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1:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2018/04/13(金) 13:40:31
201X年、人類は科学文明の爛熟期を迎えた。
宇宙開発を推進し、深海を調査し。
すべての妖怪やオカルトは科学で解き明かされたかのように見えた。

――だが、妖怪は死滅していなかった!

『2020年の東京オリンピック開催までに、東京に蔓延る《妖壊》を残らず漂白せよ』――
白面金毛九尾の狐より指令を受けた那須野橘音をリーダーとして結成された、妖壊漂白チーム“東京ブリーチャーズ”。

漂白者たちと鞍馬山から盗まれた呪詛兵器『コトリバコ』との戦いは、佳境を迎えようとしていた。



ジャンル:現代伝奇ファンタジー
コンセプト:妖怪・神話・フォークロアごちゃ混ぜ質雑可TRPG
期間(目安):特になし
GM:あり
決定リール:他参加者様の行動を制限しない程度に可
○日ルール:4日程度(延長可、伸びる場合はご一報ください)
版権・越境:なし続き2行
128:
多甫 祈 ◇MJjxToab/g[sage] 2018/05/01(火) 15:09:40
 クリスはその話を、周囲を吹雪かせ、怒りを露わにしながら締め括った。
邪魔をする者は千々に切り裂いて殺すと。
 更にこう続ける。胸に手を当てて考えてみろ。私は正常だ。狂っているのはお前たちの方だと。
>「アンタたちは、アタシのことを狂ってると言うんだろうね。目が曇ってると」
>「だがね、それはこっちのセリフさ。自分の胸に手を当てて、考えてごらんよ……もし自分がアタシの立場だったらどうだ?」
>「東京を守るだの、平和だの。浮ついたことを抜かす連中が、自分の家族を危険な場所へ夜ごと連れ回してる」
>「傷ついて、ケ枯れ寸前になって、命を喪うような危険な目に遭わされてる……。しかも、それを幸せだと思わされてる!」
>「家族としちゃあ、何としてでも正気を取り戻させてやりたい――自分の目の届くところに置いておきたいって思うだろ?」
>「その子を危険な目に遭わせて、それを善しとしてる者が!弟分だ?大好きだ?世迷言を言ってるんじゃァないよ!」
>「本当にその子を弟分と思うなら!大好きと思うなら!今すぐその場で血ヘドを吐いてくたばンな!」
>「その子の――みゆきの幸せのためにね!それができないなら、アタシが一人ずつ介錯してやる――」
>「それが。みゆきの姉としての、アンタらクズどもへの礼の仕方だ……!!」
 だから死ねと、こんな風に。
 話を聞き終え、祈にも色々と思う所があった。
疑問や戸惑い、悲しみ、怒り、焦燥、恐怖、憐み。様々な情や思いが駆け巡る。
それらはぐちゃぐちゃと祈の心を掻き乱し、迷いを生み、戦う理由すらも曖昧にしていく。
だが祈はクリスに言われた通り、実際に胸に手を当てて考えてみて、一つの解答を得た。
 言える気がしたのだ。“ノエルを大事な友人として想っている”と、胸を張って。
そのシンプルな解答に辿り着いた時、心を掻き乱す霧は晴れていく。
 ノエルを大事に想う。故に、ノエルの姉であるクリスに殺されてやる訳にはいかない。 続き30行
129:
多甫 祈 ◇MJjxToab/g[sage] 2018/05/01(火) 15:10:20
>「お初にお目にかかる。ノエルが随分と世話になったな。妾は次代の雪の女王――ああ、呼び方は乃恵瑠のままで構わない。
>莫迦な姉上がお騒がせして大変申し訳ない」
 ノエルとは別人であると。
 立ち振る舞いも声音も、ノエルとは全くの別人だった。
 祈はこの美しい女性の姿を、品岡の形状変化の術を受けているときに見ている。
幻覚か、あるいはノエルの内側にいて、ノエルを守ってくれている幽霊か何かではないかと思っていたが、違ったのだ。
 次代の雪の女王だという彼女の言葉から察するに、恐らく彼女は“二番目の人格”だ。
三年程前からは御幸 乃恵瑠として生きているその存在が、
みゆきという一番目の人格を奪われた後、数百年の間どうしていたのかはクリスの話の中にはなかった。
恐らくは彼女こそが、語られなかった数百年間の空白を埋める存在であり、
次代の雪の女王として教育を施された二番目の人格なのだろう。
 思えばノエルは三年程しか生きていない割に、様々な術や力を使いこなしていた。
それはこの第二の人格が内側にいて、
彼女が習得した術や力の使い方をノエルが無意識に感じ取っていたからと考えれば辻褄は合う。
だがクリスと言う強大な力を持った妖壊に立ち向かうには、御幸 乃恵瑠では力不足だった。
故に数百年の時を生き、知恵も力も段違いであろう真の姿を解放したと、そう言うことだと思われた。
 だがその彼女が出てきて、ノエルはさよならと言った。
だとすれば、ノエルはどうなったのだろうか。ただ人格を交代するだけなら、別れの言葉など言うだろうか?
 祈には全くノエルの気配が感じ取れないでいる。
もしかしたら、消えてしまったのか。 続き28行
130:
多甫 祈 ◇MJjxToab/g[sage] 2018/05/01(火) 15:10:54
>《第一分隊!第三分隊!第四分隊!突撃―――ッ!!》
>「みゆきは狙うんじゃないよ!殺っていいのは四人だけだ!」
 突撃してくる英霊のいくつかの分隊。
英霊達はぬりかべには攻撃が通じぬと見て、
ぬりかべの側面に回り込み、直接囲んで殺すつもりと考えられた。 
祈は囲まれる前にどうにかその横をすり抜け、銃撃や斬撃を躱す。
彼らの攻撃を避けることは祈にとってそこまで難しい事ではないが、如何せん数が多過ぎる。
分隊は4つ。200人を4で割れば一分隊は50人。
ブリーチャーズ一人に付き50人もの英霊が、倒れることも諦めることもなく殺到し、
剣を振るい、あるいは小銃で砲火を浴びせてくるものだからたまらない。
更にはクリスによって境内に結界が張られている為、逃げ場がないのが最も厄介だった。
 英霊達は倒したところですぐに立ち上がってくる不屈の存在。
逃げ場がないのなら、彼らはその特性と人数を生かし、
広がりながら迫ってくるだけで、いずれはブリーチャーズを囲い、倒してしまえるのだろう。

 祈へと向かう第三分隊。
逃げ場を求める祈はその統率された動きにじりじりと追い詰められ、
拝殿から一人、本殿の方へと追いやられつつあった。
第三分隊の目的は祈を仲間と分断し、確実に仕留めることのようである。
 拝殿側では、恐らく乃恵瑠が生み出したであろう雪の巨人が橘音を守るようにしており、 続き30行
131:
多甫 祈 ◇MJjxToab/g[sage] 2018/05/01(火) 15:12:29
だが。力の入らぬ足、腕。目尻に滲もうとする涙。
しかしそれら全てをなんとか意志の力で抑えつけて、祈は立ち上がろうとする。
(それでもあたしは“ブリーチャーズ”なんだ……正義の味方だ! 御幸がいなくなったからって、
そこで走るのを止めちゃダメなんだ! あたし達が負けたら、色んな人が傷付くんだから!)
 この戦いはノエルを巡って争うだけの戦いではない。
クリスの背後には他のドミネーターズが、妖怪大統領が控えている。
ブリーチャーズの敗北は彼女達の台頭を意味し、
支配の為には虐殺も厭わない彼女達が東京を制圧しようとした時に出る被害は計り知れないだろう。
 クリスの背後に支配を目論む者がいるのなら、
同じように祈達の後ろには東京に住む人々や妖怪達がいる。ここで負けることはできないのだ。
その強い意志が、祈が右手で地面を押し、体を起こすだけの力となり。
そして、
>「ねんがんのアイスソードを手に入れるぞ!」
 この言葉が、祈の足に立ちあがる力を齎した。
拝殿の上に立つ、乃恵瑠の声が祈のいる場所まで聞こえてきたのだった。
人格は変わった筈で、その声は全く違うのに、放った言葉の残念さは、まるで。
「御幸……?」
 乃恵瑠の意識の奥底にノエルの人格がまだ残っているのか、
それともノエルとして生きていた時の記憶が彼女にもあり、
それがあのような言動を生んだのかは定かではないが、そこに確かなノエルの息吹を感じた。 続き34行
132:
多甫 祈 ◇MJjxToab/g[sage] 2018/05/01(火) 15:12:54
 やがて、祈が本殿から姿を現した。
本殿の最奥まで踏み込んで探し回り、強そうな剣を探り当てて、
それ“ら”を抱えて戻ってきたのだった。
それらとは、二振の刀剣である。
 祈はどちらのことも知らないが、一つは『九段刀』。
この神社の境内で作成された数多い軍刀の内の一振で、ある時を境に奉納された代物である。
この神社で作成された軍刀の象徴となったその刀には、無数の人々の平和への念、護国の精神が宿っていると考えられた。
 もう一つは、宮司が代々その名を伝えるのみで、
一般にはその名も姿も公開されておらず、宮司すら一生の内にお目にかかるかという秘中の秘。
この神社に置ける、神鏡と並ぶご神体であり、『神剣』と呼ばれる代物だ。
刀ではない、ということ以外形容できないが、それはまさしく“神剣”だった。
 手に掴んだとき、凄まじい力を感じたそれらを抱えて本殿から出てきた祈は、拝殿に立つ乃恵瑠を仰ぎ見た。
どれが乃恵瑠の言うアイスソードなのかはわからないが、二つあるのはむしろ都合がいい。
戦う為の力が多いに越したことはない、というのもあるが、
九段刀は刃渡りは60センチ前後。所謂小太刀と同等の長さだ。
そしてもう一つの神剣はそれなりの長さを備えていて、これならば以前ノエルがやっていたことができる。
 大小二振の氷の刀で行っていた、二刀流が。
「御幸ーーーッ!!」
 今この場にいないとは知りつつ、祈はその名を叫ぶ。
 拝殿の上に立つ乃恵瑠へ向け、構えた。 続き22行
133:
ポチ ◇xueb7POxEZTT[sage] 2018/05/01(火) 15:13:39
>「何も知らないカスどもが……、その子とアタシの間にあった出来事さえ知らないクセに、よくも抜け抜けとほざいたもんだ!」

