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1:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2018/10/25(木) 20:34:47
201X年、人類は科学文明の爛熟期を迎えた。
宇宙開発を推進し、深海を調査し。
すべての妖怪やオカルトは科学で解き明かされたかのように見えた。

――だが、妖怪は死滅していなかった!

『2020年の東京オリンピック開催までに、東京に蔓延る《妖壊》を残らず漂白せよ』――
白面金毛九尾の狐より指令を受けた那須野橘音をリーダーとして結成された、妖壊漂白チーム“東京ブリーチャーズ”。
帝都制圧をもくろむ悪の組織“東京ドミネーターズ”との戦いに勝ち抜き、東京を守り抜くのだ!



ジャンル:現代伝奇ファンタジー
コンセプト:妖怪・神話・フォークロアごちゃ混ぜ質雑可TRPG
期間(目安):特になし
GM:あり
決定リール:他参加者様の行動を制限しない程度に可
○日ルール:4日程度(延長可、伸びる場合はご一報ください)
版権・越境:なし
敵役参加:なし(一般妖壊は参加者全員で操作、幹部はGMが担当します)続き30行
284:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2019/04/12(金) 07:56:11
ポチは、狼だ――かつては「狼犬」であった事もあるが、とにかく。
生まれた時から今まで、殆どの時間を四つ這いの姿勢で過ごしてきた。
つまり敵の足元に潜り込み、体を起こさぬまま戦い続ける。
それはポチにとっては苦肉の策ではなく、むしろ本領。

四肢を地についた状態から右手を伸ばし、尾弐の大腿へ。
爪を突き立て、引きずり下ろすように切りつける。

だが――通らない。
如何に『獣』の力を込めた爪とて、酒呑童子の強靭な皮膚は引き裂けない。
それでもポチは退かない。手傷を負わせる事が目的ではないからだ。

爪が通らぬならば、殴り、蹴る。
祈へ再び詰め寄るにせよ、ポチを蹴飛ばさんとするにせよ、
尾弐の取る行動を逐一、その軸足に打撃を加えて阻害する。

とは言え、それも容易い事ではない。
今の尾弐が相手では、蹴りが僅かに掠めただけでもポチの命が吹き飛ぶ。
尾弐はただ、ポチの攻撃に対して相打ちを狙うだけでいいのだ。
続き40行
285:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2019/04/12(金) 07:57:10
「がっ……!」

そしてそれは、当然逃げ切れるものではない。
ポチは高く吹き飛ばされて、石畳へと落ちる。
すぐに体を起こそうとするが――叶わない。
体に力が入らない。視界が霞み、意識が朦朧とする。
それでもなんとか顔を上げて、周囲を見回す。
シロは――自分のすぐ隣に倒れていた。
息はある。命に届くような傷は見えない。
真新しい血のにおいも――ひどくにおい立つ、というほどではない。
ポチは安堵の溜息を吐き、

「……尾弐っち」

そう、呟いた。
これでもう、自分に出来る事は何もない。
皆は尾弐を取り戻せるだろうか。
霞む視界の奥を、じっと見つめる。

祈は、立ち上がれている。続き48行
286:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2019/04/12(金) 07:58:37
『奴の結界は消え、これで最悪でもこの場を脱する事は出来る。
 お前達も、奴らもだ。それで十分だろう、弁えろ』

確かにポチは『獣』に誓った。
どちらかを選ばなければならないのなら、自分は狼として生きる道を選ぶと。
だからと言って、皆を簡単に諦められる訳がない。

それでも、ポチの肉体がとうに限界を迎えている事は変わらない。
腕に力は戻らず、ただ祈とノエルの背を見つめる事しか出来ない。

「……?」

だが――ふとポチは、自分の視界に違和感を覚えた。
何かが、見えたのだ。
血に沈んだ石牢の中では見えなかった、この純白の雪原だからこそ浮き彫りになる、紅い何かが。
それが一体なんなのか、ポチは目を凝らし――

「……ふっ」

その正体を理解して、思わず笑った。続き21行
287:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2019/04/12(金) 08:04:56
乾き切らずに残った血糊を、ポチは舐め取り、嚥下する。
尾弐の――悪鬼の血。そこには強い妖力が宿っている。
満身創痍のポチに、もう一度、地を蹴る活力を与えられるほどに。

とは言え悪鬼の血は、生物はもとより、妖怪にとっても猛毒。
特に祈のような半妖や――獣としての属性を強く持つ、ポチにとっては。
口にしたところで力など得られず、むしろ獣としての頑強さを失うだけ。

だが――そうはならなかった。
何故なら――ポチは今や、災厄の魔物なのだ。
『獣』を従え、同化した事で名実共に、心身共に。
ならば悪鬼の毒血など――むしろ蜜のように、甘美ですらあった。

「げははは……なんともさ、尾弐っちらしいじゃないか」

折れた刀を両手で握り、ポチは重心を落とす。
当然、ポチに剣術の覚えなどない。
体術ですら、感性任せの我流なのだ。

しかし、ポチは狼。続き24行
288:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/12(金) 22:18:41
はじめに怒りがあった。
理不尽な運命への。侭ならない宿命への。そして、それらを覆せない自分への。
怒りと憎しみ、恨みは、どんな感情よりも激しく強いエネルギー。たとえ肉体は滅びても、それは。その『想い』は消えることはない。

『なんということだろう!たかが一匹の子狐の魂が――衰弱していたとはいえ、生粋の悪魔(デヴィル)の魂を啖ってしまうとは!』

血色のマントを纏った怪人の哄笑が響き渡る。
そうだ。自分は憤怒を、憎悪を、怨嗟を伴ってこの世界に再臨した。
忌々しい世界をメチャクチャにしてやるために。呪わしい世界を木っ端微塵にしてやるために。
運命に対し復讐を成し遂げるために、天魔の力を乗っ取って転生したのだ。

なのに。

いつの頃からか、その感情は徐々に薄れていった。歯を食いしばり空を睨みつける時間より、笑う時間の方が多くなった。
何者かに怒りをぶつけることよりも、穏やかな時間を過ごすことが多くなった。
それは単なる時間の経過による沈静化、などというものではない。
時を経て和らぐような薄っぺらい感情なら、最初から転生など果たしていない。
そう。そうだ。それは自分の内的要因によるものではなく、あくまでも外的要因によるもの。
ひとりぼっちの孤独な魂に、寄り添う心がいてくれたから。
続き43行
289:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/12(金) 22:22:39
>酒呑童子よ――いい加減その小僧を解放してやれ!

尾弐と橘音を中心とした範囲にノエルの張った雪の結晶の魔法陣が展開され、尾弐の行動を阻害する。
災厄の魔物改め銀嶺の使徒の大規模妖術。それはかつて都心を氷に閉ざしたクリスの妖術を遥かに上回る。

>だぁああーーーッ!!!!

さらに、龍脈の神子の力によって風火輪を極限までブーストさせ、流星と化した祈の渾身の跳び蹴り。
龍脈にアクセスし無尽蔵の力を得た祈の蹴りは、大妖クラスの防御障壁さえ打ち破る。
むろん、気を失っている橘音にそれらから身を守るすべはない。風火輪の炎も魔法陣の浄化も橘音にとって致命の攻撃だ。
しかし、きっとそうはならないだろう。
尾弐が橘音を庇うなら、尾弐はすべての回避行動が取れなくなる。
そんな尾弐へと、ポチが持つ『酔醒籠釣瓶』の切っ先が減り込む。

>……最後にはやっぱり、君が僕らを助けてくれるんだ

星熊童子の愛刀酔醒籠釣瓶、その銘は歌舞伎の演目・籠釣瓶花街酔醒から取られている。
籠釣瓶とは、籠を釣瓶に使ったかのように『水さえ溜まらぬ切れ味』の剣――すなわち妖刀村正の別名であった。
かつて、尾弐は何でもないカッターの替え刃に自分の血を塗り込み、破邪の刃として仲間たちに配ったことがある。
カッターの刃でさえ、コトリバコの強烈な呪詛を退けたのだ。妖刀村正ならばその効果は計り知れない。続き41行
290:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/12(金) 22:26:46
尾弐黒雄を長年縛り付けていた、酒呑童子の力は消滅した。
もはや、尾弐は酒呑童子の力を揮う悪鬼などではない。――どころか、妖怪でさえない。
東京ブリーチャーズによって千年の妄執から解き放たれ、尾弐は千年前の状態に。人間に戻ったのだ。
尾弐は意識を失っただろうか、それとも意識を保ったまま正気に戻っただろうか。
天邪鬼は尾弐を一瞥し、それから東京ブリーチャーズの面々を見遣ると口を開いた。

