し、改善策の提示と考えを聞いていた。
アルバスは胡坐を掻き、ヒューは勿論しょげ返って正座で叱責を受けている。
ア「お前はもう少し日常会話の語彙と感情の幅を増やせ」
ヒ「何でお前にそれを言われなきゃならない?」
ア「シャノアはさほど気にしていないようだからいいが、ネイサンの事を考えてみろ。
いつも気を使ってお前の逆鱗に触れないようにしているのに、少し気に障った
からと言って常に嚇怒するのはどうかと思うぞ」
ヒ「いつも悪いとは思っているが――」続き21行
何かまた作ったようです。
舞台は現代日本のようで悪魔城の世界が普通にある蒼月みたいな感じ。
今回は前回の面子+シャノア・ネイサン・マクツーム・ヅュスト・ラルフがでできます。マクツーム…素肌にジャケ
ットを羽織った常識人 ヅュスト…やっぱマッドサイエンティスト ラルフ…気のいい兄ちゃん
刻印・月輪の弟子たちは学生やっている模様、ちなみにアルバスは科目等履修のためドラ学の
博士課程に、シャノアはアルバスの手伝いのため学部生だがドラ学に編入している。
ヒュー・ネイサンはエクレシア大の方にいるようです。
※注意 ヒューがシスコンのようです。
ドラ学園前のマ○クにレポートを作成するためノートパソコン持参で来店したシャノア。
そこに黒いジャケットを上半身裸のまま直接羽織り、真剣な眼差しで参考図書を広げて同
じ課題に取り組んでいる同学科のマクシーム・キシンがいた。
シャノアは「さっき授業で身体を動かしたとは言え、人前で胸元を晒すのは恥ずかしくない
のだろうか」と思いながらも課題をより良い形に纏めるために、マクシームに声をかけ対面側に
相席の許可を取った。
「マクシーム・キシンさんですか? 同じ学科のシャノアです。一緒にレポート作成を進めてもいいで
すか?」
講義が同じになっても、あまり会話をした事のないシャノアに同席を求められたマクシームは少し
戸惑ったが、別段断る理由も無く快く了解した。続き8行
舞台は現代日本のようで悪魔城の世界が普通にある蒼月みたいな感じ。
今回は前回の面子+シャノア・ネイサン・マクツーム・ヅュスト・ラルフがでできます。マクツーム…素肌にジャケ
ットを羽織った常識人 ヅュスト…やっぱマッドサイエンティスト ラルフ…気のいい兄ちゃん
刻印・月輪の弟子たちは学生やっている模様、ちなみにアルバスは科目等履修のためドラ学の
博士課程に、シャノアはアルバスの手伝いのため学部生だがドラ学に編入している。
ヒュー・ネイサンはエクレシア大の方にいるようです。
※注意 ヒューがシスコンのようです。
ドラ学園前のマ○クにレポートを作成するためノートパソコン持参で来店したシャノア。
そこに黒いジャケットを上半身裸のまま直接羽織り、真剣な眼差しで参考図書を広げて同
じ課題に取り組んでいる同学科のマクシーム・キシンがいた。
シャノアは「さっき授業で身体を動かしたとは言え、人前で胸元を晒すのは恥ずかしくない
のだろうか」と思いながらも課題をより良い形に纏めるために、マクシームに声をかけ対面側に
相席の許可を取った。
「マクシーム・キシンさんですか? 同じ学科のシャノアです。一緒にレポート作成を進めてもいいで
すか?」
講義が同じになっても、あまり会話をした事のないシャノアに同席を求められたマクシームは少し
戸惑ったが、別段断る理由も無く快く了解した。続き8行
「課題はどこまで進んでいるのですか」
「まだ参考図書を精読してからデータを照合しようとしている所だ。まだ書いてはいない
よ。ところでシャノアさん」
「シャノアでいい」
「俺もマクシームでいい。今回の課題に関係する事で興味がわいたから聞きたい事がある。身体
能力によって攻撃の威力が変化するのは誰でも知っているが、君の場合、どう見ても打た
れ強いとは思えない。なのに、いつの間にか被験体が消滅している事が多いな。どうやっ
たら出来るんだ?」
「確かにベルモンドの面々や貴方に比べたら基礎体力は劣っていますが……そうですね、魔力
を体に付与し近接戦闘に持ち込み、そのうえで被験体の特性を見極めて対応しているから
でしょうね」
マクシームは少し考え込み、シャノアを見据えた。
「うーむ、何か俺の親友の戦闘スタイルに似ているな」
「親友ですか」
「ああ。ベルモンドだけど退魔の家系、ヴェルナンデス家の血を濃く受け継ぐ、ジュスト・ベルモンドと
言う奴だ」
「!」
一瞬シャノアは狼狽したが、その名前を知っている事で驚いた表情を消してしまうよう努め
た。
理由はアルバスが被験体として彼を追っているからであるが、近しい者にその事実が知れる続き3行
「まだ参考図書を精読してからデータを照合しようとしている所だ。まだ書いてはいない
よ。ところでシャノアさん」
「シャノアでいい」
「俺もマクシームでいい。今回の課題に関係する事で興味がわいたから聞きたい事がある。身体
能力によって攻撃の威力が変化するのは誰でも知っているが、君の場合、どう見ても打た
れ強いとは思えない。なのに、いつの間にか被験体が消滅している事が多いな。どうやっ
たら出来るんだ?」
「確かにベルモンドの面々や貴方に比べたら基礎体力は劣っていますが……そうですね、魔力
を体に付与し近接戦闘に持ち込み、そのうえで被験体の特性を見極めて対応しているから
でしょうね」
マクシームは少し考え込み、シャノアを見据えた。
「うーむ、何か俺の親友の戦闘スタイルに似ているな」
「親友ですか」
「ああ。ベルモンドだけど退魔の家系、ヴェルナンデス家の血を濃く受け継ぐ、ジュスト・ベルモンドと
言う奴だ」
「!」
一瞬シャノアは狼狽したが、その名前を知っている事で驚いた表情を消してしまうよう努め
た。
理由はアルバスが被験体として彼を追っているからであるが、近しい者にその事実が知れる続き3行
「今日はあいつがここに来るんだ」
「そうですか、それは楽しみです。そうだ、さっきデータの照合と言っていましたが、学
科の実技を撮影した画像があるのです。その動画を見てどのような種類の攻撃を繰り出し
た時に威力、被験体のダメージが強いのか見たら、より精度の高い内容になるのではない
でしょうか?」
そう言いながらシャノアは慌てふためいた感情を打ち消そうとしたのと同時に、自分が知っ
ている同輩とは違い、興味の持てる会話が出来ている事に喜びを感じて、柔らかな表情を
マクシームに向けるとパソコンを開いて起動させた。
「結論は違うにしてもデータの開示はお互いに有益だからな。見せてくれ。隣に座っても
いいか?」
「ええ」
マクシームがシャノアの隣に座ったその時、光の速さで入店して来た者がいた。
存在を確認する間を措かず、その者は闇の様な長髪を鴻毛の如くたなびかせ、マクシームの眼前
に近接したと同時にアイアンクローをかました。
「ウオアァアアァ――!?」
――こ、この俺が速さで負けるなんて……? こいつ一体何者だ!?
マクシームは椅子ごと吹き飛ばされ両目を押さえて床で悶絶していたが、軽やかな動きを繰り
出した黒髪の者――もとい息急きかけながら満面の笑顔でシャノアの肩を両手で掴む次兄ヒューで
あった。
それから彼は床でのた打ち回っているマクシームを、毒虫か何かを見るかのように不快な表情
をして一瞥した。
「そうですか、それは楽しみです。そうだ、さっきデータの照合と言っていましたが、学
科の実技を撮影した画像があるのです。その動画を見てどのような種類の攻撃を繰り出し
た時に威力、被験体のダメージが強いのか見たら、より精度の高い内容になるのではない
でしょうか?」
そう言いながらシャノアは慌てふためいた感情を打ち消そうとしたのと同時に、自分が知っ
ている同輩とは違い、興味の持てる会話が出来ている事に喜びを感じて、柔らかな表情を
マクシームに向けるとパソコンを開いて起動させた。
「結論は違うにしてもデータの開示はお互いに有益だからな。見せてくれ。隣に座っても
いいか?」
「ええ」
マクシームがシャノアの隣に座ったその時、光の速さで入店して来た者がいた。
存在を確認する間を措かず、その者は闇の様な長髪を鴻毛の如くたなびかせ、マクシームの眼前
に近接したと同時にアイアンクローをかました。
「ウオアァアアァ――!?」
――こ、この俺が速さで負けるなんて……? こいつ一体何者だ!?