「そうだね。でも忘れてない?きみも、ぼくらとノエっちがどんな時間を過ごしてきたか、しらないんだよ」

ポチはクリスを見下ろしながら、そう呟く。
しかし彼女には届かない。言葉はもとより、不意を狙った牙すらも。

「ううん……こまったなぁ。めちゃくちゃつよいじゃん、ノエっちのおねーちゃん」

いつもの調子でぼやくポチは、しかしそれ以上の追撃をしなかった。
クリスを中心として、橘音達から離れる形で弧を描く。二、三度、地を蹴れば挟み撃ちに出来る位置取り。
しかし……動かない。死角に潜り、先手を取って……それでも、良い結果が出せると思えずにいた。

>「糞狐とその仲間。どのみち、アンタたちは全員殺す気でいた。言ったろ?ドミネーターズの邪魔をする連中は殺すと」」
>「ノエルをそそのかし、誤った幸福を植えつけたアンタらは、アタシの中で一番の抹殺対象さ」

「あやまったしあわせ、ねえ」

ポチは何か思うところがある、と言った調子で呟き……それ以上は続けない。
ただクリスを睨みつけたまま、その言葉に耳を傾けていた。 続き33行
134:
ポチ ◇xueb7POxEZTT[sage] 2018/05/01(火) 15:14:19
「……ノエっち?その冗談はあんまりおもしろくないよ」

>「ほんの少しの間だったけど御幸乃恵瑠という青年がいたこと、覚えててくれると嬉しいな。今までありがとう、さよなら……」

「ノエっち、なに言ってんのさ。気にしないって言ってるだろ!待って……待てよ!」

ポチは叫び、ノエルに飛びつこうとして……しかしそれを阻むように氷雪の渦が巻き起こった。
ノエルの姿が、深い悲しみのにおいと、氷と雪に塗り潰され、掻き消える。
呆然とするポチの目の前で氷雪の渦が止んで……そこにいたのは、ノエルではなかった。
目鼻立ちはノエルに似ているが、瞳の色が違う。髪型も、体型も……そしてなにより、においが違った。
ノエルの冷たくも安らぎを感じるにおいが、消えていた。
残っているのは僅かな残滓だけ……三年前、あの妖災で死んだ五人の仲間と同じように。

>「お初にお目にかかる。ノエルが随分と世話になったな。妾は次代の雪の女王――ああ、呼び方は乃恵瑠のままで構わない。
  莫迦な姉上がお騒がせして大変申し訳ない」

乃恵瑠の言葉に、ポチはその青い瞳を見つめたまま、言葉を返せない。
例えノエルがいなくなってしまったとしても、その原因は彼女ではない。
むしろ今の姿こそが、次代の雪の女王として正しい姿……頭ではそう分かっていても、狼の心はそれを受け入れられない。
続き35行
135:
ポチ ◇xueb7POxEZTT[sage] 2018/05/01(火) 15:15:03
>「特に、みっつめは譲れない!なぜなら――探偵とはいつでもハードボイルドで、ニヒルで!カッコイイもの!」
>「命が惜しくて降伏なんて……そんなカッコ悪さの最たるものを、このボクが!狐面探偵・那須野橘音が――見せられるもんですか!」

何故、そんなにも凛とした声が出せるのか。
ノエルが消えた事を悲しんでいないから……そんな訳はない。
橘音とノエルの間には、たまにポチが羨ましくなるほどの親愛の情がある。だが、ならば何故。

>「こんな時に何を言っておるのだ……酢豚にはパイナップルが入っているものであろう!」

その答えは、すぐに分かった。
この、場にそぐわない、どこか間の抜けた発言……ポチが小さく、吹き出すように笑った。

「……なんだよ、ノエっち。まだ、そこにいるんじゃないか」

橘音はその事を知っていたのだ。
……あるいは、確信は持てなくても、そう信じていた。

「……あちゃあ。こりゃ、ずいぶんとカッコわるいことをしちゃったなぁ、ぼく」

大きなショックを受けていたとは言え、ノエルを信じる事も、仲間を助ける事も忘れ、駆け出した自分を、ポチは強く恥じる。 続き36行
136:
ポチ ◇xueb7POxEZTT[sage] 2018/05/01(火) 15:15:33
「……ねーねー、橘音ちゃん。僕はさ、頭は良くないけど、悪戯は好きなんだ。だから……こんな悪戯はどうかな」

送り狼は橘音に何かを耳打ちすると、答えを待たずに背を向けた。

「待て、をするなら早めに頼むよ」

彼は英霊達が展開する陣へと駆け出した。
姿を隠し、懐に潜り込み……英霊の内の一人に飛びかかる。
首に牙を突き立て、力いっぱい振り上げ、叩きつける。そのまま前足で頭を踏みつけた。
そして再び、高らかに吠える。
人を脅かすのではない、騙すのでもない……明確に人を殺める妖怪。
送り狼の、狩りの前触れ。

「伏せ、でもしてな」

例え英霊達を殺める事が叶わないとしても、その響きは、護国の使命を帯びた彼らが看過出来るものではない。
数十の銃口が送り狼を一斉に睨んだ。
轟々と吹き荒れる氷雪の嵐の中、銃声が響く。
送り狼はその場を飛び退き、暗闇に身を隠す。
そして再び現れ、今度は別の英霊に食らいつく。 続き39行
137:
ポチ ◇xueb7POxEZTT[sage] 2018/05/01(火) 15:15:59
「記憶を消された時だってそうだ!なんで妹ちゃんが消えちゃうのを待ってたのさ!
 一緒に逃げれば良かったんじゃないのかい!
 ……僕思うんだけど、おねえちゃん、もしかしてさぁ……」

英霊達の陣のど真ん中で立ち止まり、彼はクリスを見上げた。

「妹を愛してたなんて言いながらも、実はちょこっと、自分が可愛かったんじゃないの?
 だからだろ。仲間の為に戦う事を、不幸だなんて思っちゃうのはさ」

そして、にやりと、牙を見せつけるように笑う。

「本当に仲間を、家族を、愛してるなら……その為に死ぬ事さえも、幸せなのさ」

……実際の所、ノエルが本当にそんな事を思っていたのかは分からない。
クリスとは形が違うだけの、狂気的とすら言える愛情。だが彼はその存在を確信している。心から信じている。
なにせ狼にとって……そんな事は、当たり前の事なのだから。
 
「お前の愛は、愛じゃない。お前はただ、幸せな妹のそばにいる、幸せな自分を愛してただけだろ。
 だから自分を擲てない。その意味を、理解出来ない。
 ……どうした!僕はここだぞ!手本を見せてやるよ!殺してみろ!」 続き14行
138:
ポチ ◇xueb7POxEZTT[sage] 2018/05/01(火) 15:16:28
>「御幸ーーーッ!!」
>「念願の……アイスソードだっ!!」

祈が本殿から持ち出してきた刀剣を、乃恵留へ向けて投げ飛ばした。

>「これで、アイスソードでも、何でも作ればいい……」

次の瞬間、崩れ落ちる祈。
すぐにでも駆けつけて、その体を支えたいという衝動……それを抑え込むように、高く高く吠える。
迷いは振り切った。送り狼が駆け出す。二振りの神剣が飛んでいく先……クリスと乃恵留の元へ。
血を流しすぎて、息を吸っても酸素が体に巡らない。四肢が痺れる。
それでも仲間の為、家族の為……送り狼は跳躍した。
雪の積もった地表から、拝殿の屋上をも飛び越えて、祈が投げた軍刀……九段刀へ。
そしてその柄に、しかと食い付いた。
そのまま首を力いっぱい振って、鞘から刀を抜き放つ。

「貰った!」

クリスの首へと迫る、吹雪の暗闇に閃く白刃。
扱うのが「犬っころ」とは言え護国の神社に奉納された刀剣による斬撃。 続き24行
139:
尾弐 黒雄 ◇pNqNUIlvYE[sage] 2018/05/01(火) 15:17:06
銃弾が、脇腹を掠め喪服を裂く。
背後から放たれた斬撃は尾弐の腕を奔り、赤い飛沫を中空へと散らす。