「よくやった、東京ブリーチャーズ。……私の役目は終わった。貴様らの働き、見事だった。礼を言うぞ」
「まったくこのクソ坊主め、手間をかけさせてくれた。だが、何とかうまく行ったな……」

危難が去り、当初の目的通りに尾弐を解き放つことができた安堵感からか、天邪鬼の口調も幾分柔らかくなっている。
尾弐を酒呑童子の宿命から解放したことで、やっと自分自身の荷も降りた、ということなのだろう。

「今夜の貴様らの戦いはこれで終わりだ。間もなく夜が明ける――クソ坊主を連れて、塒に帰るがいい」
「私はまだやることがある。これを鬼神王のところに届けなければならん……そして、こいつらも連れてゆく」

天邪鬼は手に持った小箱をブリーチャーズに見せた。それから、不意に周囲に視線を泳がせる。
いつの間にか、天邪鬼の近くには五つの光の球が尾を引きながら漂っていた。
それはこの塔で命を落とした虎熊、金熊、星熊、熊童子の酒呑四天王と、茨木童子の魂。

「鬼の力は鬼のものだ。こいつを呉れてやれば、鬼神王の怒りも収まることだろうよ」続き50行
291:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/12(金) 22:47:27
「いつまで覗いているつもりだ?上手く隠れているつもりか知らんが、丸見えだぞ」

虚空に向かって、天邪鬼が声を飛ばす。
全てが元に戻ったはずの何もない空間が、不意にぐにゃりと歪む。
そこに現れたのは、血色のマントにシルクハット、嘲り嗤う仮面をかぶった怪人――赤マント。

「クカカカ……お見通しとはネ、さすがは酒呑童子。いや、なかなか見応えのある見世物だったヨ!」

バサリとマントを翻し、赤マントは東京ブリーチャーズとはやや離れた場所に佇む。
そして、その後ろには牛頭馬頭の大鬼――獄門鬼が控えていた。
目にしたものすべてを平等に攻撃するはずの獄門鬼だが、赤マントを前にしても動かない。
よく目を凝らしてみれば、獄門鬼の双頭の額部分にそれぞれ、禍々しい妖気を放つ楔が打ち込まれているのが見えるだろう。
どうやら、赤マントはブリーチャーズが尾弐にかまけている間に妖具で獄門鬼を制御してしまったらしい。
赤マントはおどけた身振りで、パンパンとわざとらしく拍手をしてみせた。
僅かに眉を顰め、天邪鬼がフンと鼻を鳴らす。

「貴様はいつもそうだな。いつも自分に累の及ばぬ安全なところで、人が不幸になるところを見下ろしている」
「ああ、そうだ。そうだとも。私は知っているぞ、貴様は千年前にも……」
「そうやって。『私の心臓をクソ坊主に啖わせた』のだったな――?」
続き41行
292:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/12(金) 22:51:06
「……何が望みだ?」

天邪鬼が静かに訊ねる。
ただ単に東京ブリーチャーズを始末することだけが目的なら、とっくにそうしているだろう。
しかし、赤マントは後ろに獄門鬼を控えさせているだけで、実力行使に及ぼうとしない。
そこには何らかの目的があるのだろう。

「クカッ、話が早いと助かるネ。では、キミの持っているその箱を頂こうか。『約束通りに』……ネ」

「約束だと?」

天邪鬼が怪訝な表情を浮かべる。小箱を渡すなどという約束をした覚えなどない。
しかし、赤マントは笑みを浮かべる仮面の眼差しをポチへと向けると、

「そうとも。酒呑童子の力……欲しければ持っていけばいい、見ないふりをしているから……と。そうだろ、オオカミ君?」

そう言って、また愉快げに嗤った。

「言っておくけど、その約束はオオカミ君とアスタロトの間で取り交わしたもので、吾輩と外道丸君の間では無効!」
「――っていう理屈は通用しないヨ?約束は個人間ではなく、天魔とブリーチャーズの派閥間で交わされたものなのだからネ」続き57行
293:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/12(金) 22:55:21
「クッ、ククッ!クカカカカカカカカッ!おやおや、いけないいけない!ウッカリ死体も残さず焼き尽くしてしまった!」
「これは申し訳ない!でもまぁ、あるよネ!そういうことも!クカカカカカカカカッ!!」

自身の智慧や知謀をすべて伝授した、ただひとりの愛弟子。
その愛弟子を何らの躊躇もなく殺害すると、赤マントは背を仰け反らせて嗤った。
カラカラと乾いた音を立て、楔が床に落ちる。

「……ッ、間に合うか……!?」

天邪鬼が咄嗟に橘音のいた方角へ左手を突き出す。
橘音がそこにいた、という事実。その妖力の残滓、魂のほんの一かけらだけでも救おうと、即席で蘇生の術式を編み上げる。
が、果たせず。天邪鬼の術式は今しがたまで橘音の存在していた空間をそのままビー玉大に凝結固定させただけで終わった。

「クカカカカカ!役立たずは処刑する、それが我々の流儀でネ……例外はないのサ」
「本来なら、ここでキミたちもついでに始末しておくべきなんだろうけどネェ。アスタロトに免じて見逃してあげよう!」
「アスタロトに感謝したまえ?ああ、我が愛弟子のなんと尊い犠牲よ!クカカカカカカッ!」

赤マントは橘音に免じて、などと殊勝なことを言っているが、明らかに嘘である。
むしろ、橘音を喪った東京ブリーチャーズの絶望が生み出す負のエネルギーを手中にしようとしているのは明らかだ。
続き43行
294:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2019/04/16(火) 23:16:51
……出会った時は、願いに至る為の道具としか見ていなかった。
繰り返す戦いの中、その叡智に救われた時は小さな尊敬を覚えた。
強大な敵の魔手から庇った時は、遠い昔に救えなかった小さな友人の姿を重ねた。
互いに背中を預け戦った時には、誰よりも頼りになる相棒であると思った。
そして、その笑顔の裏に在る痛みに気付いた時――――仮面の下の涙を止めたいと、そう願った。

 ・・・

中空から放たれるのは、炎熱を纏う跳び蹴り。
速く在る事を定められた妖怪としての最高速度を風火輪により更に加速するという荒業により齎された、超加速。
それによって生まれた破壊の力が、尾弐の背を直撃した。

如何に頑強な尾弐とはいえ、「反転」の権能を喪失している現状ではその超破壊に対し劣勢を強いられる。
蹴りを受けた箇所の肉が焼け、血液は蒸発し、骨が折れ砕ける音が響いた。

雪原に描き替えられた情景の中でノエルが展開した雪結晶を模した魔法陣は、死すらも覆い隠す冬の雪の如く浄化の力を放つ。
血と瘴気。人間の業を力とする悪鬼の力を、極寒の冬山へと迷い込んだ人の如く、徐々に削り取っていく。
それは、妖気により肉体を構成していた尾弐へとダメージを与え、皮膚には凍傷の如き傷が生み出される。

>「――なら、二人には幸せになって貰わなきゃな」続き15行
295:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2019/04/16(火) 23:17:34
焼かれる激痛、砕かれる痛み、凍らされる痛みも、確かに感じている。
そうだというのに、思考の中に浮かぶのは……眼前で力なく寄り掛かる女の言葉。

>「これが、ボクの本当にやりたいこと……。ね、クロオさん……ボクは、ちゃんと笑えてるでしょ……?」

吹き荒れている憎悪でも、満ちる憤怒でもない。それらを押しのけ、ただの女の言葉を思い返す。酒呑童子には、そんな自身の思考が不思議で仕方がない。
……そうしていると、やがて自身の酒呑童子の狂気に染まった思考に対し、声が却ってくる様になった。

