201X年、人類は科学文明の爛熟期を迎えた。
宇宙開発を推進し、深海を調査し。
すべての妖怪やオカルトは科学で解き明かされたかのように見えた。
――だが、妖怪は死滅していなかった!
都内、歌舞伎町。
不夜城を彩る煌びやかなネオンの光さえ当たらない、雑居ビルの僅かな隙間で、一組の男女がもつれ合っている。
若い女が仰向けに横たわる男に馬乗りになり、激しく息を喘がせている。
……しかし、それは人目を憚って繰り広げられる逢瀬などではない。
『喰って』いる。
女は耳まで裂けた口を大きく開くと、ノコギリのようなギザギザの歯で男の腹に噛み付き、はらわたを抉り出す。
まだ体温の残る肉を引き裂き、両手で臓腑を掴んでは貪り喰らう。
すでに絶息している男の身体が、グチャグチャという女の咀嚼に反応するかのように時折ビクンと痙攣する。
この世のものならぬ、酸鼻を極める食事の光景。
女は、人間ではなかった。
柔らかな臓物を、滴る血を存分に味わい、喉元をどす黒く染めた女が大きく仰け反って恍惚に目を細める。続き37行
宇宙開発を推進し、深海を調査し。
すべての妖怪やオカルトは科学で解き明かされたかのように見えた。
――だが、妖怪は死滅していなかった!
都内、歌舞伎町。
不夜城を彩る煌びやかなネオンの光さえ当たらない、雑居ビルの僅かな隙間で、一組の男女がもつれ合っている。
若い女が仰向けに横たわる男に馬乗りになり、激しく息を喘がせている。
……しかし、それは人目を憚って繰り広げられる逢瀬などではない。
『喰って』いる。
女は耳まで裂けた口を大きく開くと、ノコギリのようなギザギザの歯で男の腹に噛み付き、はらわたを抉り出す。
まだ体温の残る肉を引き裂き、両手で臓腑を掴んでは貪り喰らう。
すでに絶息している男の身体が、グチャグチャという女の咀嚼に反応するかのように時折ビクンと痙攣する。
この世のものならぬ、酸鼻を極める食事の光景。
女は、人間ではなかった。
柔らかな臓物を、滴る血を存分に味わい、喉元をどす黒く染めた女が大きく仰け反って恍惚に目を細める。続き37行
名前:多甫 祈 ◆MJjxToab/g [sage] 投稿日:2017/01/29(日) 02:05:35.30 ID:DtYvpmWH [7/8]
>「ボ、ボクは非戦闘員ですから……体力には自信がないんです、お早めに……お願い、します……よっと!」
やがて橘音の息が上がり始め、弱音を吐き始めた頃に祈は戻ってきた。
見ればどうやら、一体だけでも厄介なコトリバコの赤ん坊が更に増えているようで、
これは厄介だな、などと祈は事態にそぐわない軽い感想を抱く。
祈の姿は、先程までとは異なっている。
白い遮光カーテンか何かをローブのように頭から体を覆うように被っており、それを脚にも巻きつけている。
また、似たような布をいくつも、両手いっぱいに抱えていた。
一時戦場から姿を眩ました祈は、ここが商店街であり物が溢れていることのを良いことに、
自身の防具となるものをその場で調達してきてしまったのだった。
倒れた女性の顔に、祈は白いハンカチを載せた。
その苦悶の顔を、もう誰にも見られないように。そして、助けきれなくてごめんと心の中で手を合わせる。
「悪いね。ちょっと席外しちゃって」
ブリーチャーズの面々にそう軽く詫び、抱えた布を一部アスファルトへと置く。
コトリバコの赤ん坊の数が増えた。だから何だと言うのだろう、祈がやることは変わらない。
祈は駆けて、橘音が相手をしている、ハッカイのコトリバコの赤ん坊の背後へと回り込んだ。
そして強く助走をつける。狙うは、その左足。
「……ごめんな」
口を突いて出てきたのは謝罪の言葉だった。
>「ボ、ボクは非戦闘員ですから……体力には自信がないんです、お早めに……お願い、します……よっと!」
やがて橘音の息が上がり始め、弱音を吐き始めた頃に祈は戻ってきた。
見ればどうやら、一体だけでも厄介なコトリバコの赤ん坊が更に増えているようで、
これは厄介だな、などと祈は事態にそぐわない軽い感想を抱く。
祈の姿は、先程までとは異なっている。
白い遮光カーテンか何かをローブのように頭から体を覆うように被っており、それを脚にも巻きつけている。
また、似たような布をいくつも、両手いっぱいに抱えていた。
一時戦場から姿を眩ました祈は、ここが商店街であり物が溢れていることのを良いことに、
自身の防具となるものをその場で調達してきてしまったのだった。
倒れた女性の顔に、祈は白いハンカチを載せた。
その苦悶の顔を、もう誰にも見られないように。そして、助けきれなくてごめんと心の中で手を合わせる。
「悪いね。ちょっと席外しちゃって」
ブリーチャーズの面々にそう軽く詫び、抱えた布を一部アスファルトへと置く。
コトリバコの赤ん坊の数が増えた。だから何だと言うのだろう、祈がやることは変わらない。
祈は駆けて、橘音が相手をしている、ハッカイのコトリバコの赤ん坊の背後へと回り込んだ。
そして強く助走をつける。狙うは、その左足。
「……ごめんな」
口を突いて出てきたのは謝罪の言葉だった。
――例えば、ヘビー級ボクサーのパンチ力が800kg程だという話がある。
どのような計算式を用いて算出されたのかは定かでないが
これを単純にそのパンチ力を運動量で求めたものだと仮定すると、計算式はP=mv。
運動量=質量×速度(m/s。秒速○m)という形になる。
Pにはパンチ力である800kg、mにはそのボクサーがパンチに乗せた自重が入る。
今回は75kgの体重のボクサーが、そのパンチに全体重を乗せることができたと仮定しよう。
そうすると、800=75×……という式ができ、速度までも求めることができるようになる。
大凡10.7を当てはめれば800に到達するので、このボクサーのパンチの速度は秒速10.7mということになる。
時速に換算すれば38キロ程度。
100mを10秒で走る陸上選手でも、その速度を時速に直せば36キロ程度ということになるので、
人間の速度の限界という物を考えれば、ある種妥当な数字であるのやもしれない。
では、この式を祈に当て嵌めてみたとする。
彼女の体重が、前後はあるとはいえ45kg。加えて最高速度は時速140km。秒速に直すと388.8m。
全体重を載せた蹴りをこの速度で放てたと仮定すれば、mv=45×388.8となり、その運動量Pは17496kg。
即ち、その一撃の蹴りは『約17.5t』にも達することになる。
これは彼女の敬愛する特撮の単独ヒーローが通常フォームで放つ必殺技にも匹敵し、
しかもそれが彼女の細足に集約されるとなれば、その破壊力は。
――コトリバコの赤ん坊の大木のような足をも切断し、千切り飛ばす程となる。
《あぎゃあぁぁあ!!!? ぎゃ、ぎぃ、ああ、ああ、まあああぁ!!》続き32行
どのような計算式を用いて算出されたのかは定かでないが
これを単純にそのパンチ力を運動量で求めたものだと仮定すると、計算式はP=mv。
運動量=質量×速度(m/s。秒速○m)という形になる。
Pにはパンチ力である800kg、mにはそのボクサーがパンチに乗せた自重が入る。
今回は75kgの体重のボクサーが、そのパンチに全体重を乗せることができたと仮定しよう。
そうすると、800=75×……という式ができ、速度までも求めることができるようになる。
大凡10.7を当てはめれば800に到達するので、このボクサーのパンチの速度は秒速10.7mということになる。
時速に換算すれば38キロ程度。
100mを10秒で走る陸上選手でも、その速度を時速に直せば36キロ程度ということになるので、
人間の速度の限界という物を考えれば、ある種妥当な数字であるのやもしれない。
では、この式を祈に当て嵌めてみたとする。
彼女の体重が、前後はあるとはいえ45kg。加えて最高速度は時速140km。秒速に直すと388.8m。
全体重を載せた蹴りをこの速度で放てたと仮定すれば、mv=45×388.8となり、その運動量Pは17496kg。
即ち、その一撃の蹴りは『約17.5t』にも達することになる。
これは彼女の敬愛する特撮の単独ヒーローが通常フォームで放つ必殺技にも匹敵し、
しかもそれが彼女の細足に集約されるとなれば、その破壊力は。
――コトリバコの赤ん坊の大木のような足をも切断し、千切り飛ばす程となる。
《あぎゃあぁぁあ!!!? ぎゃ、ぎぃ、ああ、ああ、まあああぁ!!》続き32行
>「いや……なんつーか、お前さん随分とまあ、思春期のガキみてぇな反応だな。
一応言っとくが、祈の嬢ちゃんが言ってるのは那須野が嬢ちゃんへ護法を掛ける事で、那須野にムジナの術を掛けるって訳じゃねぇからな」
>「じゃかぁしい!自分は嬢ちゃんから保体の教科書でも借りて黙って読んどれ!!
無機質なわりに結構エグい図解見て夜眠れなくなったりしとけ!」
>「誰が厨二ファッションオサレ仮面ですかっ!?」
>「ごめん御幸、今のはあたしの言い方悪かったね。
勿論橘音のことは心配してるけど、さっきのは尾弐のおっさんが言ってた方の意味だから」
「えっ……ああ! そっか、そうだよね! ごめんごめん」
総ツッコミをくらったノエルはばつが悪そうながらも何故かどこか嬉しそうだ。
ナレーターの人まで釣られてノエってただって? それは気のせいだ(棒
ところでノエルは思っている事がすぐ顔に出るらしく、どうやら先程話に付いて行けていなかったのがバレバレだったらしい。
この際だからということで、その辺から橘音の高校の保健体育の教科書を引っ張り出して見始めた。
アレがアレアレでアレがアレな図解を暫し無言で見つめ……
「人間ってこうなってるのか……! これをこう変化させるの!? そりゃ大変だ!」
と、ようやく話に追いついた模様である。
黒雄が何故か洗面所に行き、いよいよムジナが祈に術をかける流れとなった。続き31行
一応言っとくが、祈の嬢ちゃんが言ってるのは那須野が嬢ちゃんへ護法を掛ける事で、那須野にムジナの術を掛けるって訳じゃねぇからな」
>「じゃかぁしい!自分は嬢ちゃんから保体の教科書でも借りて黙って読んどれ!!
無機質なわりに結構エグい図解見て夜眠れなくなったりしとけ!」
>「誰が厨二ファッションオサレ仮面ですかっ!?」
>「ごめん御幸、今のはあたしの言い方悪かったね。
勿論橘音のことは心配してるけど、さっきのは尾弐のおっさんが言ってた方の意味だから」
「えっ……ああ! そっか、そうだよね! ごめんごめん」
総ツッコミをくらったノエルはばつが悪そうながらも何故かどこか嬉しそうだ。
ナレーターの人まで釣られてノエってただって? それは気のせいだ(棒
ところでノエルは思っている事がすぐ顔に出るらしく、どうやら先程話に付いて行けていなかったのがバレバレだったらしい。
この際だからということで、その辺から橘音の高校の保健体育の教科書を引っ張り出して見始めた。
アレがアレアレでアレがアレな図解を暫し無言で見つめ……
「人間ってこうなってるのか……! これをこう変化させるの!? そりゃ大変だ!」
と、ようやく話に追いついた模様である。
黒雄が何故か洗面所に行き、いよいよムジナが祈に術をかける流れとなった。続き31行
「何? 何か顔に付いてる?」
祈が正気に戻ってみると、いつも通りのノエルがきょとんとした顔をしていることだろう。
>「股ぐらは窮屈やないか?嬢ちゃんが履いとるのが伸縮性のあるスポーツショーツならよほど大丈夫やと思うが、
背伸びしてシルクのパンツとか履いとるんだったらそこの阿呆にブリーフでも借りとき」
「そうやって人にさりげなくブリーフ派のイメージを植え付けようとしないで!
こっちは種族的にイメージとか神秘性とか大事なんだから!
しかも何でパンツの種類にそんなに詳しいんだ、パンツはパンツでいいじゃないか!
パンツは皆平等!」
性懲りもなくパンツを連呼しはじめた。やはりさっきのは160%気のせいであろう。
いい加減作画揺れ激しすぎるだろ!で流しちゃっていいんじゃないかな。
「それはそうと……全然変わったように見えないんだけど。品岡くん、本当にちゃんとやったの!?」
ノエルはぱっと見の絵面を重視する性質がある。
例えば髪が短くなる等の記号的表現が示されれば納得したのだが、見えないところだけ変化したと言われてもいまいちピンとこないようだ。
大体スマホカンニングしてたし絵的にどう見てもインチキ臭いと思ったんだ、祈ちゃんの命がかかっているのに橘音くんは何で何も言わないんだ!?続き16行
祈が正気に戻ってみると、いつも通りのノエルがきょとんとした顔をしていることだろう。
>「股ぐらは窮屈やないか?嬢ちゃんが履いとるのが伸縮性のあるスポーツショーツならよほど大丈夫やと思うが、
背伸びしてシルクのパンツとか履いとるんだったらそこの阿呆にブリーフでも借りとき」
「そうやって人にさりげなくブリーフ派のイメージを植え付けようとしないで!
こっちは種族的にイメージとか神秘性とか大事なんだから!
しかも何でパンツの種類にそんなに詳しいんだ、パンツはパンツでいいじゃないか!