マクシームは椅子ごと吹き飛ばされ両目を押さえて床で悶絶していたが、軽やかな動きを繰り
出した黒髪の者――もとい息急きかけながら満面の笑顔でシャノアの肩を両手で掴む次兄ヒューで
あった。
それから彼は床でのた打ち回っているマクシームを、毒虫か何かを見るかのように不快な表情
をして一瞥した。
「俺の妹の隣に断りなく座るとは俺達三兄弟を敵に回したな、貴様。シャノア―何もされなか
ったか? 恐くなかったか?」
「ヒュー兄、私の身を心配してくれるのは嬉しいが、もう少し状況を考えてから行動に移して
もらったら、私としてはもっと嬉しいのだが。それに店内で暴れたら貴方の方は犯罪者に
なる」
そう言うとシャノアはヒューの腕を軽く振りほどき、マクシームのもとに駆け寄り抱き起こした。
だが、アイアンクローをかまされたものの、痛みが軽減したマクシームが目を押さえながら反
論した。
「ここのマ○クはドラ学前にあるんだ。これしきの騒動で店員が駆けつけるなんて事はま
ずない」
確かに他の客や店員はこちらを見たものの、いつも通りに過ごしているようで自分たち
の行動は何事も無かったように場に埋もれていた。
「ただ、同学科の先輩であるラルフ・ベルモンドや、リヒター・ベルモンドとドラ学理事長の子息アルカード
先輩が一緒に座っていたらた ま た ま 見ていた理事長が鉄拳制裁のために異次元へ
の扉を開いた時は、さすがに警察沙汰になったがな」
「それだけで済まされるのかここは」
シャノアとヒューは半ば呆れて同じ感想を口にしたが、偶然にも第三者の声もまた同調した。
「アルバス兄」
長兄アルバスは平静な顔で颯爽と三人の前へ歩みを進めてきた。
「帰ろうとしたら、丁度お前たちの姿がガラス越しに見えたから。しかし……ここに倒れ
ている男は何なんだ?」
ったか? 恐くなかったか?」
「ヒュー兄、私の身を心配してくれるのは嬉しいが、もう少し状況を考えてから行動に移して
もらったら、私としてはもっと嬉しいのだが。それに店内で暴れたら貴方の方は犯罪者に
なる」
そう言うとシャノアはヒューの腕を軽く振りほどき、マクシームのもとに駆け寄り抱き起こした。
だが、アイアンクローをかまされたものの、痛みが軽減したマクシームが目を押さえながら反
論した。
「ここのマ○クはドラ学前にあるんだ。これしきの騒動で店員が駆けつけるなんて事はま
ずない」
確かに他の客や店員はこちらを見たものの、いつも通りに過ごしているようで自分たち
の行動は何事も無かったように場に埋もれていた。
「ただ、同学科の先輩であるラルフ・ベルモンドや、リヒター・ベルモンドとドラ学理事長の子息アルカード
先輩が一緒に座っていたらた ま た ま 見ていた理事長が鉄拳制裁のために異次元へ
の扉を開いた時は、さすがに警察沙汰になったがな」
「それだけで済まされるのかここは」
シャノアとヒューは半ば呆れて同じ感想を口にしたが、偶然にも第三者の声もまた同調した。
「アルバス兄」
長兄アルバスは平静な顔で颯爽と三人の前へ歩みを進めてきた。
「帰ろうとしたら、丁度お前たちの姿がガラス越しに見えたから。しかし……ここに倒れ
ている男は何なんだ?」
「……あ」
ヒューはマクシームが朗々と話している事で彼に攻撃した事を失念していたが、さすがに思慮の
無い行動を取ったと自省して腰を落とし床に膝を付けると、シャノアに換わり抱きかかえ介抱
した。
「済まなかった。話を聞かずにその場の状況だけで判断して」
そう言いながらヒューは眼球に異常がないかどうか確認するため、マクシームの瞼を眼孔に少し
喰い込ませ彼に眼球を上下左右に動かすよう頼んだ。幸いにも追視させる際マクシームから痛み
の訴えが無く、充血はあるものの眼球に血腫が見られないことから何らかの損傷は無いと
判断したが、念のため椅子と床に接触した背面の上半身も痛む所がないか訊いてみた。
もちろん、店内なので服を捲りあげる訳にもいかないから触診という形でのみだが、肩
口から腰骨の付近にかけて親指以外の指の腹で少し圧をかけながら確認していった。
――吹き飛ばされた時は気付かなかったが、よく見るとシャノアに似ているな、この男。しか
し何だ、このシンクロするような感覚は? あんな事をされたんだ、もっと怒りが湧いて
来てもいい筈なのに不思議と親近感を覚える。
抱きかかえられたマクシームは相手の涼しい眼元が自分に向けられ、様子を観察される視線を
見つつ感慨に耽った。
「何をしているんだ? ヒューは」
ちょうどバイト先から家路を急いでいたネイサンは、道路からドラ学前のマ○クで床をじっ
と見ているアルバスを見つけると「何事か」と思い立ち止った。
よく見ると、ウェーブのかかった黒い長髪を後ろに束ねた見知らぬ男をヒューが抱きかかえ続き3行
ヒューはマクシームが朗々と話している事で彼に攻撃した事を失念していたが、さすがに思慮の
無い行動を取ったと自省して腰を落とし床に膝を付けると、シャノアに換わり抱きかかえ介抱
した。
「済まなかった。話を聞かずにその場の状況だけで判断して」
そう言いながらヒューは眼球に異常がないかどうか確認するため、マクシームの瞼を眼孔に少し
喰い込ませ彼に眼球を上下左右に動かすよう頼んだ。幸いにも追視させる際マクシームから痛み
の訴えが無く、充血はあるものの眼球に血腫が見られないことから何らかの損傷は無いと
判断したが、念のため椅子と床に接触した背面の上半身も痛む所がないか訊いてみた。
もちろん、店内なので服を捲りあげる訳にもいかないから触診という形でのみだが、肩
口から腰骨の付近にかけて親指以外の指の腹で少し圧をかけながら確認していった。
――吹き飛ばされた時は気付かなかったが、よく見るとシャノアに似ているな、この男。しか
し何だ、このシンクロするような感覚は? あんな事をされたんだ、もっと怒りが湧いて
来てもいい筈なのに不思議と親近感を覚える。
抱きかかえられたマクシームは相手の涼しい眼元が自分に向けられ、様子を観察される視線を
見つつ感慨に耽った。
「何をしているんだ? ヒューは」
ちょうどバイト先から家路を急いでいたネイサンは、道路からドラ学前のマ○クで床をじっ
と見ているアルバスを見つけると「何事か」と思い立ち止った。
よく見ると、ウェーブのかかった黒い長髪を後ろに束ねた見知らぬ男をヒューが抱きかかえ続き3行
ぶつぶつと呟き行動に嫌悪を持ちながらも、顔を赤らめ自分には向けてくれない翳りの
ある真っ直ぐな視線を他人に向けている事にネイサンは嫉妬を覚え始めた。
ようするに彼は介抱する側にヒューがいるのと、それを傍から見ているしかない自分の状態
が気に入らないのだ。
――どうしてあいつは俺以外の人間に対して、普通の行動と言動が出来るくせに(注:で
きてない、できてない)俺に対しては子供染みた理由で怒り出すのか解らない。
嫌っているという単純な理由なら近づかないけど、そうでもないようだから困る。
例えば学部は違っても、講義が一緒になった時はいつも隣に座って、答えに詰まった時は
いつもノートの端に答えを書いて助けてくれるけど、問題はその後にお礼をしようとあい
つが好きなプリンがある店や、アルバスがバイトをしている古書店(俺は別に行きたくないが、
ヒューは古い本の手触りと書香?とやらの雰囲気が好みらしく、いつもより穏やかになる)な
んかに連れて行ったりするけど、終始顔を赤らめてこっちを見てくれないどころか家に帰
ると不機嫌になる。
「何か気に障ったか?」と理由を聞けば「お前の知った事ではない」とそっけなく返され
る。
この前、剣を振り回して追いかけられた時もそうだ。
その日はあいつが炊事当番だったけど、臨時講義があって受講前の時間に弟子全員と師匠
達に「今日は無理だから出前を取ってくれ。代金は俺のバイト代から出す」とメールを送
ってきたが全員給料日前で余計な金はないのは判っているから、一番に帰ってきた俺が夕
飯を作ってあいつを出迎えたら「余計な事を!」とものすごい剣幕で怒鳴り散らされた。
ある真っ直ぐな視線を他人に向けている事にネイサンは嫉妬を覚え始めた。
ようするに彼は介抱する側にヒューがいるのと、それを傍から見ているしかない自分の状態
が気に入らないのだ。
――どうしてあいつは俺以外の人間に対して、普通の行動と言動が出来るくせに(注:で
きてない、できてない)俺に対しては子供染みた理由で怒り出すのか解らない。
嫌っているという単純な理由なら近づかないけど、そうでもないようだから困る。
例えば学部は違っても、講義が一緒になった時はいつも隣に座って、答えに詰まった時は
いつもノートの端に答えを書いて助けてくれるけど、問題はその後にお礼をしようとあい
つが好きなプリンがある店や、アルバスがバイトをしている古書店(俺は別に行きたくないが、
ヒューは古い本の手触りと書香?とやらの雰囲気が好みらしく、いつもより穏やかになる)な