(憎い、壊したい、許せない、滅びてしまえ)『……そうだ、憎かった。テメェ自身が憎くて、壊したくて、許せなかった』
(死ね、死ね――――苦しんで死ね)『ずっと死にたかった……生きてるのが辛くて、苦しくて仕方がなかった』
(助けられないから、消してしまえ)『……ああ。惨めで、情けなくて、せめて一緒に消えちまいたかった』

憎悪に狂った思考に応えるのは、紛れも無い自身の声。
それは問いかけた鏡が返事を返すような異常事態で、けれど、壊れ果て朦朧とした精神はそれを気にする事も無く思考を重ね続ける。
そして、とりとめのない自己問答は暫くの間続き……やがて酒呑童子は、先ほどから自身に答え続ける何者かに、一つの問いを投げかける。

(俺は……どうしてこの女を助けたい)

暫しの沈黙。だが、やがて観念した様に思考は声を返してきた。
続き17行
296:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2019/04/16(火) 23:18:26
≪どんだけみっともなくても、自分以外の何かにはなれねぇんだ。お前さんも、拙僧もな……まあ、それでも――――≫
≪自分以外の誰かと寄り添って、一緒に生きる事は出来る。それは、一人でなんでもできる事なんぞよりよっぽど上等な事だと、拙僧は思うぜ≫


遠い情景……いつか忘れてしまっていた帰り道での言葉の続きが、ようやく聞こえた気がした。





・・・・・・
297:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2019/04/16(火) 23:19:33
>「よくやった、東京ブリーチャーズ。……私の役目は終わった。貴様らの働き、見事だった。礼を言うぞ」
>「まったくこのクソ坊主め、手間をかけさせてくれた。だが、何とかうまく行ったな……」

酒呑童子の『そうあれかし』。永きに渡り尾弐黒雄の体に巣食ってきた悪鬼の力を斬り離された尾弐は、
スカイツリーの壁に背を預けつつ、俯いたまま天邪鬼の言葉を聞く。
身じろぎひとつしないが、眠っている訳でも、気絶している訳でもない。
単純に、気力も体力も尽き果て、指の一つを動かす力も残っていないのだ。

悪鬼としての自身の核となっていた酒呑童子の力を外道丸の力により斬り離された結果、
尾弐の体は、その心臓を含め1000年前の只人であった頃のモノへと戻っていた。
岩をも砕く怪力も、砲弾にも耐え抜く肉体も、今の尾弐には存在しない。
在るのはただ、弱く脆い……半妖である祈よりも脆弱な、普通の肉体。
魂ではなく物理法則に縛られるが故に、疲労の極致に達した肉体は鉛の様に重く……おまけに、先の出来事で摩耗しきった精神も未だ回復していない。

「……」

それでも意識を失っていないのは、外道丸――――かつて助ける事が出来なかった少年の声を最後まで聞き届ける為であろう。
人の体を得た尾弐と、神として祀られる事となった外道丸は、きっとこの先逢う事は叶わない。
砕け摩耗した精神でも、尾弐はその事を何とはなしに理解しているのだ。
だから、彼の言葉を最後まで聞き届けるべく意識を保ち続ける。続き14行
298:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2019/04/16(火) 23:20:06
だから

>「クカカカ……お見通しとはネ、さすがは酒呑童子。いや、なかなか見応えのある見世物だったヨ!」

だから

>「そうサ、吾輩だ。吾輩が差し入れしたのだヨ、源頼光に首を獲られ、打ち棄てられていたキミの死骸から心臓を抉り取って!」

だから

>「実際問題、キミたちはもう『詰み』なのだヨ。この状況がすべてだ、そうじゃないかネ?」

だから

>「今日限り、アスタロトは破門だ。好きにするがいいサ……もっとも、死体くらいしか自由にできないだろうがネ!」

だから

> 「……ク、ロ、ォ……さん……」
続き2行
299:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2019/04/16(火) 23:20:40
自身の命よりも、1000年に渡る願いよりも、此の世界よりも大切な存在。
那須野橘音。
何を賭しても守りたいとそう願った那須野の命は『赤マント』の手で奪われた。
尾弐が名を呼ぶことも、謝る事も、想いを語る事も出来ないまま、那須野橘音は絶命した。

「……あ……え……?」

「あ、あ―――――あ、あ……ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「大将……那須野、那須野、那須野那須野那須野那須野那須野那須野那須野那須野那須野……橘音……!!!!!!」

皮肉、という他ないだろう。
千々に砕け、永き時を経ても戻るかどうか……そんな状態であった尾弐の精神は、
那須野橘音の死という絶望と衝撃により、ようやく形を取り戻した。

力の入らぬ体を引き摺りながら震える手を伸ばすも、その先にはもはや求める姿は無い。
絶叫と共に、知らずその頬を涙が伝う。
これまであらゆる絶望に叩き伏され、理不尽に首を絞められ、不条理に打ちのめされても、
それでも尚、人前で涙など見せようとしなかった尾弐……その頬を伝う涙は、人の赤い血液が混じった赤色であった。

>「吾輩の計画は止められないヨ……キミたちには破滅の未来しかない。希望など吾輩が微塵に叩き潰して差し上げる!」続き9行
300:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2019/04/20(土) 22:58:53
 嗚呼、なんということだろう。
まさか、赤マントが突如現れて、橘音を殺してしまうとは。
 尾弐から酒呑童子の力を切り離すところまでは良かった。
 橘音が小豆を尾弐の体内に送り込んで弱らせ、
祈が全力の蹴りを、ノエルは浄化の雪結晶を叩き込んだ。
そして駄目押しにポチの、格を得た酔醒籠釣瓶による心臓への一撃。
 これらによってケ枯れを起こした尾弐から、
酒呑童子の力そのものを、童子切安綱によって切り離すことに成功したのだ。
 かつて外道丸に取り憑き、
心臓を経由して尾弐へと渡った酒呑童子の力、意思。『そうあれかし』そのもの。
それは温羅たちの手元へと渡る予定で、きっと悪いようにはされなかっただろう。
 死した四天王と茨木童子の魂は、天邪鬼と共に行く。
現世から解き放たれたことで、本当の居場所ができるところだったに違いない。
 そして何より、皆で尾弐を助けることができた。
尾弐は過去の呪縛から一歩踏み出せた。
 これでハッピーエンドの筈だった。
 なのに。赤マントが奪ってしまった。
酒呑童子の力を我が物にしただけでは飽き足らず、
裏切りを働いた橘音の命をその場で奪ったのだ。
続き50行
301:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2019/04/20(土) 23:02:40
 祈は俯いたまま動かなかった。
 橘音の死による精神的なダメージは計り知れないものがあり、
この場にいる誰もが心に傷を負ったに違いない。
なぜなら、橘音とは皆、特別な関係だったのだ。
 ノエルにしてもポチにしても。天邪鬼にしてもシロにしても。
唯一無二の親友、家族。相談に乗ってくれて鬼達と引き合わせてくれた者、
前パートナーを千年の呪縛から解き放ってくれた者。
誰もが消沈し、誰もが悲しみに暮れているだろう。
 特に尾弐は、この事態をどう受け止めているのか。
千年を超えて選んだ人を、今この場で失うなど。祈の人生経験では推し量ることができない。
 橘音は死んだ。
 そう、確かに死んだ。
疑いようもなく、確かにこの世から消失した。
 だというのに。

「……あいつ、ほんとに行ったかな?」

 少なくともこの少女だけは。

「帰ったなら、いいかな……よ……っと」続き36行
302:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2019/04/20(土) 23:16:55
「だから信じろよ。橘音は完全には死んでない。いつか必ず復活するって。
運命でも世界の理でもぶっ壊せる龍脈の力が、赤マント一人に覆せるもんか。
だから、悲しい顔すんなよ。とくに尾弐のおっさんはさ」

 祈は尾弐の方を見て、右手に持っていた、
橘音が居た場所に転がっていたビー玉大の何かを差し出した。
 一見何も入っていないように見えるが、このガラス玉のような何かの中には、
もしかしたら、橘音の妖力か魂の粒子だけでも入っているやも知れない。
そうなら、これは橘音が復活する際の起点となる物であり、
橘音を最も大切に想う尾弐が持っているべきだろうと思ったのである。

