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那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2018/01/05(金) 18:07:39
201X年、人類は科学文明の爛熟期を迎えた。
宇宙開発を推進し、深海を調査し。
すべての妖怪やオカルトは科学で解き明かされたかのように見えた。

――だが、妖怪は死滅していなかった!

『2020年の東京オリンピック開催までに、東京に蔓延る《妖壊》を残らず漂白せよ』――
白面金毛九尾の狐より指令を受けた那須野橘音をリーダーとして結成された、妖壊漂白チーム“東京ブリーチャーズ”。
帝都制圧をもくろむ悪の組織“東京ドミネーターズ”との戦いに勝ち抜き、東京を守り抜くのだ!



ジャンル:現代伝奇ファンタジー
コンセプト:妖怪・神話・フォークロアごちゃ混ぜ質雑可TRPG
期間(目安):特になし
GM:あり
決定リール:他参加者様の行動を制限しない程度に可
○日ルール:4日程度(延長可、伸びる場合はご一報ください)
版権・越境:なし
敵役参加:なし(一般妖壊は参加者全員で操作、幹部はGMが担当します)続き24行
172:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/03/28(水) 01:50:33
地下室での顛末を知らない深雪にはその経緯は分からないが、芦屋易子の参戦をきっかけに戦況は一気に有利に転じる。
手に持っていたミカエルの剣を牽制にオセに向かってダーツのように投げつけながら、ポチに言う。

「《獣(ベート)》よ――そやつは任せた!」

更に、ポチに氷雪の妖力を付与する。
これは通常は武器に対してするものだが、本体に直接付与というのは雪山の神にルーツを持つ深雪と山神の使いであるポチだからこそ出来る芸当だ。
そして、ヴァサゴ&シャクスの方に向き直り、尾弐に向かってこんなことを言い出す。

「こやつらをまとめて一刀両断にできる方法を思い付いた。こちらも奴らと同じ手法で対抗しようではないか」

そう言うや否や深雪は姿を消し、氷雪の風が尾弐の周囲で渦巻く。そして声だけが聞こえてくる。

《喜べ! 我を好きなようにする権利をやろう! 太刀でも錫杖でも――汝が望む姿になろうぞ》

深雪の思い付きとはシャクスがヴァサゴの武器と化しているのと同じように、自らが武器になることだった。
東京を氷漬けに出来るほどの大災害が凝縮された武器を、圧倒的な膂力を誇る鬼が振るえばいかほどのものか。

《このような試みは初めてだが優しくしなくて良いぞ! 壊れはせぬからな!》

……ただ一つ問題があるとすれば、尾弐にとってはとんだ罰ゲームであることだけだ。
173:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2018/03/29(木) 16:52:11
膨大な妖力が新たに一つ膨れ上がるのを感じて、ポチは地を蹴る脚に一層の力を込めた。
護摩の香りに紛れないほど濃い血のにおいもする。
勘違いであって欲しいとどれほど祈っても、そのにおいには嗅ぎ覚えがあった。祈の血のにおい。
ブリーチャーズの皆が、例えこの屋敷の結界の中でも苦戦するとは思っていなかった。
少なくとも祈がこれほど濃いにおいがするほど、出血させられるとは。
ミカエルだっていたはずなのにどうなっているのか。
絶え間なく湧いてくる疑問を首を振って、払い退ける。
そんな事をしている暇があるなら、一秒でも早く駆けつけなくては。

「みんな!大丈夫……」

戦場に辿り着いたポチが目にしたのは――

>「しかと御覧じろ――天魔七十一将が一翼、地獄の大総統たるこのオセの『権能』!」

邪悪な妖気に当てられて、獣の姿へと変貌させられていく陰陽師達。
ノエルによく似たにおいをした、しかし恐ろしいほどの妖力を振り撒く少女。
そして――全身を切り刻まれて、立つのもやっと、といった体の祈の姿。
全身の毛が、尾が逆立つのをポチは感じた。
続き56行
174:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2018/03/29(木) 16:52:52
>「芦屋……易子ォォ……!!」

ポチが振り返る。血にまみれた巫女装束を身に纏ったままの芦屋易子が、そこにいた。

>「わたくしに救われて欲しいと……そう言いましたね、豺狼の化生よ」

「ああ、ああ、言ったよ。結局僕らが救われちゃったみたいだけどね」

祈が助かった。芦屋易子もあの地下室から出てきてくれた――諦めずにいてくれた。
二重の安堵に、ポチの声が思わず弾んだ。

>「わたくしの心はいまだ暗中にあり、光の在処さえ見えませぬ。――けれど――」
 「貴方たちの言葉を信ずることで、もしも救いが齎されるのならば。生き恥を晒す我が身に、何らかの意味を見出すことができるのなら――」
 「力をお貸ししましょう。わたくしの罪の償いは、その後に」

「……ありがとう。本当に、ありがとう……約束は守るよ」

ポチが安倍晴陽と出会った場所――彼女ならば、きっと辿り着けるだろう。
無論、その生を手放さないままで。
ポチには彼女の術士としての実力は分からない。超一流である事は分かっても、具体的なところは何も分からない。続き44行
175:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2018/03/29(木) 16:56:14
「立てよ。よくも祈ちゃんを傷つけてくれたな」

氷雪の妖力が宿った両手で、額の毛並みを掻き上げる。
薄い氷を帯びた銀毛が王冠のように光った。

「同じ目に遭わせてやるよ」

その声音には冷酷な響きが、オセを見下す眼光には殺意が宿っていた。

「どうした?もしかしてまだ立てないのか?……だとしたら、実は大した事ないんだな、お前」

瞬間、オセが猛然たる勢いで跳ね起きた。
一人で三柱の悪魔に術を仕掛けている芦屋易子と、手負いのミカエル。
結界が張られてからもう大分時間が経っている。
既に拘束を解ける状態になっていたのだろう。そしてその上でそれを隠していた。
必殺の、逆転の一撃を叩き込めるその時まで。
全身の力で跳ね起きる勢いを乗せたサーベルの切っ先が、ポチの喉元へ迫る。

「……げははは。どうした?それだけかよ、猫面野郎」
続き41行
176:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2018/04/01(日) 23:36:19
(当たる――――当たれっ!!!!)

この局面でヴァサゴを屠る事が叶わなければ、敗北する。尾弐はそう確信していた。
それは、環境に戦力、経験値。これら全ての要素の総合値で、現状の尾弐達は悪魔達に劣ってしまっているからだ。
勿論、能力の相性などにより短期的な場面でならば相手を上回れる事もあるだろう。
だが、強力な敵が複数居る場面においてソレではダメなのだ。
一瞬の勝利は、数多の敗北に塗りつぶされる。そんな勝利には意味が無い。

必要なのは刹那の必殺。
勝利では無い。絶命を成し、総合値での敗北を塗り替える行動結果。

故に、尾弐は機会を待った。
奇襲により敵の一角を崩す事を企てた。
そして……その機会は訪れる。

深雪。災厄の魔物――――ノエルが変じたであろう魔性。

説明を受けずとも、纏う肌に突き刺さるような妖気で判る。
あれは敵だ。尾弐の敵だ。人に仇名し命を奪う妖壊の類なのだと。
だが、それでも……今は、見逃した。続き31行
177:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2018/04/01(日) 23:36:53
>「何事じゃ!?……ヒッ、け、けけ化生!」
>「曲者!曲者じゃ!さては、こ奴らが陰陽頭さまを呪うておった下手人か!」

故に、次に響いてきた声は、ある意味では惨禍を招く絶望であり、ある意味では災禍を免れる福音であった。
驚愕の声と共に現れたのは明王連の術者達。
彼等は、呑気にもオセ達を見て驚き戸惑っている

……そう、呑気にもだ

結界に守られ、組織に守られ、派閥に守られ。
そんな環境の中で、自身が敵の標的になる可能性など考えてもいなかったのだろう。

>「邪魔だ! 死にたくなければ離れておれ――!」
「っ――――馬鹿野郎共!さっさとここから散れっ!!」

>「おお……、何たること!日ノ本鎮護の要たる陰陽寮に忌まわしき化生どもが……!」
>「あっ!あれ、お孫ちゃんじゃん!?え、え、ヤバくない?」
>「あのバケモノどもはなんだ!?あんな化生は日本にはおらぬぞ!?」

故に害意の矛先を向けられても、抵抗する事が出来なかった続き37行
178:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2018/04/01(日) 23:37:16
>「くそ、くそ、くそっ……!」
>「さて……レクチャーはおしまいです。最後に両脚を断ち切って差し上げましょう、二度と反抗する気など起こさぬように!」
>「クソ……クソ!誰か!誰でもいいから!祈ちゃんを……」
>「やめろおおおおおおおおおおおおお!!」