んかに連れて行ったりするけど、終始顔を赤らめてこっちを見てくれないどころか家に帰
ると不機嫌になる。
「何か気に障ったか?」と理由を聞けば「お前の知った事ではない」とそっけなく返され
る。
この前、剣を振り回して追いかけられた時もそうだ。
その日はあいつが炊事当番だったけど、臨時講義があって受講前の時間に弟子全員と師匠
達に「今日は無理だから出前を取ってくれ。代金は俺のバイト代から出す」とメールを送
ってきたが全員給料日前で余計な金はないのは判っているから、一番に帰ってきた俺が夕
飯を作ってあいつを出迎えたら「余計な事を!」とものすごい剣幕で怒鳴り散らされた。
アルバスは「小さな事でも貸しを作りたくないからだろう。全く不器用な奴だ、ただ、今回は
当たり前の事をして怒鳴られたのだから全面的にあいつが悪いが、お前も過剰な礼をする
前に少し考えたらどうだ」と言われたが、どの辺がそうなのか判らない。
その後、汗をかきつつどもりながら胸のあたりを押さえて「さっきは済まなかった……夕
食を作ってくれて、あ、ありがとう」としょげ返って謝ってくれたが。
ともかく俺はあいつが解らない、けど不器用な親切心を俺に向けている事は間違いないだ
ろう。
「……なのになんで他人が接触したぐらいで嫌な気分になっているんだろう?」
入ろうかどうか迷っているうちに散乱したバーガーをヒューが片付け、全員が店員に謝った後、
それぞれ椅子に座り、彼は介抱していた男に話しかけていた。
ため息をつきながら、場に入っても何を会話していいか分からないと思い、踵を返し帰
ろうとしたが、
「鬱陶しい顔をして、店に入らないのか?」
振り返ると赤いロングコートを着て、長い銀髪が目立つ男がいた。人間離れして近寄り
がたい、言わば氷を形にしたような冷たい美貌をしていたが、溌剌とした満面の笑顔で軽
くネイサンに話しかけているようだった。
「?」
彼は知らない男に友人のように声をかけられ少々戸惑いたじろいだが、その男はあろう
ことか臆面も無くネイサンの体を正面から掴み、店に向けると大声で店内に向かって叫んだ。
当たり前の事をして怒鳴られたのだから全面的にあいつが悪いが、お前も過剰な礼をする
前に少し考えたらどうだ」と言われたが、どの辺がそうなのか判らない。
その後、汗をかきつつどもりながら胸のあたりを押さえて「さっきは済まなかった……夕
食を作ってくれて、あ、ありがとう」としょげ返って謝ってくれたが。
ともかく俺はあいつが解らない、けど不器用な親切心を俺に向けている事は間違いないだ
ろう。
「……なのになんで他人が接触したぐらいで嫌な気分になっているんだろう?」
入ろうかどうか迷っているうちに散乱したバーガーをヒューが片付け、全員が店員に謝った後、
それぞれ椅子に座り、彼は介抱していた男に話しかけていた。
ため息をつきながら、場に入っても何を会話していいか分からないと思い、踵を返し帰
ろうとしたが、
「鬱陶しい顔をして、店に入らないのか?」
振り返ると赤いロングコートを着て、長い銀髪が目立つ男がいた。人間離れして近寄り
がたい、言わば氷を形にしたような冷たい美貌をしていたが、溌剌とした満面の笑顔で軽
くネイサンに話しかけているようだった。
「?」
彼は知らない男に友人のように声をかけられ少々戸惑いたじろいだが、その男はあろう
ことか臆面も無くネイサンの体を正面から掴み、店に向けると大声で店内に向かって叫んだ。
「マクシーム! 待たせたな!……って、アルバス、何でお前がここに居るんだ!?」
「これは僥倖、俺を撒くのに必死になって状況を確認していなかったな。ネイサン! 奴を押
さえろ!」
アルバスはネイサンの両腕を掴んでいた男を拘束するよう大声で叫んだが、一瞬の事だったので
ネイサンの体は動けなかった。
時既に遅し――男は、ジュストと言われた青年は脇目も振らず一目散に逃げてしまった。
「ジュスト! どうしたんだ!? それに何故あいつを捕まえようとするんだ!?」
マクシームは激高しアルバスの胸倉を掴んで激しい剣幕で詰め寄った。だが、そんな事で諦める
ようなアルバスでは無かった。研究者として対象物を逸失しては、と彼は咄嗟にマクシームの手を
激しく振りほどき駆けだした。
そしてジュストの姿を捉えると魔銃アガーテを腰のガンホルダーから取り出しジュストの足元
めがけて発砲した。
「なっ、発砲するなんて信じられん! おい! ここは学校の敷地内じゃないぞ! 馬鹿
も大概に……またやったな!?」
ジュストはアルバスの常識を半ば信じていたので、よもや躊躇なく人に発砲するとは考えた事
は無かったが事実、地面に弾痕が炸裂しているのを見て体中が震えた。
アルバスはジュストが腰を抜かしへたり込んでいるのを確認すると、勝ち誇った表情でジュストの
居る場所まで駆けて行った。
「君の親友が教えてくれたんでな『ドラ学前のマ○クは異次元の門が発生する程度じゃな
いと騒ぎにならない』と。それにここは偶 然にも学園の敷地内だ」
「これは僥倖、俺を撒くのに必死になって状況を確認していなかったな。ネイサン! 奴を押
さえろ!」
アルバスはネイサンの両腕を掴んでいた男を拘束するよう大声で叫んだが、一瞬の事だったので
ネイサンの体は動けなかった。
時既に遅し――男は、ジュストと言われた青年は脇目も振らず一目散に逃げてしまった。
「ジュスト! どうしたんだ!? それに何故あいつを捕まえようとするんだ!?」
マクシームは激高しアルバスの胸倉を掴んで激しい剣幕で詰め寄った。だが、そんな事で諦める
ようなアルバスでは無かった。研究者として対象物を逸失しては、と彼は咄嗟にマクシームの手を
激しく振りほどき駆けだした。
そしてジュストの姿を捉えると魔銃アガーテを腰のガンホルダーから取り出しジュストの足元
めがけて発砲した。
「なっ、発砲するなんて信じられん! おい! ここは学校の敷地内じゃないぞ! 馬鹿
も大概に……またやったな!?」
ジュストはアルバスの常識を半ば信じていたので、よもや躊躇なく人に発砲するとは考えた事
は無かったが事実、地面に弾痕が炸裂しているのを見て体中が震えた。
アルバスはジュストが腰を抜かしへたり込んでいるのを確認すると、勝ち誇った表情でジュストの
居る場所まで駆けて行った。
「君の親友が教えてくれたんでな『ドラ学前のマ○クは異次元の門が発生する程度じゃな
いと騒ぎにならない』と。それにここは偶 然にも学園の敷地内だ」
「校外でマクシームに相談する前に攻撃されてしまうなんて……予想外だった」
アルバスに見下ろされた形で冷や汗を流しながらジュストは視線を下に向け呟いた。
「俺だって何時も手荒い真似はしたくないと思っているが、何故、採血程度の事で逃げ回る?」
「自分がモルモットにされていると分かっていて協力できる奴がいるか!」
「他のベルモンドは協力してくれたがな」
もともと白い顔を一層蒼ざめさせてジュストはアルバスに問い詰めたが、アルバスは何故か翳のあ
る表情でジュストを見据えて答えた。それを見てジュストは諦めたような声で泣きそうになりな
がら呟いた。
「それはお前の目的を知ないからだ」
「だが、それを他のベルモンドに言って信用されるほど、お前は発言権が高かったかな?」
「くっ……」
とりあえず騒動が起こっても店が壊された訳では無かったので「ありがとうございまし
たー」と満面の笑みで挨拶する店員の事はさておき、四人はアルバスの後を追った。
状況が飲み込めないネイサンは、とりあえず答えてくれる人間に期待して独りごとの様に質
問した。
「何があったんだ? 彼を何故攻撃しているんだ?」
「あの時、採血に協力しなかったベルモンドだからです」
シャノアからその名を聞いてネイサンは「あぁ、あれが」といった風情で彼の風聞も同時に思い
だした。
アルバスに見下ろされた形で冷や汗を流しながらジュストは視線を下に向け呟いた。
「俺だって何時も手荒い真似はしたくないと思っているが、何故、採血程度の事で逃げ回る?」
「自分がモルモットにされていると分かっていて協力できる奴がいるか!」
「他のベルモンドは協力してくれたがな」
もともと白い顔を一層蒼ざめさせてジュストはアルバスに問い詰めたが、アルバスは何故か翳のあ
る表情でジュストを見据えて答えた。それを見てジュストは諦めたような声で泣きそうになりな
がら呟いた。
「それはお前の目的を知ないからだ」
「だが、それを他のベルモンドに言って信用されるほど、お前は発言権が高かったかな?」
「くっ……」
とりあえず騒動が起こっても店が壊された訳では無かったので「ありがとうございまし
たー」と満面の笑みで挨拶する店員の事はさておき、四人はアルバスの後を追った。
状況が飲み込めないネイサンは、とりあえず答えてくれる人間に期待して独りごとの様に質
問した。
「何があったんだ? 彼を何故攻撃しているんだ?」