パンツは皆平等!」
性懲りもなくパンツを連呼しはじめた。やはりさっきのは160%気のせいであろう。
いい加減作画揺れ激しすぎるだろ!で流しちゃっていいんじゃないかな。
「それはそうと……全然変わったように見えないんだけど。品岡くん、本当にちゃんとやったの!?」
ノエルはぱっと見の絵面を重視する性質がある。
例えば髪が短くなる等の記号的表現が示されれば納得したのだが、見えないところだけ変化したと言われてもいまいちピンとこないようだ。
大体スマホカンニングしてたし絵的にどう見てもインチキ臭いと思ったんだ、祈ちゃんの命がかかっているのに橘音くんは何で何も言わないんだ!?続き16行
>「一応種族が雪女のお前さんも持っとけ。万が一の可能性もあるからな」
一瞬意外な表情をしてから「ああそういえば!」といった表情に変わるノエル。
橘音には大丈夫と言われたものの、雪女(イケメン)がコトリバコに近付いてどうだったかという前例はない(そんなもんあったら困る)
コトリバコの明確な性別判定基準も謎なら雪女(中身残念だけどとりあえず見た目イケメン)がどういう存在なのかも謎なのだ。
そこは奥ゆかしくふわっとさせとくつもりだったのに何で女だけ殺す呪いの箱なんてややこしいものが出てくるんだ
という誰かさんの心の声が聞こえてきそうである。
とはいえ、コトリバコに相手を選ぶ権利があるとすればこんな変態はマジで本気で結構ですと全力でお断りだ、間違いない。
ノエルは物事を深く考えないので、この世ならざるイケメン(外見)の自分がよもやコトリバコの餌食になるとは思っていないものの――
「えへへっ、ありがとう!」
気にかけてくれた事自体が嬉しかったのだろう、照れたような笑みを浮かべて受け取ったのであった。
クロちゃんは本当にいい奴だなあ!と思っているノエルが、悪鬼を斬ったと言われたところでまさかその由来に気付こうはずもない。
>「あのぉ尾弐のアニキ、ワシの分は……?」
>「あと、性別と年齢的にムジナの分はねぇ」
>「ああ良かった!ナチュラルにハブられた思いましたわ!」
ハブられてないか気にするなんて意外と可愛いとこあるじゃん。続き17行
一瞬意外な表情をしてから「ああそういえば!」といった表情に変わるノエル。
橘音には大丈夫と言われたものの、雪女(イケメン)がコトリバコに近付いてどうだったかという前例はない(そんなもんあったら困る)
コトリバコの明確な性別判定基準も謎なら雪女(中身残念だけどとりあえず見た目イケメン)がどういう存在なのかも謎なのだ。
そこは奥ゆかしくふわっとさせとくつもりだったのに何で女だけ殺す呪いの箱なんてややこしいものが出てくるんだ
という誰かさんの心の声が聞こえてきそうである。
とはいえ、コトリバコに相手を選ぶ権利があるとすればこんな変態はマジで本気で結構ですと全力でお断りだ、間違いない。
ノエルは物事を深く考えないので、この世ならざるイケメン(外見)の自分がよもやコトリバコの餌食になるとは思っていないものの――
「えへへっ、ありがとう!」
気にかけてくれた事自体が嬉しかったのだろう、照れたような笑みを浮かべて受け取ったのであった。
クロちゃんは本当にいい奴だなあ!と思っているノエルが、悪鬼を斬ったと言われたところでまさかその由来に気付こうはずもない。
>「あのぉ尾弐のアニキ、ワシの分は……?」
>「あと、性別と年齢的にムジナの分はねぇ」
>「ああ良かった!ナチュラルにハブられた思いましたわ!」
ハブられてないか気にするなんて意外と可愛いとこあるじゃん。続き17行
場面は変わって、一行は稲城市に来ていた。
お上りさんがやらかしちゃった的なキメ過ぎな和パンクファッション、喪服のマッチョ、Vシネのヤクザ、極めつけは大正学徒のキツネ仮面。
はっきり言って祈以外はコスプレ集団。ただでさえ人目を引いてしまう。
“ヒーロー活動をしているのがバレてはいけない系ヒーロー”の祈の心境は如何なるものだろうか。
「くっ……凄いプレッシャーだ……!」
等とテンプレ台詞を言いながら、ノエルは橘音に伴われて進んでいく。
台詞だけ見るとふざけているように見えるが、表情に割と余裕が無い。
あまりにも状況がぴったりすぎてマジでその言葉が出ているのである。
>「……この妖気!皆さん、来ますよ!」
>「あ……あ……、ああああああああ……!ひっ、ひぎっ……あぁ、ぎ……ぎゃあああああああああ―――ッ!!!」
「祈ちゃん、見るな!!」
あまりにも凄惨なコトリバコによる呪殺の光景を前にして、ノエルは思わず近くにいた祈を自分の方に抱き寄せた。
絶命した女性のすぐ隣にあった箱を見て橘音が一言。
続き31行
お上りさんがやらかしちゃった的なキメ過ぎな和パンクファッション、喪服のマッチョ、Vシネのヤクザ、極めつけは大正学徒のキツネ仮面。
はっきり言って祈以外はコスプレ集団。ただでさえ人目を引いてしまう。
“ヒーロー活動をしているのがバレてはいけない系ヒーロー”の祈の心境は如何なるものだろうか。
「くっ……凄いプレッシャーだ……!」
等とテンプレ台詞を言いながら、ノエルは橘音に伴われて進んでいく。
台詞だけ見るとふざけているように見えるが、表情に割と余裕が無い。
あまりにも状況がぴったりすぎてマジでその言葉が出ているのである。
>「……この妖気!皆さん、来ますよ!」
>「あ……あ……、ああああああああ……!ひっ、ひぎっ……あぁ、ぎ……ぎゃあああああああああ―――ッ!!!」
「祈ちゃん、見るな!!」
あまりにも凄惨なコトリバコによる呪殺の光景を前にして、ノエルは思わず近くにいた祈を自分の方に抱き寄せた。
絶命した女性のすぐ隣にあった箱を見て橘音が一言。
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氷粒の煌めきと共に銀髪に青目の妖怪としての姿になり、その手に氷の錫杖が現れる。
変身ヒロインものではメイクアップ!という掛け声があるが、コイツの場合普段の方が化けた状態なのであれとは逆である。
杖を出す事に一見特に意味はなさそうだが、気分で妖力が変動したりもするノエルにとって絵面は重要なのだ。
ちなみに以前魔法少女風のステッキを出して黒雄あたりからブーイングを食らったことがあるとかないとか。
「クロちゃん、祈ちゃん、前お願いね! みんな武器出して! そーおれ!」
杖を一振りし、まずは蹴りを攻撃手段とする祈の靴に向かって、氷の妖力の付与――
靴の裏に霊的な氷の棘が現れ、妖力スパイクのようになるだろう。
他の人にも、こんな感じで任意の武器に付与できるはずだ。
祈はいったんコトリバコを攻撃しようとするも、何かを思いついたらしく近くの店に入っていった。
皆それに特に疑問を持つことはない。
ベースが人間であり妖怪としての性質や凝り固まったセオリーに縛られない祈は、武防具を現地調達したり
「ゲームならシステム上できないよね!?」という行動を取って事態を打開することが度々あるのだ。
祈がいない間、こちらはとりあえず普通に戦う事とする。
「――アイシクルエッジ!」
無数の巨大な氷柱を撃ちこむ連続攻撃。
ちなみに技名のようなものは大抵ゲームからのパクリでありノエル的感覚でなんとなく格好良ければ何でもよく、単に掛け声のようなものである。続き19行
変身ヒロインものではメイクアップ!という掛け声があるが、コイツの場合普段の方が化けた状態なのであれとは逆である。
杖を出す事に一見特に意味はなさそうだが、気分で妖力が変動したりもするノエルにとって絵面は重要なのだ。
ちなみに以前魔法少女風のステッキを出して黒雄あたりからブーイングを食らったことがあるとかないとか。
「クロちゃん、祈ちゃん、前お願いね! みんな武器出して! そーおれ!」
杖を一振りし、まずは蹴りを攻撃手段とする祈の靴に向かって、氷の妖力の付与――
靴の裏に霊的な氷の棘が現れ、妖力スパイクのようになるだろう。
他の人にも、こんな感じで任意の武器に付与できるはずだ。
祈はいったんコトリバコを攻撃しようとするも、何かを思いついたらしく近くの店に入っていった。
皆それに特に疑問を持つことはない。
ベースが人間であり妖怪としての性質や凝り固まったセオリーに縛られない祈は、武防具を現地調達したり
「ゲームならシステム上できないよね!?」という行動を取って事態を打開することが度々あるのだ。
祈がいない間、こちらはとりあえず普通に戦う事とする。
「――アイシクルエッジ!」
無数の巨大な氷柱を撃ちこむ連続攻撃。
ちなみに技名のようなものは大抵ゲームからのパクリでありノエル的感覚でなんとなく格好良ければ何でもよく、単に掛け声のようなものである。続き19行
というのも、囲まれたら、前を黒雄や祈に任せて自分は後ろから攻撃に専念という盤石の布陣が取れなくなるから困るのだ。
しかも敵がなまじ知能がある奴だったりすると
「あいつ味方の強化とか強い妖術攻撃とかしてきてウザいし見た感じヒョロそうだから先にやっちまおうぜ!」
となるのが鉄板である。
>「あ、あれぇ~?これは……死んだ、かなぁ……?」
とにかく、このままでは数秒後に橘音が集中攻撃を食らう展開が目に見えている!
ノエルは、橘音のイマイチ分かり辛いながら本気で助けを求める呟きに、高らかな詠唱で応えた。
詠唱してる暇があったらさっさと発動しろよと思われそうだが、通常の氷柱カッキーン等は一瞬で発動できるが、大技にはそれなりの溜めが必要なのだ。
「極寒の地の氷の神よ、我に力を与えたまえ。言葉は氷柱、氷柱は剣。
身を貫きし凍てつきゅ…氷の刃よ、今嵐となり我が障壁を壊さん!」
途中で明らかに噛み、やばっ!という顔をしたが、強引に押し切る。
「エターナルフォースブリザード!!」
妖力を解き放つと、8体全てのコトリバコを氷雪の嵐が襲う。
詠唱をすることで日本全国津々浦々の厨二病患者のパワーを集めることができ続き20行
しかも敵がなまじ知能がある奴だったりすると
「あいつ味方の強化とか強い妖術攻撃とかしてきてウザいし見た感じヒョロそうだから先にやっちまおうぜ!」
となるのが鉄板である。
>「あ、あれぇ~?これは……死んだ、かなぁ……?」
とにかく、このままでは数秒後に橘音が集中攻撃を食らう展開が目に見えている!
ノエルは、橘音のイマイチ分かり辛いながら本気で助けを求める呟きに、高らかな詠唱で応えた。
詠唱してる暇があったらさっさと発動しろよと思われそうだが、通常の氷柱カッキーン等は一瞬で発動できるが、大技にはそれなりの溜めが必要なのだ。
「極寒の地の氷の神よ、我に力を与えたまえ。言葉は氷柱、氷柱は剣。
身を貫きし凍てつきゅ…氷の刃よ、今嵐となり我が障壁を壊さん!」
途中で明らかに噛み、やばっ!という顔をしたが、強引に押し切る。
「エターナルフォースブリザード!!」
妖力を解き放つと、8体全てのコトリバコを氷雪の嵐が襲う。
詠唱をすることで日本全国津々浦々の厨二病患者のパワーを集めることができ続き20行
ノエルは少しも妖壊を攻撃するのを躊躇うことは無い。彼は何故か確信しているからだ。
《妖壊》が自分を滅した相手に最後に抱く感情、それは――
山よりも高く海よりも深い、感謝という言葉では言い表せない感謝だと。
全くもっておめでたい思考回路である。
布を纏った祈は、ハッカイの両足を人知を超えた蹴りで吹き飛ばす。
両足が無くなっても浮遊しているので動けないわけではないのだが、それでも機動力はかなり落ちたはずだ。
中学か高校ぐらいの物理の計算をすると祈のキックがどれほど凄いのかが具体的によく分かるのだが
ノエルに物質世界の学問の代表格である物理の理論なんて分かるはずもなく、単純に「祈ちゃんのキックは超凄い」と思っている。
その確固たる物理学の理論に裏付けされた超凄いキックに
ノエルの完全スピリチュアルワールドなよく分からない謎パワーが付与されているのだから、それはもう最強というものだ。
例えるなら、年末のしょうもない番組でお馴染みの大槻教授と韮澤さんがタッグを組んだようなものだ。
>「御幸っ! お願い!」
祈に決め手を託されたノエルは、すっ――と少し目を細める。
世界の裏に焦点を合わせる、この世ならざる世界を見るような目つき
と言えば恰好よさげだが、平たく言えば3D画像を見る時のような感じだ。
祈が普通に目に見える継ぎ目を狙ったことからヒントを得て、霊的な継ぎ目を見ているのだ。
そうしてみると、それは想像以上に継ぎ接ぎだらけの代物であった。
続き12行
《妖壊》が自分を滅した相手に最後に抱く感情、それは――
山よりも高く海よりも深い、感謝という言葉では言い表せない感謝だと。
全くもっておめでたい思考回路である。
布を纏った祈は、ハッカイの両足を人知を超えた蹴りで吹き飛ばす。
両足が無くなっても浮遊しているので動けないわけではないのだが、それでも機動力はかなり落ちたはずだ。
中学か高校ぐらいの物理の計算をすると祈のキックがどれほど凄いのかが具体的によく分かるのだが
ノエルに物質世界の学問の代表格である物理の理論なんて分かるはずもなく、単純に「祈ちゃんのキックは超凄い」と思っている。
その確固たる物理学の理論に裏付けされた超凄いキックに
ノエルの完全スピリチュアルワールドなよく分からない謎パワーが付与されているのだから、それはもう最強というものだ。
例えるなら、年末のしょうもない番組でお馴染みの大槻教授と韮澤さんがタッグを組んだようなものだ。
>「御幸っ! お願い!」
祈に決め手を託されたノエルは、すっ――と少し目を細める。
世界の裏に焦点を合わせる、この世ならざる世界を見るような目つき
と言えば恰好よさげだが、平たく言えば3D画像を見る時のような感じだ。
祈が普通に目に見える継ぎ目を狙ったことからヒントを得て、霊的な継ぎ目を見ているのだ。
そうしてみると、それは想像以上に継ぎ接ぎだらけの代物であった。
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「あれぇ~? おっかしいなあ~」
特に相手の見た目に大きな変化はない。しかし言葉とは裏腹に予想の範疇である。
霊的3D視が出来る者には分かるだろう、実は見た目以上に不可視の切り込みが刻まれ首の皮一枚で繋がっている状態。
あと一発衝撃を加えてやればバラバラに砕け散るかもしれない。
が、見た目にはよく分からない致命傷を与えられて怒ったのかもしれないハッカイにターゲットロックオンされてしまった。
「えっ、ちょ、ビジュアル的に無理! お断りします!」
体当たりを辛うじて避ける。相手の足があるままだったら余裕で死んでたな!
後衛が調子に乗って前に出てくると碌なことにならないのだ。
「たーすーけーてー!!」
と叫びながら、追いかけられながら何故か黒雄の方に猛ダッシュ。
クロちゃんなら!クロちゃんならなんとかしてくれる!と思っているらしい。
駄目だこりゃ! 少なくとも祈から見たらただの間抜けにしか見えない!
特に相手の見た目に大きな変化はない。しかし言葉とは裏腹に予想の範疇である。
霊的3D視が出来る者には分かるだろう、実は見た目以上に不可視の切り込みが刻まれ首の皮一枚で繋がっている状態。
あと一発衝撃を加えてやればバラバラに砕け散るかもしれない。
が、見た目にはよく分からない致命傷を与えられて怒ったのかもしれないハッカイにターゲットロックオンされてしまった。
「えっ、ちょ、ビジュアル的に無理! お断りします!」
体当たりを辛うじて避ける。相手の足があるままだったら余裕で死んでたな!
後衛が調子に乗って前に出てくると碌なことにならないのだ。
「たーすーけーてー!!」
と叫びながら、追いかけられながら何故か黒雄の方に猛ダッシュ。
クロちゃんなら!クロちゃんならなんとかしてくれる!と思っているらしい。
駄目だこりゃ! 少なくとも祈から見たらただの間抜けにしか見えない!