(でも橘音が復活するのいつになるのかは……あたしにもわかんねーな)

 もし橘音が復活するとして、それがいつになるのかは祈には分からない。
祈は龍脈にアクセスできるが、その願いが叶ったかを観測できないからだ。
姦姦蛇螺の時も、ノエルを災厄の魔物から解き放った時もそうだった。
そもそも願いが叶ったかどうかすら分からないが、だが祈は叶ったと信じている。
 そしてもし、これが嘘となってしまっても。
橘音の生存が誰かの希望になるのなら、祈は嘘吐きにだってなろう。
 誰にとっても橘音の死は耐えがたい。続き23行
303:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2019/04/21(日) 23:19:09
>「帰ろうよ、尾弐っち。みんなで一緒に……帰ろうよ」

深雪の最大級の浄化の妖術の中、祈の蹴りが炸裂し、駄目押しとばかりにポチの刃が胸を貫く。

>「好機!!」
>「南無――三界万霊、一切救難……神夢想酒天流、終ノ秘剣――鬼送り!!」

ついに尾弐から分離した酒呑童子の力を天邪鬼が切り離し、小箱に閉じ込める。
それを見届けた深雪は、ノエルの姿に戻った。
先の妖術に全ての妖力を注ぎ込んだため、みゆきではなくノエルの姿を取れているのが不思議なくらいだ。
天邪鬼は皆にねぎらいの言葉をかけ、今夜の戦いで死んでいった鬼達を連れていくという。

>「鬼の力は鬼のものだ。こいつを呉れてやれば、鬼神王の怒りも収まることだろうよ」
>「茨木と四天王は私の塒へ。ま……200年も修業させれば、業も落ちて護法童子くらいには変生(へんじょう)できよう」

「そうなんだ……良かった。こちらこそありがとう!」

天邪鬼は、自らが何故鬼となってどのように源頼光に倒されたかの真実を語る。

>「私は宿命を受け入れた。それならそれでいい、と……首を刎ねられる瞬間まで思っていた」続き26行
304:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2019/04/21(日) 23:21:53
今戦闘になったら勝ち目はないのは分かっているのだろう、会話で時間を稼ぐ天邪鬼。
赤マントはいつも通り饒舌で、千年前の尾弐と外道丸の長い長い物語の始まりの黒幕であったことが明かされる。
そして満足するまで喋った後、容赦なく現実を突きつけてきた。

>「実際問題、キミたちはもう『詰み』なのだヨ。この状況がすべてだ、そうじゃないかネ?」

>「……何が望みだ?」
>「クカッ、話が早いと助かるネ。では、キミの持っているその箱を頂こうか。『約束通りに』……ネ」
>「約束だと?」
>「そうとも。酒呑童子の力……欲しければ持っていけばいい、見ないふりをしているから……と。そうだろ、オオカミ君?」

「そんな……!」

一瞬、なんて約束をしてくれたんだ、とも思うが今更ポチを責めても仕方がない。今必要なのは情報だ。
赤マントの言葉から、ノエルが知らない間に、ポチとアスタロトが言葉を交わしていたことが分かった。
そして、戦闘中は必死でそれどころではなかったが、今更ながら、何故アスタロトのはずのこの橘音が召怪銘板を持っていたのか、
そもそも尾弐を心から愛して救ったこの橘音は本当にアスタロトなのかという疑問が浮かぶ。

「ポチ君……正直に答えて。僕が見ていない間に何があったの?」
続き17行
305:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2019/04/21(日) 23:31:22
「弟子……師匠……!?」

ノエルは驚きつつも、何故自分があそこまでアスタロトのやり口に嫌悪を覚え激昂したのかのが腑に落ちた気がした。
立ち回りが姉の仇とも言うべき赤マントの生き写しなのだから、それも当然だ。

>「クカカカ!何を驚くことがあるのかネ?少し考えてみればわかることじゃないか?」
>「それとも、キミたちは考えたことがなかったかネ?吾輩とアスタロトのやり口は、あまりにも似通っている――と?」
>「それもそのはず、アスタロトの推理は、智慧は、すべて!吾輩がレクチャーしたものなのだからネ!」
>「まぁ……そんなこと、もうどうでもいいけどネ。かわいい弟子だと思って二度もチャンスをあげたが、いずれも不発に終わった」
>「今日限り、アスタロトは破門だ。好きにするがいいサ……もっとも、死体くらいしか自由にできないだろうがネ!」

目にも止まらぬ速さで、気を失っている橘音に楔を突き立てる赤マント。
それはクリスを手にかけた時と全く同じ構図で。
しかし、クリスは赤マントにとって最初から使い捨ての手駒に過ぎなかったが橘音は違う。

「なっ……仮にも弟子だろう!? いくら敵になったからってあんまりだ……!」

そんな情を赤マントに期待するだけ無駄なのだが、言わずにはいられなかった。
別れの言葉を交わす猶予すらなく、橘音はあまりにもあっけなく死んだ。
続き21行
306:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2019/04/21(日) 23:37:20
>「……あいつ、ほんとに行ったかな?」

祈のあまりにもいつも通りの声に、耳を疑った。

「……えっ」

>「帰ったなら、いいかな……よ……っと」
>「あたし演技には自信なかったけど、赤マントが戻ってこないとこ見るとバレなかったみたいだな。
あたしが焦ってなかったこと。ま、今結構キツいし、それで分かんなかったのかな?」

てっきり絶望に打ちひしがれていると思われた祈が、平然としている。
ノエルは、尾弐に蹴りを入れる際に祈のカラーリングが本気モードになっていたことを思い出した。

「祈ちゃん……あの姿ってもしかして……」

>「あたしたち、何回もあいつに痛い目見せられてるし、そろそろ一回ぐらいはやり返していいと思うんだ」
>「つってもこれはただのマグレで、たまたま当たったラッキーパンチみたいなもんだけど。
>『あたしが龍脈に尾弐のおっさんと橘音の幸せを願ったから、橘音は必ず復活する』って言ったら、あいつどんだけ悔しがるかな」

「やっぱりそうか……!」続き18行
307:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2019/04/21(日) 23:39:18
「祈ちゃん、覚えてる? “お化けは死なない”――本当は死なないんじゃなくて死んでも復活する、が正解だけど。
橘音くんも妖怪だから龍脈の力を使おうが使うまいがいつかは復活するんだよね」

そもそも妖怪にとっての妖怪の死は、永久の別れではない。だからこそ、ノエルはクリスを穏やかに見送ることが出来た。
そして、妖怪においては永久に復活しない”滅び”が感覚的には人間の死にあたるが、
妖怪が”滅び”に至るのは例えばイケメン騎士Rが持つ聖剣のような特殊な攻撃方法を使った時のみと思われる。
だから、橘音も放っておいても数百年も待てば復活する可能性が極めて高いのだ。
だけど今回はそれでは困る。半妖の祈はその時まで生きているか分からないし、尾弐に至っては人間になってしまった。

「でも困ったな……。
二人には幸せになってもらわないといけないのにクロちゃん人間になっちゃったから数百年も待てないし……」

つまるところ問題は祈の力によって橘音の復活がどれ位早まったか――それに尽きるのだった。
そしてもう一つ気にかかるのが、消滅したいという尾弐の願いを知った時のアスタロトの言葉。

>「なるほど……やっと分かった……!どうして、御前がボクとクロオさんを引き合わせたのか!僕たちにコンビを組ませたのか!」
>「“そういうこと”でしたか!アハハハハ、御前も本当に人が悪い!」
>「惹かれるわけだ……いや、ようやく腑に落ちましたよ!アハハハハハハハハッ!」

ノエルは心の奥底で災厄の魔物の宿命から解き放たれることをずっと望んでいた。続き18行
308:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2019/04/24(水) 02:24:54
橘音を抱き寄せ、庇う尾弐の、防御の隙間。
そこから胸の奥へと刃を突き立てた、その瞬間――ポチは確かに見た。
尾弐の口元に、ばつの悪そうな――だが穏やかな笑みが、浮かんだのを。