ライフル弾ですら弾き、日本刀ですら受け止める『鬼』という種族の強靭な肉体。
それが今や見る影も無く、只の人間と同じように容易く削り取られていた。

「こうも相性が悪ぃとな……っ!!」

クリスが祭神簿と國魂神鏡によって呼び出した英霊群。
彼等は、尾弐にとって最悪の敵であった。
恐るべきは尾弐の防御を容易く貫く神としての属性と、不滅の肉体。
身体能力こそ凡百ではあるものの、二つの特性と数多の物量が合わさる事により、
もはや彼等は尾弐の手に負えない脅威と化していた。
しかも、現状は尾弐自身の力にも著しく制限がかかっているという『おまけ』付きだ。

この条件下では、防御に徹しても己が身を護る事さえおぼつかない。
それでも現状、尾弐が絶命を免れ生存しているのは……尾弐を護る様に立つ彼――否、『彼女』のお蔭であろう

>「何、そなたが当たり判定で一番不利ゆえ来ただけのことだ」
「……っ」 続き36行
140:
尾弐 黒雄 ◇pNqNUIlvYE[sage] 2018/05/01(火) 15:17:52
だが、時間はその愚かな男を待つ訳はなく。
戦況は刻一刻と悪化を見せる。
英霊の集団は、ブリーチャーズの面々を消耗させ、ノエルという青年人格の消失が与えた衝撃は各々の判断を鈍らせる
数と質。両方で劣勢を強いられ、すわ、このまま押し潰されるかと思われたその時

>「そしてみっつ!探偵として――人にカッコ悪い姿を見せること!です!!」
>「シンキング・ターイム!ってことで、皆さん!ボクに考える時間をください……、この状況を打破できる方法を考える時間を!」

クリスの言葉を受けた、那須野がノエった。

……いや、ノエるというには知性が見え隠れしている為に本家には及ばないのだが、とのにかくノエった発言をしたのである。
あまりに状況にそぐわない挙動は、一瞬場が沈黙に包むが……しかし、
どうやらその沈黙こそが、ブリーチャーズの面々を動かすにたりえる起爆剤であったらしい。

>「今クリスが持っているのは『神体』と『神宝』――もしかしたら『神器』があればこやつらに対抗できるかもしれぬな」
>「ねんがんのアイスソードを手に入れるぞ!」

御幸が、クリスの持つ2つの秘法の攻略手段を考察する。

>「念願の……アイスソードだっ!!」 続き26行
141:
尾弐 黒雄 ◇pNqNUIlvYE[sage] 2018/05/01(火) 15:18:31
思った瞬間、強く噛みしめた尾弐の奥歯が割れた。
それは、誰も犠牲にしないと言った自分自身の言葉と、仲間たちの決意すらも裏切る劣悪な選択肢。
仲間であり友人であると思った存在を斬り捨てるという、下衆にも劣る最低な思考。

……尾弐の脳裏に、これまでノエルと送った馬鹿馬鹿しくも光り輝く日常の光景が想起される。
例えノエルという妖怪が、尾弐にとって禁忌である罪を犯した過去があるとすれど、
その日々の尊さは変わらない。尾弐という妖怪の送った生の中での、穢したくない白雪の様な思い出である。
尾弐が想定しているのは、その思い出すらも殺してしまう、決して取ってはならない手段だ。
今までと、これから。積み重ねた全てを壊してしまう最悪の選択なのだ。

……だが。ノエルと過ごした日々と同時に、記憶の底から浮かんだ別の光景が、その手段に手を伸ばさせる。
それは、平安の時代に丹波国の大江山に積み重なった女子供の骸の山の記憶。
そして、鎖に繋がれ光の刺さない牢獄に居る自身に差し伸べられた、小さな腕と笑顔。
何をしてでもその笑顔を守ろうと思った原初の誓い。
それが、尾弐を禁忌へと誘う。

身を引き裂く様に、2つの情景はそれぞれが尾弐の精神を責め苛み……結果として尾弐に絞り出すような言葉を吐かせた。

「……那須野。俺の血でも骨でも臓物でも、必要なら何でもくれてやるから、急いで打開策を考えてくれ」
続き4行
142:
那須野橘音 ◇TIr/ZhnrYI[sage] 2018/05/01(火) 15:19:56
「次の女王候補を、東京に住まわせるですって?」

東京で起こった大霊災の直後。人が踏み込むことも滅多にない雪深い山の奥にある、雪女の里。
そこにある豪奢な屋敷の大広間で、橘音は上座に端坐する雪の女王を前に不可解そうな声を上げた。
雪女はメジャーな妖怪だが、知名度の割に他の妖怪との交流は少ない。
基本的に雪女たちは自らの生まれた山で生活し、自らの定めた掟を厳守し、自らの生まれた山で消滅する。
近年は掟がやや緩和され、山を下りて他の地方で生活する雪女も現れてきたが、それでも下山者はごく僅かだ。
女王の後継者ともなれば、その存在は一族の宝。女王としては、当然手許に置いておきたいものであろう。
というのに、女王はその大事な後継者を自らの目の届かないところに住まわせるという。

「なぜ、そのようなことを?アナタのお膝元に置いておいた方が安全では?」

「いいえ。今となっては、貴方が結界を張った東京の方が安全でしょう。わたくしにはもう、あれと戦う力はありません」

「……六華紅璃栖、ですか」

「そう――。先の大霊災では、一族の者が貴方がたに多大な迷惑をかけました。お仲間の命まで……それは、心から謝罪します」

「いいえ。……仕事ですから」
続き35行
143:
那須野橘音 ◇TIr/ZhnrYI[sage] 2018/05/01(火) 15:20:20
橘音は顔を上げ、女王の端正な顔を見つめた。それならば、すべて納得がいく。
乃恵瑠が力を有しているということも。女王が自分にはもうクリスに抗う力はないと言ったことも。

「三尾の狐に力を貸し、百と八つの穢れた魂を浄化するようにと、あの子に命じました」

「……ボクに?」

「ええ。それから、再度の記憶の封印を。あの子はもう、みゆきでも乃恵瑠でもありません」
「そう――いずれでもなく、同時にそのどちらでもある存在。名を、御幸乃恵瑠」
「貴方は『何も知らないふりをして』『偶然出会ったように』あの子を導き、手を取って進んでください」

「……でも、ボクは……」

「あの子のことは。決して三尾、貴方にとっても無関係ではないはず。いいえ、寧ろ――」

「その話はやめてください!」

雪の女王が何事かを言いかけたのを、橘音は鋭い語勢で制した。
その強い言葉に、雪の女王がぴくりと一瞬身じろぎする。橘音の触れられたくない場所に触れたのだと察したらしい。
続き32行
144:
那須野橘音 ◇TIr/ZhnrYI[sage] 2018/05/01(火) 15:20:44
>痴れ者が! 何ゆえ野蛮な西欧妖怪などに魂を売った!? もう少しの間だけ大人しくしておれば妾が……救ってやれたというのに!

乃恵瑠の怒声が境内に響く。
変貌した乃恵瑠の姿を見、その声を聞くと、クリスは小さく笑った。

「里の掟に雁字搦めになったアンタに何ができる?アタシにはこの方法しかなかったんだ……今は感謝してるよ、あの御方に」
「アンタを救ってやれるのは、雪の女王でも糞狐でもない。姉ちゃんだけだ……このアタシだけなんだ」
「アタシの歩みは、もう誰にだって止められない――止めさせやしない!目的のためには、アタシの魂なんざ安いもんさ!」

ビュオッ!

吹雪が一層強くなる。ブリーチャーズの足元を、白雪が覆いつくしてゆく。
もはや、クリスには乃恵瑠しか見えていない。どうすれば乃恵瑠を自分の許に取り戻せるのか。
妹の心をふたたび取り返すことができるのか――。それしか考えていないという様子だ。
神体『國魂神鏡』と神宝『祭神簿』を手中に収めた者は、護国の英霊を自在に使役できる。
本来は国難に際して無辜の民を守護する英霊だが、ことこの状況においては東京ブリーチャーズの最大の障害と化している。
ブリーチャーズに対抗手段はない。つまりクリスにとってもはやブリーチャーズは脅威でも何でもないということだ。

>力尽くで奪う
続き32行
145:
那須野橘音 ◇TIr/ZhnrYI[sage] 2018/05/01(火) 15:21:05
第三分隊はただ、本殿に向けて走ってゆく祈の姿を佇立して見送った。
國魂神鏡と祭神簿によって神霊となった軍人たちは、言うなればクリスに心臓を握られた状態にある。
よって、クリスの意向に従う。その思うままに動く。
だが、他の分隊と違い、祈の殺害を命じられた第三分隊がクリスの指示に従うことはなかった。
理由は明白である。――それは、祈が半妖であるから。人間の血を引く、皇国の子であるから。
かつて自分たちが人間であった頃、命を捨ててまで守護せんとした者の末裔であるから――。
軍人たちの高潔な精神が、自らの心臓を握られていてもなお、理不尽な命令に従うことを拒絶したのだ。
やがて、第三分隊の姿が朧になってゆき、吹きすさぶ風雪の中に消えてゆく。
その姿は、まるで祈にこの国の行く末を。未来を託しているかのようにも見えた。