>「ああ良かった!ナチュラルにハブられた思いましたわ!」
「そいつぁすまねぇな。お詫びに、お前さんの葬式は俺の所で挙げてやるぜ。特別価格の2割引だ」
三人に護符を渡した尾弐は、ムジナの軽口と祈とノエルの礼に対して右手をヒラヒラと振って答えると、
そのまま歩を後ろに進めて壁に背を預ける。
――――と。
そんな鬼の元に、何か含みの有る笑みを讃えた那須野が近づいてきた。
「……ん? 那須野、どうした?」
これまでのブリーチャーズの活動において、那須野その表情を度々見てきた尾弐は、
半ば獣じみた直感により微妙に距離を取ろうとする。
だが、那須野はそれよりも早く尾弐の傍に寄ると、爪先立ちで耳元に口を寄せ
>「クロオさんのそういうところ。好きですよ」
「!?」
続き23行
「そいつぁすまねぇな。お詫びに、お前さんの葬式は俺の所で挙げてやるぜ。特別価格の2割引だ」
三人に護符を渡した尾弐は、ムジナの軽口と祈とノエルの礼に対して右手をヒラヒラと振って答えると、
そのまま歩を後ろに進めて壁に背を預ける。
――――と。
そんな鬼の元に、何か含みの有る笑みを讃えた那須野が近づいてきた。
「……ん? 那須野、どうした?」
これまでのブリーチャーズの活動において、那須野その表情を度々見てきた尾弐は、
半ば獣じみた直感により微妙に距離を取ろうとする。
だが、那須野はそれよりも早く尾弐の傍に寄ると、爪先立ちで耳元に口を寄せ
>「クロオさんのそういうところ。好きですよ」
「!?」
続き23行
稲城市、某所。常であれば親子連れでにぎわうその商店街は、今や死地と化していた。
鳴り響く救急車両の甲高いサイレンと、血に塗れ倒れ伏した数多の女性の死体。
その死体に縋り付いて慟哭の声を上げる、伴侶と思わしき男性。
或いは、死という概念が理解出来ず死体と化した母親を必至に起こそうとする少年。
そして、その凄惨な光景を、掲げた携帯電話のカメラで修めようと躍起になっている野次馬達。
むせ返るような鉄と吐瀉物の臭いの中で繰り広げられるその情景は、正しく阿鼻叫喚。
此処は、地獄に在らずにして地獄で在った。
そして、そんな地獄の一丁目。
血の赤で染まった修羅の巷を奥へと進む、珍妙な集団がここに一つ。
時代がかった服を来た、正体不明の狐面。
人外の美貌を持つ色白の青年。
胡散臭さを隠しもしない、色眼鏡を掛けたチンピラ。
不謹慎にも喪服を着こむ、猛禽の様な目をした巨躯の男
そして、その集団の中において、常識的な恰好をしているが故に逆に視線を集める中学生。
彼等の名は、漂白する者達(ブリーチャーズ)
眼前の地獄を払拭する為に、敢えて地獄に踏み込んだ、勇敢な愚か者達である。続き18行
鳴り響く救急車両の甲高いサイレンと、血に塗れ倒れ伏した数多の女性の死体。
その死体に縋り付いて慟哭の声を上げる、伴侶と思わしき男性。
或いは、死という概念が理解出来ず死体と化した母親を必至に起こそうとする少年。
そして、その凄惨な光景を、掲げた携帯電話のカメラで修めようと躍起になっている野次馬達。
むせ返るような鉄と吐瀉物の臭いの中で繰り広げられるその情景は、正しく阿鼻叫喚。
此処は、地獄に在らずにして地獄で在った。
そして、そんな地獄の一丁目。
血の赤で染まった修羅の巷を奥へと進む、珍妙な集団がここに一つ。
時代がかった服を来た、正体不明の狐面。
人外の美貌を持つ色白の青年。
胡散臭さを隠しもしない、色眼鏡を掛けたチンピラ。
不謹慎にも喪服を着こむ、猛禽の様な目をした巨躯の男
そして、その集団の中において、常識的な恰好をしているが故に逆に視線を集める中学生。
彼等の名は、漂白する者達(ブリーチャーズ)
眼前の地獄を払拭する為に、敢えて地獄に踏み込んだ、勇敢な愚か者達である。続き18行
>「た……、た、助けて……。助けて……ください……」
尾弐達の進行方向の先に在る薬局の中から、フラフラと白衣を着込んだ女性が歩き出て来たのである。
やはり呪いに侵されており、その衣服は赤色で染まっているが……それでも女はまだ生きていた。
「ちっ……!」
けれど、尾弐がその女を助ける為に動く事は無かった。
むしろ小さく舌打ちをしてから右腕を横に伸ばし、一同に背中を見せて壁となり、
女の元へ寄る事を制止をしてみせたのである。
>「……この妖気!皆さん、来ますよ!」
>「あ……あ……、ああああああああ……!ひっ、ひぎっ……あぁ、ぎ……ぎゃあああああああああ―――ッ!!!」
>「祈ちゃん、見るな!!」
そしてそれは、尾弐が眼前の女性がもはや助からないと判断したが故の事。
そう。女はまだ、生きていた――――けれど、もう手遅れな程に呪詛に侵されてしまっていたのである。
やがて、女の腹は腹にガスの溜まった死体の様に弾け飛び……新たな血溜まりとなったその足元に、コロリと小さな箱が転がった。
>「付喪神化していますね」続き23行
尾弐達の進行方向の先に在る薬局の中から、フラフラと白衣を着込んだ女性が歩き出て来たのである。
やはり呪いに侵されており、その衣服は赤色で染まっているが……それでも女はまだ生きていた。
「ちっ……!」
けれど、尾弐がその女を助ける為に動く事は無かった。
むしろ小さく舌打ちをしてから右腕を横に伸ばし、一同に背中を見せて壁となり、
女の元へ寄る事を制止をしてみせたのである。
>「……この妖気!皆さん、来ますよ!」
>「あ……あ……、ああああああああ……!ひっ、ひぎっ……あぁ、ぎ……ぎゃあああああああああ―――ッ!!!」
>「祈ちゃん、見るな!!」
そしてそれは、尾弐が眼前の女性がもはや助からないと判断したが故の事。
そう。女はまだ、生きていた――――けれど、もう手遅れな程に呪詛に侵されてしまっていたのである。
やがて、女の腹は腹にガスの溜まった死体の様に弾け飛び……新たな血溜まりとなったその足元に、コロリと小さな箱が転がった。
>「付喪神化していますね」続き23行
「ったく、無茶しやがって……あいよ、了解だ大将」
尾弐は、那須野が無事にコトリバコの怪異を往なした事を確認すると、
その無茶な行動に対して苦々しい表情を浮かべたが……けれど、それを止める事はせずに、那須野の指示に対して是と答える。
それは、長い付き合いであるが故の、尾弐からの那須野への信頼であると言えよう。
頭脳労働担当である那須野が『囮となる事が出来る』と言った以上、それは可能な事なのだろうと、尾弐はそう判断したのである。
>「何考えてんだこのキツネ仮面がぁ! いきなり目立とうなんて思わなくていいから!」
だが、それはそれとして那須野の行動が無茶な事には変わりない。
尾弐が知る限り、彼の探偵は荒事向きではない為、ノエルが心配するのもまた当然と言えよう。
「そう思うなら、さっさとアレをどうにかしようぜ色男。
目立つ間もなく凍らせて砕いてかき氷みたいにすりゃあ、那須野の出番も無くなるだろ」
故に、尾弐はノエルの言動を否定する事も肯定する事も無く、
ただ、コトリバコの異形へと近づくと右腕を振りかぶり――――
「うおっ……!?」
続き38行
尾弐は、那須野が無事にコトリバコの怪異を往なした事を確認すると、
その無茶な行動に対して苦々しい表情を浮かべたが……けれど、それを止める事はせずに、那須野の指示に対して是と答える。
それは、長い付き合いであるが故の、尾弐からの那須野への信頼であると言えよう。
頭脳労働担当である那須野が『囮となる事が出来る』と言った以上、それは可能な事なのだろうと、尾弐はそう判断したのである。
>「何考えてんだこのキツネ仮面がぁ! いきなり目立とうなんて思わなくていいから!」
だが、それはそれとして那須野の行動が無茶な事には変わりない。
尾弐が知る限り、彼の探偵は荒事向きではない為、ノエルが心配するのもまた当然と言えよう。
「そう思うなら、さっさとアレをどうにかしようぜ色男。
目立つ間もなく凍らせて砕いてかき氷みたいにすりゃあ、那須野の出番も無くなるだろ」
故に、尾弐はノエルの言動を否定する事も肯定する事も無く、
ただ、コトリバコの異形へと近づくと右腕を振りかぶり――――
「うおっ……!?」
続き38行
>オギャアアァアァアァアァアァァァァ……
>オォオォオォオオ……オ……オギャアアァアァァアァアアアア……!!!
>「ま……、まさか……!」
「おいおいおいおい、ちょっと待て。冗談だろ」
けれども、状況はここで悪化する。
コトリバコの怪物がその口腔から垂れ流す泣き声。それが、いつの間にか『増えて』いたのだ。
其れも、一つ弐つではない。
増えた泣き声は――――合わせて七つ。
>「あ、あれぇ~?これは……死んだ、かなぁ……?」
>「てめぇら大増殖してんじゃねえ! せめて横一列か前後二列に並べ―――――ッ!!
敵が8体も好き勝手に動き回ったら処理落ちするから!」
「数がいれば強ぇって訳でもねぇが、厄介なのは間違いねぇな……こりゃあ割に合わねぇぞ」
増えた怪物達。八体のコトリバコの怪物は、現れて早々に即座に尾弐達を敵対対象と認識した様である。
そして、同じ呪具であるが故にその行動指針も似通っているのだろう。
コトリバコ達は……那須野へと群がる様に、うぞうぞと進み出した。続き33行
>オォオォオォオオ……オ……オギャアアァアァァアァアアアア……!!!
>「ま……、まさか……!」
「おいおいおいおい、ちょっと待て。冗談だろ」
けれども、状況はここで悪化する。
コトリバコの怪物がその口腔から垂れ流す泣き声。それが、いつの間にか『増えて』いたのだ。
其れも、一つ弐つではない。
増えた泣き声は――――合わせて七つ。
>「あ、あれぇ~?これは……死んだ、かなぁ……?」
>「てめぇら大増殖してんじゃねえ! せめて横一列か前後二列に並べ―――――ッ!!
敵が8体も好き勝手に動き回ったら処理落ちするから!」
「数がいれば強ぇって訳でもねぇが、厄介なのは間違いねぇな……こりゃあ割に合わねぇぞ」
増えた怪物達。八体のコトリバコの怪物は、現れて早々に即座に尾弐達を敵対対象と認識した様である。
そして、同じ呪具であるが故にその行動指針も似通っているのだろう。
コトリバコ達は……那須野へと群がる様に、うぞうぞと進み出した。続き33行
そんな祈を見て、尾弐は思う
(ああ――――弱くて、脆いな)
それは侮蔑でも罵倒でもない。尾弐という妖怪が抱いた、ただの感想である。
弱さを補う戦い方も、敵対している妖壊に抱く懺悔の心も、尾弐は持っていない。
弱さは強さで塗り潰す。
鬼という種族にはそれが出来る性能が有った。
妖壊に対する慈悲の心も無い。
例えどの様な理由があれ、殺人を犯した存在は許される事は無く、救われる必要も無く、
ただただ地獄の底まで落ち込むべきだと、尾弐はそう考えているからだ。
そうであるが故に、己の弱さを認め敵対者への憐憫の心を持つ祈は、尾弐にとっては脆弱な存在であり。
そうであるがこそ、尾弐にとっては目を背けてしまいたくなる程に、眩しい存在であった。
僅かな放心。
けれど、その間にも状況は前へ前へと進んでいく。
気が付けば、眼前には叫び声を上げるノエルと、迫り来る両足を失ったハッカイのコトリバコ。続き35行
(ああ――――弱くて、脆いな)
それは侮蔑でも罵倒でもない。尾弐という妖怪が抱いた、ただの感想である。
弱さを補う戦い方も、敵対している妖壊に抱く懺悔の心も、尾弐は持っていない。
弱さは強さで塗り潰す。
鬼という種族にはそれが出来る性能が有った。
妖壊に対する慈悲の心も無い。
例えどの様な理由があれ、殺人を犯した存在は許される事は無く、救われる必要も無く、
ただただ地獄の底まで落ち込むべきだと、尾弐はそう考えているからだ。
そうであるが故に、己の弱さを認め敵対者への憐憫の心を持つ祈は、尾弐にとっては脆弱な存在であり。
そうであるがこそ、尾弐にとっては目を背けてしまいたくなる程に、眩しい存在であった。
僅かな放心。
けれど、その間にも状況は前へ前へと進んでいく。
気が付けば、眼前には叫び声を上げるノエルと、迫り来る両足を失ったハッカイのコトリバコ。続き35行
品岡の施術、尾弐の護符、二段構えの呪詛対策はこれで完了した。
少なくとも今日のうちに祈がコトリバコの標的になることはあるまい。そう言い切るだけの信頼を彼ら同士が持っている。
ならば事態は巧遅よりも拙速、あとは出撃を待つばかり――
>「これ以上の対策は、はっきり言って蛇足でしょう。ボクも護符の類を考えましたが、クロオさんの刃物に勝るものは作れません」
>「それに何をしたところで無駄なときは無駄ですから。やられるときはやられます、なので『もうこれはアカン』と思ったら――」
>「皆さん、踊ってください」
橘音の提案した最後の対策、その突拍子もない言葉にブリーチャーズは異口同音に困惑した。
しかし橘音は都合4つの沈黙も意に介さず、大真面目に謎ステップを踏んで追従するよう促してくる。
アキレス腱がよく伸ばせそうな足の動きは一見珍妙のようで、軽やかに踏み切れば確かに舞踊と言えなくもない。
>「わかりました?んじゃ、全員でやってみましょうか。はい、クロオさんもムジナさんも恥ずかしがらないで~」
「よう分からんけど任しといてください。このムジナ、こう見えて踊りは得意でっせ。
バブルの頃はクラブでブイブイ言わせたもんですわ!」
当時の流行曲を鼻歌しながら上機嫌に足を捌き、無意味に腰の振りまで加えるヤクザ。
言われた通りに足踏みして、陰陽師の使いっ走りはようやくその動きに見当がついた。
続き38行
少なくとも今日のうちに祈がコトリバコの標的になることはあるまい。そう言い切るだけの信頼を彼ら同士が持っている。
ならば事態は巧遅よりも拙速、あとは出撃を待つばかり――
>「これ以上の対策は、はっきり言って蛇足でしょう。ボクも護符の類を考えましたが、クロオさんの刃物に勝るものは作れません」
>「それに何をしたところで無駄なときは無駄ですから。やられるときはやられます、なので『もうこれはアカン』と思ったら――」
>「皆さん、踊ってください」
橘音の提案した最後の対策、その突拍子もない言葉にブリーチャーズは異口同音に困惑した。
しかし橘音は都合4つの沈黙も意に介さず、大真面目に謎ステップを踏んで追従するよう促してくる。
アキレス腱がよく伸ばせそうな足の動きは一見珍妙のようで、軽やかに踏み切れば確かに舞踊と言えなくもない。
>「わかりました?んじゃ、全員でやってみましょうか。はい、クロオさんもムジナさんも恥ずかしがらないで~」
「よう分からんけど任しといてください。このムジナ、こう見えて踊りは得意でっせ。
バブルの頃はクラブでブイブイ言わせたもんですわ!」
当時の流行曲を鼻歌しながら上機嫌に足を捌き、無意味に腰の振りまで加えるヤクザ。
言われた通りに足踏みして、陰陽師の使いっ走りはようやくその動きに見当がついた。
続き38行
直近の被災現場、東京都稲城市はまさに震源地の如き地獄絵図を展開していた。
各所を封鎖する黄色いテープ、ひっきりなしに往復する救急車と警察車両、倒れた母を呼ぶ子供の鳴き声――
安全帽にサージカルマスク姿でカメラを抱えるマスコミが、路肩の野次馬に矢継ぎ早に質問を投げかけている。
道中で確認したSNSでは、現場の惨状が加速度的に広められており、早いものはYoutubeにすら動画が上がっていた。
>「こいつぁヤベェな……商店街一帯、呪詛まみれじゃねぇか。まるで黄泉比良坂だ」
血反吐と吐瀉物にまみれたアスファルトを踏み締め人の海の中を行く、五人の男女達。
妖狐、ターボババァ(孫)、雪女(男)、鬼、のっぺらぼう(元)のオカルトリカル・パレード。
橘音の幻術によって警察の案内を受けるブリーチャーズに、野次馬達のカメラは集中する。
「おうおう!なに撮っとんねや!見せモンちゃうぞゴラアアアア!!」
最後尾に引っ付いていたいかにもヤクザな人相の悪い男が唾を散らしながら野次馬たちに食って掛かる。
