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那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI2017/10/21(土) 06:48:17
201X年、人類は科学文明の爛熟期を迎えた。
宇宙開発を推進し、深海を調査し。
すべての妖怪やオカルトは科学で解き明かされたかのように見えた。

――だが、妖怪は死滅していなかった!

『2020年の東京オリンピック開催までに、東京に蔓延る《妖壊》を残らず漂白せよ』――
白面金毛九尾の狐より指令を受けた那須野橘音をリーダーとして結成された、妖壊漂白チーム“東京ブリーチャーズ”。
帝都制圧をもくろむ悪の組織“東京ドミネーターズ”との戦いに勝ち抜き、東京を守り抜くのだ!



ジャンル:現代伝奇ファンタジー
コンセプト:妖怪・神話・フォークロアごちゃ混ぜ質雑可TRPG
期間(目安):特になし
GM:あり
決定リール:他参加者様の行動を制限しない程度に可
○日ルール:4日程度(延長可、伸びる場合はご一報ください)
版権・越境:なし
敵役参加:なし(一般妖壊は参加者全員で操作、幹部はGMが担当します)続き15行
186:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2017/12/02(土) 21:22:34
祈は個室から出てくるだろうか。そして、尾弐と話をするだろうか。
いずれにせよ、ここに留まっていたところで事態が好転することは決してない。
きさらぎ駅系の話には、改札を出てはいけない――という一節があるが、改札を出なければ祭囃子の方には行けない。
改札の内側から外を見ると、はるか前方に薄ぼんやりと明かりが灯っているのが見えた。
祭囃子の音色もそこから聞こえてくるようである。そこで祭りをしている者がいるのだろう。

>例えば、祭囃子やってる人たちに突撃するとか――
>まあ、幸いここは『きさらぎ(鬼)駅』だ。俺をどうこう出来る相手もいねぇだろうし、その方針で動くならオジサンが先導するぜ

自動改札機などといった文明の利器はない。なんの遮蔽物もない改札を抜けると、駅の出入口の脇に農作物の販売所があった。
田舎によくある、雨風を凌ぐだけの小さな小屋に近所で採れた作物が無造作に置かれている、無人販売所だ。
よく熟した桃とブドウ、それから大振りのタケノコがいくつか売られている。
ただ、通常の無人販売所にあるような『お代はコチラ』的な代金を入れる入れ物がない。
ついでに金額の表示もない。どころか『ご自由にどうぞ きさらぎ駅』などと書いてある。
タダで配っているので、持って行ってよいということなのだろうか。

ノエルと尾弐の提案通りに祭囃子と明かりの方へ歩いていくと、徐々に音が大きくなってゆく。と同時、明かりの詳細も見えてくる。
土がむき出しで、草一本生えていない広場のど真ん中に大きな櫓が立っており、その周囲に粗末な小屋が幾棟か建っている。
櫓から無数の提灯が小屋の屋根へ向けて吊り下がっており、周囲を照らしているのだった。
そして、その櫓をぐるりと囲むようにして、盆踊りか何かのように無数の影が踊っている――続き33行
187:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2017/12/02(土) 21:28:40
櫓を迂回して、先へ進む。
櫓の先は駅員が言った通り緩やかな上り坂になっていた。道はやがて峠のようなカーブの連続になり、上へと続いている。
つづら折りになった上り坂をのぼってゆくと、眼下に櫓の明かりが見えた。
踊るくねくねたちの影が提灯のオレンジ色の光に照らされて、その身体の何倍も大きく長く伸びている。
難所は過ぎた。このままくねくねたちに気取られずに行ければ、無事に頂上までたどり着けるだろう。
と、思ったが。

……ヒタ……、ヒタ、ヒタ、ヒタリ。

舗装もされていない坂道を踏みしめる、濡れたような足音。
それは、これから向かうべき進路の先から聞こえてきた。
櫓の方から聞こえる物音ではない。間違いなく、ブリーチャーズの前方から聞こえてくる。
それは徐々に大きくなってゆき、やがて急カーブの向こうから一匹のくねくねが姿を現した。
闇の中にぼんやりと浮かび上がる、真っ白な人型のシルエット。
だが、それは決して人間ではない。その証拠に顔らしき場所には目鼻も口もなく、髪も生えておらず、ただただのっぺりしている。
身体にも凹凸はなく、まさしくただのラクガキをそのまま実体化させたような、曖昧極まりない存在。
くねくねは夢遊病者か昔のホラー映画のゾンビのように覚束ない足取りで、ゆっくり坂道を下ってくる。
東京ブリーチャーズとの距離が近づいても、くねくねは何もしない。ゾンビのように襲い掛かってくることもしない。
櫓へ行こうとしているのだろうか、ただゆっくりと、上半身をのたうたせながら歩くだけだ。
くねくねはネットロアでも『見るだけなら無害』と言われている。物理的に危害を加えられたという話もない。続き35行
188:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2017/12/02(土) 21:33:30
《テン……ソウ……メツ……》