「あの時、採血に協力しなかったベルモンドだからです」
シャノアからその名を聞いてネイサンは「あぁ、あれが」といった風情で彼の風聞も同時に思い
だした。
――マッドサイエンティスト、ジュスト・ベルモンド。エクレシア大の方でも有名だ。彼の美貌
とは裏腹に、人懐っこい性格と物怖じしない態度に絆されて、殆どの対象者は彼のために
快く何度も危険な内容であっても協力してしまうらしい。実物を見たのは初めてだけど、
あれは確かに興味をそそられる人物だ。
シャノアはとアルバスは半月前、血液検査と献血の校内バイトを志願し、それを利用して実験用
の血液を採取していた。シャノアは受付、アルバスは医師免許を持っているため臨時で採血できた
訳である。
ネイサンは運送のバイトで偶然ドラ学に献血用のジュースもとい、うまい肉を配達しに来た
が次の仕事先がキャンセルになったのでそのまま残り、肉を目当てに押し寄せる学生達の
ために肉を焼いていたのである。
外部の人間がそんなことをする理由はないが、うまい肉に殺到する学生のために焼く係
の家政学部の学生だけでは手が足らず、それを見かねた上司が残るよう指示したからだ。
「そんな事はどうでもいい。お前らは自分の身内が他人を攻撃している事に疑問を持たな
いのか!?」
「持たない」
飄々とした様子でジュストとアルバスのやり取りを見ながらシャノアは淡々と答えると、冷静でい
るシャノアに対してマクシームは少々腹立ち紛れに突っかかった。
「シャノア……返答次第では君だって許さないぞ」
「ジュスト・ベルモンドも攻撃を仕掛けるから」
「人の事はモルモット扱いするくせに、自分がその立場になると逃げ回るから往生際が悪続き3行
とは裏腹に、人懐っこい性格と物怖じしない態度に絆されて、殆どの対象者は彼のために
快く何度も危険な内容であっても協力してしまうらしい。実物を見たのは初めてだけど、
あれは確かに興味をそそられる人物だ。
シャノアはとアルバスは半月前、血液検査と献血の校内バイトを志願し、それを利用して実験用
の血液を採取していた。シャノアは受付、アルバスは医師免許を持っているため臨時で採血できた
訳である。
ネイサンは運送のバイトで偶然ドラ学に献血用のジュースもとい、うまい肉を配達しに来た
が次の仕事先がキャンセルになったのでそのまま残り、肉を目当てに押し寄せる学生達の
ために肉を焼いていたのである。
外部の人間がそんなことをする理由はないが、うまい肉に殺到する学生のために焼く係
の家政学部の学生だけでは手が足らず、それを見かねた上司が残るよう指示したからだ。
「そんな事はどうでもいい。お前らは自分の身内が他人を攻撃している事に疑問を持たな
いのか!?」
「持たない」
飄々とした様子でジュストとアルバスのやり取りを見ながらシャノアは淡々と答えると、冷静でい
るシャノアに対してマクシームは少々腹立ち紛れに突っかかった。
「シャノア……返答次第では君だって許さないぞ」
「ジュスト・ベルモンドも攻撃を仕掛けるから」
「人の事はモルモット扱いするくせに、自分がその立場になると逃げ回るから往生際が悪続き3行
「言いがかりだ! この前、二度と人を実験台にしないって約束したばかりなのに」
「マクシーム……それは貴方が知らないだけだ。彼は研究対象として興味を持った人物に対して
拒否されても執拗に実験を行っている。ドラ学内での彼のあだ名を知っているかしら?
――マッドサイエンティスト。彼の一族であるベルモンドさえそう呼んでいる」
「それとアルバスが攻撃するのに何の関係があると聞いているんだ」
「お前、ジュストから何にも聞かされていないんだな。ジュストは採血の代わりにアルバスの能力を
知りたいとか何とか言って様々な実験を行っていたんだが……命にかかわるレベルになっ
てから、アルバスはジュストが条件を飲む気は無いと気づいて、仕方なく強硬手段に出たんだ」
マクシームはそう聞かされると「人体実験だと? もうしないと約束したはずなのに」と思い
問い詰めるため、より速度を上げて二人の許に駆けた。
そうこうしているうちにアルバスが腰を抜かしたジュストを押し倒し、耳元に銃口を向けていた。
「わ、解ったから銃を躊躇なく俺に向けるのは止めろォーッ!」
「……「解った」だけでは内容が取れんな。「俺の血を採血してくれ」との言質をお前自
身の口から聞き出せない限り、断続的に耳元で銃を撃ってやる。なに、強情張って鼓膜が
破れても俺が手術して、また一から繰り返してやる」
「やめてくれっ!」
二人のやり取りに「手術するならその間に採血すれば済む話では、というよりドラ学内
とはいえ無闇に発砲した時点で逮捕されるだろ、常識的に考えて」と四人は思ったものの、
誰一人として表情は見えねども悪魔と見紛うほどの殺気を放ち、ジュストを恫喝しているアルバ
スに突っ込めるはずもなく足を止めるしかなかったが、
「マクシーム……それは貴方が知らないだけだ。彼は研究対象として興味を持った人物に対して
拒否されても執拗に実験を行っている。ドラ学内での彼のあだ名を知っているかしら?
――マッドサイエンティスト。彼の一族であるベルモンドさえそう呼んでいる」
「それとアルバスが攻撃するのに何の関係があると聞いているんだ」
「お前、ジュストから何にも聞かされていないんだな。ジュストは採血の代わりにアルバスの能力を
知りたいとか何とか言って様々な実験を行っていたんだが……命にかかわるレベルになっ
てから、アルバスはジュストが条件を飲む気は無いと気づいて、仕方なく強硬手段に出たんだ」
マクシームはそう聞かされると「人体実験だと? もうしないと約束したはずなのに」と思い
問い詰めるため、より速度を上げて二人の許に駆けた。
そうこうしているうちにアルバスが腰を抜かしたジュストを押し倒し、耳元に銃口を向けていた。
「わ、解ったから銃を躊躇なく俺に向けるのは止めろォーッ!」
「……「解った」だけでは内容が取れんな。「俺の血を採血してくれ」との言質をお前自
身の口から聞き出せない限り、断続的に耳元で銃を撃ってやる。なに、強情張って鼓膜が
破れても俺が手術して、また一から繰り返してやる」
「やめてくれっ!」
二人のやり取りに「手術するならその間に採血すれば済む話では、というよりドラ学内
とはいえ無闇に発砲した時点で逮捕されるだろ、常識的に考えて」と四人は思ったものの、
誰一人として表情は見えねども悪魔と見紛うほどの殺気を放ち、ジュストを恫喝しているアルバ
スに突っ込めるはずもなく足を止めるしかなかったが、
「俺はな、お前にモルモットにされた上、ここで引くほど諦めのいい人間ではないのだよ。
それから、お前の様に人の身体を危機に晒しておきながら対価を払わない卑怯な小童は、
言葉と体で教育しておかないと後々同じ目に遭う人間をさらに増やすからな」
アルバスが言った言葉に内容はともあれ、溢れ出る殺気に圧倒されたのかネイサンだけは妙に納
得した。
「うーん……暴論だが牽引者がいなければ社会的な抑制は出来ないか。なるほど……」
「な訳があるか天然! いい加減止めるぞ!」
ヒューはありったけの力でネイサンを小突くと、全力でアルバスを羽交い絞めにしてジュストから引き
離すため、ネイサンの腕を引っ張ってアルバスのもとに駆け付けた。
無論、目標であるジュストの耳元に銃を向けているアルバスが他に気を取られるはずもなく、
いとも簡単に二人に両方から羽交い絞めにされジュストから引き剥がされた。
「放せっ、何をする!?」
「いい加減にしろ、アルバス。やり過ぎだ」
「止めるな、ヒュー! こいつは人として、やってはならん事を平気でやっているんだ!」
「大丈夫かジュスト?」
二人に続いて駆け付けたマクシームは、ジュストを守るよう様に自分を楯にして彼を抱きしめた。
「ありがとうマクシーム……久々に命の危機を感じた」
「あまり固執するなアルバス。確かに冬場の凍てついた滝でフンドシ一丁(摩擦を気にするな
らせめてスパッツにすればいいのに←心の声)でのバックダッシュの速度を計測するなん
て実験を受けた上に、交換条件を飲まず逃げ回っているジュストも悪いが、これでは一方的に
消耗するだけだ。もう諦めろ」
それから、お前の様に人の身体を危機に晒しておきながら対価を払わない卑怯な小童は、
言葉と体で教育しておかないと後々同じ目に遭う人間をさらに増やすからな」
アルバスが言った言葉に内容はともあれ、溢れ出る殺気に圧倒されたのかネイサンだけは妙に納
得した。
「うーん……暴論だが牽引者がいなければ社会的な抑制は出来ないか。なるほど……」
「な訳があるか天然! いい加減止めるぞ!」
ヒューはありったけの力でネイサンを小突くと、全力でアルバスを羽交い絞めにしてジュストから引き
離すため、ネイサンの腕を引っ張ってアルバスのもとに駆け付けた。
無論、目標であるジュストの耳元に銃を向けているアルバスが他に気を取られるはずもなく、