異常事態に遠巻きに沸いていた見物人達が、汚物を見るような目でカメラを逸らした。
>「この『残り香』から察するに……コトリバコはまずこの近辺に現れ、あちらへ向かったようですね」
>「くっ……凄いプレッシャーだ……!」
「救助活動もあっちの方は難航しとるみたいや。原因不明の発信源に迂闊に近付けられんのやろな」続き39行
各所を封鎖する黄色いテープ、ひっきりなしに往復する救急車と警察車両、倒れた母を呼ぶ子供の鳴き声――
安全帽にサージカルマスク姿でカメラを抱えるマスコミが、路肩の野次馬に矢継ぎ早に質問を投げかけている。
道中で確認したSNSでは、現場の惨状が加速度的に広められており、早いものはYoutubeにすら動画が上がっていた。
>「こいつぁヤベェな……商店街一帯、呪詛まみれじゃねぇか。まるで黄泉比良坂だ」
血反吐と吐瀉物にまみれたアスファルトを踏み締め人の海の中を行く、五人の男女達。
妖狐、ターボババァ(孫)、雪女(男)、鬼、のっぺらぼう(元)のオカルトリカル・パレード。
橘音の幻術によって警察の案内を受けるブリーチャーズに、野次馬達のカメラは集中する。
「おうおう!なに撮っとんねや!見せモンちゃうぞゴラアアアア!!」
最後尾に引っ付いていたいかにもヤクザな人相の悪い男が唾を散らしながら野次馬たちに食って掛かる。
異常事態に遠巻きに沸いていた見物人達が、汚物を見るような目でカメラを逸らした。
>「この『残り香』から察するに……コトリバコはまずこの近辺に現れ、あちらへ向かったようですね」
>「くっ……凄いプレッシャーだ……!」
「救助活動もあっちの方は難航しとるみたいや。原因不明の発信源に迂闊に近付けられんのやろな」続き39行
橘音の声に足を止めた祈を、ノエルが素早く抱き寄せる。
彼らの足元数メートルの位置までの地面が赤黒い死の色に濡れた。
「"中"になんか居るで!」
破裂の勢いか、はたまた自ら跳躍したのか――原型を留めぬ亡骸のかたわらに、一つの小箱が落ちた。
複雑な木目で織られたそれは、寄木細工と呼ばれる工芸品だ。
一見してただの薄汚い小箱であるが、頬を叩くような圧力を伴う凄まじい妖気がそこから放たれていた。
>「付喪神化していますね」
「あれが鞍馬山からパクられたっちゅうコトリバコの本体でっか……!」
似たようなものを退魔した経験がある品岡だが、"あのクラス"の呪物と対面したのは初めてであった。
コトリバコの最上位、『ハッカイ』。人間の悪意の凝集物。村一つを皆殺しにした本物の霊的災害。
永年封印指定のそれが、自我を持った付喪神と化している。考えうる限りの最悪の事態だった。
コトリバコの中から地獄の底から響くような赤子の鳴き声が轟いた。
見えない糸に吊られたように箱が宙に浮き、ひとりでに細工を解いていく。
スライドし、回転し、さながら橘音が弄んでいたルービックキューブのように形を組み替えていく。続き39行
彼らの足元数メートルの位置までの地面が赤黒い死の色に濡れた。
「"中"になんか居るで!」
破裂の勢いか、はたまた自ら跳躍したのか――原型を留めぬ亡骸のかたわらに、一つの小箱が落ちた。
複雑な木目で織られたそれは、寄木細工と呼ばれる工芸品だ。
一見してただの薄汚い小箱であるが、頬を叩くような圧力を伴う凄まじい妖気がそこから放たれていた。
>「付喪神化していますね」
「あれが鞍馬山からパクられたっちゅうコトリバコの本体でっか……!」
似たようなものを退魔した経験がある品岡だが、"あのクラス"の呪物と対面したのは初めてであった。
コトリバコの最上位、『ハッカイ』。人間の悪意の凝集物。村一つを皆殺しにした本物の霊的災害。
永年封印指定のそれが、自我を持った付喪神と化している。考えうる限りの最悪の事態だった。
コトリバコの中から地獄の底から響くような赤子の鳴き声が轟いた。
見えない糸に吊られたように箱が宙に浮き、ひとりでに細工を解いていく。
スライドし、回転し、さながら橘音が弄んでいたルービックキューブのように形を組み替えていく。続き39行
>「ボクが囮になります!皆さん、コトリバコに総攻撃!まずは『ケ枯れ』させましょう!」
橘音はそう皆に指示した。囮。つまり彼はコトリバコの攻撃が自分に向くと認識している。
攻撃される理由に、心当たりがあるのだ。
(ようそんなんで嬢ちゃんに駄目出ししたなぁ。自分が一番危険やって分かっとるんやないか)
橘音の――彼か、彼女か――その秘された覚悟をおぼろげに感じ取って、品岡は内心で苦笑した。
そしてそれだけだ。何も変わらない。そんなことは、妖怪にとっては、どうだっていいのだ。
「しゃあ!これだけ膳が揃ったんや。そろそろ品岡おじさんのカッコ良いとこ見せたらんとな。
荒事はヤクザの専売特許ってこと、教えたるわい」
品岡はポケットから指先ほどのサイズの何かを取り出し、指で弾いた。
それは空中で形状変化を解かれ、もとの大きさとなって彼の手に握られる。
工事現場で基礎打ちや解体に用いられるスレッジハンマー。
人間の頭蓋骨など容易く粉砕可能な、彼の持つ武器の一つである。
>「何考えてんだこのキツネ仮面がぁ! いきなり目立とうなんて思わなくていいから!」
続き40行
橘音はそう皆に指示した。囮。つまり彼はコトリバコの攻撃が自分に向くと認識している。
攻撃される理由に、心当たりがあるのだ。
(ようそんなんで嬢ちゃんに駄目出ししたなぁ。自分が一番危険やって分かっとるんやないか)
橘音の――彼か、彼女か――その秘された覚悟をおぼろげに感じ取って、品岡は内心で苦笑した。
そしてそれだけだ。何も変わらない。そんなことは、妖怪にとっては、どうだっていいのだ。
「しゃあ!これだけ膳が揃ったんや。そろそろ品岡おじさんのカッコ良いとこ見せたらんとな。
荒事はヤクザの専売特許ってこと、教えたるわい」
品岡はポケットから指先ほどのサイズの何かを取り出し、指で弾いた。
それは空中で形状変化を解かれ、もとの大きさとなって彼の手に握られる。
工事現場で基礎打ちや解体に用いられるスレッジハンマー。
人間の頭蓋骨など容易く粉砕可能な、彼の持つ武器の一つである。
>「何考えてんだこのキツネ仮面がぁ! いきなり目立とうなんて思わなくていいから!」
続き40行
巨大な頭部に棘を突き刺していた品岡はその動きにハンマーごと振り下ろされ、アスファルトに墜落する。
受け身をとって転がりながら衝撃を吸収すると、その上から緑色の液体が降ってきた。
「ひえっ……」
咄嗟に後ろへ跳躍し、なんとか引っ被ることは避けられた。
そしてそれがとてつもなく幸運だったことに、溶かされていくアスファルトを見て痛感した。
「迂闊に殴りゃしっぺ返しが来るってことかいな……」
化学耐性の高い舗装材であるアスファルトがああも容易く溶けるほどの強酸。
酸というよりも『溶かす』という呪詛に近い。それもとびきり強烈な。
おそらくは、臓器を溶解させるコトリバコ本来の呪いを戦闘用に改造して使っているのだ。
悠長に分析している暇はない。コトリバコはその粘液を、あろうことか自らの口から吐き出してきた。
「ちょっ、待て、待て待て待てや!」
波打ち際のフナムシのようにカサカサと逃げ惑う品岡。
追従する粘液が道路上に溶解の傷跡を点々と残していく。
続き39行
受け身をとって転がりながら衝撃を吸収すると、その上から緑色の液体が降ってきた。
「ひえっ……」
咄嗟に後ろへ跳躍し、なんとか引っ被ることは避けられた。
そしてそれがとてつもなく幸運だったことに、溶かされていくアスファルトを見て痛感した。
「迂闊に殴りゃしっぺ返しが来るってことかいな……」
化学耐性の高い舗装材であるアスファルトがああも容易く溶けるほどの強酸。
酸というよりも『溶かす』という呪詛に近い。それもとびきり強烈な。
おそらくは、臓器を溶解させるコトリバコ本来の呪いを戦闘用に改造して使っているのだ。
悠長に分析している暇はない。コトリバコはその粘液を、あろうことか自らの口から吐き出してきた。
「ちょっ、待て、待て待て待てや!」
波打ち際のフナムシのようにカサカサと逃げ惑う品岡。
追従する粘液が道路上に溶解の傷跡を点々と残していく。
続き39行
>「ま……、まさか……!」
>「そのまさかみたいだね……!」
>「おいおいおいおい、ちょっと待て。冗談だろ」
「あかんやろ……反則ちゃうんかそんなん……」
戦場となった薬局周辺に集うようにして現れたのは、新手のコトリバコ――7体。
交戦中のハッカイと合わせて計8体のコトリバコ、イッポウからハッカイまでご丁寧に全種類が勢揃いだ。
>「てめぇら大増殖してんじゃねえ! せめて横一列か前後二列に並べ―――――ッ!!
敵が8体も好き勝手に動き回ったら処理落ちするから!」
「もっと良いグラボを買えええーーーっ!!」
あまりの絶望的展開に錯乱した品岡の見当違いのツッコミが飛ぶ。
>「数がいれば強ぇって訳でもねぇが、厄介なのは間違いねぇな……こりゃあ割に合わねぇぞ」
「わはははははアニキ面白い冗談言わはりますな!……今まで割に合う仕事があったかっちゅうねん」
続き38行
>「そのまさかみたいだね……!」
>「おいおいおいおい、ちょっと待て。冗談だろ」
「あかんやろ……反則ちゃうんかそんなん……」
戦場となった薬局周辺に集うようにして現れたのは、新手のコトリバコ――7体。
交戦中のハッカイと合わせて計8体のコトリバコ、イッポウからハッカイまでご丁寧に全種類が勢揃いだ。
>「てめぇら大増殖してんじゃねえ! せめて横一列か前後二列に並べ―――――ッ!!
敵が8体も好き勝手に動き回ったら処理落ちするから!」
「もっと良いグラボを買えええーーーっ!!」
あまりの絶望的展開に錯乱した品岡の見当違いのツッコミが飛ぶ。
>「数がいれば強ぇって訳でもねぇが、厄介なのは間違いねぇな……こりゃあ割に合わねぇぞ」
「わはははははアニキ面白い冗談言わはりますな!……今まで割に合う仕事があったかっちゅうねん」
続き38行
しかし祈はお花摘みに中座したわけではないらしい。
それが証拠に彼女が身体や手足をぐるぐる巻きにしている白い物体はトイレットペーパーではなく分厚い布だ。
同じものの予備も持ってきたらしき祈は布の山を地面に置く。
「……戦えるんやな、嬢ちゃん」
品岡は糾弾をやめて静かにそう言った。
少女は答えない。応答は、言葉ではなく姿勢で示した。
祈の姿が再び消える。風が巻き、再び彼女が出現したのはハッカイの真後ろだった。
その俊足で敵の後ろに回り込んだのだ。
>「……ごめんな」
祈はハッカイの後ろで何事かをつぶやき、その足元に蹴りを入れた。
「あかん!嬢ちゃんがなんぼ足速くてもそいつのぶっとい足には蹴り負け――」
――ハッカイの柱と見まごう異形の脚が、爆発したように吹っ飛んだ。
千切れ飛んだ巨大な左足が人知を超えた速度で飛び、路肩の乗用車に直撃して爆ぜた。
続き38行
それが証拠に彼女が身体や手足をぐるぐる巻きにしている白い物体はトイレットペーパーではなく分厚い布だ。
同じものの予備も持ってきたらしき祈は布の山を地面に置く。
「……戦えるんやな、嬢ちゃん」
品岡は糾弾をやめて静かにそう言った。
少女は答えない。応答は、言葉ではなく姿勢で示した。
祈の姿が再び消える。風が巻き、再び彼女が出現したのはハッカイの真後ろだった。
その俊足で敵の後ろに回り込んだのだ。
>「……ごめんな」
祈はハッカイの後ろで何事かをつぶやき、その足元に蹴りを入れた。
「あかん!嬢ちゃんがなんぼ足速くてもそいつのぶっとい足には蹴り負け――」
――ハッカイの柱と見まごう異形の脚が、爆発したように吹っ飛んだ。
千切れ飛んだ巨大な左足が人知を超えた速度で飛び、路肩の乗用車に直撃して爆ぜた。
続き38行
>「えっ、ちょ、ビジュアル的に無理! お断りします!」
「何言っとるんやあいつ……」
こんな時にも発動するあれはもはや「ノエル」という名の状態異常かもしれない。
脚を失ったハッカイが身をよじらせてタックルを仕掛ける。ノエルはそれを危なげなく退避した。
身体をささえられないハッカイは地面を滑り、その衝撃で右の豪腕が外れて転がった。
「通っとったんか、刃が!」
ノエルの斬撃線と同じ部位が切り離されている。
皮一枚を断ったと見えて、その実皮一枚を残して他を断っていたのだ。
げに恐るべきはその刃の冴え、雪女の妖力は伊達ではない。
>「たーすーけーてー!!」
戦果を確認することなくノエルは走る、その先には氷の金棒を抱えた尾弐がいる。
釣り野伏の如く釣られて這いずるハッカイは、手足がないながらも凄まじい速度で尾弐へと迫る。
「よっしゃあああ!これで勝つるっ!!」続き39行
「何言っとるんやあいつ……」
こんな時にも発動するあれはもはや「ノエル」という名の状態異常かもしれない。
脚を失ったハッカイが身をよじらせてタックルを仕掛ける。ノエルはそれを危なげなく退避した。
身体をささえられないハッカイは地面を滑り、その衝撃で右の豪腕が外れて転がった。
「通っとったんか、刃が!」
ノエルの斬撃線と同じ部位が切り離されている。
皮一枚を断ったと見えて、その実皮一枚を残して他を断っていたのだ。
げに恐るべきはその刃の冴え、雪女の妖力は伊達ではない。
>「たーすーけーてー!!」
戦果を確認することなくノエルは走る、その先には氷の金棒を抱えた尾弐がいる。
釣り野伏の如く釣られて這いずるハッカイは、手足がないながらも凄まじい速度で尾弐へと迫る。
「よっしゃあああ!これで勝つるっ!!」続き39行
「なるほど確かにクソガキの癇癪から他の子供を守ってやるのも……大人の役目ですな」
尾弐と品岡は東京ブリーチャーズにおける『大人』……実年齢ではなく立ち回りとしての大人という立場だ。
無論そこには荒事担当というポジショニングの理由も含まれているが、それだけではないと品岡は思う。思いたい。
たとえ盃を交わしていなくとも、一方的に慕っているだけだとしても。
尾弐と品岡は義兄弟だ。――兄貴分の信頼には、応えるのが舎弟の身上だ。
「ほな、兄貴が三匹引き受けてくるっちゅうさかい……ワシは二匹ばかし相手にしようかね」
懐から煙草を取り出し、片手で火を点ける。
肺一杯に煙を吸い込んで吐き出した彼の眼前には、二体のコトリバコが凍結から復帰し動き始めていた。
牛程度の大きさの『イッポウ』とライトバンほどの『ロッポウ』。
イッポウはコトリバコの中においては最下位だが、それでも複数人を容易く殺める呪詛を持っている。
ロッポウに至ってはその強力さを語るべくもない。
スレッジハンマーを肩に担い、煙草を挟んだ指先をクイクイと曲げて二体のコトリバコを挑発する。
「来いやガキども。たかだか百年ぽっち生きた程度で図に乗るんちゃうぞ。大人の怖さ教えたるわ」
――――!――――!!
続き40行
尾弐と品岡は東京ブリーチャーズにおける『大人』……実年齢ではなく立ち回りとしての大人という立場だ。
無論そこには荒事担当というポジショニングの理由も含まれているが、それだけではないと品岡は思う。思いたい。
たとえ盃を交わしていなくとも、一方的に慕っているだけだとしても。
尾弐と品岡は義兄弟だ。――兄貴分の信頼には、応えるのが舎弟の身上だ。
「ほな、兄貴が三匹引き受けてくるっちゅうさかい……ワシは二匹ばかし相手にしようかね」
懐から煙草を取り出し、片手で火を点ける。
肺一杯に煙を吸い込んで吐き出した彼の眼前には、二体のコトリバコが凍結から復帰し動き始めていた。
牛程度の大きさの『イッポウ』とライトバンほどの『ロッポウ』。
イッポウはコトリバコの中においては最下位だが、それでも複数人を容易く殺める呪詛を持っている。
ロッポウに至ってはその強力さを語るべくもない。
スレッジハンマーを肩に担い、煙草を挟んだ指先をクイクイと曲げて二体のコトリバコを挑発する。
「来いやガキども。たかだか百年ぽっち生きた程度で図に乗るんちゃうぞ。大人の怖さ教えたるわ」
――――!――――!!
続き40行
――――ッ!!