聞こえてくる、不気味な声。
くねくねの群れを押しのけ、巨頭がブリーチャーズに襲い掛かってくる。

《オオオオオ!!!オッ!オオッ!オオオオオオオオオオ!!!!》

巨頭が頭とは不釣り合いに細い手を伸ばす。
万一しがみつかれでもしたら、身動きが取れなくなり巨大な口によって噛みつかれ、喰われてしまうのは明白だ。
尤も、巨頭たちは見た目通り頭と身体のバランスが取れていないらしく、足払いなどすれば簡単に転倒する。
また胴体の耐久力も人間並みにしかないらしく、尾弐の膂力やポチの牙などで容易に粉砕できる。
妖術を使うこともないので、ノエルの凍気で凍り付かせることもできるだろう。
しかし。

《オオオオ!オオ!オオ!オオオオオ!オオオオ!!!》

巨頭は『多い』。
どれだけ倒そうとも、凍りつかせようとも、仲間の死体を乗り越えて襲い掛かってくる。
一見して十人も入れないように見える、櫓の周りの掘っ立て小屋から、無尽蔵と言っていいほど巨頭が続々と飛び出してくる。
また、巨頭はしぶとい。完全に息の根を止めるには、頑丈な顔面を粉砕するか心臓を破壊するしかない。続き45行
189:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/06(水) 20:01:27
 塞いだ視界は暗く。時間は遅々として進まない。
祈の思考は同じところをグルグルと回り続けた。
 あれから何分経っただろう。みんなはもうかたす駅に着いただろうか。
そんなことを考えていると、
>「……そこに誰かいるのか?」
 トイレの入口から男の声が聞こえてきた。
誰だろうとぼんやり考える祈だったが、その答えは分からない。
ここきさらぎ駅にいるのはブリーチャーズだけの筈だが、その声はブリーチャーズの誰とも似つかなかった。
>「もう終電は出たし、トイレの中にいても誰も来ないよ。そんなところにいないで、出てきなさい」
「…………」
 男の言葉に対し、祈は沈黙という答えを返す。
鼻をすする音はここに誰かが居ることを示し、沈黙は男の言葉に応じるつもりはないという明確な意思表示だった。
祈が黙っていたのは警戒もあったろう。
>「参ったな……。家出少女か?多いんだよなあ。駅の施錠ができないじゃないか」
 声からして20代か、30代頃であろうか。その男の声は困ったようにぼやいた。
施錠するという言葉から察するに、男はきさらぎ駅の駅員か何かであるようだった。
どこかの駅員だった男の霊がきさらぎ駅に流れ着き、
ここを自分が管理する駅だと勘違いして居着いている、という可能性も充分にあるが。
>「ここは君がいるべき場所じゃない。家に帰りなさい、きっと君のご両親も心配しているはずだよ」
 ともあれその駅員と思しき男は、めげることもなくトイレの入口から祈へと声を掛けてくるのだった。続き13行
190:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/06(水) 20:03:43
>「君のお父さんかお母さん……いや、おじいちゃんかおばあちゃん?それとも、親代わりになってくれている誰か……?」
>「確かにその人たちは君にひどいことを言ったかもしれないし、やったかもしれない。君が怒るに足ることを」
>「……けど。それは決して、君を怒らせようとか。家出させようとか。そんなことを考えてやったことじゃないはずだよ」
>「君のため、よかれと思ってやったことが、たまたま裏目に出てしまった。君を偶然怒らせてしまった……ただ、それだけなんだ」
 尾弐と橘音が父母を殺したにせよ、誤って死なせてしまったにせよ。
少なくともそれ自体は祈の為にしたことではないのだろう。
だがそれを“黙っていたこと”は、きっと祈の為だった。
 祈が橘音によってブリーチャーズに引き入れられたのは、恐らく危なっかしいからだ。
ブリーチャーズに所属する前からムカデや大蛇、蛙、蜘蛛、人面犬……人を襲う妖怪達と戦い、
一人で倒してきた祈だが、いずれは一人ではどうにもならない強敵と対峙する時が来る。
それこそドミネーターズのような難敵と出遭っていたら、今頃命があるかどうかは怪しいものだ。
しかし個ではなく群れとなり、力を合わせれば生存率がグンと上がるのは自明の理で、
事実八尺様やコトリバコなど様々な怪異との戦いは、仲間がいたからこそ生き延びることができたと言えよう。
だが父母の死の真実を知って祈が精神不安定に陥れば、それは叶わなかった。
仲間との不和。孤立。集中力の欠如。様々な要因が重なり、あっさり命を落としていたかもしれない。
戦いに参加しなくなったとしても、その事実が重ければ、重みに心が潰されていたかもしれない。
 橘音と尾弐は、祈の命と心を守る為に、沈黙を守っていたのだと考えられた。
>「思い出してごらん、その人たちのことを。その人たちが、今まで君にしてきたことを」
>「君が今感じている不幸よりもずっとずっと大きな幸せを、喜びを、その人たちは君に与えてくれたんじゃないかな?」
 ブリーチャーズの一員として過ごした日々。続き21行
191:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/06(水) 20:06:42
>「ホームを出て、祭囃子の聞こえる方向へ行きなさい。そうすると、櫓と提灯が見えてくる」
>「その櫓の脇をすり抜けて、ずっとまっすぐ進むんだ。走りなさい、脇目もふらず……特に、櫓の周りで踊っている者を見てはいけない」
>「道は上りの坂道になってゆくはずだから、そこをのぼっていくんだ。何か聞こえるかもしれないが、耳を貸さないこと。約束できるね」
>「その坂道の果てに、迎えが来るはずだ。その迎えと合流すれば、君は元いた場所に戻れるはずさ」
>「時間がない。そこから出て、元の場所に戻るんだ。君が本来いるべき世界に……そして、君の心を。大切な人に話すといい」
>「そうすれば。君は今よりもっと、ずっと――絆を深めていくことができるだろう……」
 説明しながら、諭しながら。少しずつ男の声と気配が遠ざかるのを祈は感じた。