祈の飛び込んだ本殿の最奥には祭壇があり、そこにはふた振りの剣が刀架に掛けられて鎮座していた。
そのうちの一本は大戦期にこの神社の中で鍛造された、通称九段刀と呼ばれる軍刀である。
九段刀自体は戦争末期までに八千余が鍛造されたが、祈が発見したのはその中でも傑出した一振り。
戦勝祈願のために神前に奉納することを目的として造られた、すべての九段刀の頂に君臨する刀だった。
もう一振りは日本刀の形状をしていない、直刀なりの剣である。
それが果たして何なのか、祈には知る由もない。が、半妖で感覚の鈍い祈にもその神気の凄まじさが分かるほどだ。
九段刀と共に神社の祭壇に奉納されるに相応しい力を秘めているというのは、間違いないだろう。

>御幸ーーーッ!!
>念願の……アイスソードだっ!! 続き31行
146:
那須野橘音 ◇TIr/ZhnrYI[sage] 2018/05/01(火) 15:21:41
「この……糞犬がァァァァァァァッ!!!」

クリスが怒罵と共に至近距離のポチへ猛烈な吹雪を見舞う。弾丸なみの威力と貫通力を持った雹の混じった吹雪だ。

「さっきからキャンキャンとうるさく吼えやがって、やかましいったらない!英霊ども、この犬畜生から鍋にしちまいな!」

乃恵瑠に集中し聞かないようにしていたが、先刻からのポチの言葉による挑発はじわじわとダメージになっていたらしい。
破れた胸元をかき合わせ、零れそうになる豊満な乳房を隠すと、クリスはすぐに英霊へとポチの殲滅を命じた。
だが、それまで理路整然とした制圧行動を繰り返してきた英霊たちの動きが、目に見えて鈍くなっている。
長期の戦闘で疲労したとか、深く積もった雪に足を取られた――ということではない。
ポチの爪による一撃が功を奏し、祭神簿の支配力が弱まったのだ。

「クソ……!役立たずのボケ軍人どもがぁ……!」

思うように動かなくなってしまった英霊たちを一瞥し、クリスが舌打ちする。
とはいえ、英霊たちは無力化したわけではない。多少動きが鈍くなったというだけで、攻撃が苛烈なことに変わりはないのだ。
敵と認識されなくなった祈や、持久力ではブリーチャーズ随一のポチはともかく、特に尾弐にとって依然英霊は脅威のままだった。

>こうも相性が悪ぃとな……っ!!
続き36行
147:
那須野橘音 ◇TIr/ZhnrYI[sage] 2018/05/01(火) 15:22:06
「ポチさん、祈ちゃんを回収してきてください。もう、ボクたちにできることは何もありません」

ポチに対してそう言うと、橘音は召怪銘板をマントの内側にしまった。
英霊大隊と英霊動物ランドの戦力は、今のところ拮抗している。時間稼ぎにはもってこいだ。
戦闘のとばっちりを受けないように、そして拝殿の上の戦いがよく見られるように。
尾弐の手を引っ張って境内の隅へと移動した橘音は、そこで力尽きたようにぐらりと身体を傾がせ、尾弐に凭れ掛かった。
狐面探偵七つ道具のひとつ、召怪銘板は、いかなる化生でもたちどころに呼び寄せることのできる万能妖具だ。
しかし、ノーリスクで召喚できるというわけではない。召喚の際には、喚び出す対象に見合った妖気を消費しなければならない。
人間や普通の妖怪よりも霊格の落ちる獣の霊とはいえ、これほどの数を一度に喚び出せば、尋常でない妖気を消費する。
先程のぬりかべを召喚した分も含めて、橘音の妖力はこの召喚でほぼゼロになってしまった。
身体がケ枯れを起こしている。もはや、立っていることさえ覚束ない。意識を保っているのが精一杯といった様子だ。

>……那須野。俺の血でも骨でも臓物でも、必要なら何でもくれてやるから、急いで打開策を考えてくれ

尾弐が言う。それは、尾弐にとって自らの課した戒めと現在置かれている状況との、せめてもの妥協点。
焦燥と懊悩が、日頃あまり感情を表に出さない尾弐の顔にありありと浮き出ている。
それだけ、尾弐の内心には激しい葛藤があるのだろう。譲れるものと、譲れないもの。その狭間で揺れ動いているのだろう。
しかし、橘音は尾弐の胸板に寄りかかりながら一度かぶりを振り、

「……言ったでしょ。ボクたちにできることは、もう……何もありませんよ」 続き39行
148:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/05/01(火) 22:42:47
>「さあ――悪い友達に付き合って、夜遊び三昧する時間は終わりだ!姉ちゃんがアンタを――どうでも、連れ戻す!」

「諦めよ、もう昔には戻れぬ。化け物と成り果てたのだ、そなたも妾も――」

クリスと立ち回りながら、殺意の混じったような尾弐の視線を感じ、最悪だ、と乃恵瑠は思う。
ただし"戦略上"最悪、というだけだ。
それはむしろクリスにとって乃恵瑠を引き込むにあたっては願ってもない好都合な展開。
起き得る事態の一つとして想定に入っていても不思議はない。
もしも乃恵瑠を首尾よくしとめる事に成功したとして、クリスをしとめ損ねたらそれこそ最悪の事態だ。
東京どころか日本終了のお知らせになりかねない。
彼の中で守るべき存在から憎むべき化け物へと転落したとて今更それがなんだというのだ。
もとより自分は人とは相容れぬ存在。
雪山とは本来、ひとたび人が足を踏み入れれば容赦なく命を奪う死の領域。
雪女をはじめとする雪妖は人が踏み込んではならぬ領域を守るために生み出された凍てつく恐怖の象徴。
自分はその恐ろしい化け物集団の次期頭領だ。
ただ、意外には思う。
その昔妖怪が強い力を持っていた時代は、妖怪が人間を殺した、死に追いやった等という話は日常茶飯事であった。
乃恵瑠は、抗えざる大きな流れのようなものとして世界を捉えている。
人間が踏み込んではいけない領域を侵した果てに行き着くのは破滅だ。
妖怪がその領域を守る存在で、妖壊すらも大局的な破滅を防ぐために生まれる存在だとしたら。 続き28行
149:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/05/01(火) 22:47:06
゚+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。+゚ ゚+。*゚+。。+゚*。゚+。*゚+。。+゚*゚+。。+゚*。+゚
僕は乃恵瑠の目を通して分厚い氷越しに、世界を見ていた。

「みゆき、ずっとそこにいたんだね……」

「ずっといたよ。乃恵瑠は童をずっと守ってくれたんだよ」

クリスの最初の反逆の時、本当は記憶の返還は為されていた。
乃恵瑠は無意識のうちにみゆきを心の奥底に封じ込め、自分でもその存在に気づかずに数百年の時を生きた。
掟を守り、感情を律し、次代の女王としてふさわしい姿を演じているうちに
笑うことも、涙を流すことも出来なくなっていた。
僕の割には相当無理してよく頑張ったと思う。
今の僕と混ざったらとんでもないことになるぞ、と我ながら思う。
でも、雪女の業界もそろそろ変わるべき時に来ているのかもしれない。

「怖がることなんてない、君はみゆきでも乃恵瑠でもあるんだから。
乃恵瑠の知恵と君の心があればきっと大丈夫」

「そうだね、僕はみゆきでも乃恵瑠でもあるんだ」
続き10行
150:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/05/01(火) 22:47:38
「嫌だーッ! 死にたくないッ!!」

乃恵瑠は力一杯叫びながら立ち上がった。
姿形こそそのままだが、オーラのようなものが先程までとがらりと変わっている。
作画上はアホ毛が立ったという微妙な変化が生じた。ぶっちゃけ姿は乃恵瑠だが中身はどう見てもノエルだ。
というかよりにもよって気高き英霊達を祀る神社でこのTPOをわきまえない発言、ノエルしかあり得ない。
正確にはノエルをベースにノエルと乃恵瑠とみゆきが統合された人格なのだが、まあ似たようなものである。

>「御幸ーーーッ!!」
>「念願の……アイスソードだっ!!」

聞き慣れた少女の声が響く。
乃恵瑠の指示とも言えないたった一言だけで、祈は本殿の奥にある神器を取ってくるという凄技をやってのけたのだ。
考えるよりも先に体が動いていた。
ジャンプして剣の方をキャッチし、そのままの勢いで頭上を一閃する。
閃光が走り、吹雪の結界の一部が裂けてその隙間から日の光が差し込む。
着地して剣をクリスに突きつけて宣言する。

「僕は御幸乃恵瑠! きっちゃんの友達で! 新時代の雪の女王になるおとこ?で! ブリーチャーズ最強のノエリストだああああ!」
続き31行
151:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/05/01(火) 22:48:36
「僕の……勝ちだ!」

左手を一閃し、九段刀を投擲する。それはクリスの少し後ろの雪に突き刺さった。
狙いが外れたわけではない。狙ったのはクリスの影。
霊力を持つ刃を影に突き立て相手の動きを封じる影縫いの呪法、それを神器級の刀で行ったのだ。
付与した氷雪の霊力も相まって、暫しクリスをその場に縫い止めることに成功する。
続いて、神剣の柄を両手で持ち、走りながら雪上に文様を描く。
円をゆるいS状の曲線で分割したような、魚が二匹組み合わさっているようにも見える文様。
クリスもその範囲内に入っている。
文様を描き終わった乃恵瑠は剣を振り上げ――