頭部を棘つきスレッジハンマーで痛打されたロッポウは、しかし頑丈な頚部によって仰け反ることはなかった。
炎上していたイッポウも地面を転がって火を消し、こちらへ飛び掛かってきている。
前方と背後、挟み撃ちの形になり品岡に逃げ場はない。
果たして、二つの巨大質量の激突は品岡をペシャンコに潰す……ことはなかった。
品岡の周囲に紫電が走り、イッポウとロッポウは見えない壁に阻まれた。
「流石橘音の坊っちゃん、よう効きよるわ」
――禹歩による簡易結界。
だが踏ん張りが必要なハンマーを振るっていた品岡に軽いステップを刻む余裕などあるはずもない。
靴の中。脚の全ての指を形状変化で足そのものに変え、禹歩を刻ませた。
十本の足指にそれぞれ歩法を踏ませる両足×5の五重奏により強引に禹歩の結界を成立させたのだ。
「おら、軽いのから退けや」
返す刀でイッポウの顔面にハンマーを叩き込む。
ロッポウよりも軽いイッポウは衝撃をこらえ切ることができず、アスファルトの上を滑るようにふっ飛ばされた。
ノエルの付与妖術によりそのまま凍りついた地面に縫い止められる。続き37行
頭部を棘つきスレッジハンマーで痛打されたロッポウは、しかし頑丈な頚部によって仰け反ることはなかった。
炎上していたイッポウも地面を転がって火を消し、こちらへ飛び掛かってきている。
前方と背後、挟み撃ちの形になり品岡に逃げ場はない。
果たして、二つの巨大質量の激突は品岡をペシャンコに潰す……ことはなかった。
品岡の周囲に紫電が走り、イッポウとロッポウは見えない壁に阻まれた。
「流石橘音の坊っちゃん、よう効きよるわ」
――禹歩による簡易結界。
だが踏ん張りが必要なハンマーを振るっていた品岡に軽いステップを刻む余裕などあるはずもない。
靴の中。脚の全ての指を形状変化で足そのものに変え、禹歩を刻ませた。
十本の足指にそれぞれ歩法を踏ませる両足×5の五重奏により強引に禹歩の結界を成立させたのだ。
「おら、軽いのから退けや」
返す刀でイッポウの顔面にハンマーを叩き込む。
ロッポウよりも軽いイッポウは衝撃をこらえ切ることができず、アスファルトの上を滑るようにふっ飛ばされた。
ノエルの付与妖術によりそのまま凍りついた地面に縫い止められる。続き37行
「……小賢しい糞餓鬼やなぁ。ええけどな、学ぶことは子供の特権や言うやろ。
勉強しとけ。最初に言うたように、ワシが自分に教えるんは大人の怖さや。いくつかあるからよう聞いとけ」
イッポウへ向けて人差し指を立てる。
「ひとつ、年上には敬意を払えや。ワシは自分の三倍は生きとる大先輩やぞ」
ぼこん、とくぐもった音を立ててイッポウの身体が膨らんだ。
イッポウ自身の意志によるものではない。奇声に困惑の色が交じる。
品岡は二本目の指を立てた。
「ふたつ、妖怪同士の戦いで、一発入れたら終いなんてことあるわけないやろ」
膨張の源は、イッポウに打ち込まれた小さな拳銃弾。
ただの銃弾ではない品岡の特製だ。と言っても何か特別な呪術が施されているわけではない。
本当に、そのままの意味で、品岡が作った弾である。
ヤクザ社会に荒れ狂う絶不況という波が真っ先に直撃したのは、彼らの得物……銃だった。
輸入コストや密輸の費用が上乗せされ、今や弾一発に千円近い値段がついている。
貧乏ヤクザの品岡は苦肉の策として使用済みの薬莢と火薬を組み合わせ、銃弾を自作していた。続き31行
勉強しとけ。最初に言うたように、ワシが自分に教えるんは大人の怖さや。いくつかあるからよう聞いとけ」
イッポウへ向けて人差し指を立てる。
「ひとつ、年上には敬意を払えや。ワシは自分の三倍は生きとる大先輩やぞ」
ぼこん、とくぐもった音を立ててイッポウの身体が膨らんだ。
イッポウ自身の意志によるものではない。奇声に困惑の色が交じる。
品岡は二本目の指を立てた。
「ふたつ、妖怪同士の戦いで、一発入れたら終いなんてことあるわけないやろ」
膨張の源は、イッポウに打ち込まれた小さな拳銃弾。
ただの銃弾ではない品岡の特製だ。と言っても何か特別な呪術が施されているわけではない。
本当に、そのままの意味で、品岡が作った弾である。
ヤクザ社会に荒れ狂う絶不況という波が真っ先に直撃したのは、彼らの得物……銃だった。
輸入コストや密輸の費用が上乗せされ、今や弾一発に千円近い値段がついている。
貧乏ヤクザの品岡は苦肉の策として使用済みの薬莢と火薬を組み合わせ、銃弾を自作していた。続き31行
「あらよっと!」
一転して激しい戦闘の坩堝と化した商店街を、縦横に橘音が跳ねる。
>えぇっ!? 囮って……弱いくせに何言ってんの!?
>何考えてんだこのキツネ仮面がぁ! いきなり目立とうなんて思わなくていいから!
ノエルの悲鳴にも似た言葉が示す通り、橘音がからっきし荒事の不得意な化生であることは周知の事実である。
実際、今の橘音にコトリバコを物理的にケ枯れさせる手段はない。
が、『斃せない』は『対抗手段がない』と同義ではない。
獣由来の身のこなし、瞬発力ならば橘音も他のメンバーと大差ない。そして、そこに自分の今回の役目がある。
>ったく、無茶しやがって……あいよ、了解だ大将
付き合いの長い尾弐は、そんな橘音の真意を察したようだ。
橘音と尾弐はブリーチャーズ結成以前から付き合いのある間柄だ。ふたりで妖壊退治に当たったことも少なくない。
以心伝心。そんな感覚に橘音は小さく微笑む。
「ほらほらっ、こっちですよ!あんよは上手……ってね!」
続き34行
一転して激しい戦闘の坩堝と化した商店街を、縦横に橘音が跳ねる。
>えぇっ!? 囮って……弱いくせに何言ってんの!?
>何考えてんだこのキツネ仮面がぁ! いきなり目立とうなんて思わなくていいから!
ノエルの悲鳴にも似た言葉が示す通り、橘音がからっきし荒事の不得意な化生であることは周知の事実である。
実際、今の橘音にコトリバコを物理的にケ枯れさせる手段はない。
が、『斃せない』は『対抗手段がない』と同義ではない。
獣由来の身のこなし、瞬発力ならば橘音も他のメンバーと大差ない。そして、そこに自分の今回の役目がある。
>ったく、無茶しやがって……あいよ、了解だ大将
付き合いの長い尾弐は、そんな橘音の真意を察したようだ。
橘音と尾弐はブリーチャーズ結成以前から付き合いのある間柄だ。ふたりで妖壊退治に当たったことも少なくない。
以心伝心。そんな感覚に橘音は小さく微笑む。
「ほらほらっ、こっちですよ!あんよは上手……ってね!」
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「えぇ~?いいじゃないですかぁ、ボクもたまには目立ちたいんです~」
そんなとぼけたことを言う。ノエルの氷結技能を信頼しきっているからこその弁だ。
正直、戦況は不利である。この状況では、メンバーの誰もが自らを護ることだけで手一杯に違いない。
だというのに、ノエルは橘音のことを案じてくれている。橘音だけではない、ノエルは全員のことを見ているのだろう。
先程も、ノエルが全員の得物に氷の属性付与をしているのが見えた。
メンバーのサポート担当という自分の役目を把握し、それを忠実に実行している証拠だ。
普段は(非常時も)とぼけた言動でいまいち頼りない印象のノエルだが、その実彼の援護射撃には隙がない。
今も、八体のコトリバコが彼の冷気によって凍り付き、その動きを止めたばかりだ。
……とはいえ。
――さすがに、このままじゃキツイですね……。
ちらり、と一瞬ムジナを見る。ムジナはまだ無傷だ。
次の策を用いるべきか。そう算段し、全員に指示するべく口を開きかけた、そのとき。
>悪いね。ちょっと席外しちゃって
いつの間にか姿を消していた祈が戦列に復帰した。
が、その姿は異様極まる。まるでハロウィンの仮装だ。続き39行
そんなとぼけたことを言う。ノエルの氷結技能を信頼しきっているからこその弁だ。
正直、戦況は不利である。この状況では、メンバーの誰もが自らを護ることだけで手一杯に違いない。
だというのに、ノエルは橘音のことを案じてくれている。橘音だけではない、ノエルは全員のことを見ているのだろう。
先程も、ノエルが全員の得物に氷の属性付与をしているのが見えた。
メンバーのサポート担当という自分の役目を把握し、それを忠実に実行している証拠だ。
普段は(非常時も)とぼけた言動でいまいち頼りない印象のノエルだが、その実彼の援護射撃には隙がない。
今も、八体のコトリバコが彼の冷気によって凍り付き、その動きを止めたばかりだ。
……とはいえ。
――さすがに、このままじゃキツイですね……。
ちらり、と一瞬ムジナを見る。ムジナはまだ無傷だ。
次の策を用いるべきか。そう算段し、全員に指示するべく口を開きかけた、そのとき。
>悪いね。ちょっと席外しちゃって
いつの間にか姿を消していた祈が戦列に復帰した。
が、その姿は異様極まる。まるでハロウィンの仮装だ。続き39行
>な、ぐがっ―――!?
ドガァァァァァァッ!!!
尾弐のうめき声と、その直後の轟音に、橘音は咄嗟に振り向いた。
見れば、尾弐が軽自動車の激突を喰らい、商店街の店舗の壁面に叩きつけられている。
「クロオさん!」
思わず叫ぶ。ブリーチャーズ随一の頑強さを誇る尾弐だ、致命傷には至っていないようだが、それでも少なからぬダメージであろう。
解せないのは尾弐の様子だ。百戦錬磨の尾弐が自動車の投擲などというモーションの大きな攻撃に対処できない筈がない。
いつものように左腕で払いのけるなりすればいいだけの話だ。尾弐の膂力はそれを充分可能にする。
何かに気を取られていた?いや――
――左腕が。動いていない……?
壁に激突した尾弐の異変に気付く。今の攻撃によって負傷したのか?
違う。あの様子では、そのずっと前から。恐らく半地下の探偵事務所でブリーフィングをしていたときから。
破魔の刃物を用意した頃から、動いていなかったのだろう。
尾弐が巧妙に隠していたということもあるが、今の今まで囮に専念していたお蔭で、橘音はついぞそれに気付かなかった。続き39行
ドガァァァァァァッ!!!
尾弐のうめき声と、その直後の轟音に、橘音は咄嗟に振り向いた。
見れば、尾弐が軽自動車の激突を喰らい、商店街の店舗の壁面に叩きつけられている。
「クロオさん!」
思わず叫ぶ。ブリーチャーズ随一の頑強さを誇る尾弐だ、致命傷には至っていないようだが、それでも少なからぬダメージであろう。
解せないのは尾弐の様子だ。百戦錬磨の尾弐が自動車の投擲などというモーションの大きな攻撃に対処できない筈がない。
いつものように左腕で払いのけるなりすればいいだけの話だ。尾弐の膂力はそれを充分可能にする。
何かに気を取られていた?いや――
――左腕が。動いていない……?
壁に激突した尾弐の異変に気付く。今の攻撃によって負傷したのか?
違う。あの様子では、そのずっと前から。恐らく半地下の探偵事務所でブリーフィングをしていたときから。
破魔の刃物を用意した頃から、動いていなかったのだろう。
尾弐が巧妙に隠していたということもあるが、今の今まで囮に専念していたお蔭で、橘音はついぞそれに気付かなかった。続き39行
『イッポウ』はムジナが見事な騙しのテクニックでケ枯れさせた。次の相手は『ロッポウ』だ。
『ニホウ』『サンポウ』『シッポウ』は尾弐が引き付けている。
『ハッカイ』は祈とノエルを当面撃滅すべき対象と認識したらしい。
では。
オギャアアアアアアアア!!!!!オオオオオオオギャアアアアアアア――――――――――ッ!!!!
『チッポウ』は自分の担当だ。
腕を振り上げ、時に口から溶解液を吐き出して攻撃してくるチッポウから身を翻しながら、橘音は戦場を奔る。
とっくに息は上がり、身体も鉛のように重い。息を喘がせながら駆ける姿は、ただ闇雲に逃げ回っているようにしか見えない。
グオッ!!
チッポウの右腕が、まるで蟻でも叩き潰すかのように振り下ろされ、アスファルトが砕け散る。
チッポウは七番目のコトリバコ。ハッカイに次ぐ巨体と破壊力を有している。
張り手一発で盛大にヒビの入った地面を振り返り、橘音は背筋にツララを差し込まれたような悪寒を味わった。
「あんなの喰らったら、ボクみたいに華奢なコは一発でミンチですよ!」
誰に言うともなく、そんな泣き言を口にする。続き40行
『ニホウ』『サンポウ』『シッポウ』は尾弐が引き付けている。
『ハッカイ』は祈とノエルを当面撃滅すべき対象と認識したらしい。
では。
オギャアアアアアアアア!!!!!オオオオオオオギャアアアアアアア――――――――――ッ!!!!
『チッポウ』は自分の担当だ。
腕を振り上げ、時に口から溶解液を吐き出して攻撃してくるチッポウから身を翻しながら、橘音は戦場を奔る。
とっくに息は上がり、身体も鉛のように重い。息を喘がせながら駆ける姿は、ただ闇雲に逃げ回っているようにしか見えない。
グオッ!!
チッポウの右腕が、まるで蟻でも叩き潰すかのように振り下ろされ、アスファルトが砕け散る。
チッポウは七番目のコトリバコ。ハッカイに次ぐ巨体と破壊力を有している。
張り手一発で盛大にヒビの入った地面を振り返り、橘音は背筋にツララを差し込まれたような悪寒を味わった。
「あんなの喰らったら、ボクみたいに華奢なコは一発でミンチですよ!」
誰に言うともなく、そんな泣き言を口にする。続き40行
「うああああああああああああああああああ――――――ッ!!!」
子獲りの呪いに侵食され、橘音は叫び声をあげた。
その効力は強力無比、凶悪無双。解呪の方法はなく、一度受ければ待っているのは死、それ以外にない。
コトリバコに抱きつかれた橘音も例に漏れず、ほどなく目鼻や耳、口から出血し、下腹部を破裂させて死に至るのだろう。
と、思ったが。
「ぎゃああああ~っ!死ぃ~ぬぅ~っ!呪いで死んでしまうぅ~っ!」
橘音は舌を出してさも苦しそうに喉を掻きむしる仕草をし、身体をくねらせた。
だが、その苦しみようはいやに芝居がかっており、わざとらしい。
ひとしきり苦悶するそぶりを見せた後で、橘音は徐にコホンと空咳を打つと、
「……な~んちゃって」
と、言った。
死なない。
続き38行
子獲りの呪いに侵食され、橘音は叫び声をあげた。
その効力は強力無比、凶悪無双。解呪の方法はなく、一度受ければ待っているのは死、それ以外にない。
コトリバコに抱きつかれた橘音も例に漏れず、ほどなく目鼻や耳、口から出血し、下腹部を破裂させて死に至るのだろう。
と、思ったが。
「ぎゃああああ~っ!死ぃ~ぬぅ~っ!呪いで死んでしまうぅ~っ!」
橘音は舌を出してさも苦しそうに喉を掻きむしる仕草をし、身体をくねらせた。
だが、その苦しみようはいやに芝居がかっており、わざとらしい。
ひとしきり苦悶するそぶりを見せた後で、橘音は徐にコホンと空咳を打つと、
「……な~んちゃって」
と、言った。
死なない。
続き38行
>「あれぇ~? おっかしいなあ~」
コトリバコの赤ん坊『ハッカイ』に飛び乗り、妖怪にしか見えぬ霊的な継ぎ目を余すことなく切り刻んだノエル。
その後、コトリバコの赤ん坊から飛び降りてヒーローの如く三点着地を決めて見せた彼が呟いたのはそんな言葉であった。
背後でコトリバコの赤ん坊が爆発四散でもしているかと思えば、そんな事はない。
「……へ?」
祈は瞬間、呆けた。
別段、爆発を期待していた訳ではないのだが、あんなにカッコ付けといてそれはないだろ、という顔になる。
切り刻まれたコトリバコの赤ん坊はと言えば、全身から緑色の体液や血を撒き散らしているものの
依然として戦闘続行可能な様子であった。
と言ってもそれは見る者が見れば、もはや蛇腹切りにされた胡瓜の如く、
かろうじて皮一枚で繋がっているだけの状態だと解るのだが、妖怪的な感覚にいまいち欠ける祈にはそれが解らない。
ノエルへと体当たりを決行しようとするハッカイの姿を見て、まだ全然元気そうじゃんなどと思えてしまう。
>「たーすーけーてー!!」
悲鳴を上げ、尾弐の元へと逃げ去るノエルを脇目に見ながら、
祈はコトリバコの強酸性粘液が付着した布を脱ぎ捨て、素早く別の布で体と足を覆った。そして思う。
(ほんと変な奴だよなー、御幸って)
一時戦場を離れる前から目の端に入っていたが、ノエルの姿は黒髪から銀髪に、瞳の色は青へと変わっていた。
また、手には氷で作り上げた錫杖を持ち、それを振るっていたと思っていたのだが、
戻ってくれば今度は氷の刀を二本握り込み、二刀流を演じている。
天然かと思えば意外と鋭い所を突いたり、かっこよく決めたと思えば決められていなかったりするし、続き23行
コトリバコの赤ん坊『ハッカイ』に飛び乗り、妖怪にしか見えぬ霊的な継ぎ目を余すことなく切り刻んだノエル。
その後、コトリバコの赤ん坊から飛び降りてヒーローの如く三点着地を決めて見せた彼が呟いたのはそんな言葉であった。
背後でコトリバコの赤ん坊が爆発四散でもしているかと思えば、そんな事はない。
「……へ?」
祈は瞬間、呆けた。
別段、爆発を期待していた訳ではないのだが、あんなにカッコ付けといてそれはないだろ、という顔になる。
切り刻まれたコトリバコの赤ん坊はと言えば、全身から緑色の体液や血を撒き散らしているものの
依然として戦闘続行可能な様子であった。
と言ってもそれは見る者が見れば、もはや蛇腹切りにされた胡瓜の如く、
かろうじて皮一枚で繋がっているだけの状態だと解るのだが、妖怪的な感覚にいまいち欠ける祈にはそれが解らない。
ノエルへと体当たりを決行しようとするハッカイの姿を見て、まだ全然元気そうじゃんなどと思えてしまう。
>「たーすーけーてー!!」
悲鳴を上げ、尾弐の元へと逃げ去るノエルを脇目に見ながら、
祈はコトリバコの強酸性粘液が付着した布を脱ぎ捨て、素早く別の布で体と足を覆った。そして思う。
(ほんと変な奴だよなー、御幸って)
一時戦場を離れる前から目の端に入っていたが、ノエルの姿は黒髪から銀髪に、瞳の色は青へと変わっていた。
また、手には氷で作り上げた錫杖を持ち、それを振るっていたと思っていたのだが、
戻ってくれば今度は氷の刀を二本握り込み、二刀流を演じている。
天然かと思えば意外と鋭い所を突いたり、かっこよく決めたと思えば決められていなかったりするし、続き23行
「尾弐のおっさん!!」
祈は思わず叫んだ。
油断した。祈はコトリバコ達が氷漬けにされている筈の場所に目を向け、
何もいないことに今ようやく気付く。祈は他のコトリバコは全てノエルが凍結させ、動きを封じたものと思い込んでいた。
そして何よりハッカイのコトリバコだけに目を奪われすぎていたのだ。
既に他のコトリバコの赤ん坊達は、氷の呪縛を解いて行動を開始しており、
ダメ押しとばかりに尾弐へと『シッポウ』が向かう。助けに向かうべきでは、と祈の本能が告げた。
>「ムジナアアァァァ!!!! この3匹は俺が一人で片付ける!!