そして――直後、尾弐の全身からどす黒い波動が溢れた。
苦悶と怨嗟の呻きを上げる影が。

>「好機!!」

天邪鬼が鬨を叫ぶと同時、ポチはその場を飛び退く。

>「南無――三界万霊、一切救難……神夢想酒天流、終ノ秘剣――鬼送り!!」

足音一つ立てぬまま、天邪鬼は跳躍――尾弐へと間合いを詰めた。
二人がすれ違う――その瞬間、抜く手も剣閃も見せぬ抜刀。
ただ微かな風切り音のみが響き――天邪鬼が着地、童子切を鞘へ収めた。
鍔鳴りの残響が凛と掻き消え――それに遅れて、酒呑童子の根源が断ち切られる。

>……ギャアアアアアア!!ノロワシイ……ハラダタシイ……シネ……キエロ……ホロベェェェェェェ……!!!
続き57行
309:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2019/04/24(水) 02:25:48
>「そこの天魔めと共に生きていくのだとするなら。もう少々、厄介事を片付けねばならぬようだがな……!」

鋭い眼光が虚空を睨む――そこで初めて、ポチはその「におい」を嗅ぎ取れた。

>「いつまで覗いているつもりだ?上手く隠れているつもりか知らんが、丸見えだぞ」

天邪鬼の視線の先、何もないはずの空間がぐにゃりと歪む。
血色のマントが棚引くと同時、においが溢れ返る。
水よりもなお被毛に纏わりつくような、濃密な、邪悪のにおいが。

>「クカカカ……お見通しとはネ、さすがは酒呑童子。いや、なかなか見応えのある見世物だったヨ!」

「……赤マント」

仇敵の名を呟くポチの語気は、静かだった。
戦意に欠けている、と言ってもいい。
だがそれは、已む無い事であった。

>「かつての私とクソ坊主は、貴様の悪意に対して抗う術を持たなかった。……だが、今は違うぞ」
 「この者たちは貴様の野望を挫く。貴様がどれだけ悪辣な手段を用いようと、すべて打ち砕いてしまうだろう」続き53行
310:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2019/04/24(水) 02:26:28
>「クカカカ!何を驚くことがあるのかネ?少し考えてみればわかることじゃないか?」
 「それとも、キミたちは考えたことがなかったかネ?吾輩とアスタロトのやり口は、あまりにも似通っている――と?」
 「それもそのはず、アスタロトの推理は、智慧は、すべて!吾輩がレクチャーしたものなのだからネ!」

傷だらけの体から力が振り絞れない。
愛する者の為に奮い立つという事が、どうしても出来ない。

>「まぁ……そんなこと、もうどうでもいいけどネ。かわいい弟子だと思って二度もチャンスをあげたが、いずれも不発に終わった」
 「今日限り、アスタロトは破門だ。好きにするがいいサ……もっとも、死体くらいしか自由にできないだろうがネ!」

そして、

>「ッ……ぎ……」

誰一人として止める事が出来ないまま、橘音の全身を楔が貫く。

>「……ク、ロ、ォ……さん……」

黒雷が迸り、橘音の体が見る間に燃え上がる。
続き37行
311:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2019/04/24(水) 02:30:55
>「帰ったなら、いいかな……よ……っと」

祈の体からは、偽りのにおいはしない。
取り繕いの演技ではない。
本心から、このあっけらかんとした態度を取っているのだ。

>「あたし演技には自信なかったけど、赤マントが戻ってこないとこ見るとバレなかったみたいだな。
  あたしが焦ってなかったこと。ま、今結構キツいし、それで分かんなかったのかな?」

一体何故――ポチは呆然と祈を見つめる。

>「あたしたち、何回もあいつに痛い目見せられてるし、そろそろ一回ぐらいはやり返していいと思うんだ」
 「つってもこれはただのマグレで、たまたま当たったラッキーパンチみたいなもんだけど。
 『あたしが龍脈に尾弐のおっさんと橘音の幸せを願ったから、橘音は必ず復活する』って言ったら、あいつどんだけ悔しがるかな」

疑問の答えは、すぐに示された。

>「だから信じろよ。橘音は完全には死んでない。いつか必ず復活するって。
  運命でも世界の理でもぶっ壊せる龍脈の力が、赤マント一人に覆せるもんか。
  だから、悲しい顔すんなよ。とくに尾弐のおっさんはさ」続き30行
312:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2019/04/24(水) 02:34:15
 


「……おいで、シロ」

だが皆が立ち去った後で、ポチが紡いだその声は――打って変わって、静やかだった。

「大丈夫、心配いらないよ。祈ちゃんも、ああ言ってたじゃないか」

そしてシロが己のすぐ傍にまで歩み寄ると、ポチは右手を差し伸べた。
しかし手のひらは――上ではなく、下へ向けられている。
だがポチの眼差しと、においによって、シロはその意図を理解出来るだろう。

「それに僕は、王様だからね」

つまり――この手の下に傅き、頭を差し出せと、ポチはそう言っているのだ。

「誰が許さなくても、僕が君を許すよ」

ポチの右手がシロに触れる。続き23行
313:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/26(金) 00:35:51
>あ、あ―――――あ、あ……ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!
>大将……那須野、那須野、那須野那須野那須野那須野那須野那須野那須野那須野那須野……橘音……!!!!!!

戦いが終わり、酔余酒重塔から元に戻った東京スカイツリーに、尾弐の慟哭が響き渡る。
尾弐の永年の苦悩を、苦痛を、重荷を下ろさせるため、天邪鬼は現世に降臨した。
だというのに、この結果はどうだ。重荷を下ろさせるどころか、新たな業を背負わせてしまった。
尾弐は自分を責めるだろう。橘音を救えなかったと、想いを伝えられなかったと。
その慟哭の烈しさが、尾弐の絶望の深さを何よりも雄弁に物語っている。

――なんということだ。

天邪鬼は困惑した。まさか、このような結末が起こり得るとは。
酔余酒重塔での戦いは、そのほぼすべてを予見することができた。天邪鬼の描いた絵図面の通りに推移したと言っていい。
しかし、最後の最後に予期せぬ事態が起こってしまった。それは、それまでの成功をすべてご破算にする失態だった。
尾弐はさらなる闇を転げ落ちてゆくだろう。それはもはや、天邪鬼の手をもってしても防ぐことができない。
ノエルと同じように、天邪鬼もまた懸命に次善の策を考え出そうとした。
皆が負った心の深手を、なんとかして最小限のものに押しとどめることはできないか――と懊悩した。

しかし。
続き46行
314:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/26(金) 00:37:43
「種族による。貴様ら雪妖のような精霊系は天然自然の気に還るし、小娘は人間と変わらん」
「三尾は動物系だから、普通に昇天か降冥であろうな。――したが――今の三尾はまだどちらにも行っておらぬはず」

そう言ってから、尾弐の持つビー玉大の宝珠を指差す。

「三尾が死ぬ寸前、私は奴の魂魄をその場に縫い留めた。小娘が龍脈の力を使ったというなら、魂魄はそこにあるはずだ」
「ならば。そこから奴を救い出すことは可能であろうよ。貴様らの努力次第だが、な――」

いくら妖怪でも、一度天国や地獄に行ってしまった者を連れ戻すことはできない。
けれど、まだ橘音の魂はそこにある。であるなら、助け出すことだってできるはず。
とはいえ、橘音が死んでいるのは間違いない。それをすぐに復活させることが難しいことも、また間違いのない事実だった。
不可能ではないが、極めて困難。それが天邪鬼の答えである。
天邪鬼は長い黒髪の頭をぽりぽり掻いた。

「やれやれ。これで私もクソ坊主のおもりから解放されるかと思ったが……もうひと働きせねばならんようだな」

いかにも面倒くさいといった様子であるが、それが本心でないということはもうブリーチャーズの面々にもわかるだろう。
尾弐がすべての恩讐を乗り越え、幸福になるところをこの目で見届けるまでは帰らない、と言外に言っている。
天邪鬼は尾弐の許へ歩いていくと、ク、と形のいい右の口角を薄く歪めて笑った。
続き44行
315:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/26(金) 00:41:12
>……おいで、シロ

ポチとシロ、ふたり以外誰もいなくなった塔の中で、名前を呼ばれたシロは一度驚きに目を見開いた。
今、彼はなんと言ったのだろう?
シロ、と。シロと言ったのだろうか?シロちゃん、ではなくて?
単に『ちゃん』付けではなく、呼び捨てる。
一見なんでもないそのことに、シロは大きな衝撃を受けた。