祈が出てこないと見て、去ろうとしているのかも知れなかった。
「あの! ありが――」
 察した祈が慌ててそう口にしたとき。
>「うぅ……僕は基本トイレ行かない仕様なのにこの世界設定ミスしてないか!?」
 先程のとは明らかに違う声と、ドタバタとした足音。
次いで祈の隣の個室に駆け込む音が聞こえてきた。
その声はいつもより少し高いノエル(乃恵瑠)のものだった。
先に行っていてと祈は言ったのだが、まだ駅の構内に残っていたらしい。
しかもどうやら、具合が悪いようだった。
>「いや、待てよ……。これ夢の中ってことは現実世界で大惨事になるのでは……!?
>でもこのままじゃどっちにしろ大惨事だし!
>そうやってクールなイケメン兼美女枠の僕のキャラ性をぶち壊しにして生きる気力を奪う作戦だな……!
>おのれカンスト仮面、許さないぞ! なんとしてでも生きて帰ってぶっとばしてやる!」続き20行
192:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/06(水) 20:15:09
>「そろそろ行こう。ちゃんと連れて帰らなきゃ君のお祖母ちゃんに怒られちゃう。
>あの二人は信じられなくたってお祖母ちゃんは信じられるでしょ? お母さんのお母さんなんだから」
 祈に声を掛けてくるのだった。
用を足しに来ただけだと思っていた祈は不意を突かれて、びくりと体を震わせた。
 尾弐と橘音のことを信じていない訳ではない。
だが尾弐の赤マントへの反応は、『父母を殺した』という言葉を肯定するに等しいものだった。
殺していないと思っていても殺していると本人が肯定しているのなら、
殺した可能性はあるのかもしれないのだと祈は認識している状態にあり、
この状態が、もはや二人を疑っているのか信じているのか、祈には分からないでいた。
 だが、祖母についてははっきりしている。
「……うん」
 祖母は、信じられる。
祈は祖母に育てて貰い、祖母の作ったご飯を食べて生きてきたのだから。
>「僕ね、実はお母さんから橘音くんにうちの子をよろしくってされてたんだ。祈ちゃんもそうなんじゃないかな?」
「…………」
 どうだったのだろう。祖母からブリーチャーズの話を聞いた記憶はあまりない。
だが、ブリーチャーズに入ることを大反対された覚えならある。
しかし祈が強硬姿勢を崩さなかったことで、祖母はもはや手足を全てもがねば止められまいと思い、諦めたようだ。
その祖母が、ある日珍しく正装をして出かけて行ったことがある。
その日以降、祈がブリーチャーズに所属して妖壊と戦うことに大々的に反対しなくなった。続き28行
193:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/06(水) 20:20:17
>「そういえばアイツ、通常の手段では脱出不可能って言ったよね。
>裏を返せば前例がないことをやりまくれば脱出できるんじゃないかな?
>例えば、祭囃子やってる人たちに突撃するとか――」
 ノエル(乃恵瑠)はそこで、トイレに入る前とは違う提案をしてみせた。
トイレで用を足し、すっきりしたことで別の選択肢が見えたのだろうか。
>「……微妙な所だな。どうみても誘蛾灯だとおもうが、逆に言やぁ潰せば夢の強度も落ちる弱点とも言える。
>まあ、幸いここは『きさらぎ(鬼)駅』だ。俺をどうこう出来る相手もいねぇだろうし、その方針で動くならオジサンが先導するぜ」
 尾弐はそれを、いつも通りの態度で受けた。
一時は動揺していたように見えたが、尾弐は大人だから、祈と違って切り替えが早いのかもしれない。
尾弐から真相を話すつもりはないようであり、そこにはほっとする祈。
そして迷ったものの、祈も己の意見を述べることにした。
「祭囃子の方へ行くのは賛成だけど、突っ込むのは反対」
 祈は目を瞑って、男の言葉を思い出しながら繰り返す。
「祭囃子の方へ行くと、櫓と提灯が見えてくる」
「その櫓の脇をすり抜けて、まっすぐ進む。なるべく走る。その時、櫓の周りで踊っているやつを見たらだめ」
「まっすぐ進むと坂道になってて、そこをのぼる。途中で何か聞こえても耳を貸したらだめ」
「坂道を登り切ったら迎えが来る。その迎えと合流すれば……元いた場所に帰れる」
 男の言葉を思い出しながら喋ったからだろう。
祈の声は思ったよりも落ち着いていて、自分でも平静に聞こえた。
少なくとも、今すぐ気持ちが爆発するようなことはなさそうである。ほっと胸を撫で下ろしながら、続き17行
194:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/06(水) 20:25:01
 一行が祭囃子の音と明かりに近づいていくと、遠目に、櫓や櫓の周囲で踊っている者達、
それに提灯などの明かりや掘っ立て小屋などが確認できた。
櫓の周囲で踊っている者達は、一目見て、ただの人間でないことが解る。
一心不乱に体をくねらせて動き回る人型の落書きのようなそれは、なんらかの妖怪だ。
あの人型の不気味な妖怪達を締め上げたところで脱出方法など聞き出せはしないであろうし、
しかも数は多く、潰そうなどとすれば骨が折れるだろうと思われた。
その為だろうか、ブリーチャーズは櫓の周囲の彼らを避け、迂回して坂道の頂上を目指すことにしたようだった。
ちなみに祈の履いている風火輪には留め具がついており、
これを下げるとホイールが回転しないよう固定することができ、坂道などでも歩けるようになるのである。
 お助けキャラと思しき男の言葉に従って進みゆくブリーチャーズは、
くねくねとした妖怪達に気付かれることなく坂道の中途までやってきた。
このまま順調にいくかに思われたが、坂の上から一体の白いくねくねした妖怪が歩いてくる。
それは、まるでこちらを認識していないかのように、
上半身を躍らせるようにくねらせながら麓の櫓か掘っ立て小屋を目指し、下っていく。
祈は視線をその妖怪に合わせぬようにしながら、その横を何事もなく通り過ぎた。
ああ、良かった。何もなかった。このまま坂道の頂上へ進めば、迎えと合流できる――。そう思った矢先。