いとも簡単に二人に両方から羽交い絞めにされジュストから引き剥がされた。
「放せっ、何をする!?」
「いい加減にしろ、アルバス。やり過ぎだ」
「止めるな、ヒュー! こいつは人として、やってはならん事を平気でやっているんだ!」
「大丈夫かジュスト?」
二人に続いて駆け付けたマクシームは、ジュストを守るよう様に自分を楯にして彼を抱きしめた。
「ありがとうマクシーム……久々に命の危機を感じた」
「あまり固執するなアルバス。確かに冬場の凍てついた滝でフンドシ一丁(摩擦を気にするな
らせめてスパッツにすればいいのに←心の声)でのバックダッシュの速度を計測するなん
て実験を受けた上に、交換条件を飲まず逃げ回っているジュストも悪いが、これでは一方的に
消耗するだけだ。もう諦めろ」
ヒューが語調を強めて言った内容を聞き、マクシームはジュストに対する懐疑を真実と認識し次第に
怒りが湧いてきた。
「お前、今何て言った?」
「ジュストに対する交換条件としてアルバスに提示された実験内容の一部だ……ってそういうお
前こそ何している!?」
「そうか……そうか。やっぱり一方的に攻撃していた訳では無かったんだな。ジュスト、お前、
目的のために他人に迷惑をかけてはいけないって俺とリディーに言われたばかりじゃないか」
「痛い痛いっ! 鯖折りは勘弁してくれ、ぇっ……」
非道で非情だとは思いつつも、マクシームは抱きしめていたはずのジュストを腰骨がミシミシッ
と音を立てるくらいまで締め付けた。
「頼む、放してくれ」
ジュストは青白い顔を今度は真っ赤にした顔になりながら懇願したが、マクシームは聞き入れな
かった。
「俺はもとよりリディーの信頼を裏切った上に、他人との契約を履行しないと言う不誠実な真
似を仕出かしたんだ。今日こそは性根を入れ替えてもらう!」
「まさか、ラルフ……ラルフ・ベルモンドの所に俺を連れていく気か!」
「ああ、こればかりはやらないようにと思っていたが、もう我慢ならん。ヒュー、ジュストが逃
げないように右腕を確保してくれ」
「わかった」
怒りが湧いてきた。
「お前、今何て言った?」
「ジュストに対する交換条件としてアルバスに提示された実験内容の一部だ……ってそういうお
前こそ何している!?」
「そうか……そうか。やっぱり一方的に攻撃していた訳では無かったんだな。ジュスト、お前、
目的のために他人に迷惑をかけてはいけないって俺とリディーに言われたばかりじゃないか」
「痛い痛いっ! 鯖折りは勘弁してくれ、ぇっ……」
非道で非情だとは思いつつも、マクシームは抱きしめていたはずのジュストを腰骨がミシミシッ
と音を立てるくらいまで締め付けた。
「頼む、放してくれ」
ジュストは青白い顔を今度は真っ赤にした顔になりながら懇願したが、マクシームは聞き入れな
かった。
「俺はもとよりリディーの信頼を裏切った上に、他人との契約を履行しないと言う不誠実な真
似を仕出かしたんだ。今日こそは性根を入れ替えてもらう!」
「まさか、ラルフ……ラルフ・ベルモンドの所に俺を連れていく気か!」
「ああ、こればかりはやらないようにと思っていたが、もう我慢ならん。ヒュー、ジュストが逃
げないように右腕を確保してくれ」
「わかった」
鯖折りした後「これで下手な逃げ方も出来まい」と思ったマクシームはジュストを地面に下ろし
彼を支えるように肩組みしたが、腰を少し痛めたジュストを抱えながら移動するのは自分にも
相手にも負担だろうし、ジュストが逃げ出す可能性を考え、もう一人と支えた方がいいと判断
した。
その光景は精悍な青年二人と肩を組んでいる物憂げな白皙の美青年といった、目の保養
になりそうなものだが、実際ジュストからすれば「ドナドナドーナー」と売られていく牛のテ
ーマが頭の中に流れている状態である。
「ところで、彼を抱えてこれからどこに行くつもりだ?」
「ドラ学の闘技場だ。エクレシア大の方では修練堂とか呼ばれている施設だ」
「件のラルフ・ベルモンドはそこにいるのか?」
「大抵、闘技場でウォーミングアップした後、それぞれの体育系サークルに行く事になっ
ているからな。まだ5時ぐらいだからいる可能性は高い」
「……ところで、部外者が入っていいのか?」
「大丈夫だろう。人の形をしていれば見分けはつかないから」
そんなアバウトな。とヒューは思ったが、先ほどの無茶が通る様な学風ならあり得ると納得
するしかなかった。
「しかし、ラルフ・ベルモンドとは一体誰なんだ? ジュストの一族には違いないと思うが」
「見ればわかる」
マクシームはにやりと含んだような笑みをヒューに返し、アルバスの背中を意味有り気に見つめた。
やがてドラ学の闘技場に着いた面々は重厚な鉄の扉を開くと、そこにはムセっけぇる汗続き3行
彼を支えるように肩組みしたが、腰を少し痛めたジュストを抱えながら移動するのは自分にも
相手にも負担だろうし、ジュストが逃げ出す可能性を考え、もう一人と支えた方がいいと判断
した。
その光景は精悍な青年二人と肩を組んでいる物憂げな白皙の美青年といった、目の保養
になりそうなものだが、実際ジュストからすれば「ドナドナドーナー」と売られていく牛のテ
ーマが頭の中に流れている状態である。
「ところで、彼を抱えてこれからどこに行くつもりだ?」
「ドラ学の闘技場だ。エクレシア大の方では修練堂とか呼ばれている施設だ」
「件のラルフ・ベルモンドはそこにいるのか?」
「大抵、闘技場でウォーミングアップした後、それぞれの体育系サークルに行く事になっ
ているからな。まだ5時ぐらいだからいる可能性は高い」
「……ところで、部外者が入っていいのか?」
「大丈夫だろう。人の形をしていれば見分けはつかないから」
そんなアバウトな。とヒューは思ったが、先ほどの無茶が通る様な学風ならあり得ると納得
するしかなかった。
「しかし、ラルフ・ベルモンドとは一体誰なんだ? ジュストの一族には違いないと思うが」
「見ればわかる」
マクシームはにやりと含んだような笑みをヒューに返し、アルバスの背中を意味有り気に見つめた。
やがてドラ学の闘技場に着いた面々は重厚な鉄の扉を開くと、そこにはムセっけぇる汗続き3行
汗と長年使用して来た器具に染み付いた臭いは、ファブ○ーズを散布したくらいでは消えな
いが、徐々に臭いに慣れてきたころ、マクシームは部屋の片隅で片手腕立て伏せをしている浅黒
い頑強な男を見つけると、その方向へ歩いて行った。
「ラルフ先輩」
「よう、マクシームか。それから……ベルモンドとは思えないような生っ白い顔をしたジュストも一緒
か」
ラルフと呼ばれた男はトレーニングをやめて立ち上がり、タオルで汗を拭うと呼ばれた方向
を向いて爽やか満点に微笑んだ。
その笑みを見たジュストは周りからただならぬ気配を感じて青ざめる。
「最近俺から逃げ回っているようだが、何か疚しい事でもあったのか? ジュスト君」
「何もない。何も」
だが、その双眸には明らかに怯えが見えた。
「マッドサイエンティストと呼ばれているほどの頭脳でも、肝心な事は都合よく忘れるも
のらしいな」
「何の事か皆目見当がつかないな」
「とぼけるなよジュスト! アルカードとリヒターに何をしたんだったかな? あ゛ぁ?」
「アルカード先輩にはジュスト特製プロテインの定期投与、リヒター先輩には前頭葉前野皮質の電磁波
照射によるオールクリアシグナル出現の実験(状況の予測による恐怖の解消実験)だな」
その実験結果によると、アルカードはしなやかで艶のある姿態から、ベルモンド顔負けのムッキ
ムキのナイスガイへと変貌を遂げ(筋力に関しては元々からその外見に見合うくらいの膂
力を持っていた)リヒターはと言うと……ここはラルフの口から語らせてもらおう。
いが、徐々に臭いに慣れてきたころ、マクシームは部屋の片隅で片手腕立て伏せをしている浅黒
い頑強な男を見つけると、その方向へ歩いて行った。
「ラルフ先輩」
「よう、マクシームか。それから……ベルモンドとは思えないような生っ白い顔をしたジュストも一緒
か」
ラルフと呼ばれた男はトレーニングをやめて立ち上がり、タオルで汗を拭うと呼ばれた方向
を向いて爽やか満点に微笑んだ。
その笑みを見たジュストは周りからただならぬ気配を感じて青ざめる。
「最近俺から逃げ回っているようだが、何か疚しい事でもあったのか? ジュスト君」
「何もない。何も」
だが、その双眸には明らかに怯えが見えた。
「マッドサイエンティストと呼ばれているほどの頭脳でも、肝心な事は都合よく忘れるも
のらしいな」
「何の事か皆目見当がつかないな」
「とぼけるなよジュスト! アルカードとリヒターに何をしたんだったかな? あ゛ぁ?」
「アルカード先輩にはジュスト特製プロテインの定期投与、リヒター先輩には前頭葉前野皮質の電磁波
照射によるオールクリアシグナル出現の実験(状況の予測による恐怖の解消実験)だな」
その実験結果によると、アルカードはしなやかで艶のある姿態から、ベルモンド顔負けのムッキ