今まで、ポチはシロに対してはとても遠慮をしている――ように、シロは感じていた。
それはオオカミとすねこすりの混ざりものである自分が、純血のニホンオオカミと接する際の引け目のようなものだったのか。
彼はずっとシロをちゃん付けで呼んでいた。それが、何か二人を隔てる垣根のように感じられていたのは確かだ。
しかし、彼は今それを取り去った。
ポチが悠然と歩み寄ってくる。人間に変化したふたりの身長には、かなりの差がある。
シロの方がポチよりもはるかに背が高い。が、その力関係は明らかだった。

>大丈夫、心配いらないよ。祈ちゃんも、ああ言ってたじゃないか

「……でも」

ポチの穏やかな声を聞いて、シロは戸惑いがちに目を伏せた。続き49行
316:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/26(金) 00:46:06
「天邪鬼君って言ったわね!?教えなさい、橘音を復活させる方法を!今すぐ!さあ!」

東京スカイツリーでの戦いから、一週間が経過した。
酒呑童子との戦いでひどく疲弊した東京ブリーチャーズは、すぐさま河原病院に入院する羽目になった。
外傷そのものは河童の膏薬と迷い家の温泉の湯によってすぐに全快したが、精神の疲労は薬では治らない。
特に人間に戻った尾弐の消耗は筆舌に尽くしがたく、再集結までにこれほどの時間がかかってしまった。
全員が退院してSnowWhiteに帰還し、ミーティングを開始すると、さっそく颯が天邪鬼に食ってかかった。
物凄い剣幕だ。天邪鬼の胸元をひっ掴み、がくがくと揺さぶる。

「な、なんだこの女は!?うおお、離せ!」

「離しません!橘音を蘇らせる方法を洗いざらい、1から10まで言うまでは!さあ!さあさあさあ!」

「お、落ち着け莫迦者!」

「誰がバカですか!そんな言葉遣い、お母さん許しませんよ!?」

「誰が母親だ!?貴様ら、こいつをなんとかしろーッ!」

いつもクールな天邪鬼がタジタジになっている。それだけ、颯にとっても橘音は大切な存在だったということなのだろう。続き45行
317:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/26(金) 00:50:29
人間の修めた法だとて、そう簡単に知っている人間がいるはずがない。

しかし。

ポチには心当たりがあるだろう。
その声を、その佇まいを、その眼差しを、ポチは確かに記憶している。
遠い過去に死んだ愛する男を現世へと蘇らせるため、外法に身を落としてまで反魂の法を学んだ女のことを。
その女の名は――



陰陽寮巫女頭、芦屋易子。



*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-**-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*-+-*



「そうですか……。三尾の狐を蘇らせるために、我が反魂の秘術が必要、と」続き49行
318:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/26(金) 00:56:54
廊下の角を折れて大柄な姿を現したのは、精悍な顔をした白髭の老人――祈の父方の祖父、陰陽頭安倍晴朧。
その足取りはしっかりしている。天魔オセたちとの戦いからしばしの時間を経て、完全に回復したらしい。
易子が恭しく頭を下げて上座を譲ると、袴姿の晴朧が代わりに座ってブリーチャーズの面々と対峙する。

「暫くよな、祈。元気そうで何よりだ……此度の来訪が、儂の顔を見に来たということでないのはちと残念だが」

はは、と晴朧は顔の下半分を覆う髭を揺らして笑う。温かな声だった。

「陰陽頭さま――」

「そなたの言いたいことは分かる。だが、此度は状況が違う。帝都鎮護にはいかなる不備遺漏もあってはならぬ」
「三尾がおらねば、帝都の守りは画竜点睛を欠く。この者たちがそう申すのであれば、帝都の防人たる我らも手を尽くさねば」

「……は……」

「この祈は晴陽の子ぞ。晴陽は昔から、一旦こうと決めたことは周りに幾ら反対されようと成し遂げる性格であった」
「むしろ、反対されればされるほど我を通す困った奴であったわ。それは許嫁であったそなたも知っておろう?」

「それは……」
続き52行
319:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/26(金) 01:02:01
「寝付かれんのか、クソ坊主」

真夜中。尾弐が布団しかない陰陽寮の客間から暇を持て余すなり寝付けないなりして出ると、不意に背後から声をかけられた。
声の主は決まっている。現代風の衣服を身に纏った黒髪の美少年、天邪鬼。
かつて尾弐と師弟の関係であり、かけがえのない友人関係であった者。
千年にわたる因縁と妄執の相手――外道丸。
しかし、その呪縛は既になく、ふたりは宿命から解き放たれた。
そんなかつてのパートナーを見遣りながら、天邪鬼が口を開く。

「思えば、現世にてふたりきりで話すのは初めてか。貴様の周りには、いつも誰かしら仲間がいるからな。賑々しいことだ」
「まったく、いい仲間を持った。連中に足を向けては寝られんな」

クク、とからかうように笑う。
天邪鬼は廊下を通り、尾弐の目の前で素足のままよく丹精された庭へと降りた。

「そう。今の貴様には、たくさんの仲間がいる。誰も彼も、貴様のためなら命を投げ出す。とんでもない莫迦者どもだ」
「貴様は恵まれているよ。自分でも分かっているだろう?……これ以上を望むことが贅沢だということもな」

例え橘音が欠けようとも、まだ尾弐には祈が、ノエルが、ポチがいる。颯にシロ、富嶽や笑たちも仲間と言えるだろう。
いつ全滅してもおかしくない、そんな熾烈な戦いの中、彼らがまだ存命なだけでも望外な幸運であることは間違いない。続き41行
320:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2019/04/26(金) 01:15:09
「三尾を殺した天魔への憎悪。殺害を阻止できなかった貴様自身への憤怒。愛する者を失った哀惜――」
「どれでもよいし、そのすべてでも構わん。それらを燃やし、奮え立たせ、人外の化生へと転生する」
「そうすれば、貴様はかつての力を取り戻せよう。それでなくとも、貴様はかつてその身に鬼を宿していたのだ」
「何もない人間が一から鬼になるよりも、遥かに容易いことだと……私は思う」
「そうすれば……貴様でも三尾を救出できる。宝珠の中より奴を連れ帰ることもできる……はずだ」

尾弐の肉体はほんの少し前まで、酒呑童子の力の殻を務めていた。
人間に戻っても、その過去はなくならない。尾弐の肉体は常人の肉体よりもずっと『そうあれかし』に反応しやすい。
もし、尾弐が心から願うのなら。自らの憤怒を、憎悪を、悲哀を体内で増幅し、その許容量が人知を超えたなら。
きっと人間から悪鬼に立ち戻れるはずだ、と天邪鬼は指摘した。
仮に尾弐自身の力ではその限界を突破できなかったとしても、龍脈の神子たる祈が願えば、あるいは――。

だが。

「しかしクソ坊主、よく考えろ。自らの情念によって鬼と化す、それがどういう意味を持つのかを」

天邪鬼は右手の人差し指で尾弐をさした。

「貴様が人間に戻れたのは、貴様を鬼たらしめていたものが貴様自身のものではない、借り物であったからだ」
「通常、人間が一度鬼に変生してしまえば元には戻れん。貴様の場合は、例外中の例外であったのだ」続き47行
321:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2019/05/01(水) 00:19:20
呼吸が上手く出来ない。
意識は虫に喰われている様に明滅し、全身の体温が下降する。
だというのに、心臓は痛い程に激しく動き続ける。

(――――)

尾弐黒雄は知っている。己が体を支配するこの感情の名前を知っている。
悲しみよりも濁り、怒りよりも昏く、憎しみよりも冷たい。
1000年前に外道丸という少年を助けられなかった時にも抱いた、その感情の名は

『  』

血液交じりの涙を流しながら、尾弐は妖狐の死に慟哭する。
取り返しが付かない現実に、動かぬ体を震わせる。

何と愚かな事だろう。
いつだって、尾弐黒雄の願いは叶わないというのに。
大切に思うもの程、その手をすり抜けていくというのに。
それを忘れて希望など抱くからこの様な目に合うのだ。
続き41行
322:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2019/05/01(水) 00:19:38
―――――――――