「逃げろ嬢ちゃん!這いつくばってでも、逃げろ!……ちいっ!デカい猫風情が纏わりつくんじゃねぇっ!!」

オセが祈へ向けて歩を進める。その歩を止めようにも、オセと尾弐の距離は余りに遠い。
人を殺める妖壊を滅殺するという己が信念も。少女の親と交わした誓いも。尾弐は守る事が出来ない。
遠い昔――――祈の両親が悪意の犠牲になる事を許容してしまった様に。
尾弐の力は、ここまで限界であった。

故に。
起死回生の一手は、尾弐以外の者によって行われる事となる。


>「陰陽寮に施された結界は、日本妖怪に効果を発揮しても西洋妖怪には効きにくい――。ならば」
>「西洋妖怪には西洋魔術を。簡単な話でしょう?尾瀬甚内」

悪魔達の動きを阻むように現れたのは、日の本で見られる術式とは様相の異なる六芒の結界。続き38行
179:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2018/04/01(日) 23:37:49
>「こやつらをまとめて一刀両断にできる方法を思い付いた。こちらも奴らと同じ手法で対抗しようではないか」
「は……?おい、ノエ……じゃねぇ。別嬪さん、何を」

掛けられた深雪からの言葉。
突然の事に尾弐が疑問を述べかけ……だが言い切る前に、骨まで凍る様な冷たい風が吹き、深雪の姿が掻き消えた。
同時に、風の中から尾弐の耳に声が届く。

>《喜べ! 我を好きなようにする権利をやろう! 太刀でも錫杖でも――汝が望む姿になろうぞ》
>《このような試みは初めてだが優しくしなくて良いぞ! 壊れはせぬからな!》

尾弐の背中が冷気とは別の寒気でゾワリと粟立つ。
……が、現状が現状である。いつまでもそうしている訳にもいかない。
これはノエルじゃない。別人だ。知らない女妖怪だ。と自分に言い聞かせつつ尾弐は深呼吸してから口を開く。

「おいおい……なんつー無茶苦茶な力だよ。下手な祟り神より荒れ狂ってやがんじゃねぇか。
 オジサンにこんな力使わせて、どうなっても知らねぇぞ」

そうして尾弐は、ヴァサゴの槍により肩を貫かれた事で血まみれになった腕を、深雪が変化した雪風に右腕を突き入れた。
刺すような冷気を感じつつイメージするのは、流れ込んで来る災厄の魔物の膨大な妖気に溶ける自身の血肉。
造形するのは尾弐が知る強さの具現。最も信頼し、最も慣れ親しんだ武器の造形。続き28行
180:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI2018/04/05(木) 18:26:03
「撃て撃てーい!西洋悪魔めら、生かしてこの屋敷うちから逃がすな!」

安倍晴空の号令一下、生き残った陰陽師たちが獣に変化した同胞たちを拘束術で縛り上げると同時、悪魔に雨霰と破魔術を叩き込む。
芦屋易子とミカエルの西洋結界で身動きの取れないオセたち三柱は、なすすべもなく陰陽師たちの術の洗礼を受けた。
日本妖怪をたちまち撃滅するだけの威力を持った渾身の術が炸裂し、濛々と土煙が上がる。

が。

「……フ……、ファファファ、ファファファファファ……!」

絶え間ない法術の嵐に晒されながら、オセは嗤った。
祈がほうほうのていでオセの足元から這い出したあとも、それは変わらない。
陰陽師たちが千数百年もの間練磨研鑚してきた法術も、紀元前から闘争を続けてきた悪魔にはほとんど効果がないということらしい。

「快楽(けらく)!まさに快楽……人間どもが蟲の如く足掻き、絶望と共に死んでゆく……これを至福と言わず、何と申しましょうや!」
「人の生とは泡沫の如きもの。愛もまた然り――無価値無意味なものでしかない!そんなものに縋るなど、溺水にて藁を得るが如し!」
「さあ、謹んで絶望されよ。貴公らの信ずるものの一切を、我ら天魔三柱が合切否定して進ぜよう程に!」
「ファファファ!さあ――阿鼻と叫喚の支度は宜しいか?」

ずしん、とオセが一歩を踏み出す。シャクスを構えたヴァサゴも、その巨体をゆっくりと前進させようとする。続き46行
181:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI2018/04/05(木) 18:30:54
「グロロロロロロォォォォォ―――――――――――――ン!!!」

ヴァサゴが吼える。
シャクスを打撃武器として装備したヴァサゴは巨体を使い、無差別に陰陽師たちを攻撃している。
オセが悲鳴のような声で呼ばわると、ヴァサゴは鎧を纏った兵士の顔をそちらへ向け、やがてワニの体躯をゆっくり転回させた。
三柱が合流すれば、それはきっと大きな脅威となることだろう――が。

>《喜べ! 我を好きなようにする権利をやろう! 太刀でも錫杖でも――汝が望む姿になろうぞ》
 《このような試みは初めてだが優しくしなくて良いぞ! 壊れはせぬからな!》
>おいおい……なんつー無茶苦茶な力だよ。下手な祟り神より荒れ狂ってやがんじゃねぇか。
 オジサンにこんな力使わせて、どうなっても知らねぇぞ

深雪が転じた凍気の渦の中へ、尾弐が右腕を突き入れる。
災厄の魔物たる雪の女王と、荒ぶる鬼神のコラボレーション――その果てに出現したのは、巨大な腕。
尾弐の身体に比べてアンバランスすぎるほどに巨大な右腕が、莫大な妖気を放つ。

「キョオオオオオオオオオオッ!!!」

シャクスが甲高い声をあげ、深雪の切断を免れた首から口々に超音波を放つ。
目標を定めることなどしない、当たるを幸いの盲撃ちだ。続き46行
182:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI2018/04/05(木) 18:35:40
「……な……に……?」

深雪と尾弐の力を合わせた攻撃がシャクスとヴァサゴを葬り去るのを、オセは呆然とした面持ちで目撃した。
天魔七十一将は地獄を本拠とする魔物のエリート。比肩し得る者と言ったら、天上に巣食う天使くらいのもの。
そう、思っていた――なのに。

「こ……この凍気……!ス、『雪の女王(スニドロニンゲン)』……!?莫迦な、なぜこんな極東の島国に……」
「それに、あの男の妖気……我ら『悪魔(デヴィル)』とは似て非なる地獄に棲む……『鬼神(デモン)』ではないか……!」

オセは蒼褪めた顔で呟くと、恐る恐るポチの顔を見た。
そしてその漂わせる妖気の正体が何なのかを理解し、思わず悲鳴を上げる。

「ひ……ヒィィィッ!き、きき、貴公はもしや……『獣(ベート)』……!?ば、莫迦な……莫迦な、莫迦な、莫迦な!」
「『雪の女王』!『鬼神』!『獣』!」
「一体いれば、人間の大都市を跡形もなく滅ぼすことさえ造作ない『大妖怪(レジェンダリー・クラス)』が三体!」
「それがなぜ、こんな東アジアの一都市にいる!?い、いや、それよりも……なぜ!」
「なぜ、あんな非力な半妖の小娘の式神などやっているのだ!?理解できぬ……理解できぬ!」
「貴公らのような者がいるなど、参謀どのは一言も――!」

恐怖からか、オセが早口でまくし立てる。続き49行
183:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI2018/04/05(木) 18:39:12
「参謀どの!」

そんな橘音の姿を見て、オセが蒼褪めていた顔色を一変させ喜色を湛える。

「まさか、参謀どのに直接お出まし頂けるとは!盟主どのの差配でございますな……?」

「オセさんたちが上手くやっているかどうか確認にね……。まずは目標達成ってところですか、さすがオセさん。すばらしい!」

「は、ははっ!御褒めに与り恐悦至極、さ、さりながら、この者ども……半妖を除いては全員大妖怪クラスの大物にて、不覚をば……」

「ま、それはしょうがないでしょ」

橘音は肩をすくめた。にべもない。
縋るように、オセが橘音へと這ってゆこうとする。

「参謀どの!わ、わたしに何卒御力を!参謀どのの御智慧にて、この者どもを皆殺しにする方途を御授け下さい!」

「……ふむ。彼らを皆殺しにする智慧、ですか」

「然り!この者どもら、我らが朋輩たるシャクスとヴァサゴを……!是が非でも我が手で仇討ちを!」続き56行
184:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI2018/04/05(木) 18:43:32
門の扉が閉まると、橘音はいつかのように手早くそれを魚のオブジェに戻し、マントの内側に仕舞った。
そして、木に凭れ掛かって眠っている祈を一瞥する。

「さて、皆さんもお疲れさまでした。今回の戦いも大変だったみたいですね?」
「ま……アナタたちが戦った三柱は天魔七十一将でも下の上あたり。あの程度の連中に負けることはないと思っていましたが……」
「でも。腐っても天魔、首尾よく目的だけは遂げてくれたようです」

そう言うと、橘音は口許に禍々しい笑みを浮かべた。

「400年の封印刑を喰らったはずなのに、ボクがどうしてここにいるのか分からない……といったお顔ですね」
「簡単な話です。ボクは助けてもらったんですよ……『彼』に。そして妖怪大統領に」