ムキのナイスガイへと変貌を遂げ(筋力に関しては元々からその外見に見合うくらいの膂
力を持っていた)リヒターはと言うと……ここはラルフの口から語らせてもらおう。
「忘れているのなら耳をかっぽじってよく聞け! 2か月前から少しずつリヒターの様子と言動
がおかしくなったんだ。おかしいと言うか感情を剝き出しにしていったと言った方が正確
かもしれないが」
ラルフは悪夢を見たかのように目を強く瞑り、震えながら言葉を続けた。
「だが、その様子が一ヶ月後になると幼児退行を起こすようになった。今思い出しても恐
ろしいっ!「ラルフ……アルカードとおれが一緒にいちゃだめなの?」と涙を溜めた潤んだ瞳でと
言うより、あの面と筋骨隆々の体で甘えた声を出されて何が言える?」
――「わーい、アルカードから撫でてもらったよ。嬉しいなっ」
――「アルカードはどんな姿になっても好きだよ」
「まぁ、照射自体を中止したら数日で元に戻ったが、その間の記憶は持っている訳だから、
事ある毎に自分の言動を思い出して、赤面しながら頭を打ち付けている所を毎日目撃して
いるんだ」
「非道な事をする。お前は科学者として人の命を何だと思っているんだ。特に電磁波実験
は、ロボトミー手術の失敗例と同じ状態になっているじゃないか。モルモットと計器で測
定するだけでは気が済まんのか」
「こらぁっ! マクシーム! 余計な事を、具体的な内容をアルバスの前で言うな!」
「だが、人にそうさせたのは他ならぬお前だ。俺達の注意だけでは反省が無かったようだ
から、ここは当事者に罰して貰わないといけなくなったんだろう?」
マクシームは腰の痛みに耐えつつ、脂汗を流しながら逃亡しようとしているジュストの手首を捕
まえると、彼の背面に腕を捻じり上げ鬼の形相で凄んだ。
がおかしくなったんだ。おかしいと言うか感情を剝き出しにしていったと言った方が正確
かもしれないが」
ラルフは悪夢を見たかのように目を強く瞑り、震えながら言葉を続けた。
「だが、その様子が一ヶ月後になると幼児退行を起こすようになった。今思い出しても恐
ろしいっ!「ラルフ……アルカードとおれが一緒にいちゃだめなの?」と涙を溜めた潤んだ瞳でと
言うより、あの面と筋骨隆々の体で甘えた声を出されて何が言える?」
――「わーい、アルカードから撫でてもらったよ。嬉しいなっ」
――「アルカードはどんな姿になっても好きだよ」
「まぁ、照射自体を中止したら数日で元に戻ったが、その間の記憶は持っている訳だから、
事ある毎に自分の言動を思い出して、赤面しながら頭を打ち付けている所を毎日目撃して
いるんだ」
「非道な事をする。お前は科学者として人の命を何だと思っているんだ。特に電磁波実験
は、ロボトミー手術の失敗例と同じ状態になっているじゃないか。モルモットと計器で測
定するだけでは気が済まんのか」
「こらぁっ! マクシーム! 余計な事を、具体的な内容をアルバスの前で言うな!」
「だが、人にそうさせたのは他ならぬお前だ。俺達の注意だけでは反省が無かったようだ
から、ここは当事者に罰して貰わないといけなくなったんだろう?」
マクシームは腰の痛みに耐えつつ、脂汗を流しながら逃亡しようとしているジュストの手首を捕
まえると、彼の背面に腕を捻じり上げ鬼の形相で凄んだ。
自分と同等の膂力を持つマクシームに主導権を取られたら二進も三進もいかない。その様子に
「もう止めてやれ」と言いながら苦笑しているラルフ以外は完全にドン引きしていたが、ネイサ
ンとヒューは自分達のほぼ真剣に近い喧嘩もこれくらいの野卑さを持っているかと思うと、お
互いに顔を見合わせて恥じ入る様に俯いた。
特にヒューはアルバスから「感情の幅を増やせ」と言われた事に加え、感情に任せて照れ隠し
のためにネイサンを攻撃するのは自重しようと本気で思った。
「マクシームが頭を下げてくれたから俺達も許したんだがな。他の二人は気にしていないようだ
が俺は未だに腸が煮えくり返っている。ところでマクシーム、お前が必死でこいつを罰してくれ
るなと頼んだのに、どうしてここに連れて来たんだ?」
「俺とリディーがこいつを諭したのに、その後も他の人に迷惑をかけたからですよ」
「ははぁ、そういう事だったのか。道理で見ない顔が一人増えていると思った」
「後の三人は御存じなんですか?」
「知っているも何も献血したら、特大のうまい肉を俺の注文通りに用意してくれたんだ。
あまりにも旨かったから一日に何度も並んだ」
ラルフがシャノアとアルバスとネイサンを見て恩人を見るかのような素直な視線を向け、うっとりとし
た表情で見つめ始めた。だが、アルバスはその様態の意味が分からず、咳払いをして話を続け
た。
「……よく覚えているよ。ラルフ・ベルモンド。体内の総血液量である6リットル近くを献血して
も死ななかったんだからな。通常なら総血液量の1/3くらいの失血から生命維持が困難にな
ってくるのに」続き3行
「もう止めてやれ」と言いながら苦笑しているラルフ以外は完全にドン引きしていたが、ネイサ
ンとヒューは自分達のほぼ真剣に近い喧嘩もこれくらいの野卑さを持っているかと思うと、お
互いに顔を見合わせて恥じ入る様に俯いた。
特にヒューはアルバスから「感情の幅を増やせ」と言われた事に加え、感情に任せて照れ隠し
のためにネイサンを攻撃するのは自重しようと本気で思った。
「マクシームが頭を下げてくれたから俺達も許したんだがな。他の二人は気にしていないようだ
が俺は未だに腸が煮えくり返っている。ところでマクシーム、お前が必死でこいつを罰してくれ
るなと頼んだのに、どうしてここに連れて来たんだ?」
「俺とリディーがこいつを諭したのに、その後も他の人に迷惑をかけたからですよ」
「ははぁ、そういう事だったのか。道理で見ない顔が一人増えていると思った」
「後の三人は御存じなんですか?」
「知っているも何も献血したら、特大のうまい肉を俺の注文通りに用意してくれたんだ。
あまりにも旨かったから一日に何度も並んだ」
ラルフがシャノアとアルバスとネイサンを見て恩人を見るかのような素直な視線を向け、うっとりとし
た表情で見つめ始めた。だが、アルバスはその様態の意味が分からず、咳払いをして話を続け
た。
「……よく覚えているよ。ラルフ・ベルモンド。体内の総血液量である6リットル近くを献血して
も死ななかったんだからな。通常なら総血液量の1/3くらいの失血から生命維持が困難にな
ってくるのに」続き3行
「3回目に並んだのを見た時、シャノアと俺が生命維持活動の限界について何度も説明したはず
だが、他の所に並んで献血していた事を後で知ったんだ。混雑していたとは言えよくバレ
なかったな、というか全く聞いていなかったんだな」
「悪かった。目的の事になると周りが見えなくなるらしい。目的のために貪欲になるのは
そこのジュストと同じだな俺も」
ラルフは申し訳なさそうな顔で微かに苦笑しながらジュストを見たあと、呆れ顔で軽く頭を二、
三度振ってため息をつくアルバスに視線を向けた。
「で、俺としてはこいつをギッタンギッタンのメッタメタにしてやりたいんだが、ここは
新たに迷惑を被ったあんた方に権利をあげよう」
「俺が全力で拒否するという選択肢と権利は?」
「後にも先にもないな、そんなものは」
「そうか、なら採血させてもらおうかジュスト」
アルバスは自分のジュラルミンケースから、私物の採血道具一式と、その他を取り出し採血
の準備を始めた。
「そんな事で良かったのか」
「当初の目的はそれだったからな。だが、先ほどの実験内容を聞いたら考えが変わった。
身体能力も調べたくなった」
「奇遇だな、最近実験にかまけてベルモンドの男として筋力が落ちていないか心配だったん
だ。全力でサポートさせてもらう」
「止めろぉー今日は厄日か!」続き4行
だが、他の所に並んで献血していた事を後で知ったんだ。混雑していたとは言えよくバレ
なかったな、というか全く聞いていなかったんだな」
「悪かった。目的の事になると周りが見えなくなるらしい。目的のために貪欲になるのは
そこのジュストと同じだな俺も」
ラルフは申し訳なさそうな顔で微かに苦笑しながらジュストを見たあと、呆れ顔で軽く頭を二、
三度振ってため息をつくアルバスに視線を向けた。
「で、俺としてはこいつをギッタンギッタンのメッタメタにしてやりたいんだが、ここは
新たに迷惑を被ったあんた方に権利をあげよう」
「俺が全力で拒否するという選択肢と権利は?」
「後にも先にもないな、そんなものは」
「そうか、なら採血させてもらおうかジュスト」
アルバスは自分のジュラルミンケースから、私物の採血道具一式と、その他を取り出し採血
の準備を始めた。
「そんな事で良かったのか」
「当初の目的はそれだったからな。だが、先ほどの実験内容を聞いたら考えが変わった。
身体能力も調べたくなった」