「終わりだ! "ジャックフロストのクリス"!」

それを自分の目の前に突き立てた。その瞬間、魔法陣は完成し、円全体がまばゆい光を放つ。
九段刀と神剣が突き刺さっている場所がそれぞれ魚の目の部分となっている。
陰陽太極図――世界の成り立ち、森羅万象を陰と陽で表現する図式。
力の収束と発散を司り、偏った力の流れを調和へと導く――
クリスの力は、彼女が本来持っておくべき力ではない。
本来持つべきではない大きな力を持った事も、歪みの一因となってしまったのだろう。
強大な力とは、祝いであり同時に呪いでもある。 続き19行
152:
尾弐 黒雄 ◇pNqNUIlvYE[sage] 2018/05/01(火) 22:49:19
那須野の機転により召喚された霊獣とも言うべき存在の群れ。
彼等が英霊の部隊の部隊と衝突した事により、一時とはいえ尾弐は危機から脱する事が叶った。

未だ緊迫した状況であるとはいえ、絶命必至の状況から退避が叶う状態にまで持ってこれたのは大きい。
本来ならば、それを成し遂げた那須野に礼の一つでも言わねばならぬ場面なのであるが、
尾弐がその言葉を口に出す事は叶わなかった。何故ならば

「っ!? おい、どうした那須野――――!」

尾弐の眼前で那須野橘音が……常に飄々とした態度を崩さぬ東京ブリーチャーズのリーダーが、
糸の切れた人形の様に崩れ落ち、尾弐へと凭れ掛かってきたからである。
とっさの事に驚愕しつつも、その身体を取りこぼさない様に血まみれの右腕で抱え込んだ尾弐は、
触れた那須野の体温が尋常ではなく低下している事と、その身体を構成する妖気が枯渇しかけている事を感じ取り、顔面を蒼白にする。

>「……言ったでしょ。ボクたちにできることは、もう……何もありませんよ」
「喋るんじゃねぇ……お前さんは妖気の使い過ぎでケ枯れかけてんだ。無茶すると――――」

険しい表情でそう言い、那須野の発現を制止しようとする尾弐。
だが、那須野はその尾弐の制止を振り切り尚も言葉を紡ぐ。
続き30行
153:
尾弐 黒雄 ◇pNqNUIlvYE[sage] 2018/05/01(火) 22:49:51
>「嫌だーッ! 死にたくないッ!!」

場の空気を押しのける『聞きなれた』声が聞こえた。
声色こそ別人であるが、そのテンションはまさに東京ブリーチャーズのメンバーである美麗の青年のもの

>「僕は御幸乃恵瑠! きっちゃんの友達で! 新時代の雪の女王になるおとこ?で! ブリーチャーズ最強のノエリストだああああ!」

「……はは、あの色男が。相変わらず、相変わらずだな」

消えたかと思った――――塗りつぶされたかと思った、尾弐の良く知る青年。
東京ブリーチャーズの一員であるノエルの復活宣言。
それを聞いた尾弐は、己でも意識せずにその口元に小さな笑みを浮かべていた。

>「終わりだ! "ジャックフロストのクリス"!」

そして、白雪が陽光を反射し白亜に染まった境内で、ノエルがクリスの影に刀を突き刺し縫いとめる最中。
尾弐は脱いだ自身の喪服をシーツ代わりに敷き、その上に寝かせた那須野の口元へと己の右手……英霊の刀から受けた傷より赤く染まったソレを近づける。

「……まあ、なんだ。嫌だろうが無理にでも飲んで妖気補給しとけ、大将。
 鬼の血なんてロクなもんじゃねぇが……今回は英霊の付けた傷だからな。浄化されてちったぁはマシな味の筈だ」 続き3行
154:
多甫 祈 ◇MJjxToab/g[sage] 2018/05/01(火) 22:50:30
本殿前にて。
祈の体はぐらりと揺らいで、雪でできたカーペットの上に仰向けに倒れた。
 びゅうと吹きすさぶ冷たい風。雪が周囲に積もって視界は白一色に塗りつぶされていく。
これがかつてブリーチャーズを5人をも倒した力、その一端。
その地獄のような寒さの前には、祈など一溜りもないのだった。
 思ったよりも固い、雪に埋もれる感触を味わいながら、祈は思う。

(寒くなると眠くなるって本当だったんだな……。
まるで雪山で遭難したみたいだ……神社なのに……)

 フィクションの中だと、雪山で遭難してしまった人物が、
眠くなったと宣う相方に『寝ると死ぬぞ!』などと声を掛けて揺り起こそうとする類のシーンがあるが、
本当に眠くなるのかと祈は今まで半信半疑だった。だがどうやら本当だったようである。
 雪山などで眠くなるのは、低体温症という症状によるものだ。
猛烈な寒さに晒されると、人体はそれに抗い、熱を生み出すために全身の筋肉を激しく収縮させる。
それが体の震えだ。しかし震えを起こしても体温が上がらないような危機的な寒さである場合、
体は更に熱を生もうと筋肉への血流を増やし、筋肉をより動かそうと躍起になる。
体に流れる血液の量はほぼ一定に保たれている為、
熱を生み出そうと筋肉に血流を回してしまうと、脳へ送られる血流が減り、脳は貧血を起こす。
その脳貧血こそが雪山などで遭難した際に眠くなる、意識を失う、という現象の正体である。 続き15行
155:
多甫 祈 ◇MJjxToab/g[sage] 2018/05/01(火) 22:51:07
 薄く開いたままの瞳で、祈は拝殿の上で踊る影達をぼんやり眺めていた。
その片方、乃恵瑠と思しき影の動きが、シリアスなものから急にコミカルな動きに変わったのを見て、
ノエルが生きていたのだと、そんな風に思う。

(寒い中、頑張った甲斐があったかな……)

 祈としては乃恵瑠という女性のことを嫌っていた訳ではないから、
消えて欲しいなどとは微塵も思わなかった。
それにノエルは正確に言えば死んだのではなく、みゆきも乃恵瑠もノエルも、その魂は同じ。
思考パターンや姿形が違うだけで同一人物なのだと、頭で理解はしていた。
そして、ノエルがかつてはみゆきとして生き、感情を抑えきれず人里に被害を齎した存在だと言う事も知った。
それでももう一度あの笑顔に会いたい、話したいと願う気持ちは、理屈ではないのだった。
 ノエルが戻ってきた。生きていた。その事実は、どうしようもなく祈を安堵させる。
またノエルとバカみたいな話をできることが、笑い合えるのだということがたまらなく嬉しかった。
 そしてそのコミカルな動きの影は、祈の投げた神剣を見事に受け取り、
その超絶の力で天をも裂いて見せた。
更に、やや角度のズレた方向に投げてしまった九段刀はポチがキャッチし、
器用に首を振って鞘から抜き放った後、ノエルへと投げ渡した。
これによって完成する。ノエルの二刀流。
 それを合図にしたように、ノエルとクリスの苛烈を極める戦いが始まる。 続き19行
156:
ポチ ◇xueb7POxEZTT[sage] 2018/05/01(火) 22:52:30
振り下ろした爪が、何かを引き裂いた。
クリスの着物と、その更に奥にあった、薄っぺらく脆い何かを。

「手応え、あり……」

>「この……糞犬がァァァァァァァッ!!!」

次の瞬間、クリスが送り狼へと吹雪を放つ。
体温を奪う為のものではない、雹混じりの、命を断ち切る為の吹雪。
クリスに飛び付く形で空中にいたポチにそれを躱す術はない。
吹雪をまともに食らい、吹き飛び……拝殿の屋根の下にまで落下する。

「ち……」

血を止めてくれるなんてありがたいなあ。
そう言おうとして、しかしポチは言葉を紡げなかった。
大量の失血による酸欠に、極寒の吹雪の中で走り続けた事で喉が凍り付いたのだ。
自分の体が壊れつつある事を自覚したその瞬間、無視し続けてきた負担がポチに襲いかかる。
膝が震え、立ち上がれない。目が霞み、耳鳴りがする。
その耳鳴りに紛れて聞こえてくる、足音。 続き36行
157:
ポチ ◇xueb7POxEZTT[sage] 2018/05/01(火) 22:52:55
「冷たい……」

彼には、人が……半妖がどれほど体温を失ったら死ぬのかなど分からない。
どれほどの出血があれば人が生命を失うのかも分からない。
分かるのはただ、祈がいつもよりもずっと、死に近い状態にある事だけだ。
衣服の襟を咥えて引っ張る……降り積もった雪の中を、祈を引き摺るだけの力が、送り狼にはもうなかった。
うつ伏せに倒れた祈の腹の下に、雪を掘るように頭を潜らせ、背中へ持ち上げる。
ふらりとよろめきながらも、送り狼は橘音達の元へと歩き出す。
雪に絡め取られ、脚が思うように動かない。ただ歩いているだけなのに呼吸がもたない。
足を止め、息を整え……送り狼は拝殿の屋根を見上げた。

>「僕の……勝ちだ!」

まさにその瞬間、ノエルが高らかに勝利を宣言する。
乃恵留ではなく、ノエルが……だが送り狼は彼を見てはいなかった。
ノエルはそこにいて、帰ってくると、信じていたからだ。
送り狼が見つめるのは彼、だけではなく……ノエルとクリスの二人だ。
二人は互いに互いを愛している。限りなく深く、強い愛で、お互いを手に入れようとしている。
……凍り付いた鼻孔に、それでも感じ取れるほどの、においが届いた。
愛のにおいだ。他のどんな感情も、存在をも呑み込んでしまうような、強い愛のにおい。 続き32行
158:
那須野橘音 ◇TIr/ZhnrYI[sage] 2018/05/01(火) 22:53:53
>嫌だーッ! 死にたくないッ!!