> テメェは、絶対にこの3匹と他の連中をヤり合わせねぇように動けえええぇぇ!!!!!!」
だが、尾弐の地の底から響くような怒号が、祈の耳にも届く。
その声が言っている。俺は大丈夫だと。
そうだ、と祈は思い直す。祈は尾弐程タフな妖怪を知らないし、倒れる姿など想像できない。
いかに強力な怪異が相手であっても、尾弐はきっと負けない。
今日はたまたま調子が悪くて――どうせまた事務所に来る前にお酒とちゃんぽんを食べたのだろう。
食べ合わせが悪いらしいし――、コトリバコに不意を突かれただけなのだ。
尾弐が大丈夫だと言うのなら、きっと何も問題はない。
だとすれば。祈にできるのは残りのコトリバコの赤ん坊の相手だ。
ニホウ、サンポウ及びシッポウは尾弐が相手をするとして、
>「ほな、兄貴が三匹引き受けてくるっちゅうさかい……ワシは二匹ばかし相手にしようかね」
イッポウとロッポウは品岡が引き受けた。続き16行
祈は思わず叫んだ。
油断した。祈はコトリバコ達が氷漬けにされている筈の場所に目を向け、
何もいないことに今ようやく気付く。祈は他のコトリバコは全てノエルが凍結させ、動きを封じたものと思い込んでいた。
そして何よりハッカイのコトリバコだけに目を奪われすぎていたのだ。
既に他のコトリバコの赤ん坊達は、氷の呪縛を解いて行動を開始しており、
ダメ押しとばかりに尾弐へと『シッポウ』が向かう。助けに向かうべきでは、と祈の本能が告げた。
>「ムジナアアァァァ!!!! この3匹は俺が一人で片付ける!!
> テメェは、絶対にこの3匹と他の連中をヤり合わせねぇように動けえええぇぇ!!!!!!」
だが、尾弐の地の底から響くような怒号が、祈の耳にも届く。
その声が言っている。俺は大丈夫だと。
そうだ、と祈は思い直す。祈は尾弐程タフな妖怪を知らないし、倒れる姿など想像できない。
いかに強力な怪異が相手であっても、尾弐はきっと負けない。
今日はたまたま調子が悪くて――どうせまた事務所に来る前にお酒とちゃんぽんを食べたのだろう。
食べ合わせが悪いらしいし――、コトリバコに不意を突かれただけなのだ。
尾弐が大丈夫だと言うのなら、きっと何も問題はない。
だとすれば。祈にできるのは残りのコトリバコの赤ん坊の相手だ。
ニホウ、サンポウ及びシッポウは尾弐が相手をするとして、
>「ほな、兄貴が三匹引き受けてくるっちゅうさかい……ワシは二匹ばかし相手にしようかね」
イッポウとロッポウは品岡が引き受けた。続き16行
そこまで考えた所で、思い至る。違和感があることに。
そこから、『自分が相手をするべきはゴホウではなくハッカイの方である』、という答えに祈は行き着く。
祈が知る限り、ノエルは弱い妖怪ではない。
尾弐のような剛力やタフネスを備えたバリバリの戦闘系妖怪ではないにせよ、
先日の八尺様戦では、尾弐が駆け付けるまでの間、
八尺様の音を追い越すほどの猛攻をほぼ一人で凌ぎきったその技の冴えや戦闘勘、実力は疑いようがない。
また今日に至っては強大な呪いの塊であるコトリバコ達を全て凍てつかせ、
僅かな間とは言えその動きを奪ったほどに強大な妖力をも備えている。
そんな男が、逃げ回るに終始している。それが違和感の元だった。
思えば今日のノエルは張り切り過ぎではなかっただろうか。
氷による遠距離支援攻撃に始まり、仲間へ自身の力を分け与えて武器を強化。
更に橘音を庇う為であろう、二刀を構えて前線へ躍り出て見せた。
そしてコトリバコ8体を凍結させ足止めした後は、祈が要請したことでハッカイへ止めを刺そうとも試みている。
まさに八面六臂の活躍だ。しかもそれらは短時間で行われている。
力を使い過ぎれば当然、枯れる。
止めを刺し損なったのも、力を短時間で使い過ぎて妖力切れが近い故に起こった、事故のような出来事かもしれない。
そうだとすれば、ノエルが逃げ回るのに終始しているのも頷ける話だ。
先程はぎりぎりハッカイの突撃から身を躱していたが、
ノエルならばわざわざ躱さなくとも、巨大な氷の壁の一つや二つ造りだせそうなものだ。
それも、突撃を仕掛けるコトリバコに対し凸型に、ナイフのような鋭い形状の壁を造りだしてしまえば続き20行
そこから、『自分が相手をするべきはゴホウではなくハッカイの方である』、という答えに祈は行き着く。
祈が知る限り、ノエルは弱い妖怪ではない。
尾弐のような剛力やタフネスを備えたバリバリの戦闘系妖怪ではないにせよ、
先日の八尺様戦では、尾弐が駆け付けるまでの間、
八尺様の音を追い越すほどの猛攻をほぼ一人で凌ぎきったその技の冴えや戦闘勘、実力は疑いようがない。
また今日に至っては強大な呪いの塊であるコトリバコ達を全て凍てつかせ、
僅かな間とは言えその動きを奪ったほどに強大な妖力をも備えている。
そんな男が、逃げ回るに終始している。それが違和感の元だった。
思えば今日のノエルは張り切り過ぎではなかっただろうか。
氷による遠距離支援攻撃に始まり、仲間へ自身の力を分け与えて武器を強化。
更に橘音を庇う為であろう、二刀を構えて前線へ躍り出て見せた。
そしてコトリバコ8体を凍結させ足止めした後は、祈が要請したことでハッカイへ止めを刺そうとも試みている。
まさに八面六臂の活躍だ。しかもそれらは短時間で行われている。
力を使い過ぎれば当然、枯れる。
止めを刺し損なったのも、力を短時間で使い過ぎて妖力切れが近い故に起こった、事故のような出来事かもしれない。
そうだとすれば、ノエルが逃げ回るのに終始しているのも頷ける話だ。
先程はぎりぎりハッカイの突撃から身を躱していたが、
ノエルならばわざわざ躱さなくとも、巨大な氷の壁の一つや二つ造りだせそうなものだ。
それも、突撃を仕掛けるコトリバコに対し凸型に、ナイフのような鋭い形状の壁を造りだしてしまえば続き20行
「こっちだ、コトリバコ!」
ハッカイは起き上がって必死にノエル探そうとしたものの、
そのノエルが見つからなかったことで、手近な場所にいる祈へと完全にターゲットを変えたようだった。
左腕だけで器用に這いずり、それなりの速度で祈を追ってくる。
ハッカイを仲間たちから引き離すため、祈は敢えてぎりぎりの速度で走り、コトリバコに追わせた。
尾弐も品岡も、橘音もノエルも、恐らくは目の前の状況に手いっぱいであろうし、
なるべくハッカイの目がそちらに向かないようにせねばならないと思ったのだ。
コトリバコの呪詛によって、祈の目の前で女性が血反吐を吐いて亡くなった時、
その凄惨な姿を見ないよう祈の前に立ち塞がってくれたのは尾弐であり、
目を覆ってくれたのはノエルであり、そして背後から制止の声をかけてくれたのは意外にも品岡であった。
心のないヤクザ者と祈が思っていた品岡すらも、自分を守ってくれている。そう祈は感じる。
だが彼らと肩を並べて立つのであれば、彼らと同じように、危険な相手を一人で相手にせねばならない。
守られるだけでなく、自分もまた彼らを守らなければ。そう思う故に彼らから離れるのだった。
いくらか仲間たちから離れた頃合いであろうか。
やがて、ハッカイは祈を追うことを諦めたのか、動きを止めた。
それに気付いた祈もまた、足を止めて振り向く。
靴の裏にはノエルが施した氷の棘がスパイクのように生えている為、
思ったよりもぴたりと止まった。
ここまで引き付けたのに、気が変わって仲間の方に戻られたら厄介だな、なんてことを考えている祈を、続き31行
ハッカイは起き上がって必死にノエル探そうとしたものの、
そのノエルが見つからなかったことで、手近な場所にいる祈へと完全にターゲットを変えたようだった。
左腕だけで器用に這いずり、それなりの速度で祈を追ってくる。
ハッカイを仲間たちから引き離すため、祈は敢えてぎりぎりの速度で走り、コトリバコに追わせた。
尾弐も品岡も、橘音もノエルも、恐らくは目の前の状況に手いっぱいであろうし、
なるべくハッカイの目がそちらに向かないようにせねばならないと思ったのだ。
コトリバコの呪詛によって、祈の目の前で女性が血反吐を吐いて亡くなった時、
その凄惨な姿を見ないよう祈の前に立ち塞がってくれたのは尾弐であり、
目を覆ってくれたのはノエルであり、そして背後から制止の声をかけてくれたのは意外にも品岡であった。
心のないヤクザ者と祈が思っていた品岡すらも、自分を守ってくれている。そう祈は感じる。
だが彼らと肩を並べて立つのであれば、彼らと同じように、危険な相手を一人で相手にせねばならない。
守られるだけでなく、自分もまた彼らを守らなければ。そう思う故に彼らから離れるのだった。
いくらか仲間たちから離れた頃合いであろうか。
やがて、ハッカイは祈を追うことを諦めたのか、動きを止めた。
それに気付いた祈もまた、足を止めて振り向く。
靴の裏にはノエルが施した氷の棘がスパイクのように生えている為、
思ったよりもぴたりと止まった。
ここまで引き付けたのに、気が変わって仲間の方に戻られたら厄介だな、なんてことを考えている祈を、続き31行
(賢い……)
完全に閉じ込められた形だった。
外に出ようとすれば粘液が飛んでくる。仮に上手く粘液を躱して外に出られたとしても、
先程のように上から大量の粘液を降らされたらどうしようもない。
また、この足場では十分な速度を出すことはできないだろうし、
ハッカイに接近し攻撃に転じるのすら一か八かの賭けになる。
祈が近づいて攻撃するしかできないこと、そして粘液に触れれば死に直結するダメージを負うことを、
十二分に分かった上での行動だった。
そもそも、祈は決定打に欠けている。
なんとかハッカイの手足を千切り飛ばすことはできても、
この細足であのゾウのような巨体を倒せるかどうかは疑問が残った。
手っ取り早く倒すとすれば、あの形態からして思考の核となっているであろう頭を狙った方が早いのであろうが、
それも難しいと思われた。
何故なら祈の足では、あの巨大な頭を潰すには長さが足りないのだ。
蹴りを見舞っても表面を抉るだけになると予想された。
だがより深い場所、例えば脳があると思われる場所にまで攻撃を届かせようとすれば、
祈は体ごと突っ込まねばならない。
それは即ち強酸性の粘液が詰まった袋に身を投げるに等しい行為であり、
いくら体を防護する布を纏っていようと自殺行為である。
だとすれば、コトリバコの赤ん坊を悪戯に苦しませるのは本意ではないが、続き34行
完全に閉じ込められた形だった。
外に出ようとすれば粘液が飛んでくる。仮に上手く粘液を躱して外に出られたとしても、
先程のように上から大量の粘液を降らされたらどうしようもない。
また、この足場では十分な速度を出すことはできないだろうし、
ハッカイに接近し攻撃に転じるのすら一か八かの賭けになる。
祈が近づいて攻撃するしかできないこと、そして粘液に触れれば死に直結するダメージを負うことを、
十二分に分かった上での行動だった。
そもそも、祈は決定打に欠けている。
なんとかハッカイの手足を千切り飛ばすことはできても、
この細足であのゾウのような巨体を倒せるかどうかは疑問が残った。
手っ取り早く倒すとすれば、あの形態からして思考の核となっているであろう頭を狙った方が早いのであろうが、
それも難しいと思われた。
何故なら祈の足では、あの巨大な頭を潰すには長さが足りないのだ。
蹴りを見舞っても表面を抉るだけになると予想された。
だがより深い場所、例えば脳があると思われる場所にまで攻撃を届かせようとすれば、
祈は体ごと突っ込まねばならない。
それは即ち強酸性の粘液が詰まった袋に身を投げるに等しい行為であり、
いくら体を防護する布を纏っていようと自殺行為である。
だとすれば、コトリバコの赤ん坊を悪戯に苦しませるのは本意ではないが、続き34行
コトリバコの呪詛の源は、
その狭い細工の中に押し込められた子ども達の魂の嘆き、憎しみや恨み。
即ち『負の感情』である。
恐らくコトリバコには、その呪詛を効果的に発揮させるために、
内側に閉じ込めた子供たちの魂に働きかける呪いのような何かが施されているのだろう。
その何かが、強制的に子ども達から憎悪等の負の感情を引き出しているのだ。
そう考えれば、両の足がなくなり、満身創痍の状態なっても執拗にノエルを追い続けたことや、
移動する力すら失い、左腕がもげた状態でも祈への攻撃を続けたこと。その異常な攻撃性に説明がつく。
ハッカイともなれば、それこそ無尽蔵の呪詛を吐き出せるだけの力があっただろうから
そのような呪いが働いていてもなんとかなったに違いない。
だがノエルの刃は霊的な継ぎ目を完全に断ち切り、既にハッカイを仕留め終えていた。
そのような状態では、残された命を無理矢理に、粘液として絞り出しているようなものだ。
だが止めることができないのだろう。そのような状態になっても。
馬に鞭を打つように、コトリバコが無理矢理にあの赤ん坊へ命じているから。
恨め、憎めと。目の前の敵を倒せと。
痛い筈なのに。苦しい筈なのに。もう嫌だと泣き叫んでも、コトリバコの呪詛が
攻撃を止めることをを許さない。その苦しみは想像を絶する。
またも粘液を吐こうとしているのだろう。ハッカイは再び首を持ち上げ、口を祈へと向けた。
その目から流れる血の涙に、響く嗚咽に。
「終わりに、しよう……」続き39行
その狭い細工の中に押し込められた子ども達の魂の嘆き、憎しみや恨み。
即ち『負の感情』である。
恐らくコトリバコには、その呪詛を効果的に発揮させるために、
内側に閉じ込めた子供たちの魂に働きかける呪いのような何かが施されているのだろう。
その何かが、強制的に子ども達から憎悪等の負の感情を引き出しているのだ。
そう考えれば、両の足がなくなり、満身創痍の状態なっても執拗にノエルを追い続けたことや、
移動する力すら失い、左腕がもげた状態でも祈への攻撃を続けたこと。その異常な攻撃性に説明がつく。
ハッカイともなれば、それこそ無尽蔵の呪詛を吐き出せるだけの力があっただろうから
そのような呪いが働いていてもなんとかなったに違いない。
だがノエルの刃は霊的な継ぎ目を完全に断ち切り、既にハッカイを仕留め終えていた。
そのような状態では、残された命を無理矢理に、粘液として絞り出しているようなものだ。
だが止めることができないのだろう。そのような状態になっても。
馬に鞭を打つように、コトリバコが無理矢理にあの赤ん坊へ命じているから。
恨め、憎めと。目の前の敵を倒せと。
痛い筈なのに。苦しい筈なのに。もう嫌だと泣き叫んでも、コトリバコの呪詛が
攻撃を止めることをを許さない。その苦しみは想像を絶する。
またも粘液を吐こうとしているのだろう。ハッカイは再び首を持ち上げ、口を祈へと向けた。
その目から流れる血の涙に、響く嗚咽に。
「終わりに、しよう……」続き39行
>「……へ?」
祈の視線が突き刺さるのを感じつつ、ノエルは走る。
やーめーてー、そんな目で見ないで!? そもそも僕は(言動が)格好いいキャラじゃないんだからな!?