>「誰がバカですか!そんな言葉遣い、お母さん許しませんよ!?」
>「誰が母親だ!?貴様ら、こいつをなんとかしろーッ!」

「無茶言いなさんな。泣く子と怒った颯にゃ勝てねぇよ。ま、折角だから坊主らしく甘えとけ」

スカイツリーでの一件から一週間の時が経ち、現在SnowWhiteの一室は騒がしさに包まれていた。
騒乱の発生源は、祈の母である颯にシェイカーの如く揺さぶられ、柄にもなく慌てた声を出す天邪鬼。
尾弐は、そんな天邪鬼に対し投げやりな、けれど、どこかからかう様な言葉を返す。

……一週間。長いようで、短い時間だった。
事件の直後に病院に搬送された尾弐であるが、人間と化したその身体はボロボロで、生きていた事に河童の医者が驚く程の状態であった。
秘薬と霊的治療を併用してなんとか回復はしたものの、今も喪服の下は包帯で覆われており、さながら木乃伊男の様相を呈している。
本来であれば、未だ入院しているべき状態であるのだが、それでも無理を言って退院してきたのは、今日の会議が尾弐にとってそれほどまでに重要なものであったからだ。

>「ゲホッ……三尾の魂魄はクソ坊主の持つ宝珠の中に入っている。貴様らも宝珠の中に入り、三尾を強制的に叩き起こすのだ」

三尾――――那須野橘音の救済。
赤マントにより滅された彼の狐面探偵を取り戻す事は、今の尾弐にとって悲願である。続き23行
323:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2019/05/01(水) 00:20:11
そして日は更に過ぎ。
芦屋易子と、安倍晴朧との再会を経て、那須野を救うための手立てと……その危険性が判明した日の夜。

「……」

陰陽寮の客間で、尾弐は窓の外に輝く三日月を眺め見ていた。
その手に何時もの様な酒は無く、その代わりとばかりに拳大の結晶の様な物が握られている。
透明に輝くそれは――――ノエルにより氷漬けにされ、妖気が抜け果て結晶と化した酒呑童子の心臓の成れの果て。
凍てついているというのに僅かな冷気も放たない心臓を、尾弐は視線も水に手で弄ぶ。
その表情に笑みは無く……あるのは、眉間に皺を寄せた、思いつめたような表情のみ。

そんな風流の欠片も無い月見の最中……ふと、何かが月光を遮り影を作った。
尾弐がその何かに視線を向けて見れば

>「寝付かれんのか、クソ坊主」
「人間に戻った瞬間、河童の医者に禁酒させられててな。寝酒も飲めやしねぇ……つか、お前さん早く寝ないと背が伸びねぇぞ」

そこに居たのは、天邪鬼――――否。尾弐がかつて共に時を過ごした子供、外道丸であった。
外道丸はいつかと変わらない、美麗な顔で、何時かと変わらない不遜な物言いをしつつ尾弐の傍に立つ。
尾弐は、そんな物言いに気分を害した様子もなく、いつかと同じように気だるげに言葉を返し……そこで、神格を得た外道丸の身長が伸びる筈も無い事を思い出し苦笑する。続き34行
324:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2019/05/01(水) 00:23:01
>「魂だけの身で死ねば、当然魂は喪失する。昇天も降冥も叶わぬ、文字通りの消滅だ」
>「今のままでは、高い確率でそうなる。――なぜなら三尾の剥き出しの魂に触れるということは、奴の秘密を暴くということ」
>「奴が心の奥底に秘めていた『最も人に見られたくないもの』を覗き込むということなのだから――」
>「当然、奴は抵抗するだろう。抵抗されれば貴様らは傷つく。ダメージを負う」
>「小娘は何とか耐えられような。雪妖も、脛擦りもだ。しかし、クソ坊主――貴様は駄目だ。貴様は死ぬ」

今のままの只人に過ぎぬ尾弐の身では、どれだけの策を弄しても、どれだけの術を用いても、那須野橘音を救い出す事は出来ないと。
厳然たる事実を、ただそのその眼前に付きつける。そして、問いかけるのだ

>「……力が欲しいか?」

尾弐が……得られるであろう人としての生を、その果ての平穏な死を。
これから得られるであろう真っ当な幸福を全て捨て、それででも尚、那須野橘音を救うための力が欲しいかを。
その言葉を聞いた尾弐は、思う

(嗚呼、本当に俺は――――恵まれてる)

こんなにも自身を気遣ってくれる者達が傍に居てくれる。
こんなにも、自身の幸福を願ってくれる者が居る。
だからこそ。そんな者達の気持ちを知って尚、惚れた女の為に手前勝手をやる自分は――――きっと、地獄に堕ちるに相応しい。続き24行
325:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2019/05/02(木) 11:13:49
>「種族による。貴様ら雪妖のような精霊系は天然自然の気に還るし、小娘は人間と変わらん」
>「三尾は動物系だから、普通に昇天か降冥であろうな。――したが――今の三尾はまだどちらにも行っておらぬはず」
>「三尾が死ぬ寸前、私は奴の魂魄をその場に縫い留めた。小娘が龍脈の力を使ったというなら、魂魄はそこにあるはずだ」

「本当!?」

天邪鬼の答えに、思わず身を乗り出すノエル。
失敗したと思われた蘇生の術だったが、全くの失敗ではなかったようだ。

>「ならば。そこから奴を救い出すことは可能であろうよ。貴様らの努力次第だが、な――」

「よっしゃあ! みんな、橘音くん生き返るんだって!」

この時点では“努力次第”の程度がどの程度かも知らずに呑気にガッツポーズをするのであった。
妖怪の肉体なんて元々ふわっとしたもんだし魂があるならいけるんじゃね?的なノリである。

>「さて。そうと決まれば、もうこの場所に用はない。撤収するぞ」
>「スカイツリーを人間たちの手に還してやる時間だ。――重ねて言うがご苦労だった、東京ブリーチャーズ」

>「……まずは、帰ろうよ。祈ちゃんも尾弐っちも、早く病院に連れてってあげないと」続き16行
326:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2019/05/02(木) 11:16:15
その後全員入院となったが、ノエルは人間になった尾弐や半妖の祈よりは当然治りが早く、早々に退院となった。
皆が退院してくるまでの間、獄門鬼戦の経験を踏まえ、現代における最新の”かくあれかし”を勉強しようと思い至ったノエルは図書館に向かう。
まずは真面目な熱力学の本に手を出したものの意味が分からな過ぎて3ページも読めずに寝るという偉業?を成し遂げ、
次にエセ科学のようなトンデモ本を経て、結局行き着いた先は氷雪使いが出て来る漫画やラノベであった。
傍からみると遊んでいるようにしか見えないが、本人からすると実際の科学だろうが
トンデモ疑似科学だろうが、フィクションだろうが全部”かくあれかし”なのであまり区別はついていない。
その中で改めて気付いたことがある。”――現代の雪女って意外と強くね?”ということだ。
古典においてはネームド雪女も無く、ヨボヨボの爺さん一人を殺すか殺さないか程度というショボい能力設定、
”口外したら殺す”の禁を破った夫も結局殺さないという甘ちゃん仕様のため、古典妖怪の中ではヘタレというイメージが浸透しきっている。
しかし閉鎖社会が長くここ数百年戦いどころか妖怪の政治の表舞台にも出ていないし、
当然戦いのための部隊のようなものも結成されていないため、今でも雑魚のままかは分からないというのが本当のところだ。
そして何を思い立ったのか、ノエルは乃恵瑠の姿を取って雪の女王の御殿を訪れるのであった。

「あら、お帰りなさい、乃恵瑠……」

「母上――これを見て欲しい」

乃恵瑠は女王の眼前に大量の禁書を積み上げ始めた。

「……って何禁書を持ち込んでるんですか! 確かに人間界の本は解禁しましたけど漫画とラノベは禁止って言ったでしょう!続き14行
327:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2019/05/02(木) 11:17:02
「人間界の移り変わりは早いのだ。
未だ雪女達自身が古典のイメージを引きずっているから弱いままだがその禁書のイメージを広めればかなり強くなるだろう。
それと母上が持たせてくれた”最新現代日本語辞典”に載っていたおたんこナスはもう死語だ」