「……なに!?」

突然の乃恵瑠の絶叫に、クリスは瞠目した。
それまで雪女らしい冷徹さで戦闘を継続していた乃恵瑠が、何を思ったかそんなことを言い出すとは。
そも、クリスに乃恵瑠を殺す気はない。ただ、ケ枯れを起こさせ戦う力を奪い取ろうとしていただけだ。
クリスは乃恵瑠の中で三つの人格が語り合い、融和し、統合されたという事実を察することができなかった。
ただ、目の前の乃恵瑠が今までの乃恵瑠でなくなった、ということだけを朧げに感じたのみである。

「なにが起こった……!?」

戸惑うクリスを前に乃恵瑠は祈が投擲した神剣を跳躍して受け取ると、それで空を一閃した。
重苦しく頭上に垂れ込めていた雪雲が、まるで薄紙を両断したかのように斬り裂かれ、日の光が差し込む。
それはクリスの張った氷の結界が破られたことの証左だった。
乃恵瑠がクリスへと神剣の切っ先を突きつける。

>僕は御幸乃恵瑠! きっちゃんの友達で! 新時代の雪の女王になるおとこ?で! ブリーチャーズ最強のノエリストだああああ!

「この期に及んで、まだそんなことを!」 続き39行
159:
那須野橘音 ◇TIr/ZhnrYI[sage] 2018/05/01(火) 22:54:22
「力……が……!みゆきの力が、みゆきが……いなくなる……!みゆ……き……!!」

雪の女王からみゆきを奪還しようと決意してから、以来数百年。
身体の中に宿るみゆきの妖力だけが、クリスにとって自分と妹とを繋ぐ唯一の『絆』だった。
この力があるから。みゆきを胸の奥底に感じることができたから。クリスは長年の孤独に耐え忍ぶことができたのだ。
しかし、その力が。クリスにとってはみゆきそのものとも言える妖力が、自分から離れてゆく。
みゆきが遠ざかってゆく。いなくなってしまう。自分の許から立ち去ってしまう――。
そう、思ったけれど。

>お姉ちゃん……
>みゆきは、ここにいるよ……!

力をなくす喪失感の代わりに、胸の中に飛び込んできたもの。
柔らかな感触。耳を擽る声。小さなその姿。
それは、この数百年。いかなる孤独と苦境の中にあっても、決して忘れなかったもの。
クリスが全身全霊で慈しみ、大切に育て、愛し守ってきたもの――

「……み……」

みゆき。 続き36行
160:
那須野橘音 ◇TIr/ZhnrYI[sage] 2018/05/01(火) 22:54:48
>……まあ、なんだ。嫌だろうが無理にでも飲んで妖気補給しとけ、大将。

尾弐が血にまみれた右手を伸ばす。
唇に指先が降れる感触。そこから滴る鮮血を、橘音は半ば無意識に舐めた。
血は生命そのもの。妖怪の血ともなれば、当然妖力も含まれている。
中でも鬼の血は強力なものだ。普段血を飲む習慣のない橘音の身体にも、覿面で効果が染み渡ってゆくのが分かる。

「げほッ、ごほ……!血を啜る妖怪たちの趣味が理解できませんね……。ボクはこの味、苦手です……」
「どうせご馳走してくれるなら、クロオさんの手料理の方が何倍もマシってもんです……。げほッ」

唇を開いて舌を伸ばし、尾弐の指を丁寧にしゃぶって血を飲むと、いくらか妖力が回復したのか噎せながらそんなことを言う。
だが、のんびりしてもいられない。橘音はゆっくり身を起こすと、雪に覆われた地面に片膝をついた。
あれだけ積もっていた雪が、今は随分少なくなっている。吹雪もほとんど止んでしまった。
それは、ノエルとクリスの戦いに決着がついたということの証左であろう。
実際、見上げた先にいるクリスからはもうほとんど妖気を感じない。それどころかケ枯れしかけている。
ノエルが見事、仲間たちの期待と信頼に応えてくれた――ということだろう。
作戦はうまくいった。東京ブリーチャーズは東京ドミネーターズの一角、ジャック・フロストのクリスを撃破したのだ。

「どうやら……今回の賭けも、ボクらの勝ちということのようですね」
続き39行
161:
那須野橘音 ◇TIr/ZhnrYI[sage] 2018/05/01(火) 23:21:54
深紅の瞳で、クリスが赤マントをねめあげる。

「ぐ……、なぜここに……!アタシの雪の結界に、外部から干渉する手段なんて……」

「クカカカカ……さっき、キミ自身が説明してくれたじゃァないか。『大統領には結界破りの得意な配下がいる』ってネ」

「く……そ……!アタシを……始末しに来たのか……!」

「キミは下等妖怪に敗北した。支配者たるべき東京ドミネーターズが逆に支配されてしまっては、もう存在価値はないのだヨ」

頭部以外をすっぽりと覆ったマントの内側から白手袋に包んだ右手を出すと、赤マントは長い人差し指でクリスを示した。
そして無情に言い放つ。仮にも同じ東京ドミネーターズであったはずだが、赤マントに仲間意識などというものは皆無らしい。

「ほざけ!」

か、とクリスが双眸を見開き、赤マントへ向けて吹雪を放つ。
ただ、その威力はつい先刻とは比べ物にならないほど弱まってしまっている。赤マントはそれを微風のように受け止め、

「ふん!」
続き38行
162:
那須野橘音 ◇TIr/ZhnrYI[sage] 2018/05/01(火) 23:22:26
「……赤マント!」

橘音は大鳥居の上に佇む真紅の影を睨むと、絞り出すような声でその名を告げた。
赤マントはやっと再会した雪女の姉妹へ向け、なおも酷薄な言葉を投げかける。

「クリスくん。今までのキミは、言うなればガラスの器がプール一杯分もの水を溜め込んでいたようなものだヨ」
「脆弱なキミの身体には、雪の女王の妖力の受け皿になるキャパシティなどなかった。その身体には絶えず大きな負荷がかかっていた」
「しかし、キミは雪の女王の莫大な妖力を用いて、全身に入ったヒビを無理矢理繋ぎ合わせていた――」
「となれば。雪の女王の妖力を失ったキミがどうなるかは、火を見るより明らか……だよねエ?」

ぱきっ。ぱきき、ぴき。

クリスの身体のあちこちに入った亀裂が、徐々に深くなってゆく。
しみひとつなかった肌がくすんでゆき、ボロボロと粉雪に変わり始める。

「……そんなことは、百も承知だったよ」

ふ、とクリスが小さく笑う。

「それでも、アタシはやらなくちゃならなかった。みゆきともう一度会うために、どんなことでもすると誓ったんだ」 続き34行
163:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/05/01(火) 23:23:30
>「あぁ……、みゆき!みゆきみゆきみゆき……みゆきぃ……!!」

「お姉ちゃん……お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!」

みゆきはクリスの胸に顔をうずめ、姉の呼びかけに応える。
歪む視界に、自分が数百年ぶりに涙を流していることに気付く。思えばみゆきは泣き虫だった。
かつて乃恵瑠となった時に感情を抑える事を無意識のうちに自分に課し、笑顔も涙も封じた。
ノエルになって笑顔を取り戻してからも涙を流す事は無く、不必要な機能として無くなったものと思っていたのに。
昨日のことのように思い出す、純白の日々。吹雪の夜。陽だまりの昼下がり。いつも一緒だった。
自分は決していい妹ではなかった。それどころか最悪の妹だった。
人間界を見に行きたいと駄々をこねてはまだ若かった姉を困らせた。
言いつけをちっとも守らず、挙句の果てには感情を爆発させて妖壊と化した。

>「……みゆき……よかった……。やっと……会えたね……」

次期雪の女王としての膨大な力が流れ込んでくる。呪われた力。厄災の元凶。
この力が無ければ人里に被害を齎さずに済んだ。姉が暴走することもなかった。
されど、この力があればこそ出来ることもある。
――陣の放つ光がおさまった時。
いつもの青年の姿に戻ったノエルが、クリスを抱きしめていた。 続き37行
164:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/05/01(火) 23:24:29
「姉上!」

ノエルは拝殿の上から飛び降り、クリスを守るように立つ。

「させない! 姉上には指一本触れさせない!」

しかし赤マントの目的はクリスの処分ではなかったようで、祭神簿と國魂神鏡が、あっさりと奪われ破壊された。
彼は分かっていたのだ、クリスはわざわざ手を下さずともここで終わりだということを。

>「さて、クリスくん。キミの任務は祭神簿と國魂神鏡の破壊だった。最後は吾輩がやる羽目になったが――」
>「キミ単独の働きでも、概ね任務は達成されていた。その功績をもって、我らが偉大なる大統領がお慈悲をかけてくださるそうだ」
>「クリスくん。今この瞬間をもって、キミを東京ドミネーターズから除名するヨ」
>「キミは自由だ……好きなだけ、念願の愛する妹さんとの時間を楽しむといい。……もっとも……」
>「あまり長い時間ではないと思うが……ネ」