祈から視線を外し、橘音はノエル、ポチ、尾弐を順に見遣る。

「いや、レディベアに……と言った方がいいでしょうか?あちらの指揮を執っているのは彼女ですからね、アハハ!」
「封印刑を受けたボクは妖怪銀行の封印指定呪具保管庫に仕舞われていたのですが……それを『彼』が奪還してくれましてね」
「ボクを封印から解き放ったうえで、こう言ったのです」

「『昔のように、また一緒にやろう』ってね……!」
続き35行
185:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI2018/04/05(木) 18:51:06
日本明王連合の頂点、陰陽寮陰陽頭安倍晴朧を呪殺しようと目論んだ犯人は、陰陽寮内に潜伏していた尾瀬ら三名と判明した。
ミカエルの解呪の甲斐あって、一時危篤状態に陥った晴朧は順調に回復しつつある。
元々頑健な肉体と精神を持っていた晴朧である。戦いから数日が経った現在、自力で食事を取ることもできるようになったという。
戦いではシャクスとヴァサゴによって多数の死傷者が出たが、それでも陰陽寮としての機能はほぼ通常通りにまで復旧された。
オセの権能で獣に変身させられた者たちも、オセが地獄に引き込まれるとほどなくして元に戻った。
獣であったときの記憶は曖昧だというのが、せめてもの救いだろうか。
ミカエルは解呪が終わると、役目は果たしたとばかりにさっさと帰ってしまった。
『また、近く相まみえることもあろう』という言葉を残して。

陰陽寮の機能が回復すると、元東京ブリーチャーズの四名は再度安倍家の召喚を受けた。
SnowWhite前にやってきたリムジンに乗り込み、安倍邸に行くと、四人は山里宗玄の控えの間ではなく、大広間に通された。
賓客をもてなすための、豪奢な広間だ。下座には百名を超える陰陽寮の名だたる陰陽師たちが既に控えており、安倍晴空の姿もある。
四人が促されて上座に座ると、安倍晴空が苦虫を噛み潰したような表情で口を開いた。

「此度のことは、大儀であった」
「よもや、あの尾瀬らが伯父御の呪殺を企んでおったとは……。それに10数年も気付かなんだとは、いい恥さらしよ」
「そして何より……それをうぬら化生どもが看破し、あまつさえ撃破し。我らは指を銜えて見ておるしかなかったとは――!」

晴空は忌々しげに吐き捨てると、晴空はひとりの陰陽師に目配せした。
陰陽師が四人の前にそれぞれ一枚の小切手とペンを置いてゆく。続き40行
186:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI2018/04/05(木) 18:56:35
「……済まなんだな」

大広間での公式な面会が終わると、安倍晴朧は個人的な用事で祈を私室に招き、開口一番そう謝罪した。

「この世の名残に、そなたに会えと尾瀬に言われたのだ。言われるがまま、そなたに会ったが……酷いことを言ったな」
「呪詛に蝕まれていたとはいえ、年端もゆかぬそなたに祖父としてあるまじきことを申した」
「……いや。そなたが生まれて、一度たりと会おうともせなんだ儂が……今更祖父だなどと、どの面でも言えたものではないか」

車椅子に座った晴朧は太く真っ白な眉を下げ、困ったように笑った。
大柄で厳つい老人だが、笑った顔は意外にも優しい。

「怖かったのだ……晴陽の忘れ形見と顔を合わせるのが。そなたと顔を合わせることで、晴陽を思い出すのが」
「晴陽が儂の元を去ったときの悲しみを、晴陽が死んだと聞いたときの絶望を、もう一度味わうことになるかもしれぬと――」
「……儂は、それを恐れたのだ」

車椅子の肘掛けに置いていた手を伸ばすと、晴朧は祈の頬に触れようとした。
陰陽師として戦ってきた、その戦歴の凄まじさを物語る、傷痕だらけでごつごつした大きな手。

「だが……それは杞憂であったな。病の床で言った言葉は忘れてくれ、ああ……そなたは晴陽に生き写しだ。むろん颯どのにも」
「尾瀬には色々、思うところもあるが……ただひとつ。そなたと儂とを引き合わせてくれたという点だけは、感謝してもいいかもしれぬ」続き53行
187:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI2018/04/05(木) 18:59:24
「……おや、お帰り。早かったネ」

「ええ、まあ。ちょっとした挨拶だけですからね、すぐですよ」

「連中、相当ビックリしてたんじゃないのかネ?クカカ……吾輩も見たかったなぁ、さぞかし滑稽だったろう!」

「うーん、そうでもなかったかな……。だって、一番リアクションが見たかった相手が眠っちゃってたんですもん」

「おや。それは残念」

「でもいいんです。言ったでしょ?今回は単なる挨拶。面白いのはこれからですよ」

「わかっているとも。こちらも今、それに向けて着々と準備を進めているところサ」

「『アレ』を目覚めさせれば、瞬く間に東京は滅ぶ。チマチマと帝都鎮護の要所を潰したり、祭神簿を焼くなんてまだるっこしいんですよ」

「クカカ!そこはそれ、ゲーム性っていうかネ!他人の苦しむ姿を見るのが、吾輩の楽しみなものだから!」

「ボクはそんな悪趣味じゃないんで、さっさとやっちゃいますよ。いいでしょ?」
続き26行
188:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2018/04/07(土) 22:59:20
 悪魔三柱との激しい戦いから数日が経過した。
 途中で戦線を離脱して意識を失っていた祈は、
その戦いの結末を病院のベッドの上で聞いた。
 ポチが獣《ベート》の力でオセを、
ノエルと尾弐が協力し、巨大な鬼の手でシャクスとヴァサゴを倒し、
戦いは東京ブリーチャーズ側の勝利で終わったこと。
 獣に変えられた人間達は元に戻り、
幸か不幸かその間の記憶は曖昧であること。
 ミカエルは安倍晴朧に掛けられた呪いを解いたらすぐさま帰ってしまったが、
近い内また会うだろうと言っていたこと。
 そして、呪殺を免れた安倍晴朧は――回復に向かいつつあること。
 それら安倍邸での顛末を聞いた祈は、ほっとした様子で深く息を吐いた。
 例の河童が院長を務める病院に入院している祈。
その体には腕やら首やら各所に包帯がグルグルに巻かれており、
折れていた右腕はギプスを嵌められ、首に回された布に吊られている。
 上体を起こした祈は、

「ありがと。皆のお陰でなんとかなったみたいだね」

 と、安倍邸での顛末を聞かせてくれた仲間にまず礼を言って、続き26行
189:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2018/04/07(土) 23:04:55
 ギプスを嵌めた右腕を首から下げた布で吊った状態ではあるが、
傷が完全に塞がり包帯も取れた祈は、程なくして退院した。
 そして陰陽寮が機能を取り戻した頃になると、
ブリーチャーズは再度、安倍邸へと向かうことになった。
SnowWhite前や自宅前などで待ち受けていたリムジンに乗せられて、
再び安倍邸へと連れていかれることになったのである。
 どのような理由で呼んだのかは運転している陰陽師も詳しく知らないらしいが、
心なしかその陰陽師も、門を開けてくれた陰陽師達も、
前回屋敷を訪れた時ほど刺々しくも余所余所しくもなかった。
 通された部屋もまた前回とは異なっており、
山里が使っていたような小さな部屋ではなく、宴会でも開けそうな大広間へと通された。
大広間には陰陽師達が多数控えていて、安倍晴空の姿もある。
祈達はどういうことか、大広間の上座の方へと案内された。
 一応友好的なムードであるし、上座とはお客が座らされる席。それらから察するに、
少なくとも荒事で呼び付けられた訳ではなさそうだと、今更ながらに祈は安堵する。
かしこまった席のようなのでとりあえず正座する祈。
 祈達が全員座り終えると、
揃った陰陽師達を代表してか、苦虫を噛み潰したような顔の安倍晴空が口を開いた。

>「此度のことは、大儀であった」続き49行
190:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2018/04/07(土) 23:28:58
>「……みな、善い顔をしておる。絶えて久しいと思うておったが……まだ、化生にもおぬしらのような面魂の者がおるのだな」
>「我が手の者どもでは、敵わぬはずよ。陰陽寮も一から出直しの機会か……。この儂も含めてな」

 そう言って、芦屋易子の手を借りて車椅子から降りると、安倍晴朧は畳の上に正座し、
そして両拳を畳につけると――深々と頭を下げてみせた。退魔師の宿敵たる、妖怪達に向けて。

「……じーちゃん……?」

>「世話をかけた。おぬしらの働きに対しては、この安倍晴朧――どれほど感謝の言葉を尽くそうとも足らぬ」
>「儂の命のことを申しておるのではない。この陰陽寮に巣食っておった病巣を、お主らは取り除いてくれた」
>「尾瀬たちのことはむろん、退魔組織の頂に胡坐をかく我らの驕り。権力に、妄執に取り憑かれることの醜さ――」
>「それら、我らの宿痾をおぬしらは取り去ってくれたのだ。……この安倍晴朧、陰陽寮のすべての者に成り代わり礼を申す」