「なんですって……!? ほんの数十年前に編集したからまだいけると思ったのに!」

「そこでもしも西洋妖怪軍団が攻めてきて妖怪大戦争状態になった時に備えて有志を集めて帝都防衛隊を結成しておいてほしい」

「今までそんな事をやった事がなかったですし急には……
何せ閉鎖社会をいい事に平和ボケして皆毎日スキーやスノボで遊んでばかり……」

「簡単なことだ、人間界から密輸入した最新の色々なもので釣って募集すればいけるであろう」

「その手がありましたね……分かりました。出来る限りやってみましょう」

――本当にこんなんで雪女による帝都防衛部隊は出来るのだろうか。甚だ疑問である。
用は済んだとばかりにそそくさと帰ろうとする乃恵瑠を女王は呼び止める。

「乃恵瑠、待ちなさい。ついに災厄の魔物を手懐けたのですね――
いえ、性質が根本から変わった、というべきでしょうか」続き21行
328:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2019/05/02(木) 11:17:58
そして東京スカイツリーでの戦いから1週間が経過したころ――ようやく尾弐が(無理矢理)退院し、全員が橘音復活のための作戦会議が行われることと相成った。
そこにはシロに寄り添われたポチもいる。
1週間前になんとなく感じたポチはもう力を貸してくれないのではないか、という予感は気のせいだったようだ。

>「天邪鬼君って言ったわね!?教えなさい、橘音を復活させる方法を!今すぐ!さあ!」
>「な、なんだこの女は!?うおお、離せ!」
>「離しません!橘音を蘇らせる方法を洗いざらい、1から10まで言うまでは!さあ!さあさあさあ!」
>「お、落ち着け莫迦者!」
>「誰がバカですか!そんな言葉遣い、お母さん許しませんよ!?」
>「誰が母親だ!?貴様ら、こいつをなんとかしろーッ!」

>「無茶言いなさんな。泣く子と怒った颯にゃ勝てねぇよ。ま、折角だから坊主らしく甘えとけ」

「颯さん、キャラ変わってる……」

暴走する颯に、いつもノエルを片手であしらう尾弐ですら匙を投げている。
ファッション悪童系の祈に対して普段は一見ほんわか系に見える颯だが、本性は下手したら祈より激しいんじゃないだろうか、と思うノエル。

>「ゲホッ……三尾の魂魄はクソ坊主の持つ宝珠の中に入っている。貴様らも宝珠の中に入り、三尾を強制的に叩き起こすのだ」
続き23行
329:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2019/05/02(木) 11:19:30
そして一行は陰陽寮へ。
芦屋易子は最初は危険すぎるという理由で渋ったものの、陰陽頭の説得で協力してくれることとなった。
その危険性とは、このようなものらしい。

>「皆さまの試そうとしている術は、故人の魂に直に接触しその魂魄を現世に連れ戻す、というもの」
>「当然、接触するためにはそのままの姿ではいけませぬ。連れ戻す方もまた、肉身を脱ぎ捨て魂だけの存在にならねばなりませぬ」
>「運よく故人の魂と接触できたとしても、戻ってこられるとは限りませぬ。逆に故人の魂魄に縛られてしまうやも」
>「そして、魂とはとても揺らぎ易きもの。強い衝撃を受ければ、そのまま霧散してしまう可能性とてあるのです」

どうやら話は思っていたより簡単ではないようだ。未だ包帯だらけの尾弐の方をちらりと見る。
人間になってしまったようだがそんな危険なことをして大丈夫なのだろうか――と思う。

>「私と皓月童子は留守番だ。ま……三尾と関わりの薄い我々が行っても仕方ないしな」
>「よしや天魔共が邪魔をしに来たとしても、蹴散らしてやる。貴様らは三尾救出に集中しろ」
>「……お気をつけて、あなた。お身体はわたしが必ず守ってみせます、ご安心を」

天邪鬼が何も言わないあたり、大丈夫なのだろうか。
そこには敢えて触れず、尾弐には別に尾弐と橘音のためではなく自分が行きたくて行くのだということを伝える。

「クロちゃん……ずっと昔、大事な親友を守れなかったことがある。今度こそ助けたいんだ。続き22行
330:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2019/05/04(土) 02:47:08
酒呑四天王との――そして酒呑童子との戦いから一週間。
ポチは那須野探偵事務所にいた。
祈やノエル、尾弐に楓――それに天邪鬼もそこにいた。
皆が先の戦いの傷を癒やし、集まったのだ。
那須野橘音の復活、その算段を立てる為に。

>「誰がバカですか!そんな言葉遣い、お母さん許しませんよ!?」
>「誰が母親だ!?貴様ら、こいつをなんとかしろーッ!」
>「無茶言いなさんな。泣く子と怒った颯にゃ勝てねぇよ。ま、折角だから坊主らしく甘えとけ」

そうして始まったのが――このドタバタ騒ぎだ。
仲裁には入らない。狼の嗅覚に頼らずとも分かる。
下手に止めようとすれば、巻き添えになると。

>「ゲホッ……三尾の魂魄はクソ坊主の持つ宝珠の中に入っている。貴様らも宝珠の中に入り、三尾を強制的に叩き起こすのだ」

やっとの事で楓から解放されると、天邪鬼は噎せながらそう言った。

「……で、どうやってその宝珠に入るのさ」
続き42行
331:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2019/05/04(土) 02:50:54
 
 
 
「やっ、久しぶりだね、易子さん」

陰陽寮、芦屋易子はその一角にある社殿にいた。
東京ブリーチャーズを一目見るなり、彼女は表情を曇らせた。
望まぬ客人の来訪を厭うている訳ではないだろう。
ポチ達が抱えた事情を、一瞥したのみで看破したのだ。

「……もうバレてるみたいだけど……今日はその、相談があって来たんだ。
 橘音ちゃんを……生き返らせる為に、力を貸して欲しい」

>「そうですか……。三尾の狐を蘇らせるために、我が反魂の秘術が必要、と」

芦屋易子の反応は芳しくなかった。
理由は単純明快だった。
曰く、危険である――最悪、魂が消滅してしまうかもしれない、と。

>「知識としては、やり方は存じております。……ただ、わたくしも実践したことはございませぬ」続き19行
332:
ザ・フューズ ◆xCCpD0lPkQ[sage] 2019/05/04(土) 02:52:16
ポチの中にある冷徹な獣が、静かに――皆を見捨てる為の算段を立て始めていた。
勿論、それは最後の手段だ。まずは芦屋易子に確認を取らなくてはならない。
反魂の法が行われている間、自分達は己の意思で宝珠の中から出られるのか。
肉体に戻る事は可能なのか――答えが是であれば、事を急ぐ必要はない。
可能であれば橘音を助けたいと思っている事に偽りはない。
だが、もし己の意思では戻れないのであれば、その時は――

>「……お気をつけて、あなた。

ふと、シロの声がポチの思考を断った。
傍らに膝をついた彼女は、続けてこう言う。

>お身体はわたしが必ず守ってみせます、ご安心を」

その言葉を聞いて――ポチは一呼吸ほど間をおいて、笑った。
微笑みというにはあまりに力強い、牙を剥くような笑みだった。

「君がそう言うなら……うん、任せたよ」

それは――ポチの定めた抜け穴だった。続き9行
333:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2019/05/04(土) 02:57:17
そして翌日の夜。
ポチ達は大祈祷堂へと集められた。

>「こちらに横になってください」

「……その前に、シロ。あれを」

ポチがシロに声をかける。
ここへ来る前、彼女に預けていた物を返してもらう為だ。

受け取るのは、刀――星熊童子の愛刀、酔醒籠釣瓶だ。
酔余酒重塔での戦いの後、持ち帰っておいたものだ。

鞘の中の刀身は半ばまでしかない上、
尾弐が一度人間に戻り酒呑童子と同等でなくなった為か、破邪の力も殆ど残っていない。
だが――だとしても、紛う事なき名刀。便利な牙だ。

「アイツの魂、お前の傍にいるんだよな。だったら……見えてるか。暫く借りるぞ」

魂の世界に刀を持ち込めるかは分からない。続き14行
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