《¥「@・。pmぬytrvべでrftgぬhyじm、おp!!!!!!!!》

 それは突如後方から大音量で聞こえてきた。声にならぬ声。言葉ではない言葉。続き29行
195:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/06(水) 20:37:48
 前方に大岩。後方には巨頭の妖怪やくねくねした妖怪、謎の声が迫ってきている。
これではいずれ、殺されてしまうだろう。
 坂道に上って行けば迎えと合流できる筈だったのに。
どこかで道を間違えたのだろうか。いや、ここまでは一本道だった。ここで合っている筈だ。それなのに。
恨めし気に見た所で、しかし大岩は退いてはくれはしない。
 こんな所で自分達は死んでしまうのだろうかと、そんな絶望にも似た予感が瞬間過ぎる。
 しかし。
>『そこから出て、元の場所に戻るんだ。君が本来いるべき世界に……そして、君の心を。大切な人に話すといい』
>『そうすれば。君は今よりもっと、ずっと――絆を深めていくことができるだろう……』
 男の声と、
>「帰ってからお祖母ちゃんに聞くんだ」
 ノエルの声が蘇る。
(いやだ。絶対ここから出るんだ。そして話をするんだ……あたしはッ!)
 こんなところで死んでたまるかと、祈の目に生気が満ちる。
だがどうしたらいい。そう思い、辺りを忙しなく周囲を見渡す祈だが、ここには何もない。
あるのはただ地面とそこに鎮座する大岩のみで、この大岩が自分から動いてくれでもしない限りは――。
そう考えた時、祈の脳裏に閃きがあった。
「……っ、尾弐のおっさん! 『下だ』! 大岩の下の地面を掘るんだ! そしたら勝手に岩は退いてくれる……と思う! 多分!」
 逡巡しながらも、祈はここでようやく、まっすぐ尾弐を見た。
そして地面を蹴って見せる。すると地面に車輪の跡がついた。続き29行
196:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2017/12/08(金) 06:11:07
>「ごめん、手間かけて」

個室から出てきた祈を抱きしめていると、急に彼女が体を硬直させたような気がした。
今は乃恵瑠の姿なのでとっさに女子トイレに入ったのだったが、少なくとも橘音以外の認識ではノエルは時々女装する男である。

「いや、その……どうも姿が変わりにくいしかといってこの格好で男子トイレは気が引けるし……」

と小声で言い訳を繰り広げるノエル。どうせ誰もいるわけないのだから男子トイレでも全然問題無いとは思うが。
せめて巨乳に顔をうずめさせてあげることができれば力押しで女子トイレ入室許可判定をもらえるかもしれないが、(※そういう問題ではない)
生憎乃恵瑠は残念もといスレンダー系である。
乃恵瑠は毛玉の妖怪を洗濯機に放り込みたい謎の衝動に駆られた。
祈は結局それに関しては何も言わずにノエルに手を引かれて皆の元に戻るのだった。
ノエルの提案に対し、尾弐は行くなら自分が先導すると心強い言葉を返す。