 それは日本明王連合のトップが見せる、奉謝にも似た感謝の姿勢だった。
 立場ある人がやって良いものかと祈は心配になるが、
晴朧の言葉通り、今回の一件は悪魔を退治しただけに留まらず、実は組織内部に様々な影響を与えており、
それを実感する者もいるらしかった。
どよめく陰陽師達の声には動揺や否定だけでなく、その行動に納得するようなものも混じっている。

>「この大恩、むろん金銭などでどうにかなる問題とは思ってなどおらぬ……が」続き33行
191:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2018/04/07(土) 23:40:44
 祈はその後、一人だけ安倍晴朧の私室に呼ばれることになった。

>「……済まなんだな」

 祈が襖を閉めて晴朧と二人きりになると、
車椅子に腰かけたままの安倍晴朧が開口一番、祈にそう謝罪した。
 何か謝られることなどあっただろうか、と祈は小首を傾げた。

>「この世の名残に、そなたに会えと尾瀬に言われたのだ。言われるがまま、そなたに会ったが……酷いことを言ったな」
>「呪詛に蝕まれていたとはいえ、年端もゆかぬそなたに祖父としてあるまじきことを申した」

 それを聞いて祈は、ああ、と謝られた意味を理解した。
確かにむかついたことではあったが、
死を間際にした老人の寂しさからくる八つ当たりみたいなものだと思って、
あまり気にしていなかった、――“つもりの言葉”だ。

>「……いや。そなたが生まれて、一度たりと会おうともせなんだ儂が……今更祖父だなどと、どの面でも言えたものではないか」

 言われて初めて、自分が存外に祖父の拒絶に傷付いていたのだと知った。
 白く太い眉を下げて、困ったように晴朧は笑う。続き49行
192:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2018/04/07(土) 23:51:14
上二本与半卉亠十士廿卞广下广卞廿士十亠卉半与本二上旦上二本与半卉亠十士廿卞广下广卞廿士十亠卉半与本二
 
 祈は他人の痛みや不幸に敏感だった。
両親がいないという、ありふれた不幸な境遇が祈をそうしたのかもしれない。
 なんであれ祈はそれらを、他人の痛みや不幸を極端に嫌った。
特に死は駄目で、死にゆく人の人生や、その人が死ぬ直前に感じる恐怖や痛み、
あるいはその人を失った家族や友人がどのような思いを抱えるか。
そんなことを考えるだけで気が滅入って、悲しい気持ちになるのだった。
 そんな理由から祈は、ブリーチャーズに所属する以前から妖怪と戦ったり、人助けをやっていた。
 特別優しい、ということではない。
ただ、自分が誰かの痛みを見ることが嫌いなだけ。
そして祈は“半妖”とかいうそこそこ力がある生き物だったから、
木っ端妖怪や人間の不良など相手にならなかったし、足が速いから車に轢かれそうな子供を助けるなど朝飯前だった。
できるからやってきた。ただそれだけのことなのだった。
 妖怪と戦ったり、不良にカツアゲを止めるよう注意をしたり、
困っている人の話を聞いたり、喉が渇いている妖怪に血をやったり。
その結果として――、深夜徘徊する少女、傷だらけの少女。
不良と喧嘩をする少女。酔っぱらいを担いで歩き回る少女。
それを注意しても辞めない、大人を恐れない反抗的な――“路地裏の悪童”。そんな風に呼ばれるようになり、
不良のレッテルを張られて孤立していくのだが、続き25行
193:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2018/04/07(土) 23:52:34
 だが。
 だが。だが。だが――、しかし。事は起こった。
 それは悪魔達の謀略だった。
 明王連合の破壊を目論んだ悪魔達は、
十数年もの間陰陽寮に潜み、やがて芦屋易子に目を付けた。
 安倍晴朧の呪殺を試み、その罪を芦屋易子に擦り付けることで、
安倍晴朧に呪殺への抵抗を放棄させるという策を用いた。
そして。何故であろうか。如何なる目的あってのことか、
その様を祈に見せつけることで絶望させようなどと画策したのである。
 日に日に弱り死に向かう安倍晴朧。
権力争いに躍起になる安倍晴空。揺れる陰陽寮。
死んだ元婚約者・安倍晴陽を蘇らせようと、昏い感情に支配された芦屋易子。
ドロドロとした人物たちの闇と、舞台が祈を追い詰めた。
 そして悪魔の一柱・オセとの戦い。
焦りの中、格の違いを見せつけられ、完全な敗北を味わわされた後、迎えた人の死。
 それが祈の心をへし折ったのだった。

――“自分には誰かを守ることなどできはしない”。
――“むしろ標的となった自分がいればもっと人が死んでしまう”。
続き27行
194:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/04/09(月) 01:30:42
>「テメェらは祈の嬢ちゃんを泣かそうとしやがったんだ……愛だ正義だなんて、キレェなモンを相手にして終われると思うんじゃねぇぞ」

《ふはははははっ! 良いぞ、その調子だ!》

怒りのままにシャクスを地面に叩きつける尾弐とは対照的に、深雪は久々に存分に力を発揮し悦楽の極みといった様子。

>「ギ……ギャアアアアアアアアアア――――――――ッ!!!」

シャクスが粉々に砕け散ると、ヴァサゴの口を封じにかかる。

《残念――オヤツはくれてやらん》

>「ギオオオオオォオォオォオォォオオォォォ!!!!」

巨腕の一撃の前にヴァサゴが倒れると、深雪は合体を解除した。
再び妖艶な女怪の姿として顕現すると、恍惚とした笑みを浮かべてこんなことを言う。

「ふふふ、なかなか良かったぞ」

――いちいち尾弐に対する嫌がらせが抜かりないのであった。続き23行
195:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/04/09(月) 01:32:34
そう、愛なんてあるから人間どもは目先のものしか見えずに大局的に物事を考えられなくなるのだ。
自分の親しい者が良ければそれでいい。今を生きる者が幸せならそれでいい。自分の種族さえ――人間さえ良ければそれでいい。
そんなことだから、妖壊やら果ては悪魔やらが湧いてくることになったのではないか。
愛などくだらぬ――そう言おうとして、しかしそこで言葉を止める。

「……」

>『――――かしこみかしこみ申す。荒ぶりし雪妖よ。汝が力を我が身に降ろし、力を形と成さん事を、
 我が『右腕』として顕現したまえと白す事を、聞こし食せと恐み恐みも白す』

尾弐が自らの力を借りる時に唱えた言葉を思い起こす。あれは、神に行う祝詞だった。
本当は彼にとって自分は憎むべき敵で、必要に迫られて仕方なくというのも分かっている。
それでも――”遥か昔の愛されていた頃”を思い出したような、不思議な気持ちになった。
災厄の魔物たる自分にそんな時代はあったはずはないのに。
思えば、自分とは全く関係のない小さな動物に手を差し伸べることも、遥かな未来にほんの少し想いを馳せることもまた愛なのではないか。
深雪は、対局とも言える概念を同じ言葉で括ってしまう日本語のガバガバさに今更ながら愕然とした。

>「おっ!ギリギリ間に合った感じかな?宴もたけなわってところですね、アハハ!」

横合いから聞こえてきた場違いな陽気な声に、思考は中断される。続き26行
196:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/04/09(月) 01:35:50
>「たす……、助けて……!わたしはこんなことのために……!お、おのれ『盟主』!やはり、あの男を奉じるなど間違って――!」
>「嫌だ!嫌だいやだイヤダ……嫌だアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

門の内側へと引きずられていくオセを、深雪はほんの少し憐れむような目で見ていた。
そして、オセの姿が完全に消えた頃、いつの間にか姿がノエルに戻っていた。
三体の悪魔との戦いが終わったことで、もう戻ってもいいと無意識のうちに思ったからかもしれなかった。
急に戻って状況が分からない――などということは無かった。今までとは違い、深雪になっていた時の記憶が残っているのであった。

>「さて、皆さんもお疲れさまでした。今回の戦いも大変だったみたいですね?」
>「ま……アナタたちが戦った三柱は天魔七十一将でも下の上あたり。あの程度の連中に負けることはないと思っていましたが……」
>「でも。腐っても天魔、首尾よく目的だけは遂げてくれたようです」

「橘音くん、どうして……」

>「400年の封印刑を喰らったはずなのに、ボクがどうしてここにいるのか分からない……といったお顔ですね」
>「簡単な話です。ボクは助けてもらったんですよ……『彼』に。そして妖怪大統領に」