「奇遇だな、最近実験にかまけてベルモンドの男として筋力が落ちていないか心配だったん
だ。全力でサポートさせてもらう」
「止めろぉー今日は厄日か!」続き4行
「違う、実際に被害に遭ったのはそこのアルバスだ。俺じゃない」
「そうなのか」
「そうだ。ドラ学内で唯一採血していないのがこいつだけでね。学生課から至急、検査の
ために採血するよう通達が出ていたのだが(学生掲示板に張り出されても)どういう訳か
逃げ回って困る。学生課も捕まえる事が出来なかったから臨時でバイトしていた俺に指示
が回ってきた訳だ。本来なら大学病院で行うものだが、状況が状況だから捕まえたらその
場で行えとのお許しもある」
何その杜撰な処理方法というのはさておき、ラルフは早々に始めるため、当事者以外の退出
を求めた。
「とにかく関係はないんだな。関係ないならあまり見ていてもいいものとは思えない。当
事者以外は帰った方がいい」
「確かにそうだが……アルバス、相手を銃で吹き飛ばすなよ」
ヒューが不安そうにアルバスに釘を刺すと、何食わぬ顔で彼はしれっと反論した。
「誰がそんな凶賊の様な真似をするか」
「信用できるか!」とラルフ以外の全員が異口同音に突っ込んだが、すぐにマクシームが口を開い
た。
「大丈夫だ、俺が暴走を止める。でも何かあったら踏み込めるよう、あんたたち三人はド
アの近くで待機してくれ」
「と言う訳で、煮え湯を飲まされた者もいると思うが、大人数だとどう見てもリンチだ。
いくら何でもそんな惨い真似は許さない。ジュストがベルモンドとは言えだ。だから今日は上が
っていいぞ」
「そうなのか」
「そうだ。ドラ学内で唯一採血していないのがこいつだけでね。学生課から至急、検査の
ために採血するよう通達が出ていたのだが(学生掲示板に張り出されても)どういう訳か
逃げ回って困る。学生課も捕まえる事が出来なかったから臨時でバイトしていた俺に指示
が回ってきた訳だ。本来なら大学病院で行うものだが、状況が状況だから捕まえたらその
場で行えとのお許しもある」
何その杜撰な処理方法というのはさておき、ラルフは早々に始めるため、当事者以外の退出
を求めた。
「とにかく関係はないんだな。関係ないならあまり見ていてもいいものとは思えない。当
事者以外は帰った方がいい」
「確かにそうだが……アルバス、相手を銃で吹き飛ばすなよ」
ヒューが不安そうにアルバスに釘を刺すと、何食わぬ顔で彼はしれっと反論した。
「誰がそんな凶賊の様な真似をするか」
「信用できるか!」とラルフ以外の全員が異口同音に突っ込んだが、すぐにマクシームが口を開い
た。
「大丈夫だ、俺が暴走を止める。でも何かあったら踏み込めるよう、あんたたち三人はド
アの近くで待機してくれ」
「と言う訳で、煮え湯を飲まされた者もいると思うが、大人数だとどう見てもリンチだ。
いくら何でもそんな惨い真似は許さない。ジュストがベルモンドとは言えだ。だから今日は上が
っていいぞ」
だが、ラルフが抑止を周りに求めてもそれなりに被害を受けているベルモンド及び、その他は
納得がいかない。本気でないにしても、自分達の前で醜態をさらす姿を見て鬱憤を晴らす
算段をしている。
「いや、俺は立ち合う」
「僕もだ」
「聞いていなかったのか? 俺はジュストと拳を交える気はない。アルバスのサポートをすると
言ったはずだ。一対一の勝負に他者が介入する事は許さん。もしすると言うのなら俺を倒
してからにしろ」
「解りました。副会長が言うのなら仕方ありませんね」
ラルフに脅されると、息巻いていた部員は全員、殺気だった彼を見て戦慄し、蒼ざめた顔で
すごすごと帰るしかなかった。
残れと言われた三人は闘技場前でしばらく佇んでいたが、立ちっぱなしでいるのもどう
かと思ったので、とりあえず入り口前の階段に腰を下ろした。
「シャノアは何をやっているんだ?」
アルバスが一度でも狂気に飲まれたら弟子三人でも太刀打ちできるか分からないと不安を抱
いていたネイサンは、ノートパソコンを広げたシャノアに、どうしてこの状況下で冷静でいられる
のか疑問を持った。
「レポートです。待っている時間を持て余すのは勿体無いので」
「お前はマイペースだな。本当に」
相変わらず平常運転のシャノアを見て、長くいるから安心できているのかと安堵したところ
で何故かヒューは少し顔を赤らめ、恥ずかしそうな表情でネイサンにぼそっと軽口をたたいた。
納得がいかない。本気でないにしても、自分達の前で醜態をさらす姿を見て鬱憤を晴らす
算段をしている。
「いや、俺は立ち合う」
「僕もだ」
「聞いていなかったのか? 俺はジュストと拳を交える気はない。アルバスのサポートをすると
言ったはずだ。一対一の勝負に他者が介入する事は許さん。もしすると言うのなら俺を倒
してからにしろ」
「解りました。副会長が言うのなら仕方ありませんね」
ラルフに脅されると、息巻いていた部員は全員、殺気だった彼を見て戦慄し、蒼ざめた顔で
すごすごと帰るしかなかった。
残れと言われた三人は闘技場前でしばらく佇んでいたが、立ちっぱなしでいるのもどう
かと思ったので、とりあえず入り口前の階段に腰を下ろした。
「シャノアは何をやっているんだ?」
アルバスが一度でも狂気に飲まれたら弟子三人でも太刀打ちできるか分からないと不安を抱
いていたネイサンは、ノートパソコンを広げたシャノアに、どうしてこの状況下で冷静でいられる
のか疑問を持った。
「レポートです。待っている時間を持て余すのは勿体無いので」
「お前はマイペースだな。本当に」
相変わらず平常運転のシャノアを見て、長くいるから安心できているのかと安堵したところ
で何故かヒューは少し顔を赤らめ、恥ずかしそうな表情でネイサンにぼそっと軽口をたたいた。
「……天然のお前には言われたくないだろうよ」
「お前が突っかかるのを聞いていても今日は反論する気分じゃない」
「……フン」
二人きりであれば最近の行動についてヒューに問いただすところだったが、シャノアが居るので
なんだか気恥ずかしくなり無言で過ごすことにした。
何気に「ヒャッハァァー」とか何とか声が聞こえたが一時間くらいたったころ、マクシームが
扉を開け三人を招き入れた。
「尻が……尻が痛い。尻に根が生えたように重い」
過酷な実験が終わり、ジュストは主に臀部を酷使したせいか、椅子に座った途端痛みだし動
けなくなった。その姿は燃え尽きて灰になった某ボクサーの様であった。
その格好に、してやったりとばかりにラルフは軽く笑い、アルバスは満足そうにジュストの血液が
入っている試験管を蛍光灯に掲げて透かし悦に浸っていた。
「鍛錬が足りんぞ、ジュスト。アルバスはこの実験に殆ど文句を言わずに受けてくれたのに」
「採血が出来ただけでも重畳なのに、体の線が細いから持たないと思っていたが案外持久
力はあったようだな」
「あれだけ脅されたら誰だってやり遂げるだろうさ」
マクシームは面白半分の実験に苦笑しながらも、長年の経験からジュストが(一時的とはいえ)
反省した様子を見せたのに少々心が痛んだ。
「マクシーム……これからは自重するから許してくれ」
「いつまで続くかは分からないが、これを機にもう少し考えてから行動しろよ」続き4行
「お前が突っかかるのを聞いていても今日は反論する気分じゃない」
「……フン」
二人きりであれば最近の行動についてヒューに問いただすところだったが、シャノアが居るので
なんだか気恥ずかしくなり無言で過ごすことにした。
何気に「ヒャッハァァー」とか何とか声が聞こえたが一時間くらいたったころ、マクシームが
扉を開け三人を招き入れた。
「尻が……尻が痛い。尻に根が生えたように重い」
過酷な実験が終わり、ジュストは主に臀部を酷使したせいか、椅子に座った途端痛みだし動
けなくなった。その姿は燃え尽きて灰になった某ボクサーの様であった。
その格好に、してやったりとばかりにラルフは軽く笑い、アルバスは満足そうにジュストの血液が
入っている試験管を蛍光灯に掲げて透かし悦に浸っていた。
「鍛錬が足りんぞ、ジュスト。アルバスはこの実験に殆ど文句を言わずに受けてくれたのに」
「採血が出来ただけでも重畳なのに、体の線が細いから持たないと思っていたが案外持久
力はあったようだな」
「あれだけ脅されたら誰だってやり遂げるだろうさ」
マクシームは面白半分の実験に苦笑しながらも、長年の経験からジュストが(一時的とはいえ)
反省した様子を見せたのに少々心が痛んだ。
「マクシーム……これからは自重するから許してくれ」
「いつまで続くかは分からないが、これを機にもう少し考えてから行動しろよ」続き4行
「さて、血液を無事確保できたし、そろそろ帰るとするか。と、その前にネイサン、俺と一緒
にエクレシア大学のお前の所属ラボに連れて行ってくれ」
「血液をドラ学の医局で冷凍保存したら、皆で一緒に帰るんじゃないのか?」
「その後にエクレシア大の方に行くんだ」