>「……微妙な所だな。どうみても誘蛾灯だとおもうが、逆に言やぁ潰せば夢の強度も落ちる弱点とも言える。
まあ、幸いここは『きさらぎ(鬼)駅』だ。俺をどうこう出来る相手もいねぇだろうし、その方針で動くならオジサンが先導するぜ」

続いて、意外にも祈が意見を述べ始めた。
その胸中は計り知れないが、とりあえず普通に会話出来る状態になったことにひとまず胸をなでおろす乃恵瑠。
続き16行
197:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2017/12/08(金) 06:14:02
駅を出ると、無料の無人販売所のようなものがあった。
桃とブドウとタケノコという組み合わせを見た乃恵瑠は創世の神話の一節を思い出し
鞄に入るだけしまいながら皆にも声を掛ける。

「ご自由にどうぞらしいし持てるだけ持っていくんだ。
さっきバナナに猿が群がったのと同じようなことが出来るかもしれない。
美味しそうだからってくれぐれも食べないように。帰れなくなったらいけないから」

美味しい物を投げて敵がそれに群がってる間にどうにかするという戦法はこの国の原初から存在する由緒正しき戦法なのだ。
乃恵瑠はこれを“オヤツをくれてやる戦法(派生)”と名付けることにした。
(ちなみに本来のオヤツをくれてやる戦法は何の小細工も無しに敵の口に毒物を突っ込む戦法である)
そうして祭囃子の方に進んでいくと、その実態はくねくね達の乱舞であった。
それを見た乃恵瑠の中で、祭囃子に突撃するという可能性は瞬時に消え去ったのであった。
あれは種族自体が妖壊とでもいうべきか、言葉が通じないし知性を持っているかも不明な部類の者達である。
締め上げたところで情報が聞き出せるはずもない。

「あのくねくねしてる奴らはあんまり見ないようにね。もしあれの正体が分かってしまったらバカになっちゃうらしい」

人間界にきてまだ数年ながらもオタク属性を遺憾なく発揮し、皆に注意を促しながら坂道を登っていく。
お囃子の中から聞こえる《テン……ソウ……メツ……》の声に気付き、種族レベルの宿敵の気配に僅かに顔をしかめる乃恵瑠であった。続き16行
198:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2017/12/08(金) 06:15:55
「楽勝楽勝! ――妾を誰と心得る! ……ん?」

勝利宣言をしているそばから、掘っ立て小屋から次々と新しい巨頭が飛び出してくる。

>「これ急がないと死ぬやつだ……!」

「……これ無限に沸いてくるやつじゃん。きっと逃げ切ったら勝ち系のイベントだ。
つまり逃げろおおおおおおおおおおおお!!」

迎え撃つから逃げ切るに方針を切り替え、坂の上に向かって走り出す。
巨頭の後ろには大量のくねくねが控えている。
なんとなく物理攻撃は効きにくそうな上に、当たったらバカになる光線とかMPを吸い取る謎の踊りとか繰り出してきそうだ(勝手なイメージ)
追いついてきた巨頭を退けつつなんとか坂を上り切った一行。
しかし彼らを待ち受けていたのは、トンネルを塞ぐ大岩だった。

「そんな……!」

場は一瞬絶望的な空気に包まれかけたが、祈が何かを閃いたようだ。

>「……っ、尾弐のおっさん! 『下だ』! 大岩の下の地面を掘るんだ! そしたら勝手に岩は退いてくれる……と思う! 多分!」続き23行
199:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2017/12/13(水) 04:51:03
ポチが尾弐を見上げる。
右手で自身の顔を覆い隠し、黙り込んでいた彼が、その手を外し目を開いた。
そしてポチの頭を軽く……あるいは力なくか、撫でる。

>「ありがとな、ポチ助。お前さんの言う通りだ……だけど悪ぃ。俺は、そんな当たり前の事ができねぇんだ」

「……尾弐っち?」

不出来な作り笑いを浮かべる尾弐は、今まで彼から感じた事のないにおいを纏っていた。

>「……あの赤マントの奴は、嘘は言ってねぇ。俺は、確かに俺の意志で嬢ちゃんの両親を殺す選択をした。経緯はどうであれ、それは紛れも無い事実だ」
>「そうだ。あの二人が揃って生きる道は、確かにあった。それを知ったうえで、俺はその選択を取らなかったんだ」

違和感はにおいだけではなかった。
その言葉も。彼がこんなにも曖昧な……何の意味もない、言い訳を口にした事など、一度だってなかった。
……そんな事言ってたって、何も変わらない。状況を変えないと。
思い浮かんだその言葉を、しかしポチは口を噤み、飲み込んだ。

>「事実が変わらねぇ以上、死の詳細を知った所で救われる事なんて何一つねぇ。だから……いや」
続き43行
200:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2017/12/13(水) 04:52:21
ポチは猿夢もきさらぎ駅も知らないが、妖怪だ。
夜の闇を、逃げ切れぬ脅威を、存在しないモノへの恐怖を原典とする妖怪。
だから怪異の仕組みがなんとなくだが分かる。
恐怖を基とするモノは少なからず、決して全てではないが救いが伴う。
完全な恐怖、逃れようのない破滅など誰だって願い下げなのだ。
何か助かる道があって欲しいと、そうあれかしと望まれる。