ノエルは橘音と目を合わせない。下を向いて、泣くのを必死に我慢しているかのように震えている。

>「袂を分かってから数百年。二度と『こちら側』に戻ることはないと思っていましたが……いざ戻ってみると、存外心地いい」続き18行
197:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/04/09(月) 01:36:57
《何、ほんの気まぐれだ。そこの娘に興味を持った――真に悪魔どもが脅威とみなすに足る存在なのか見極めてやろうぞ》

どうやら深雪は祈のことを気に入った、もとい興味を持ったようであった。

>「今日のところはそのご報告、って感じでお邪魔してみました。あ、自己紹介がまだでしたね。こういうことはちゃんとしておかなくちゃ」
>「ボクの名前はアスタロト。序列第29位、10の大軍団を統率する魔界の大公――」
>「でも、皆さんは今まで通りの呼び方で呼んでくださって結構ですよ。『橘音ちゃん』……って」

何故かオセと同じようなサービス精神溢れる自己紹介をする橘音。この自己紹介は悪魔の組織の様式美らしい。

>「それにしても、皆さんの『愛』の力はすばらしい!さすが、今まで幾多の強敵を退けてきただけのことはありますね!」
>「その、素敵な想い。慈しみ、尊び、共に歩んでゆこうとする気持ち――」
>「……踏みにじって差し上げましょう。このアスタロト……いいえ。狐面探偵・那須野橘音の知略で」

「誰が呼んでやるか! お前なんか橘音くんじゃない!」

>「じゃ、今日はこのへんで!皆さんを陥れる、新しい策を考えなくちゃいけませんから!」
>「あ、祈ちゃんにも伝えておいてください。ボクが『面白いのはこれからですよ』って言ってたって。チャオ!」

橘音の姿が見えなくなった後、暫し茫然と立ち尽くしていたノエルだったが、続き9行
198:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/04/09(月) 01:38:53
数日後、ノエルはペットを連れて祈のお見舞いに来ていた。
お土産にもってきた箱の雪見だんごを渡し、ハクトを祈の膝の上に乗せる。
何て声をかけていいのか分からないのでアニマルセラピーのつもりである。
ハクトが下手糞とはいえ一応人間形態にもなれることを考えてしまうと微妙な気分がしないでもないが、そこは考えないことにしておく。

>「ありがと。皆のお陰でなんとかなったみたいだね」
>「やっぱ皆強いよなー。あたしなんて、全然尾瀬さんに敵わなかったもん。
つーか戦いの途中で寝ちゃってるし! ほんとごめんね!」

その祈は包帯やギプスでぐるぐる巻きになっているが、妖怪が怪我をして数日経っても包帯ぐるぐる巻きというのは通常あまり見ない光景である。
祈はやはり半妖であり、普通の人間よりは桁違いに回復力が強いとはいえ、生粋の妖怪のように都合よくすぐに治ったりしないのかな、等と思うノエル。

「大丈夫? その……痛くない?」

>「え? 大丈夫だよ! 河童の軟膏で傷はもう治ってんだし。
これはばーちゃんが、一応女の子だから傷跡一つ残らないようにって、なんか大袈裟に包帯巻いたりしててさ。
ギプスだって、骨が変な治り方しないようにって念の為付けてるだけだから。心配しないで。へーきへーき!」

もちろん体の傷も心配だが、それ以上に心の傷が重傷と思われるのだが、踏み込めないのであった。
続き16行
199:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/04/09(月) 01:39:43
そして事態は進展しないまま時は流れ、陰陽寮の機能が回復したころ、4人は再度安部家に召喚されたのだった。
祈は怪我はすっかり治って、少なくとも表面上はいつも通りに見える。
全体的に歓迎ムードではあるが、安倍晴空がそれにそぐわぬ苦虫を噛み潰したような表情で口を開く。

>「此度のことは、大儀であった」
>「よもや、あの尾瀬らが伯父御の呪殺を企んでおったとは……。それに10数年も気付かなんだとは、いい恥さらしよ」
>「そして何より……それをうぬら化生どもが看破し、あまつさえ撃破し。我らは指を銜えて見ておるしかなかったとは――!」
>「好きな金額を書くがいい。そして、その金を持って帰れ。それで貸し借りは無しにして貰おう。無論、他言もまかりならん」

要するに口止め料ということらしい。
寂しいけど世の中そんなものか―― 長年敵としてきた妖怪に一度助けられたからといってすぐに仲良くなれるわけないよね、等と思い、
貰えるものは貰っておこうと気持ちを切り替え、さて幾らにしようかな、と考え始めるノエルだったが、
いざ好きな金額を書けと言われると困るものである。こういう時の相場なんて見当もつかず、固まっていたところ――

>「晴空。我ら陰陽寮の崩壊を食い止めた恩人に対し、駄賃のみで手打ちにしようてか」

芦屋易子に車椅子を押され、一人の老人が大広間に入ってきた。

「晴朧さん……!?」
続き20行
200:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/04/09(月) 01:41:49
>「それら、我らの宿痾をおぬしらは取り去ってくれたのだ。……この安倍晴朧、陰陽寮のすべての者に成り代わり礼を申す」
>「この大恩、むろん金銭などでどうにかなる問題とは思ってなどおらぬ……が」
>「おぬしらが何か行動したいと言うのであれば、今後。陰陽寮は最大限の協力をさせて貰う。何をするにも、後ろ盾は必要であろう」

金銭以外の最大限の協力――その意味するところを測りかね、頭の中に疑問符を浮かべるノエルだったが、その疑問はすぐに解消された。

>「それから。無礼ながら我が陰陽寮の情報網を用い、おぬしらのことを調べさせてもらった。それで耳にしたのだが――」
>「聞けば、おぬしらは妖怪裁判所の判決を受け、徒党を組むことを禁じられているとか。東京ブリーチャーズ……であったか」
>「もし、おぬしらさえ善ければだが……おぬしらが従来通り活動できるよう、儂から五大妖に掛け合ってみようと思うが……」
>「陰陽寮の要請とあらば、五大妖とて無碍にはできまい。いや、必ずおぬしらの望みに沿って見せよう」
>「……それが、おぬしらより受けた恩に対する我らのせめてもの礼。何卒、受け取って頂きたい」

晴朧を筆頭して百人あまりの陰陽師に一斉に頭を下げられ、数秒間圧倒されていたノエルだったが、祈に小声で話しかけられ我に返る。

>「すごくありがたい話だけど、いいのかな? そんなに色々して貰って……」

はて、祈はこんなになんというか礼儀正しかっただろうか――と思うノエル。
普段の彼女ならあれこれ考える間もなくすぐに二つ返事しそうなものだが……等と思ったが
その時はさして気に留めることもなく、祈の代わりに返事をするのであった。
改まって姿勢を正し、深々と頭を下げる。続き12行
201:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/04/09(月) 01:43:46
>「陰陽頭さまの格別のお計らいによって、西洋魔術から手を引くことを条件にお咎めはなしとなりました」
>「あの部屋も、埋めます。もう二度と、誰も立ち入らぬよう――浅はかなわたくしの、十数年の妄執と共に」
>「もう、よいのです。古来よりどの神話を紐解いても、一度死した者とまみえようとして成功した試しはありませぬ」
>「伊邪那岐男神をして成し遂げられなかったことを、只の人の身であるわたくしが成そうとした。それがそもそも誤りだったのです」

「そっか……。だけど、僕達があの世界で会ったってことは死にはしたけど”滅び”てはいない。
だから――ずっとずっと先の未来でまた会えるかもよ? お互いそうとは気付かないかもしれないけど、ね」

死は終わりではない――妖怪にとっては自明の理だが、人間にはなかなか受け入れられるものではない。
しかし、日本屈指の陰陽師である彼女なら理解できるかもしれない。そう思ったのだった。
あるいはノエルが教えるまでもなく、そう確信した故の晴れやかな態度なのかもしれなかった。

>「仲間を信じよと、晴陽さまは仰せになった……そうですね、豺狼の化生。いいえ、ポチどの」
>「わたくしには、仲間などいないと思っていました。わたくしに理解者はおらず、また賛同者もおらず……常に孤独だと」
>「……けれど。どうやら、それは間違いだったようです」

年若い巫女達が駆け寄ってくる。

>「あ!ワンちゃんとイケメン雪男!あとなんかヤクザっぽい鬼!」
続き21行
202:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/04/09(月) 01:45:08
その日を境に、祈は次第に店に顔を出さなくなっていった。
晴朧がブリーチャーズを存続できるように計らってくれることに対して祈が遠慮を示したことに対する違和感は、当たっていたのだ。
“まだ右腕が少し痛むから”ということだが、もうとっくに治っているはずだ。

「最近あの子来ませんね……」

「うん……」

別に戦ってくれなんて言わないからかき氷だけでも食べにきてくれればいいのに、と思うがそれは酷なことだろう。
寂しいが本人の決断なら無理強いできない、もともと彼女がブリーチャーズに入ったのは一人で戦っていて危なっかしかったかららしい。
元より彼女は基礎能力で生粋の妖怪に劣るクオーター。
危険な戦いに身を晒さなくなったのならむしろこれで良かったのかもしれない、等と自分に言い聞かせるノエル。