機材はドラ学に比べて充実している。自宅でできない実験はこっそりエク大の機材を
使用していた。
一応出身大学でも、ラボ内のパスコードは現役の人間しかもっていないからアルバスはい
つものようにネイサンにラボを使わせてもらう頼んだ。
「くっ、確かに文学部の俺はラボのパスコードを持っていないが……」
何だかんだ言いながら弟子、師匠全員で集まって食事を取るのを一日の楽しみにしてい
るヒューのガッカリ具合から出たボヤキはさて置き、学部生レベルでもパスコードに網膜パタ
ーン照合、指紋照合が施されている大学って何やねんと言うぐらいセキュリティーが厳重
だが、それくらいしないとシャレにならない研究をしているのだから仕様が無い。
「という事でお前達二人は先に帰ってくれ。それに今日の炊事当番はシャノアだったな」
「久しぶりに全員で帰られると思ったが、残念だ」
ちらっとアルバスの方を向いたものの、目線をすぐに落としてから少しむくれた妹弟子に、
しようがないなと言った風情でくしゃくしゃっと彼女の頭を撫でた。
「解ればよろしい。埋め合わせに「ダニエラおばあさんのケーキ」を買って来よう」
「ありがとう……ございます、アルバス」
それでも自分の研究のために、学部生ながら編入して来てまで付いてきた妹弟子に何も続き2行
にエクレシア大学のお前の所属ラボに連れて行ってくれ」
「血液をドラ学の医局で冷凍保存したら、皆で一緒に帰るんじゃないのか?」
「その後にエクレシア大の方に行くんだ」
機材はドラ学に比べて充実している。自宅でできない実験はこっそりエク大の機材を
使用していた。
一応出身大学でも、ラボ内のパスコードは現役の人間しかもっていないからアルバスはい
つものようにネイサンにラボを使わせてもらう頼んだ。
「くっ、確かに文学部の俺はラボのパスコードを持っていないが……」
何だかんだ言いながら弟子、師匠全員で集まって食事を取るのを一日の楽しみにしてい
るヒューのガッカリ具合から出たボヤキはさて置き、学部生レベルでもパスコードに網膜パタ
ーン照合、指紋照合が施されている大学って何やねんと言うぐらいセキュリティーが厳重
だが、それくらいしないとシャレにならない研究をしているのだから仕様が無い。
「という事でお前達二人は先に帰ってくれ。それに今日の炊事当番はシャノアだったな」
「久しぶりに全員で帰られると思ったが、残念だ」
ちらっとアルバスの方を向いたものの、目線をすぐに落としてから少しむくれた妹弟子に、
しようがないなと言った風情でくしゃくしゃっと彼女の頭を撫でた。
「解ればよろしい。埋め合わせに「ダニエラおばあさんのケーキ」を買って来よう」
「ありがとう……ございます、アルバス」
それでも自分の研究のために、学部生ながら編入して来てまで付いてきた妹弟子に何も続き2行
エクレシア大はドラ学から歩いて15分の所にある。
広大な敷地を有し、学内に高エネルギー加速器(むちゃくちゃ場所を取る)を設置して
いるくらい理系の分野に力を入れている。そのため、近隣の学校や施設より機材が揃って
いる。
空が暗くなっても、理系キャンパス内の半分は実験しているので電気が付いている。夜
でも昼のような明るさだった。
二人は敷地内を歩きながら取りとめのない話をしていた。
「理工の校舎は相変わらず明るいな。今でもそうだが学部生の時は特に、昼夜分かたず自
分の研究が出来るから嬉しかったし、師バーロウやシャノアもいたから家よりいる時間が多かった
が……お前達が家に来た事で今では家に帰り、皆でいる事が楽しみだ」
「シャノアやバーロウ氏だけではそんな感情を抱かなかったのか?」
「同じ年頃の同性で、自分たちと同じ人間というものが欲しかったのかもしれないな。そ
れにシャノア以外だといつも一人だった。お前はどうだ?」
「俺には両親はいないけど、師匠のモーリスやその子供のヒューがいた。二人とも良くしてくれて
寂しいなんて思った事はなかった。だけど……!」
「最近、己の好意を否定するような激しい拒絶を、ヒューから受ける事に我慢ならないのだろ
う?」
「ああ。昔から素直じゃない所はあったけど最近は酷過ぎる。俺が何したって言うんだ。
剣を振り回すとか怒鳴りつけるとか明らかに常軌を逸している」
広大な敷地を有し、学内に高エネルギー加速器(むちゃくちゃ場所を取る)を設置して
いるくらい理系の分野に力を入れている。そのため、近隣の学校や施設より機材が揃って
いる。
空が暗くなっても、理系キャンパス内の半分は実験しているので電気が付いている。夜
でも昼のような明るさだった。
二人は敷地内を歩きながら取りとめのない話をしていた。
「理工の校舎は相変わらず明るいな。今でもそうだが学部生の時は特に、昼夜分かたず自
分の研究が出来るから嬉しかったし、師バーロウやシャノアもいたから家よりいる時間が多かった
が……お前達が家に来た事で今では家に帰り、皆でいる事が楽しみだ」
「シャノアやバーロウ氏だけではそんな感情を抱かなかったのか?」
「同じ年頃の同性で、自分たちと同じ人間というものが欲しかったのかもしれないな。そ
れにシャノア以外だといつも一人だった。お前はどうだ?」
「俺には両親はいないけど、師匠のモーリスやその子供のヒューがいた。二人とも良くしてくれて
寂しいなんて思った事はなかった。だけど……!」
「最近、己の好意を否定するような激しい拒絶を、ヒューから受ける事に我慢ならないのだろ
う?」
「ああ。昔から素直じゃない所はあったけど最近は酷過ぎる。俺が何したって言うんだ。
剣を振り回すとか怒鳴りつけるとか明らかに常軌を逸している」
悲しげに言葉を切りながら吐露するネイサンの様子を見てからアルバスは立ち止り、少し考え込
む格好をしてネイサンを見据えると静かに口を開いた。
「それなら、あいつのバイト先で飯を食ってきたらどうだ? ちょうどディナー招待券を
持っているからお前にやる。いつも学部のラボを使わせてもらっている礼だ。バイト先の
店長から貰ったが使い道がなくてね」
そう言うと、アルバスは鞄から紙切れの様なものを取りだした。
ネイサンは五千円分のディナー券をアルバスから渡されると、何故いつもシャノアに対して感謝して
いると口にしているのに彼女に券を渡さず自分に渡すのかと訝しく思い、ためらいながら
券を受け取った。
「何でシャノアにあげない? いつも感謝していると言っているじゃないか」
「シャノアに渡しても一人で行くと思うか? 仮に連れて行ったとしても俺だけ正規の料金で
食べているなら申し訳なく思うだろうな。そうだ、飯を食いに行く時は時間と予約と指名
を忘れるなよ、特に指名はあいつにしておかないとお前が行ったところで『他の卓に回っ
ているから忙しい』とか言われる」
「そこまでしなくても俺は傍から見ているだけで……」
声など掛けようものなら仕事中は顔に出さなくても、家に帰ってから嚇怒されるかと思
えば、わざわざ虎の尾を踏むような事はしたくないと思ったが、アルバスが自分に対して好意
で言っているのは間違いないので言葉を濁してしまった。
「妙な遠慮はするな。あいつも仕事としてなら本音を語ってくれるかもしれないぞ?」
初めは消極的だったものの「本音を語ってくれる」との一言に、ネイサンは自分から行動を
起こしてみようかと思った。
む格好をしてネイサンを見据えると静かに口を開いた。
「それなら、あいつのバイト先で飯を食ってきたらどうだ? ちょうどディナー招待券を
持っているからお前にやる。いつも学部のラボを使わせてもらっている礼だ。バイト先の
店長から貰ったが使い道がなくてね」
そう言うと、アルバスは鞄から紙切れの様なものを取りだした。
ネイサンは五千円分のディナー券をアルバスから渡されると、何故いつもシャノアに対して感謝して
いると口にしているのに彼女に券を渡さず自分に渡すのかと訝しく思い、ためらいながら
券を受け取った。
「何でシャノアにあげない? いつも感謝していると言っているじゃないか」
「シャノアに渡しても一人で行くと思うか? 仮に連れて行ったとしても俺だけ正規の料金で
食べているなら申し訳なく思うだろうな。そうだ、飯を食いに行く時は時間と予約と指名
を忘れるなよ、特に指名はあいつにしておかないとお前が行ったところで『他の卓に回っ
ているから忙しい』とか言われる」
「そこまでしなくても俺は傍から見ているだけで……」
声など掛けようものなら仕事中は顔に出さなくても、家に帰ってから嚇怒されるかと思
えば、わざわざ虎の尾を踏むような事はしたくないと思ったが、アルバスが自分に対して好意
で言っているのは間違いないので言葉を濁してしまった。
「妙な遠慮はするな。あいつも仕事としてなら本音を語ってくれるかもしれないぞ?」
初めは消極的だったものの「本音を語ってくれる」との一言に、ネイサンは自分から行動を
起こしてみようかと思った。
続き44秒後位に新着取得可