>「とりあえず祭囃子の方に行ってみて様子を見てどうするか考えよう」

「……ん、待って、このにおい」

方針が定まり駅を出ると、すぐにポチが皆を呼び止めた。
道の脇に視線を逸らすと、粗末な作りの小屋があった。
無人販売所だ。桃とブドウとタケノコが、ご自由にどうぞと並べられている。

>「ご自由にどうぞらしいし持てるだけ持っていくんだ。
  さっきバナナに猿が群がったのと同じようなことが出来るかもしれない。
  美味しそうだからってくれぐれも食べないように。帰れなくなったらいけないから」

「あ、お腹空いて見てた訳じゃないんだね」続き49行
201:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2017/12/13(水) 04:52:46
>「――エターナルフォースブリザード!!」
 「楽勝楽勝! ――妾を誰と心得る! ……ん?」

ノエルの妖術が巨頭の群れを一掃するも……すぐに増援が現れる。

>「これ急がないと死ぬやつだ……!」
>「……これ無限に沸いてくるやつじゃん。きっと逃げ切ったら勝ち系のイベントだ。
  つまり逃げろおおおおおおおおおおおお!!」

「倒すだけ無駄か……でも足止めはしないとね」

ポチが身を翻し、同時に人型に変化。
宙返りを打って皆に前を譲り……そのまま巨頭の群れへ。
見るからにアンバランスな体だ。
最もやりやすい位置にいた一体、その額を蹴りつけた。
体勢を崩した巨頭が坂を転げ落ちる。後続達を巻き添えにしながらだ。

「転んだな……ってカッコつけても、この数相手じゃなぁ」

送り狼の本領と、ロボの姿を取る事で発揮出来る『獣(ベート)』の片鱗。続き40行
202:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2017/12/13(水) 04:54:08
>「ポチ君、これが差し込めるぐらいまでお願い!」

「あぁ、任せといて!」

応えるや否やポチは一心不乱に穴を掘る。
送り狼の力に、『獣(ベート)』の片鱗。
更には「ここ掘れわんわん」という、そうあれかし。
固い土をまるで豆腐のように掘り返しているポチだが……その表情には未だに焦りが浮かんでいる。
理由は、声だ。
絶え間なく響き続ける《テン……ソウ……メツ……》の声。
その正体、原典をポチは知らない。
だが既に理解はしていた。

>「桃には邪気を払う力があるって言われてんだってな」
  「うん。とりあえずオヤツをくれてやる戦法だ!」

「掘れた!けど……そのやり方だけじゃ駄目だ、ソイツだけは!」

十分な穴を掘り終えたポチが振り返り、叫ぶ。
《テン……ソウ……メツ……》の声の主。続き11行
203:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2017/12/17(日) 02:40:25
>「祭囃子の方へ行くのは賛成だけど、突っ込むのは反対」
>「祭囃子の方へ行くと、櫓と提灯が見えてくる」

ノエルと共に戻って来た祈。彼女は、先程のふさぎ込んだ様子と比べて随分と持ち直した様だ。
少なくとも、真剣な様子で『聞いてきた』という、祭囃子へと向かった場合の指針を語るその姿は、
触れるだけで壊れてしまいそうなものではなかった。

割り切った……訳ではあるまい。尾弐は、祈に何も語っていないのだから。
ポチの言った通り、真正面から向き合う事をしないままでは、感情とは完結しないものだ。
きっと、今も祈の胸中では尾弐に対する不満と不信が芽生えている事だろう。

だが、それでも……暗い感情を覚えながらも、祈は彼女の中の何かを信じて再び顔を出した。
そして、今一度先に進むことを語った。
平坦な声で言葉を紡ぐ祈に、尾弐は祈の瞳を見る事無く答える。

「そうかい。なら、早々に向かうとするか……覚めねぇ夢の結末なんて、ロクなもんじゃねぇだろうしな。
 とっとと起きて、たまにゃラジオ体操でもするとしようぜ」

……尾弐が祈に全ての答えを言わなかった事は、祈の心を慮っての事。確かにそれは事実である。
これまでその成長を眺めて来た、人間で例えるのなら、家族の様な距離感にいる幼い少女の心を壊したくなかった。続き17行
204:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2017/12/17(日) 02:40:59
改札を抜けた先でまず目に入ったのは、田舎で良く見られる無人販売所の様な形状の小屋であった。
販売所といっても、立てかけてある看板に書かれた文句を信用するのであれば配布場と表現した方が近いのかもしれない。
桃や葡萄は瑞々しく、魅力的なものであるが。

>「ご自由にどうぞらしいし持てるだけ持っていくんだ。
>さっきバナナに猿が群がったのと同じようなことが出来るかもしれない。
>美味しそうだからってくれぐれも食べないように。帰れなくなったらいけないから」

「黄泉戸喫(ヨモツヘグイ)……共食の観念を元にした逸話か。良く知ってたじゃねぇか色男。
 死者の国のモノを持っていては出られない。死者の国のモノを口にすりゃあ帰れない。
 果たしてこの夢が何処に繋がってるのかは知らねぇが、此処の住人になりたくなきゃ、食い物も水も口にしねぇ方がいいだろうな」