《――良くないぞ、全然良くない!》

と、深雪の一声で唐突に脳内会議が開幕する。もちろん議題は祈が姿を見せなくなったことについてだ。

ノエル「良くないって言っても……本人が嫌がってるなら仕方ないじゃん」
乃恵瑠「所詮半端者だ――戦いの激化にともない遅かれ早かれ付いてこられなくなるだろう。これで良かったのだ……」
深雪「貴様ら――我が何故こちら側についたか忘れたか! あの娘が気に入……じゃなくて気になったからだ!続き12行
203:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/04/09(月) 01:48:11
「ちこくちこくーっ!」

古より伝わる様式美に乗っ取りパンをくわえてダッシュする美少女。彼女が向かう先は中学校――
それはある種の人種にとって決して足を踏み入れる事が許されない禁じられた楽園――
花の美少女達が集う秘密の園!
そのとあるクラスに、転校生がやってきた! 学級担任らしい空気読まない古文教師に促され、自己紹介をする。

「童は雪野みゆきです。えーっと、雪国のあたりから家族の都合で一瞬だけ東京に来ました! 短い間だけどよろしくおねがいします!」

別に放送事故で公式スピンオフの『東京都立!漂白中学校!』が始まってしまったわけではない。
うっかり番外編を見てしまったのではないかと思ったそこのあなた、安心してください、本編です。
――むしろ逆に安心できないかもしれないが。
決して単に美少女として中学校に潜入したかった等というふざけた理由ではなく、これには真面目な理由がある。
あの祈が来なくなったということは、きっとブリーチャーズを抜ける意思は固い。
普通に会いに行っても表面上は普通に接してくれるだろうが、相手がノエルだと思った時点で身構えて心を閉ざしどんな言葉も届かないだろう。
そこでみゆきが考えた奇策――それはバレないように謎の転校生として接触しつつ、サブリミナル効果でそれとなく洗脳もとい説得するというものであった!
ちなみにサブリミナル効果でそれとなく洗脳とは、カイとゲルダが編集会議でよくやっていた手法である。
――色白でありながら不健康ではない血色に、艶やかな黒髪。
フォトショ加工(変化)も完璧! バレてナーイ☆ などと勝手に思っているみゆき。 実際にバレてないかどうかは知らない。
別人の振りをする気なら名前もどうにかしろよと思うが、最初は御幸みゆきにしようとして流石に従者達に却下されたので、それよりはマシというべきだろう。続き13行
204:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2018/04/09(月) 01:50:09
「姫様、最近部屋にこもって何やってるんでしょう……」「さあ……」

そんなある日、祈がいつも通りに登校すると、靴箱に無駄に大きい下手糞な字の手紙が置いてあるのだった。

『放課後、音楽室に一人で来るべし! みゆき』

果たし状か何かと間違えているような文面だが、こんなんで祈は呼び出せるのだろうか。
来ればそれで良し、来なかったとしても、帰ろうとする祈の前にシュタッと現れて強制的に連れて行くのである。
とにかく祈が音楽室に来ると、みゆきはピアノの前に座っていて。

「突然呼び出してごめんね。祈ちゃんに聞いてほしいと思って。
みんな気付いてないけど妖怪がいる世界でー、人知れず悪い奴をやっつけるヒーロー達の歌だよ!」

そう言うとピアノで伴奏を奏で始める。なんで弾けるかというと次期女王教育の一環として昔習っていたのだ。
(なんで雪女の御殿に西洋の楽器が置いてあるのか疑問に思うべきところだが、あまりにも普通に置いてあるから疑問に思わなかったのだ。)

「煌めく都の夜の闇に生きる者よ 人の想いより生まれし者達よ」

それは普通に聞けば現代舞台の伝奇もの設定の歌かな?程度にしか思わないが、分かる者には分かる、東京ブリーチャーズのテーマ曲。
みゆきが祈を元気付けるために頑張って作ったのである。続き13行
205:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2018/04/11(水) 22:12:57
オセの体から立ち昇る濃密な恐怖のにおいを、ポチは感じていた。
反抗心や敵愾心は最早まるで感じられない。
オセは噛み砕かれた右腕を弱々しく持ち上げて、空中に印を描こうとしていた。
ポチはその様をただ黙して見下ろしていた。
周囲に感じられる怯えた獣達の気配。それらが人のそれに戻った瞬間――オセの首を食い千切ると心に決めながら。
だが――

「おっ!ギリギリ間に合った感じかな?宴もたけなわってところですね、アハハ!」

不意に視界の外から声が聞こえた。
聞き慣れた声だった。嗅ぎ慣れたにおいがした。
ここにあるはずのない声とにおい――だがポチは気づけばそちらへ振り返っていた。

>「ふふ……お久しぶりです、皆さん。お元気そうで何より!と言っても10日くらいですか?あんまり離れてた気はしませんねえ!」

果たしてそこには――那須野橘音がいた。
身に纏う学ランとマント、狐面の色こそ反転しているが、確かに。
400年の封印刑を受けたはずの橘音が、極彩色の穴を背に立っていた。

>「参謀どの!」続き38行
206:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2018/04/11(水) 22:13:27
>「さて、皆さんもお疲れさまでした。今回の戦いも大変だったみたいですね?」

「……そうでもないさ。探偵ごっこ、なかなか楽しかったよ」

>「ま……アナタたちが戦った三柱は天魔七十一将でも下の上あたり。あの程度の連中に負けることはないと思っていましたが……」
>「でも。腐っても天魔、首尾よく目的だけは遂げてくれたようです」
>「橘音くん、どうして……」

ノエルが震えを帯びた声で呟く。
一方でポチは――何も言葉を発しないままでいた。思考がまとまらなかった。
目の前にいる橘音は本物なのか。猿夢の時のように偽者ではないのか。
だがにおいは――自分の嗅覚は、確かにそこにいるのが橘音だと告げている。
しかし夢の中ではその嗅覚さえ騙された。あれは夢の中だったからだろうか。
それとも赤マントほどの強力な妖怪ならば、狼の鼻でさえその変化を看破出来ないものなのか。

>「400年の封印刑を喰らったはずなのに、ボクがどうしてここにいるのか分からない……といったお顔ですね」
>「簡単な話です。ボクは助けてもらったんですよ……『彼』に。そして妖怪大統領に」
>「袂を分かってから数百年。二度と『こちら側』に戻ることはないと思っていましたが……いざ戻ってみると、存外心地いい」
>「ということで、これから皆さんの敵に回らせて頂きますね。でも、こっちに来ると仰るなら大歓迎ですよ!どうですノエルさん?」
続き35行
207:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2018/04/11(水) 22:14:27
 


それから数日後。ポチは祈に会う為に病院を尋ねていた。
事の顛末を、安倍晴朧の容態をノエルが語る最中、祈からは怯えのにおいがした。
いつもの彼女からは決して感じる事のないにおい。

>「ありがと。皆のお陰でなんとかなったみたいだね」
 「やっぱ皆強いよなー。あたしなんて、全然尾瀬さんに敵わなかったもん。
  つーか戦いの途中で寝ちゃってるし! ほんとごめんね!」

そう言って笑う表情の中にも僅かな陰りが見えるのは、決して気のせいではないとポチは確信していた。

>「大丈夫? その……痛くない?」
>「え? 大丈夫だよ! 河童の軟膏で傷はもう治ってんだし。
  これはばーちゃんが、一応女の子だから傷跡一つ残らないようにって、なんか大袈裟に包帯巻いたりしててさ。
  ギプスだって、骨が変な治り方しないようにって念の為付けてるだけだから。心配しないで。へーきへーき!」

だが、それが分かったところで何を言えばいいのか。
強がりを言う事くらいポチにだってある。続き26行
208:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2018/04/11(水) 22:15:02
 


それから更に数日が過ぎて、ポチ達は再び安倍邸を訪れていた。
今度は陰陽寮から招かれて――それでも一応、人の姿には化けているが。
運転手は招く理由は教えてくれなかったが、向こうから招き入れてくれるのはいい事だ。
なにせポチはまだ芦屋易子との約束を果たしていない。
彼女が今どうしているのか気になった。
陰陽寮の巫女頭が西洋魔術に手を染めていた事は、処罰の対象になっているかもしれない。
一度は吹っ切れてくれたはずだが、安倍晴陽の顔をしていたあの死体を見れば、また薄暗い気持ちが胸の内に湧いてこないとも限らない。
どうあれ、屋敷に行けばもう一度彼女の力になれるとポチは思っていた。
そうして屋敷の門を潜って大広間に通され、席に座ると――心底嫌そうな顔をした髭面が正面にあった。

>「此度のことは、大儀であった」
>「よもや、あの尾瀬らが伯父御の呪殺を企んでおったとは……。それに10数年も気付かなんだとは、いい恥さらしよ」
>「そして何より……それをうぬら化生どもが看破し、あまつさえ撃破し。我らは指を銜えて見ておるしかなかったとは――!」