等と思いつつ向かう先には道路標識を振りかざした黒雄が控えている。
右手だけで標識を持っているのは「死にかけの奴にとどめを刺すぐらい右手だけで十分だぜ!」ということか、とノエルは解釈した。
>「よっしゃあああ!これで勝つるっ!!」
「へっへーん、当然!」
隅で解説要員と化していたムジナに思わずガッツポーズを返してからおっと、自分こいつと仲悪いんだった!と思う。
黒雄なら自分が仕留め損ねたハッカイを問答無用で粉砕してくれる――ここまで想定のうちだ。
だがしかし。
>「な、ぐがっ―――!?」
予期せぬ交通事故発生。黒雄は軽自動車にはねられて飛んでいった。
運転していたのは……じゃなくて投げつけたのは、凍結から早くも復活したニホウ、サンポウ。
>「もう動き出したんか!」続き19行
祈の視線が突き刺さるのを感じつつ、ノエルは走る。
やーめーてー、そんな目で見ないで!? そもそも僕は(言動が)格好いいキャラじゃないんだからな!?
等と思いつつ向かう先には道路標識を振りかざした黒雄が控えている。
右手だけで標識を持っているのは「死にかけの奴にとどめを刺すぐらい右手だけで十分だぜ!」ということか、とノエルは解釈した。
>「よっしゃあああ!これで勝つるっ!!」
「へっへーん、当然!」
隅で解説要員と化していたムジナに思わずガッツポーズを返してからおっと、自分こいつと仲悪いんだった!と思う。
黒雄なら自分が仕留め損ねたハッカイを問答無用で粉砕してくれる――ここまで想定のうちだ。
だがしかし。
>「な、ぐがっ―――!?」
予期せぬ交通事故発生。黒雄は軽自動車にはねられて飛んでいった。
運転していたのは……じゃなくて投げつけたのは、凍結から早くも復活したニホウ、サンポウ。
>「もう動き出したんか!」続き19行
気が遠くなりそうになりながら、ノエルは自問自答する。
そもそもなんでこんな事になったのかというと、柄でもなく真面目に戦いすぎたのがいけない。
特にエターナルフォースブリザード(通称)は終幕を飾る一撃必殺を想定した大規模術式であり
あんなものを一時の足止めのために使っては後が続かないに決まっている。
大体隙あらば安全地帯でサボタージュしたり背景でおやつ食べ始めたりとやる気なさげに戦うのが自分の芸風ではなかったか。
敵味方双方から「ふざけてんのか!?」とツッコミが入ったことも一度や二度ではないが
「あいつ余裕ぶっこいてるし実は滅茶苦茶強いんじゃね!?」と相手に無駄にプレッシャーをかける思わぬ利点があるぞ!
ともあれ、普段そんな感じなので今のこの状況を見てもアイツまたふざけてるよ!としか思われないであろう。
それでいい、むしろそうでないと困る。嘘でも、虚像でも、余裕ぶっこいた底知れない奴でいなければ。
一瞬後ろを振り返ってみれば、すでにハッカイは自壊を始めており、右腕がもげている。
つまり相手が崩壊するまで逃げ切れば勝ちだ!
滅茶苦茶格好悪い戦法だがそれが何だというのだ、逃げるは恥だが役に立つ――!
しかしそこに祈が風のように現れ、何故か蹴るようなポーズを取る。
もしやノエルの日頃からのあまりの変態さやダメダメさに嫌気が差したというのか!?
本日の出撃前にもまた無自覚変態爆撃をやらかしたからね、仕方ないね!
そうでなくても、毎回変化を解いたり戻ったりする様子を微妙に理解不能のナマモノを見るような目で見てくるし。
しかし一般的な意味での変態な言動はともかく、あの本来の意味での変態は妖怪としては割と普通のはずだ。
むしろ人間型を保ったままでカラーリングが変わって少し謎の氷粒煌めきエフェクトがかかるだけなんてまだ大人しい方だ。
設定上存在する他のメンバーには完全人外の姿になって炎や電撃放っちゃう妖怪もいるぞ!(>1参照)
まあ完全人外までいったらそれはそれで割り切れるのかもしれないが、続き11行
そもそもなんでこんな事になったのかというと、柄でもなく真面目に戦いすぎたのがいけない。
特にエターナルフォースブリザード(通称)は終幕を飾る一撃必殺を想定した大規模術式であり
あんなものを一時の足止めのために使っては後が続かないに決まっている。
大体隙あらば安全地帯でサボタージュしたり背景でおやつ食べ始めたりとやる気なさげに戦うのが自分の芸風ではなかったか。
敵味方双方から「ふざけてんのか!?」とツッコミが入ったことも一度や二度ではないが
「あいつ余裕ぶっこいてるし実は滅茶苦茶強いんじゃね!?」と相手に無駄にプレッシャーをかける思わぬ利点があるぞ!
ともあれ、普段そんな感じなので今のこの状況を見てもアイツまたふざけてるよ!としか思われないであろう。
それでいい、むしろそうでないと困る。嘘でも、虚像でも、余裕ぶっこいた底知れない奴でいなければ。
一瞬後ろを振り返ってみれば、すでにハッカイは自壊を始めており、右腕がもげている。
つまり相手が崩壊するまで逃げ切れば勝ちだ!
滅茶苦茶格好悪い戦法だがそれが何だというのだ、逃げるは恥だが役に立つ――!
しかしそこに祈が風のように現れ、何故か蹴るようなポーズを取る。
もしやノエルの日頃からのあまりの変態さやダメダメさに嫌気が差したというのか!?
本日の出撃前にもまた無自覚変態爆撃をやらかしたからね、仕方ないね!
そうでなくても、毎回変化を解いたり戻ったりする様子を微妙に理解不能のナマモノを見るような目で見てくるし。
しかし一般的な意味での変態な言動はともかく、あの本来の意味での変態は妖怪としては割と普通のはずだ。
むしろ人間型を保ったままでカラーリングが変わって少し謎の氷粒煌めきエフェクトがかかるだけなんてまだ大人しい方だ。
設定上存在する他のメンバーには完全人外の姿になって炎や電撃放っちゃう妖怪もいるぞ!(>1参照)
まあ完全人外までいったらそれはそれで割り切れるのかもしれないが、続き11行
祈ならハッカイが崩壊するまで逃げ切るのは楽勝のはず。そう思ってそのまま送り出した。
祈にはこの言い方では正しく意図が伝わらなかった訳だが、どちらにせよ祈はそれを良しとしなかったことだろう。
ノエルを安全地帯に退避させるという祈の行動はドンピシャリの正解で、それだけにドキリとした。
見抜かれた――!?と。祈ちゃん、君はどこまで見抜いている……!?
祈は橘音とは違う意味で、真実を見抜いてしまう面がある。
頭脳明晰で知識と経験を兼ね備えた橘音が気付かない類の真実だ。それは先入観に囚われない子どもだからこそか。
自分が本当はみんなが思っている程強くなんかなくて、脆くて弱くてふわっふわなのが全てお見通しなのか――?
ノエルが普段やる気無さげにしか戦わないのには単純明快な理由があり、今のように妖力切れを起こさないためだ。
それだとすぐに役立たずになるが、ノエルは自然界からパワーを取り込む謎システムを搭載しており
消費と同ペースで回復させることによって無尽蔵を装う事ができるのだ。
サボったりおやつを食べたりしているのは平たく言うと実はMP回復のためであり
どうして今日は柄でもなく飛ばし過ぎたかというと、八尺様との戦いで思い出さなくていい記憶が呼び覚まされてしまったからであろう。
あれからというもの、仲間が――友達が死ぬのが滅茶苦茶怖い――
三つ子の魂百までとはよく言ったもので、幼き日に刻まれた魂の傷は百どころか永遠に癒えることはない。
等と考えつつも、服の内側から某チューブ型容器入り氷菓(チョココーヒー味)を取り出して吸い始めたので
端からみると全く真面目な事を考えているように見えない。
(体温によってアイスを溶かさずに持ち歩くことが出来るのだ!)
まず目に入ってきたのが、ムジナがイッポウ&ロッポウと戦いを繰り広げる様子であった。
そういえば、ムジナは形状変化なんてトンデモ能力使いの割には意外と肉体の概念とかかっちりしているようだ。
のっぺらぼうってソーセージ出したり消したりも余裕のガチお化けのイメージだけど、続き23行
祈にはこの言い方では正しく意図が伝わらなかった訳だが、どちらにせよ祈はそれを良しとしなかったことだろう。
ノエルを安全地帯に退避させるという祈の行動はドンピシャリの正解で、それだけにドキリとした。
見抜かれた――!?と。祈ちゃん、君はどこまで見抜いている……!?
祈は橘音とは違う意味で、真実を見抜いてしまう面がある。
頭脳明晰で知識と経験を兼ね備えた橘音が気付かない類の真実だ。それは先入観に囚われない子どもだからこそか。
自分が本当はみんなが思っている程強くなんかなくて、脆くて弱くてふわっふわなのが全てお見通しなのか――?
ノエルが普段やる気無さげにしか戦わないのには単純明快な理由があり、今のように妖力切れを起こさないためだ。
それだとすぐに役立たずになるが、ノエルは自然界からパワーを取り込む謎システムを搭載しており
消費と同ペースで回復させることによって無尽蔵を装う事ができるのだ。
サボったりおやつを食べたりしているのは平たく言うと実はMP回復のためであり
どうして今日は柄でもなく飛ばし過ぎたかというと、八尺様との戦いで思い出さなくていい記憶が呼び覚まされてしまったからであろう。
あれからというもの、仲間が――友達が死ぬのが滅茶苦茶怖い――
三つ子の魂百までとはよく言ったもので、幼き日に刻まれた魂の傷は百どころか永遠に癒えることはない。
等と考えつつも、服の内側から某チューブ型容器入り氷菓(チョココーヒー味)を取り出して吸い始めたので
端からみると全く真面目な事を考えているように見えない。
(体温によってアイスを溶かさずに持ち歩くことが出来るのだ!)
まず目に入ってきたのが、ムジナがイッポウ&ロッポウと戦いを繰り広げる様子であった。
そういえば、ムジナは形状変化なんてトンデモ能力使いの割には意外と肉体の概念とかかっちりしているようだ。
のっぺらぼうってソーセージ出したり消したりも余裕のガチお化けのイメージだけど、続き23行
>「あんなの喰らったら、ボクみたいに華奢なコは一発でミンチですよ!」
黒雄はコトリバコ三体を一人で相手にしているが、それでもどちらかを選ぶなら支援に行くべきは橘音の方だろう。
彼は敵の攻撃をいなすことは出来ても直接攻撃する手段は無いのだから。
そう決断し、テントの上から飛び降りる。ゴホウの居場所は結局分からずじまいだ。
チッポウが何か小さなものを橘音に投げるが、あれぐらいなら軽くいなせ――なかった。
>「……な……!?しまった!」
>「う……うああああああああああああああああああ――――――ッ!!!」
チッポウが投げたのは、なんとゴホウの本体。
混戦の中で小さな寄木細工に戻られたら居場所が分からなくなるのは当然だ。
問題は……ゴホウに組み付かれた橘音が断末魔の絶叫をあげていることである。
ただ組付かれているだけで取り立てて攻撃されているようには見えないのだが、まさかあの妖怪ですら女は死ぬという呪詛か――!?
「な……!?」
ノエルは血の気が引くといっても元から血の気が無いし、顔面蒼白と言っても常に蒼白だし
どう表現したらいいか分からないがとにかく死にそうな顔をして硬直していた。
続き20行
黒雄はコトリバコ三体を一人で相手にしているが、それでもどちらかを選ぶなら支援に行くべきは橘音の方だろう。
彼は敵の攻撃をいなすことは出来ても直接攻撃する手段は無いのだから。
そう決断し、テントの上から飛び降りる。ゴホウの居場所は結局分からずじまいだ。
チッポウが何か小さなものを橘音に投げるが、あれぐらいなら軽くいなせ――なかった。
>「……な……!?しまった!」
>「う……うああああああああああああああああああ――――――ッ!!!」
チッポウが投げたのは、なんとゴホウの本体。
混戦の中で小さな寄木細工に戻られたら居場所が分からなくなるのは当然だ。
問題は……ゴホウに組み付かれた橘音が断末魔の絶叫をあげていることである。
ただ組付かれているだけで取り立てて攻撃されているようには見えないのだが、まさかあの妖怪ですら女は死ぬという呪詛か――!?
「な……!?」
ノエルは血の気が引くといっても元から血の気が無いし、顔面蒼白と言っても常に蒼白だし
どう表現したらいいか分からないがとにかく死にそうな顔をして硬直していた。
続き20行
相変わらずイントネーションを間違えた禹歩の発音で、橘音のいい漢っぷりを称賛するノエル。
ちなみに子ども(精神年齢)は新しく覚えた言葉をとりあえず使ってみたがる性質があるので、うっかり変な言葉を教えると大変なことになるのだ。
みんなも気を付けよう!
ノエルが腕を一閃すると、劣勢を察し慌てて合体し直そうとするミニゴホウに、雪玉がぶつかったかと思うと崩壊して足元を埋め、瞬時に凍り付いて手足を地面に縫い付ける。
「せっかく大勢になったんだから急いでリュニオン(再結合)しちゃ勿体ない!
忙しい橘音くんの代わりに遊んであげるよ! 雪合戦だ! 一人でも僕にタッチできたら君達の勝ちな!」
例によって攻勢ターンに入った瞬間にあからさまに分かりやすく元気になったノエルがゴホウ達を挑発する。
もしゴホウ達が日本語を喋れたら、「いや、”勝ちな!”ってドヤ顔で言ってるけどアンタ男だろ!」「見た目だけはやたら綺麗だけど男……だよな!?」
「でも雪"女”だから呪いワンチャンいけるんじゃね!?」「あれ? なんか焦点を後ろに合わせると変な映像が見える気が……」
「しかし我らのプライドにかけてあんな変態を女枠に入れてはいけない……!」
等と審議が繰り広げられているところ……かどうかは定かではないが。
「ふっはははは! 遅い! そんなんじゃハイハイレースで優勝狙えないぞ!」
再結合を阻まれ困惑しているらしいゴホウ達に、ノエルは両手を同時に使って次々と雪玉を当てていく。
相手は破魔の結界で動きが鈍くなっているので当てるのは楽勝であった。
足元が氷雪に埋もれて身動きできなくなったゴホウ達を前に作り出すは
ご丁寧に8tと凹凸で描かれた無駄に巨大な氷のハンマー。(実際には8tも無いよ!)続き21行
ちなみに子ども(精神年齢)は新しく覚えた言葉をとりあえず使ってみたがる性質があるので、うっかり変な言葉を教えると大変なことになるのだ。
みんなも気を付けよう!
ノエルが腕を一閃すると、劣勢を察し慌てて合体し直そうとするミニゴホウに、雪玉がぶつかったかと思うと崩壊して足元を埋め、瞬時に凍り付いて手足を地面に縫い付ける。
「せっかく大勢になったんだから急いでリュニオン(再結合)しちゃ勿体ない!