ノエルが語った通り、ここがどの様な場所であるのかが定かでない以上は、その地の食物を口にするべきではないだろう
尾弐は、ノエルが鞄に筍や桃を詰め込むのを眺め見つつ、猿夢の攻撃でボロボロになった上着を空になった籠の上に置いた。

「用意したのが誰かは知らねぇが、対価は籠に入れとくぜ」

誰に言うでもなくそう述べると、尾弐は小屋から何も持ち出す事無く歩を先に進める。

――――続き22行
205:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2017/12/17(日) 02:41:25
……。幸いな事に、櫓を迂回する事で異形共の注意を引く事は避けられた。
異形達は櫓の前で踊り狂う事に夢中で、それ以外に注意を向けられないらしい。
その事に一息つき――――きっと、それが不味かったのだろう。

正面から歩いてきた、一体のくねくねに気付くのが遅れた。
或いはもう少し気付くのが早ければ身を隠す事なり出来たのかもしれないが……しかし、それは後の祭りであった。

>《¥「@・。pmぬytrvべでrftgぬhyじm、おp!!!!!!!!》
>「はあ!? 普通にすれ違っといて何今更気付いてんの!?」

ブリーチャーズの横を通り抜けて行ったくねくねは、ポチが異変を察すると同時に、けたたましい奇声を発した。
そしてそれが―――――百鬼夜行の始まりの合図。

>「走って!なんか色々やばい!」
>「これ急がないと死ぬやつだ……!」

現れしは奇奇怪怪の魑魅魍魎共。
巨大な頭部を持つ人型。白く塗りつぶされたかの様な人型。姿の見えぬ不気味な声。
百とも見える異形の群れが、巣穴から逃げ出す蟻の様に湧き出て東京ブリーチャーズへと追いすがる。
続き23行
206:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2017/12/17(日) 02:44:53
>「お、尾弐っち!一緒に押そう!早くどかさないと……!」
「ったく、マラソンの次はバーベル上げとか、オジサンに対してハード過ぎるだろ!」

直ぐにポチと尾弐、単純な膂力ではこの場に居る東京ブリーチャーズの中でも上位に位置する二人が岩をどかそうとするが
獣の王の力を宿すポチと、コンクリに埋まった標識をも引き抜く膂力の尾弐の力を合わせても尚、大岩はピクリとも動かない。
尾弐は苦し紛れに拳を叩き込むが、ただの岩であれば即座に瓦礫に変える拳は、大岩に罅一つ入れる事は叶わなかった。

「有り得ねぇ、どんな硬さしてやがんだこの岩――――!」

そうして足掻いている間にも、異形の群れは接近してくる。
刻一刻と近づくタイムリミットに、最後の切り札を使う事が頭を過った尾弐であるが

>「……っ、尾弐のおっさん! 『下だ』! 大岩の下の地面を掘るんだ! そしたら勝手に岩は退いてくれる……と思う! 多分!」
「祈の嬢ちゃん――――ああ。任せとけ」

言葉と共に向けられた真っ直ぐな視線に一瞬たじろぎながらも、尾弐は祈の発言に沿って動く事を決めた。
ノエルが純氷の板を作り、ポチが岩の下の地を掘り返す間に尾弐は静かに呼吸しながら全身に力を滾らせる。

>「……尾弐っち!早く!!」
続き17行
207:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2017/12/17(日) 18:20:09
どれほど倒しても、倒しても、巨頭がその数を減らすことはない。
いや、むしろ増えている。相手が強大ならば強大なだけ、その戦闘力を圧倒的物量で押し潰そうとしているかのようである。

《オッ!オッ!オッオッオッオッ!》

巨大な頭を左右に振り、口の端から泡を吹きながら、巨頭が迫る。
ぐねぐねと人間ではありえない方向に関節を動かしながら、くねくねがゆっくり坂道をのぼってくる。
大岩のある坂の頂上はそう広くはない。祈たちが斃す妖壊たちの死体によって、立ち回れる場所も徐々に狭くなってゆく。
このままでは、全滅は必至であろう。

しかし。

>桃には邪気を払う力があるって言われてんだってな
>うん。とりあえずオヤツをくれてやる戦法だ!

祈とノエルが駅前の無人販売所から持ってきた果物と野菜を投げると、それはすぐさま覿面な効果を発揮した。
祈の投げた桃を見た途端、巨頭たちは我先にと桃へ群がった。
今まで執拗に東京ブリーチャーズを狙っていたのは何だったのかと思えるほど、巨頭たちは一心不乱に桃を奪い合う。
また、ノエルの投擲したブドウは瞬時に蔓を伸ばして巨頭とくねくねの身体に絡みつき、その自由を奪い――
タケノコは地面に落ちるや否や成長し、無数の強靭な青竹となって壁を作り妖壊たちの進路を塞いだ。続き42行
208:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2017/12/17(日) 18:21:04
祈が時間を稼ぎ、ポチが大岩の下に穴を掘り。
出来た穴にノエルが作った氷の板を差し込んで、尾弐が梃子の原理でそれを動かす。
先程の険悪な雰囲気が嘘のような、絶妙のチームワークである。
そして尾弐渾身の一撃が氷の板に叩きつけられると、その衝撃は板の反対側で炸裂し、ダイナマイトでも使ったかのように爆発した。

ドドドォォォォォンッ!!!!