「あのオッサン、顔に似合わず器用だねえ。あんな嫌そうな顔しながら相手を褒める人、初めて見たよ」

ポチがぽつりと呟いて――ふと、その目の前に何やら紙切れとペンが置かれた。続き45行
209:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2018/04/11(水) 22:15:26
>「それから。無礼ながら我が陰陽寮の情報網を用い、おぬしらのことを調べさせてもらった。それで耳にしたのだが――」
>「聞けば、おぬしらは妖怪裁判所の判決を受け、徒党を組むことを禁じられているとか。東京ブリーチャーズ……であったか」
>「もし、おぬしらさえ善ければだが……おぬしらが従来通り活動できるよう、儂から五大妖に掛け合ってみようと思うが……」
>「陰陽寮の要請とあらば、五大妖とて無碍にはできまい。いや、必ずおぬしらの望みに沿って見せよう」
>「……それが、おぬしらより受けた恩に対する我らのせめてもの礼。何卒、受け取って頂きたい」

だが晴朧からの提案は、ポチの予想を更に上回っていた。
東京ブリーチャーズの再結成。
妖怪警察の目も、内輪揉めばかりの河童や狸を気にしなくてもいい。
特訓代わりに、喧嘩している彼らをぶん殴れなくなったのは少し残念だが――

>「身に余るご厚情、雪妖界の次期女王御幸乃恵瑠の名において――ありがたくお受けします」

「っと……」

なんて事をぼんやり考えていたら、ノエルがいつになく真面目に受け答えをしていた。
慌てて、ポチも姿勢を正す。
人の姿を取っている今、この正座という座り方は極めて窮屈だが、その違和感は無理矢理意識の隅に追いやった。

「えっと……なんて言えばいいのか、分かんないけど……ありがとう、じ……晴朧さん。続き51行
210:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2018/04/11(水) 22:16:07
>「易子さま!」
 「巫女頭さまーぁ!」
 「あ!ワンちゃんとイケメン雪男!あとなんかヤクザっぽい鬼!」
 「お孫さまの式神と、なに話してるんですかー?」

>「ふふ……、なんでもありませんよ。ただ、今後ともどうぞよしなに……と。そうご挨拶申し上げていただけです」

「……ワンちゃん。まぁそれでもいいけど。僕、犬じゃなくて狼なんだよね。一応覚えといてよ」

>「陰陽頭さまとお孫さま、いい雰囲気でしたよ!」

晴朧と祈の会話は上手い事いったらしい。それで祈の精神状態が良くなれば――

>「あたしたち陰陽寮と化生の者とがいい雰囲気なんて、なんかヘンな感じ」
 「いやいや、でも、これからはそういう時代なのかもよ?そのためには、わたしたちも率先して化生と仲良くしなくっちゃ!」
 「ってことでぇ!ノエルちゃん合コンしよ、合コン!イケメンの妖怪いっぱい紹介して~!」

周りにきゃいきゃいと響く巫女達の声に、ポチの思考が寸断される。
芦屋易子がこほんと咳払いを一つして、彼女達を制した。
続き14行
211:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2018/04/11(水) 22:18:34
 
  

そして――その翌日から、ポチには殆どいつも通りの日常が帰ってきた。
朝は東京の人混みを、最近は車道にも挑戦しつつ、潜り抜ける。
昼は、牙はタイヤすら食い千切れるようになってしまったので、
今度は筋力を鍛えようとひたすら走り込みをする。
今までとの違いは――皆で集まる場所が事務所からノエルの喫茶店になった事。
そこに橘音がいない事。そして――祈もまた、その場を訪ねてこない事だった。

>「そっくりさんと仲が良すぎて近付けね―――――ッ!!」

「そういやノエっちも最近よく留守にしてるよね。なーにやってんの?」

>「どうしよう、このままじゃあ単に美少女になって中学校に潜入したかっただけの人になってしまう!」

「え、なに。そんな事してたの……祈ちゃんに会いに?」

ポチはカウンター席で、尾弐からお金を借りて買ってきた本を読んでいたが、それを一旦閉じるとそう尋ねた。
祈が自分達を避けつつある事には気づいている。だがそれでもいいのではないかと考えていた。続き48行
212:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2018/04/11(水) 22:20:03
「ちょっと祈ちゃんちに遊びに行ってくるよ」

そう言い残すとポチは次の瞬間には、その場から姿を消していた。
祈の家の場所は分かる。送り狼の足ならすぐに辿り着けた。
玄関からお邪魔しても良かったが、拒否されても困る。
ポチは人型に変化すると、祈の部屋の窓めがけ跳躍。
窓枠に指をかけて体を引き上げ――不在の妖術を使用。

「やっほー、祈ちゃん。腕の調子はどう?」

窓をすり抜け、祈の部屋の中へ。

「いや、やっぱいいや。答えなくても。聞かなくたって分かるもん。僕の鼻の良さは知ってるでしょ?」

狼犬の姿に戻ると、ポチは祈を見上げて、じっと見つめた。

「……そう、聞かなくたって分かっちゃうんだ。祈ちゃんが怖がってる事も、不安がってる事も」

数日前、病室で祈と会話した時、ポチは彼女の胸中を暴いても良い事など何もないと考えていた。
だが今は、それが間違っていたと思う。続き43行
213:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2018/04/11(水) 22:23:20
「……僕らが陰陽寮で見た橘音ちゃん。アレはきっと本物だったよ」

そう、話を切り出した。

「僕の鼻と耳と……『獣(ベート)』がそう言ってるんだ。
 だけど……橘音ちゃんが本心から裏切ったとも、思わない」

ポチは一度祈から離れると、改めて彼女と目を合わせた。

「……妖怪にはね。良い面と悪い面があるんだ。
 ほら、この僕もさ。今の僕は良い送り狼」

そう言った直後、不意にポチの体が膨れ上がる。
獲物を転ばせた時のような、天井に頭が擦れるほどの禍々しい巨体。
無論これは妖気の高まりを伴わない。ただの張子の虎ならぬ、張子の狼同然だが。

「そんでもってこれが、悪い送り狼さ。こうなるきっかけは知ってるよね。
 僕が誰かを転ばせる事……もし間違って祈ちゃんやノエっちを転ばせたら。
 どんなに嫌がっても僕はこうなっちゃうだろうね」
続き42行
214:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2018/04/16(月) 23:50:08
>「一体いれば、人間の大都市を跡形もなく滅ぼすことさえ造作ない『大妖怪(レジェンダリー・クラス)』が三体!」
>「それがなぜ、こんな東アジアの一都市にいる!?い、いや、それよりも……なぜ!」
>「なぜ、あんな非力な半妖の小娘の式神などやっているのだ!?理解できぬ……理解できぬ!」
>「貴公らのような者がいるなど、参謀どのは一言も――!」
>「なにゆえ!そんな貴公らが人間を守ろうとする!?愛を肯定する!?貴公らは――」
>「――いったい!何者なのだ……!?」

「さてな……まあ、これからテメェを殺すんだ。なら、テメェにとっての悪魔なんじゃねぇか?」

ポチの威圧により精神の支柱をを折られたオセが人々の姿を戻す中、
シャクスとヴァサゴを文字通り惨殺し合流した尾弐は怯えるオセに対し吐き捨てるようにそう言葉を掛ける。
二体の悪魔の返り血と、自身の血液。
赤銅色に塗れながら、口の端から妖気を霧の様に垂れ流すその様子は、ある意味では悪魔よりも悪魔じみており、
このままであればそう遠からぬ未来に、オセを殺害するであろう事は誰の目で見ても明らかであった。だが。

>「おっ!ギリギリ間に合った感じかな?宴もたけなわってところですね、アハハ!」

そんな緊迫した状況の中で聞こえてきた声。
聞きなれた呑気なその声こそが、尾弐に悪意の引金を引く事を止めさせた。
続き19行
215:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2018/04/16(月) 23:50:35
眼前で織りなされる会話。
続けられるそれから尾弐の思考は解を導き出しつつある。
だが、尾弐の感情は必死にそれを否定する。
これまでに積み重ねてきた日々を根拠として、『そう』である筈が無いと理性の声を覆い隠そうとする。
けれど……現実は抜身の刃のように尾弐の感情を切り伏せる。

>「400年の封印刑を喰らったはずなのに、ボクがどうしてここにいるのか分からない……といったお顔ですね」
>「簡単な話です。ボクは助けてもらったんですよ……『彼』に。そして妖怪大統領に」

「……やめろ」

>「ああ。皆さんには黙っていたんですが、実はボクは元々『こちら側』……西洋妖怪側の化生なんです」
>「大昔、『彼』に一度喪った命を助けてもらった。そして……また。400年の封印刑から解放してもらった」
>「受けた恩は、返さなければいけないでしょう?」