氷が割れるように、クリスの顔にひびが入る。表情の見えない赤マントが、どこか楽しげに語る。

>「クリスくん。今までのキミは、言うなればガラスの器がプール一杯分もの水を溜め込んでいたようなものだヨ」
>「脆弱なキミの身体には、雪の女王の妖力の受け皿になるキャパシティなどなかった。その身体には絶えず大きな負荷がかかっていた」
>「しかし、キミは雪の女王の莫大な妖力を用いて、全身に入ったヒビを無理矢理繋ぎ合わせていた――」 続き34行
165:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/05/01(火) 23:25:04
「い……やだ……。もうあんなのは嫌だ。怖い、怖いよ……!」

次代の雪の女王として生まれてしまった自分は、その救済を受けることは許されなかった。
力を取り戻した今、また同じ轍を踏んでしまうのではないかという考えが頭をよぎる。
一度その可能性に思い至ってしまうと、恐怖が際限なく膨らんでいき、震えが止まらない。

>「……みゆ……き……」

息も絶え絶えのクリスに呼ばれ、はっとする。ブリーチャーズの仲間達が見ている。
みゆきも、乃恵瑠も、ノエルになってからも、たくさん愛された。
間引かれていればよかったなんて思うのは、愛してくれた人達に対する侮辱だ。

「ありがとう、ずっと忘れない」

クリスが伸ばした手を握り、感謝を伝える。
クリスがみゆきの力で生き長らえて来たのなら、取り戻した力を使い延命してやる事も出来た。
が、ノエルはそれをしようとしなかった。クリスはずっと前から死んでいるようなものだったのだ。
ずっと走り続けてきたんだ。そろそろ休ませてあげよう。もう大丈夫、思い出せたのだから。

>「ぉ……わかれ、の……時間……だ……」 続き31行
166:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/05/01(火) 23:25:28
「……」

暫く無言で立ち尽くしてから、仲間達の方に向き直るノエル。これは一人で掴んだ勝利ではない。

「祈ちゃん、ポチ君、剣を届けてくれてありがとう」

満身創痍になりながらも切り札の剣を送り届けてくれた祈とポチ。
妖壊と化した過去を知っても、変わらず大切な友人だと思ってくれた二人。
更にポチは、3年前の時点でブリーチャーズにいたにも拘わらず、クリスを殺さないように動いてくれた。

「橘音くん……全部、知ってたんだね。ここまで導いてくれてありがとう」

妖力のほぼすべてを使って動物軍団を召喚し、クリスとの戦いに邪魔が入らないようにしてくれた橘音。
彼は途中でポチに下がれと言っていた。最初から全てを知った上でノエルを導き、因縁に決着を付けさせたのだ。

「クロちゃん……」

尾弐に向かって、意地悪げな笑みを浮かべる。

「うわこいつ女装しやがったよドン引きって失礼過ぎるでしょ! 一応あっちが本来なんだからね!? 続き33行
167:
尾弐 黒雄 ◇pNqNUIlvYE[sage] 2018/05/01(火) 23:26:15
>「どうせご馳走してくれるなら、クロオさんの手料理の方が何倍もマシってもんです……。げほッ」

「いいから黙って飲め……今度、鰤大根とか作ってやるからよ」

そうして、武骨な指の表面を柔らかな舌先が擦るむず痒い感触に眉を顰めながら
尾弐は暫くの間、血と共に妖気を供給していたが……やがて、体温と妖気が一定の回復を見せたのだろう。
那須野はその身を起こし、ノエルとクリス。二人の方へと視線を向けた。
その動きに合わせるようにして、尾弐もまた視線を動かして見れば――――

>「お姉ちゃん……お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん!」
>「……みゆき……よかった……。やっと……会えたね……」

そこには、互いが互いを求めるかの様に抱きしめあう、二つで一つの人影が在った。
東京ドミネーターズ、ジャックフロストのクリス。
死と破壊と暴虐をまき散らした妖壊には、だが、もはや禍々しい力も悍ましい妄念も残っておらず。
ただ、普通の少女の様な……玉雪の様な笑顔だけがそこに残っていた。

>「どうやら……今回の賭けも、ボクらの勝ちということのようですね」

「ああ、そうだな……本当にすげぇよ。お前達は」 続き22行
168:
尾弐 黒雄 ◇pNqNUIlvYE[sage] 2018/05/01(火) 23:26:38
そうしてそのまま、見よう見まねの拙い術を用いながら二人を撫でていた尾弐は、
まだ治り切っていない二人の傷に視線を移し……ふと、零れたかの様に言葉を漏らす。

「そうか……いつの間にかお前達は、俺の予測なんて超えちまうくらいに強くなってたんだな……」

尾弐が、最低の手段を用いる事でしか解決出来ないと決め込んでいたクリスとの戦い。
けれど眼前の一人と一匹は、そんな尾弐の考えを易々と越えて、傷だらけになりながらも最良の道を切り開いた。
初めて会った時とは比べ物にならない二人の成長を前にして尾弐は……


・・・・・

『クリス』との戦闘は終わった。

だが――――その余韻は長くは続かない。
起点となり神社の静寂を破ったのは、突如として出現した妖気と、土嚢に刃物を突き立てたかのような音。

>「……赤……マント……!?」

那須野の声に異常を察知した尾弐は、即座に境内から飛び出したが 続き24行
169:
尾弐 黒雄 ◇pNqNUIlvYE[sage] 2018/05/01(火) 23:27:18
>「みゆきはここにいる。ずっと待ってる。姉上の帰る場所を作って待ってる。
>100年でも、1000年でも――だから、ゆっくりお休み」

繰り広げられるのは、幾百の時を越えてようやくの再開を果たした姉妹に訪れた、無情な別れの光景。
膨大な妖気を無理をして使用し続けた反動により自壊していくクリスの身体と、
粉雪と化し消えていくクリスの手を握り、悲しげな笑顔で彼女を見送るノエルの姿。

尾弐は……その二人に対して何も声を掛ける事が出来なかった。

尾弐にとって、クリスは滅ぼすべき敵であった。
それは、仮に彼女が無事に生き残っていたとしても尾弐自身がクリスを滅ぼしたであろうと思う程の。
だが今、視線の先で消えて行っている女に……尾弐は悪意を向ける事が出来ないでいる。

あらゆる物を、それこそ己の命ですらも使い、大切な物を守り抜こうと考えた女。
尾弐には、その気持ちが痛い程判ってしまうからだ。

故に尾弐は、目を瞑り二人の別れをただ沈黙を以って見守る。
それは今の尾弐の『妖壊』に対する最大限の譲歩で、そして冥福への祈りの様なものであった。

続き33行
170:
尾弐 黒雄 ◇pNqNUIlvYE[sage] 2018/05/01(火) 23:27:59
「……あー、オジサン。日頃の不摂生と二日酔いと失血のし過ぎが重なって、ここ数時間の記憶が曖昧なんだよな」

大袈裟に額に手を当てると、棒読みの台詞を吐き出し

「年食うと物忘れが激しくなってダメだな……色男の過去とか、全然思い出せねぇ」

――――何も見ず、何も聞かなかった事にした。
それは、酷い選択なのだろう。
過去も今も受け入れて認める事こそが『仲間』の定義であるとするならば、
見なかった事にして今のみを受け入れるという事は、ノエルを否定しているに等しい薄汚れた大人の選択だ。
だが、これが。この酷い解答が今の尾弐の精いっぱいだった。
……認められないが、認めたい。揺らぐ想いの中でかろうじで絞り出せた、妥協点であった。
ノエルから視線を逸らし

「すまねぇな、ノエル……いつか、いつかきっと『思い出せる』と思うから、それまで宜しく頼む」

辛そうにそう答えた尾弐は、ブリーチャーズの仲間から距離を取るようにして一歩、後ろへと下がった。
171:
多甫 祈 ◇MJjxToab/g[sage] 2018/05/01(火) 23:28:30
 そこはいつもの事務所だった。
橘音が所長用の椅子に座っていて、ノエルが来客用のソファに腰かけ、尾弐が棚の前で何らかの資料を調べている。
品岡がドアの外でタバコを吸っており、ポチが床に寝そべっていた。
 仕事が来ていないらしく、事務所には暇で退屈な、のほほんとした雰囲気が流れている。
 祈はソファの空いているところに腰を下ろし、皆が話している適当な話題に混じった。
ノエルが変なことを宣ったので手厳しいツッコミを入れてやると、そこでふと、体感温度が低い事に気付く。
 暖房入れたいなと祈は思ったが、ここにはノエルがいるし、そう言えば今日はノエルの姉が遊びに来るという話だった。
部屋の中を暖める訳にもいかないと、祈が震える腕をさすりながら我慢していると、
黒い毛玉が髪の毛を伸ばして祈の袖を引っ張った。
どこかに連れて行こうとしているらしい。しかし祈が動かないので、
諦めたその黒い毛玉は今度は祈の膝の上に飛び乗ってきた。
あったかい、などと思ったのも束の間、毛玉はモコモコと大きくなると、やがて祈を持ち上げた。
オマケコーナーがどうのと言って祈を運ぼうとする毛玉に、まだ早いだろとツッコミの膝蹴りをかましてやろうと思っていると。