忙しい橘音くんの代わりに遊んであげるよ! 雪合戦だ! 一人でも僕にタッチできたら君達の勝ちな!」
例によって攻勢ターンに入った瞬間にあからさまに分かりやすく元気になったノエルがゴホウ達を挑発する。
もしゴホウ達が日本語を喋れたら、「いや、”勝ちな!”ってドヤ顔で言ってるけどアンタ男だろ!」「見た目だけはやたら綺麗だけど男……だよな!?」
「でも雪"女”だから呪いワンチャンいけるんじゃね!?」「あれ? なんか焦点を後ろに合わせると変な映像が見える気が……」
「しかし我らのプライドにかけてあんな変態を女枠に入れてはいけない……!」
等と審議が繰り広げられているところ……かどうかは定かではないが。
「ふっはははは! 遅い! そんなんじゃハイハイレースで優勝狙えないぞ!」
再結合を阻まれ困惑しているらしいゴホウ達に、ノエルは両手を同時に使って次々と雪玉を当てていく。
相手は破魔の結界で動きが鈍くなっているので当てるのは楽勝であった。
足元が氷雪に埋もれて身動きできなくなったゴホウ達を前に作り出すは
ご丁寧に8tと凹凸で描かれた無駄に巨大な氷のハンマー。(実際には8tも無いよ!)続き21行
「ほらほら、こっちだ、来てみろよ!」
その痛みを悟られぬよう表向きは変わらぬ調子で挑発しつつ。
雪玉をぶつけて牽制しながら、大きく位置を動こうとしないチッポウの周囲を円状に駆ける。
敵の攻撃に当たらないように相手の周囲をぐるぐる回りつつ自分は遠距離攻撃を加える
アクションRPGのボス戦でありがちな立ち回りだ。
そして一周回ったところで相手の方に向き直り、地面に手を付いた。
「――アイスプリズン!」
チッポウがいる地点の四方を囲うように、氷の壁がせり上がる。
ゴホウ達を凍りつかせた地点もその範囲内に入っている。
とはいえ、このままではいずれ溶解液で脱出されてしまうのだが――
「ギャアァアァァァァアアアアアァァアァァアアァアアア!!!」
囚われたチッポウの怒りの絶叫が響き渡る。
「あーあ、雪山でそんなに大きい声出したら駄目だって。終わりだぁあああああああ!」
続き13行
その痛みを悟られぬよう表向きは変わらぬ調子で挑発しつつ。
雪玉をぶつけて牽制しながら、大きく位置を動こうとしないチッポウの周囲を円状に駆ける。
敵の攻撃に当たらないように相手の周囲をぐるぐる回りつつ自分は遠距離攻撃を加える
アクションRPGのボス戦でありがちな立ち回りだ。
そして一周回ったところで相手の方に向き直り、地面に手を付いた。
「――アイスプリズン!」
チッポウがいる地点の四方を囲うように、氷の壁がせり上がる。
ゴホウ達を凍りつかせた地点もその範囲内に入っている。
とはいえ、このままではいずれ溶解液で脱出されてしまうのだが――
「ギャアァアァァァァアアアアアァァアァァアアァアアア!!!」
囚われたチッポウの怒りの絶叫が響き渡る。
「あーあ、雪山でそんなに大きい声出したら駄目だって。終わりだぁあああああああ!」
続き13行
最初に人を殺したのは、苦痛から逃れる為であった。
呪具として改造された魂は、製作者の意図に従い動かねば、耐えがたい苦痛が与えられるからだ。
次に人を殺したのは、苦痛を味わいたくないが故であった。
呪具に刻まれた呪いの通りに人を殺せば、自分は痛くないからだ。
更に人を殺したのは、母の温もりを求めたが故であった。
標的(オカアサン)の胎内(ナカ)に戻れば、幸せに生まれ直す事が出来ると思ったからだ。
尚も人を殺したのは、自分が知らない幸せを持つ人間を憎むが故であった。
誰かが自分と同じ様に苦しんで死ねば、少しだけ気持ちが晴れる気がしたからだ。
そうして、次も、次も、次も。
殺して殺して
殺して殺し。
呪って呪って
呪って呪い。
やがて異形の霊体(カラダ)を手に入れて続き28行
呪具として改造された魂は、製作者の意図に従い動かねば、耐えがたい苦痛が与えられるからだ。
次に人を殺したのは、苦痛を味わいたくないが故であった。
呪具に刻まれた呪いの通りに人を殺せば、自分は痛くないからだ。
更に人を殺したのは、母の温もりを求めたが故であった。
標的(オカアサン)の胎内(ナカ)に戻れば、幸せに生まれ直す事が出来ると思ったからだ。
尚も人を殺したのは、自分が知らない幸せを持つ人間を憎むが故であった。
誰かが自分と同じ様に苦しんで死ねば、少しだけ気持ちが晴れる気がしたからだ。
そうして、次も、次も、次も。
殺して殺して
殺して殺し。
呪って呪って
呪って呪い。
やがて異形の霊体(カラダ)を手に入れて続き28行
そのまま絶え間なく暴力は続いていったが……やがて、土煙で尾弐の姿が見えなくなった頃。
コトリバコ達は唐突にその手を休めた。
疲労?慈悲?……否。
彼等は自身が振るった暴力の結果を確認する為に、コトリバコ達はその拳を止めたのである。
彼等が脳裏に浮かべる土煙の向こう光景は、まるで挽肉の様にグズグズになり、力なく絶命している尾弐の姿。
あれだけの呪詛の酸を、暴力を、蹂躙を受けたのだ。丈夫な玩具と言えども壊れない筈が無い。
釣りあがる口元を隠す事も無く揃って、三つ子の子供の様に楽しげに嗤うコトリバコ。
そうして、土煙は晴れる。
向けられる視線。そこには……瓦礫に上半身が半ば埋もれ、力なく首を垂れる尾弐の姿があった。
瓦礫からはみ出た左腕は切り刻まれたかの様に血まみれで、一部の傷は肉の先。白い骨を露見させている。
更にその上半身からは、溶解液の効果であろう。今尚煙が上がっている。
その様子を見た3匹のコトリバコは、思ったよりも損壊が少ない事に若干不満げな様子を見せたが、
それでも再起不能と思うに十分な傷を与えた事への喜びの方が大きかったのであろう。
動かない尾弐の元へ、最後の仕上げ……いざ止めを刺さんと近づいていく。
そうして。とうとう尾弐の前まで辿り着いた『シッポウ』のコトリバコが、
その頭を喰らわんと大きく口を開き――――その直後。
続き40行
コトリバコ達は唐突にその手を休めた。
疲労?慈悲?……否。
彼等は自身が振るった暴力の結果を確認する為に、コトリバコ達はその拳を止めたのである。
彼等が脳裏に浮かべる土煙の向こう光景は、まるで挽肉の様にグズグズになり、力なく絶命している尾弐の姿。
あれだけの呪詛の酸を、暴力を、蹂躙を受けたのだ。丈夫な玩具と言えども壊れない筈が無い。
釣りあがる口元を隠す事も無く揃って、三つ子の子供の様に楽しげに嗤うコトリバコ。
そうして、土煙は晴れる。
向けられる視線。そこには……瓦礫に上半身が半ば埋もれ、力なく首を垂れる尾弐の姿があった。
瓦礫からはみ出た左腕は切り刻まれたかの様に血まみれで、一部の傷は肉の先。白い骨を露見させている。
更にその上半身からは、溶解液の効果であろう。今尚煙が上がっている。
その様子を見た3匹のコトリバコは、思ったよりも損壊が少ない事に若干不満げな様子を見せたが、
それでも再起不能と思うに十分な傷を与えた事への喜びの方が大きかったのであろう。
動かない尾弐の元へ、最後の仕上げ……いざ止めを刺さんと近づいていく。
そうして。とうとう尾弐の前まで辿り着いた『シッポウ』のコトリバコが、
その頭を喰らわんと大きく口を開き――――その直後。
続き40行
「逃げてくれんなよ、怪物共。俺のこの姿は連中に……特に、那須野の奴には見せる訳にはいかねぇんだからな」
退く事の出来なくなったコトリバコは、迫る尾弐に対し暫くの間混乱した様子を見せ……結局、彼等は己の力に縋る事となった。
状況を打開する為に、他者を理不尽に蹂躙する事の出来ていた己の力を信じ、反撃を試みたのである。
先ず行われたのは、『ニホウ』による溶解液の噴射。それは、あらゆるモノを溶かす呪詛の毒である。
「毒で俺を殺りたきゃ――――神さんから貰った酒に盛って飲ませるなりしやがれ」
だが、それは今の尾弐に対しては僅かに皮膚を焼く程度の効果しか齎す事は出来ず……まるで用を成さなかった。
当然である。呪詛は上位の呪詛で塗りつぶせる。ならば、呪詛で出来た溶解性の毒液が、『今の』尾弐に通用する筈が無いのだ。
そのまま尾弐が右手で溶解液を噴き出し続けるニホウの頭を叩くと……まるで巨大な鉄槌でも振り下ろされたかの様に
ニホウの頭は潰れ、地面にめり込んでしまった。
続いて行われたのは、『サンポウ』による巨体を利用した押し潰し。
数百キロはあろうかというその重量は、並みの人間であれば床の染みに出来る程のものである。が
「じゃれ付くんじゃねぇ。いつまで赤ん坊のつもりでいやがんだ。怪物が」
尾弐の右腕一本により、その巨体は受け止められてしまった。続き25行
退く事の出来なくなったコトリバコは、迫る尾弐に対し暫くの間混乱した様子を見せ……結局、彼等は己の力に縋る事となった。
状況を打開する為に、他者を理不尽に蹂躙する事の出来ていた己の力を信じ、反撃を試みたのである。
先ず行われたのは、『ニホウ』による溶解液の噴射。それは、あらゆるモノを溶かす呪詛の毒である。
「毒で俺を殺りたきゃ――――神さんから貰った酒に盛って飲ませるなりしやがれ」
だが、それは今の尾弐に対しては僅かに皮膚を焼く程度の効果しか齎す事は出来ず……まるで用を成さなかった。
当然である。呪詛は上位の呪詛で塗りつぶせる。ならば、呪詛で出来た溶解性の毒液が、『今の』尾弐に通用する筈が無いのだ。
そのまま尾弐が右手で溶解液を噴き出し続けるニホウの頭を叩くと……まるで巨大な鉄槌でも振り下ろされたかの様に
ニホウの頭は潰れ、地面にめり込んでしまった。
続いて行われたのは、『サンポウ』による巨体を利用した押し潰し。
数百キロはあろうかというその重量は、並みの人間であれば床の染みに出来る程のものである。が
「じゃれ付くんじゃねぇ。いつまで赤ん坊のつもりでいやがんだ。怪物が」
尾弐の右腕一本により、その巨体は受け止められてしまった。続き25行
尾弐が取り出したその木箱は、他のコトリバコ達のものとは違い、核となる嬰児の魂と呪詛が融合してしまったかの様に変形してしまっている。
まるで心臓の様に脈打ち、色はどす黒く変色しているコトリバコ。
己の体から取り出された其れを、『シッポウ』のコトリバコは必死になって取り戻そうと腕を伸ばすが……その手が届く前に
尾弐の右手は、小箱を握りつぶした。
箱が潰れるのと同時に苦痛の叫び声を上げながらドロドロに溶解し消滅する、コトリバコの異形の赤子としての姿。
だが尾弐は、その悲鳴すらも気にする事は無く、『ニホウ』『サンポウ』と、順々に小箱を破砕していく。
コトリバコの体液に塗れながら、無表情に淡々とその作業をこなしていく尾弐の様子は、
ある意味ではコトリバコよりも余程怪物じみていた。
そうして、3つのコトリバコを破壊した尾弐は……そのまま、ドサリと瓦礫へと座り込んだ。
「あー、痛ぇ……年甲斐も無く気張り過ぎたかねぇ」
いかな頑強な尾弐とはいえ、あれだけの攻撃を受ければ流石に完全に無傷とはいかない。
最も大きな傷は破魔の刃を作る為に自分で切り刻んだ左腕だが、それ以外にも小さな傷が、尾弐の全身の皮膚に刻まれている。続き11行
まるで心臓の様に脈打ち、色はどす黒く変色しているコトリバコ。
己の体から取り出された其れを、『シッポウ』のコトリバコは必死になって取り戻そうと腕を伸ばすが……その手が届く前に
尾弐の右手は、小箱を握りつぶした。
箱が潰れるのと同時に苦痛の叫び声を上げながらドロドロに溶解し消滅する、コトリバコの異形の赤子としての姿。
だが尾弐は、その悲鳴すらも気にする事は無く、『ニホウ』『サンポウ』と、順々に小箱を破砕していく。
コトリバコの体液に塗れながら、無表情に淡々とその作業をこなしていく尾弐の様子は、
ある意味ではコトリバコよりも余程怪物じみていた。
そうして、3つのコトリバコを破壊した尾弐は……そのまま、ドサリと瓦礫へと座り込んだ。
「あー、痛ぇ……年甲斐も無く気張り過ぎたかねぇ」
いかな頑強な尾弐とはいえ、あれだけの攻撃を受ければ流石に完全に無傷とはいかない。
最も大きな傷は破魔の刃を作る為に自分で切り刻んだ左腕だが、それ以外にも小さな傷が、尾弐の全身の皮膚に刻まれている。続き11行
ずだだだだ、と不格好なガニ股走りでロッポウから逃げる品岡。
無論敵から目を背けて無防備を晒しているわけではない。ちゃんと背中に目を生やしている。
追って飛んでくる粘液を目視し、ジグザグに動いて躱しながら疾走する。
「あかん息切れてきた……!煙草やめよっかなもう……!」
タールに塗れた肺が酸素を求めて律動し、水際の金魚のようにパクパクと喘ぐ。
肉体疲労とは無縁の妖怪と言えど、今日は朝から色々妖術を使いすぎた。
元々そこまで妖力の残高に自信のあるほうでない品岡は露骨に足運びの精彩を欠く。
ロッポウの足音がすぐ背後まで迫ってくる……!
>「――スリップ」
横合いから鈴の鳴るような声がしたが早いか路面が突如凍りつき、疾走していたロッポウが足を取られた。
重量感のある転倒の音が響き、走りながら吐いていたゲロが明後日の方向に飛んで街灯を溶かす。
「でかした優男!」
出現したアイスバーンの主は、何故か精肉屋の庇の上でチューブ容器を名残惜しそうにちゅうちゅう吸っているノエル。
涙の出るような好アシストだった。続き37行
無論敵から目を背けて無防備を晒しているわけではない。ちゃんと背中に目を生やしている。
追って飛んでくる粘液を目視し、ジグザグに動いて躱しながら疾走する。
「あかん息切れてきた……!煙草やめよっかなもう……!」
タールに塗れた肺が酸素を求めて律動し、水際の金魚のようにパクパクと喘ぐ。
肉体疲労とは無縁の妖怪と言えど、今日は朝から色々妖術を使いすぎた。
元々そこまで妖力の残高に自信のあるほうでない品岡は露骨に足運びの精彩を欠く。
ロッポウの足音がすぐ背後まで迫ってくる……!
>「――スリップ」
横合いから鈴の鳴るような声がしたが早いか路面が突如凍りつき、疾走していたロッポウが足を取られた。
重量感のある転倒の音が響き、走りながら吐いていたゲロが明後日の方向に飛んで街灯を溶かす。
「でかした優男!」
出現したアイスバーンの主は、何故か精肉屋の庇の上でチューブ容器を名残惜しそうにちゅうちゅう吸っているノエル。
涙の出るような好アシストだった。続き37行
刹那、品岡の姿がロッポウの視界から消えた。
十歩ほど離れたアスファルトが擦れる音、一瞬だけ現れた品岡が更にブレて消える。
品岡の姿を捉えたロッポウが粘液を吐く頃には最早的はそこにない。
形状変化で足の骨を強力なバネに変え、鞠のように跳ね回っているのだ。
「っつおらぁ!」
バネの加速そのままに、横合いからハンマーがロッポウの顔面を捉えた。
氷の棘が赤子の表皮を一瞬で凍結させ、次いで打撃がそれを砕く。
そうして二度、三度と少しづつではあるが、確実にコトリバコの体積を削いでいく。
「修復する隙なんぞやるかいな」
祈ほどの強烈な速力はないが、ロッポウの反応速度を超えられればそれで十分。
復元弾頭のように一撃では仕留められなくとも、このまま一方的な攻勢に持ち込み続ければ、いずれはケ枯れさせられる!
ロッポウが息を吸い込んだ。粘液を吐く予備動作だ。
しかしその射出口たる巨大なあぎとは明後日の方を向いている。
コトリバコの恐るべき学習能力が、品岡の機動力をバネによる直線的なものと見抜いた。
彼の一瞬後の位置を予測してそこ目掛けて粘液を吐きかける。続き40行
十歩ほど離れたアスファルトが擦れる音、一瞬だけ現れた品岡が更にブレて消える。
品岡の姿を捉えたロッポウが粘液を吐く頃には最早的はそこにない。
形状変化で足の骨を強力なバネに変え、鞠のように跳ね回っているのだ。
「っつおらぁ!」
バネの加速そのままに、横合いからハンマーがロッポウの顔面を捉えた。
氷の棘が赤子の表皮を一瞬で凍結させ、次いで打撃がそれを砕く。
そうして二度、三度と少しづつではあるが、確実にコトリバコの体積を削いでいく。
「修復する隙なんぞやるかいな」
祈ほどの強烈な速力はないが、ロッポウの反応速度を超えられればそれで十分。
復元弾頭のように一撃では仕留められなくとも、このまま一方的な攻勢に持ち込み続ければ、いずれはケ枯れさせられる!
ロッポウが息を吸い込んだ。粘液を吐く予備動作だ。
しかしその射出口たる巨大なあぎとは明後日の方を向いている。
コトリバコの恐るべき学習能力が、品岡の機動力をバネによる直線的なものと見抜いた。
彼の一瞬後の位置を予測してそこ目掛けて粘液を吐きかける。続き40行
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