「……頼む。やめてくれ、まだ間に合う」

尾弐の願いは叶わない。いつだって望む物ほど指の間をすり抜けていく。
血が滲む程に強く拳を握りしめる尾弐を前に、今回の策略を練り、祈に絶望と言う刃を突き刺した黒い狐面の妖怪は宣告する。
続き14行
216:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2018/04/16(月) 23:51:13
――――そして、事件から暫く立って後。
祈の怪我が、少なくとも表面上は完治した頃。
尾弐は他の東京ブリーチャーズの面々と共に安部家へと呼び出された。
以前とは違い、来客として通された屋敷の大広間は、先の事件の被害を受けなかったのであろう。
空間自体が厳かな空気を纏っており……

>「此度のことは、大儀であった」

……そして、その厳かな空気は尾弐達の眼前に座る晴空の渋面により台無しになっていた。

>「よもや、あの尾瀬らが伯父御の呪殺を企んでおったとは……。それに10数年も気付かなんだとは、いい恥さらしよ」
>「そして何より……それをうぬら化生どもが看破し、あまつさえ撃破し。我らは指を銜えて見ておるしかなかったとは――!」
>「あのオッサン、顔に似合わず器用だねえ。あんな嫌そうな顔しながら相手を褒める人、初めて見たよ」

「そう言いなさんな。功績を認めて反省出来る分、そこらの人間と比べちゃ随分と上等だぜ」

ポチの呆れ交じりの言葉に対して、尾弐は淡々とした小声で返事を返す。
元より、人間に対して大きな期待をしていない尾弐だ。
今回の事件の責任を押し付けられる可能性すらも視野に入れていた為、晴空の対応は許容範囲内であった。
続き28行
217:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2018/04/16(月) 23:51:56
>「この大恩、むろん金銭などでどうにかなる問題とは思ってなどおらぬ……が」
>「おぬしらが何か行動したいと言うのであれば、今後。陰陽寮は最大限の協力をさせて貰う。何をするにも、後ろ盾は必要であろう」
>「もし、おぬしらさえ善ければだが……おぬしらが従来通り活動できるよう、儂から五大妖に掛け合ってみようと思うが……」
>「陰陽寮の要請とあらば、五大妖とて無碍にはできまい。いや、必ずおぬしらの望みに沿って見せよう」
>「……それが、おぬしらより受けた恩に対する我らのせめてもの礼。何卒、受け取って頂きたい」

>「すごくありがたい話だけど、いいのかな? そんなに色々して貰って……」
>「身に余るご厚情、雪妖界の次期女王御幸乃恵瑠の名において――ありがたくお受けします」
>「えっと……なんて言えばいいのか、分かんないけど……ありがとう、じ……晴朧さん。
>また困った事があったらいつでも呼んでよ。助けに来るからさ」

「……随分と自罰的だな。妖怪と交渉なんて、あんた達には屈辱だろうに」

更に、告げられた晴朧の言葉。
陰陽寮が五大妖を取りなし後盾となる事で、東京ブリーチャーズを再興するという提案。
それは、尾弐にとってある意味で先の謝罪よりも衝撃的であった。
妖怪の敵対者が妖怪の為に動いた事が表沙汰になれば、権力に傷がつくのは晴朧とて承知しているだろう。
だが、それを承知のうえで手を貸すと――――味方になると言うのだ。
その行動にはどれだけの誠意と善意が込められている事であろう。
尾弐は、困った様に頭をガシガシと掻き……大きく息を吐いてから口を開く。続き23行
218:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2018/04/16(月) 23:52:23
>「陰陽頭さまの格別のお計らいによって、西洋魔術から手を引くことを条件にお咎めはなしとなりました」
>「伊邪那岐男神をして成し遂げられなかったことを、只の人の身であるわたくしが成そうとした。それがそもそも誤りだったのです」
>「そっか……。だけど、僕達があの世界で会ったってことは死にはしたけど”滅び”てはいない。
>だから――ずっとずっと先の未来でまた会えるかもよ? お互いそうとは気付かないかもしれないけど、ね」
>「仲間を信じよと、晴陽さまは仰せになった……そうですね、豺狼の化生。いいえ、ポチどの」
>「わたくしには、仲間などいないと思っていました。わたくしに理解者はおらず、また賛同者もおらず……常に孤独だと」
>「……けれど。どうやら、それは間違いだったようです」

……どうやら、その心配は無用のものであった様だ。
死に囚われ続けていた女は、自分に差し伸べられていた手に気付く事が出来た。
恐らく彼女は、これからは前に進んでいけるのだろう。

>「易子さま!」
>「巫女頭さまーぁ!」
>「あ!ワンちゃんとイケメン雪男!あとなんかヤクザっぽい鬼!」
> 「お孫さまの式神と、なに話してるんですかー?」

>「……ワンちゃん。まぁそれでもいいけど。僕、犬じゃなくて狼なんだよね。一応覚えといてよ」
「ヤクザっぽいってなぁ……まあ、喪服も連中ご用達の黒スーツも似たようなモンだがよ」
続き3行
219:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2018/04/16(月) 23:52:53
例えどれだけの傷を受けようと
例えどれだけの痛みに嘆こうと
それでも日々は巡る。
その例に漏れず、尾弐もまた日常へと回帰していた。

昼間から酒を飲み、夜になれば街に出て妖壊を狩る
……まるで不良中年の様な日々を繰り返す、自堕落な生活に。
尾弐の現状がその様になってしまっているのは、葬儀屋を休業している影響が大きい。
そう、今回の件が長くかかると見込んだ尾弐は、明王連に向かう前に1年間の休業手続きを行っていたのである。
だが、結果はどうあれ事件が長期間に渡らない内に決着を見せたが為に、急遽時間が出来てしまい、それを持て余してこの有様という訳だ。

……最も、尾弐が妖怪である以上自堕落な生活の影響は薄い。
というか、日中休むようになったお蔭か、少し若返ったかの様にすら見える。
そんな訳で、最近の集合場所であるノエルの喫茶店に昼間から入り浸っていた尾弐であるが

>「そっくりさんと仲が良すぎて近付けね―――――ッ!!」
>「そういやノエっちも最近よく留守にしてるよね。なーにやってんの?」
>「どうしよう、このままじゃあ単に美少女になって中学校に潜入したかっただけの人になってしまう!」
>「え、なに。そんな事してたの……祈ちゃんに会いに?」
続き19行
220:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2018/04/17(火) 00:14:58
――――そして、それから更に時は経ち。
ポチが祈の元を訪れて、3日が経った日の事。

その日の朝、祈は起き抜けに卵が焼ける香ばしい臭いを感じ取る事となるだろう。
耳を澄ませば、聞こえてくるのはコトコトと沸騰する鍋の音と、トントンと包丁が食材を刻む軽快な音の二重奏。
……だが、祈の頭に残る眠気が飛べば気付く筈だ。

包丁を刻む音の間隔が、或いは沸騰する鍋の火加減が、祈の祖母のものでは無いという事に。
そして、台所を覗き込めば、祈はそこで異様な光景を目にする事が出来る。

「おう、おはよう。もうすぐ朝飯が出来るから、先に顔洗ってきちまいな」

即ち、エプロンを嵌めた喪服の大男――――尾弐が、祈の家の台所で朝食を作っている姿を。

……

「……いや、驚かせちまって悪かった。祈の嬢ちゃんの婆さんが、町内会の会合で夕方まで留守にするって話を聞いてな。
 その間、留守を任せてくれる様頼んであったんだ。てっきり嬢ちゃんには伝わってるとばかり思ってたんだが」

朝一から衝撃的な光景は繰り広げられたものの、理由を聞けばどうという事は無い。続き19行
221:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2018/04/17(火) 00:43:50
――――

「前回の事の顛末は聞いてるな。……那須野が敵に回った。そして、祈の嬢ちゃんを絶望させる事を宣言した」

黒面の那須野について語る尾弐の口調は険しく、うっすらと憎悪と……別の感情が混ざった複雑な色が見て取れる。

「……那須野が敵に回った以上、今後の戦いはこれまでの様にはいかねぇ筈だ。これまであいつが敵に向けていた手腕は、俺達に向けられる。
 心理的にも、戦略的にも、あらゆる手段で追い詰めて来るのは間違いねぇ」

「恐らく―――――人も死ぬ。今回みてぇに。或いはそれ以上に」

そのまま一呼吸置き、尾弐は続ける。

「その死んだ理由が自分自身であった時……被害者が身近な人間であった時、それに嬢ちゃんは耐えられるか?」

そこまで言って、自分の言葉が余りに冷たいものになっている事に気付いたのだろう。
尾弐は一度咳をして仕切り直す。

「嬢ちゃんは、頑張ったさ。強大な妖怪でもねぇのに、傷だらけになりながら……それでも目の前の人間を救ってきた。
 どうしようもねぇ妖壊を倒す事で、被害を食い止めてきた。そいつぁ、並みの妖怪や人間には真似できねぇ事だ。すげぇと思うぜ」続き46行
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