>「祈ちゃん……寒いよね……。ごめんね、僕が人に化けられたら良かったのに……。
>だけど、駄目なんだ……それだけは、どうしても……出来ない……」
 声が聞こえて、祈はぼんやりと目を覚ました。
祈を背負って運んでいるのが毛玉ではなくて毛皮、否、狼であったことで、
先程まで見ていた映像が夢だと気付く。
 ポチの体温が移ったことで僅かに回復した程度の、 続き26行
172:
多甫 祈 ◇MJjxToab/g[sage] 2018/05/01(火) 23:28:51
 山に住む狼が神の使いとして考えられたこと等で妖怪化した説のある送り狼と、
犬妖説が濃厚なすねこすりという妖怪の間に生まれながら、ポチの生き方の理想は送り狼だったのだろう。
 しかし、生まれは誰にも選べない。
狼の生き方を望んでも、己の半分がすねこすりであるという事実は決して動かすことはできない。
そこには現実の理不尽さや、一種の絶望がある。
 せめて知性を持つ妖怪でなくただの獣に生まれていれば、
あるいは送り狼同士の子として生まれていれば、そんなことを考えることもなかっただろう。
しかし彼は考えた。そして己にない物をねだってしまったのかもしれなかった。
 その結果行き着いた答えが、恐らくは『家族』なのだ。
他でもない狼に。この世にいるかどうかすら分からぬ彼や彼女に同胞と認められ、
深く愛され、家族になる。群れをなす。同化する。属する。
それによってようやく己は狼になれるのだと、そう考えたのかもしれない。
余りにも強いその願い故に。ただのひと時であっても、狼の姿を捨てられないのだと。

>「……狼に、なりたいなぁ」
 ポチが力尽きたように倒れ、祈もまたその背から投げ出されて、雪の上に転がった。
ポチが倒れる寸前に吐いた言葉は、裏返してみれば悲しくも、己が狼ではないと認める言葉で。
祈は雪の降る空を見上げながら、寝ぼけた頭でポチに伝えるべきことを考えた。
 ポチに比べて祈はいくらかお姉さんであるし、言ってやらねばならぬ言葉があると思ったのだった。
 倒れたままのポチの背に祈はなんとか顔を向け、語りかける。 続き34行
173:
多甫 祈 ◇MJjxToab/g[sage] 2018/05/01(火) 23:29:33
「むが……」
 祈が次に目を覚ましたのは、クリスがノエルに別れを告げている時だった。
女王の力がノエルに譲渡されたことで、周囲の気温が正常な値に戻りつつあることと、
橘音の被せた迷い家外套や、尾弐のハンドヒーリングが祈の回復を促したのだった。
 覚醒した祈の意識が、今は寝ている場合ではないと警鐘を鳴らし、
祈はがばっと上半身を起こす。
撃たれた右肩がちくりと痛み、溶けた雪でびしょびしょの制服が気持ち悪かったが、
それらに構っている暇はなかった。
 祈は神剣を投げ渡した後、ノエルが「終わりだ」と言って剣を振り上げたところまでは記憶にある。
ノエルとクリスの決着はどうなったのかと拝殿を仰ぎ見るが、そこに二人の姿はなかった。
拝殿の上は戦場として狭すぎたのか、二人の姿はそこから視線を下げて、祈達と同じ大地の上にあった。
ノエルが倒れるクリスを大事そうに抱きしめていた。
(勝ったんだな……御幸……でも)
 ノエルに抱きしめられたクリスが、粉雪のように砕けていく。
 砕け散る彼女の残滓は、それでも愛おし気にノエルの頬を撫で、抱きしめ、ノエルの胸に溶けるように消えていった。
祈が見た夢のように、誰もが生きたままのハッピーエンドとは行かなかった、ということだ。
 ノエルとて好きでその結末を選んだわけではないだろうし、
>「みゆきはここにいる。ずっと待ってる。姉上の帰る場所を作って待ってる。
>100年でも、1000年でも――だから、ゆっくりお休み」
 それに、妖怪には“次”がある。 続き30行
174:
多甫 祈 ◇MJjxToab/g[sage] 2018/05/01(火) 23:30:03
 そうして仲間への礼を述べ終えると、ノエルは今度は全員に向けて言葉を紡いだ。
>「こんなにたくさん愛されているのに自分の事しか考えてなくて……
>一度は嫌われるのが怖すぎて消えようとしたのに……、信じてくれてありがとう」
>「でも……僕は今までの僕とは違ってしまったのかもしれない。
>有り得ないと思うだろうけど、さっき見たまんまなんだ。
>かつて化け物と化した雪ん娘も、冷徹な雪の王女も、ここに――」
>「それでもいい? それでも仲間だって思ってくれる?」
>「みんなさえ良ければ……僕は計画完遂の時まで……ブリーチャーズの御幸乃恵瑠でいたい!」
 ノエっていない、シリアスな声色だった。
胸に当てた手は、これが心からの言葉だと示しているように。
決意を込めた瞳。しかしどこか不安げな、確かめるような表情で。
>「……あー、オジサン。日頃の不摂生と二日酔いと失血のし過ぎが重なって、ここ数時間の記憶が曖昧なんだよな」
 それに最初に答えたのは、先程からノエルと微妙な雰囲気になっている尾弐であった。
>「年食うと物忘れが激しくなってダメだな……色男の過去とか、全然思い出せねぇ」
>「すまねぇな、ノエル……いつか、いつかきっと『思い出せる』と思うから、それまで宜しく頼む」
 尾弐は、祈が知る限りとても優しい鬼だ。
しかし、自分の意志で誰かを傷付ける《妖壊》などに対してはどうにも厳しい姿勢を見せる。
八尺様戦などではその圧倒的な力で、八尺様の噂の元となった快楽殺人鬼の魂を文字通り砕いている。
そんな男が、かつて人間に害を齎した《妖壊》を内に秘めたノエルを仲間として受け入れるには、
『保留』しかなかったのだろう。殺すか、赦すか。その選択を、忘れたことにして保留するしか。 続き26行
175:
ポチ ◇xueb7POxEZTT[sage] 2018/05/01(火) 23:31:09
送り狼は、暗闇の中にいた。
大量の失血と体温の低下は、彼の意識に微睡みをもたらしていた。
だが、彼はこのまま意識を手放してもいいと思っていた。
自分は既に役目を果たした。
心の内まで狼にはなれずとも、仲間に尽くし、頼みをやり遂げ、狼としての行為は果たせた、と。

>「……――――――■■」

けれども不意に、声が聞こえた。
送り狼ではない、しかし「居心地のいい自分」の名を呼ぶ声が。
祈の声……寒さも失血も彼女の命には届いていなかった。
送り狼はその事実に喜びを覚え、

>「見つかると……いいな。狼……」

しかし続けて紡がれた言葉を聞いた瞬間、彼は自分の弱った体の中で、心臓が大きく跳ね上がるのを感じた。
聞かれていた。自分の狼らしからぬ、女々しい泣き言が。
無意味な願望を捨てられない、仲間への不義が。
その事実が、彼の朦朧とする意識を更に遠のかせる。
いよいよ、彼は意識を手放して、楽になってしまおうと目を閉じかけて…… 続き40行
176:
ポチ ◇xueb7POxEZTT[sage] 2018/05/01(火) 23:31:32
送り狼は、暗闇の中にいた。
大量の失血と体温の低下は、彼の意識に微睡みをもたらしていた。
だが、彼はこのまま意識を手放してもいいと思っていた。
自分は既に役目を果たした。
心の内まで狼にはなれずとも、仲間に尽くし、頼みをやり遂げ、狼としての行為は果たせた、と。

>「……――――――■■」

けれども不意に、声が聞こえた。
送り狼ではない、しかし「居心地のいい自分」の名を呼ぶ声が。
祈の声……寒さも失血も彼女の命には届いていなかった。
送り狼はその事実に喜びを覚え、

>「見つかると……いいな。狼……」

しかし続けて紡がれた言葉を聞いた瞬間、彼は自分の弱った体の中で、心臓が大きく跳ね上がるのを感じた。
聞かれていた。自分の狼らしからぬ、女々しい泣き言が。
無意味な願望を捨てられない、仲間への不義が。
その事実が、彼の朦朧とする意識を更に遠のかせる。
いよいよ、彼は意識を手放して、楽になってしまおうと目を閉じかけて…… 続き40行
177:
ポチ ◇xueb7POxEZTT[sage] 2018/05/01(火) 23:31:54
送り狼は、暗闇の中にいた。
大量の失血と体温の低下は、彼の意識に微睡みをもたらしていた。
だが、彼はこのまま意識を手放してもいいと思っていた。
自分は既に役目を果たした。
心の内まで狼にはなれずとも、仲間に尽くし、頼みをやり遂げ、狼としての行為は果たせた、と。

>「……――――――■■」

けれども不意に、声が聞こえた。
送り狼ではない、しかし「居心地のいい自分」の名を呼ぶ声が。
祈の声……寒さも失血も彼女の命には届いていなかった。
送り狼はその事実に喜びを覚え、

>「見つかると……いいな。狼……」

しかし続けて紡がれた言葉を聞いた瞬間、彼は自分の弱った体の中で、心臓が大きく跳ね上がるのを感じた。
聞かれていた。自分の狼らしからぬ、女々しい泣き言が。
無意味な願望を捨てられない、仲間への不義が。
その事実が、彼の朦朧とする意識を更に遠のかせる。
いよいよ、彼は意識を手放して、楽になってしまおうと目を閉じかけて…… 続き40行
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