耳をつんざく轟音。それでも大岩は厳然とそこに在り、びくともしないように見えたが――。

ぐらり。

やがて大岩はゆっくりと坂道の方向へと傾き、徐々に速度を上げて下り坂の方へと転がっていった。
ブリーチャーズは楽々避けられるだろうが、密集している妖壊たちはそうはいかない。
いまだに桃に気を取られていたり、ブドウの蔓に絡めとられていて身動きの取れない者たちが、大岩に押し潰されてゆく。
もともと坂道が隘路だったということもあり、巨頭とくねくねたちはなすすべもなく転がってゆく大岩の下敷きになった。
そして、ブリーチャーズの目の前には遮蔽物のなくなった洞窟が大きな口を開けている。
祈に助言した駅員の言葉が正しければ、この洞窟の果てに迎えが来ており、現世に立ち戻れるということなのだろう。
とはいえ、簡単には行かない。

《テン……ソウ……メツ……テン……ソウ……メツ……》続き50行
209:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2017/12/17(日) 18:26:51
《ギィィィ……ギギッ……》

弾かれた右手を押さえ、ヤマノケが憤怒の表情を浮かべて駅員の男を睨みつける。
しかし、異様な姿の妖壊と対峙しても、駅員は泰然とした様子を変えようともしない。

「わたしの言うことを信じて、ここまで辿り着いたな。偉いぞ……あと一息だ、がんばれ」
「ここはわたしが押さえる、君たちは先へ行け。もう、迎えは来ている」

左手で洞窟の奥を指し示し、男はそう言った。
そうはさせじと、ヤマノケが巨頭の群れに指示し男へと差し向ける。
男は伸ばしていた左手を引き、制服のポケットをまさぐると、中から何枚かの札を取り出した。
そして、素早く両手で印を結ぶ。

「雷は木気に通ず。建御雷之男神に御願奉りて、此処に暴魔羅刹を掃う金鎗を振り下ろさん!急急如律令!」

男が印を結び、呪を唱えると、途端に札から黄金の稲妻が迸った。
雷撃が襲い来る巨頭の群れを、くねくねを焼き焦がし、瞬く間に真っ黒い炭へと変えてゆく。
ヤマノケが不快に顔を歪めるが、男の行動はまだ終わらない。

「紅蓮は火気に通ず。火之迦具土神に御願奉りて、此処に不浄を清める燎原を顕さん!急急如律令!」続き41行
210:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2017/12/17(日) 18:29:24
洞窟は長く、一本道ではあるが曲がりくねっており、ブリーチャーズはしばしの間歩くことを余儀なくされた。
そして、その長い洞窟の果てに――

四人はまたしても、大岩が道を塞いでいる光景に遭遇した。
今度の大岩は洞窟入口の岩に輪をかけて大きい。岩と言うよりは岩盤と言った方がよいレベルだ。
むろん、持ち上げたりずらしたりすることなどもっての他である。
また、地面も先程と違って硬く、ポチの爪をもってしても掘削するのは困難であろう。

背後からは、なんの物音も聞こえてこない。追手の姿もない。
洞窟の入り口で、男がまだヤマノケたちを相手に持ち堪えているということの証左であろう。
しかし、それもどれほど持つかわからない。
いずれにしても、この大岩を何とかしない限りは先へ進めず、ブリーチャーズに生還の手段はないのだ。
このまま手をこまねいているしかないのか――そんなことを考えるも、不意に四人の耳に声が響いた。

――れて。

――離れて。

――離れてください!
続き42行
211:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2017/12/17(日) 18:32:11
都内某所の雑居ビル。一階のフローズンスイーツショップ『Snow White』の脇にある、下り階段をおりた先。
そこに『那須野探偵事務所』という看板を掲げた、橘音の塒がある。
事務所の扉を開くとすぐに応接室になっており、そこが東京ブリーチャーズのたまり場になっているのだが、今はガランとしている。
トイレにも、バスルームにも、そして寝室にも橘音の姿はない。
応接室の奥、ブラインドカーテンのかかった窓を背にして据えられている所長のデスク。そこが橘音の定位置だった。
橘音はいつもそこに座ってパソコンに向かっていたり、アイスクリームを食べたりして過ごしていたのだ。

そんな橘音のデスクの上に、封筒が一枚置いてある。
表には『東京ブリーチャーズの皆さんへ』の文字。
封を切り、中を改めると、便箋に手書きでメッセージがしたためられていた。
212:
那須野橘音 ◆TIr/ZhnrYI[sage] 2017/12/17(日) 18:37:54
『 親愛なる東京ブリーチャーズの皆さんへ

 おかえりなさい。
 皆さんが無事に黄泉比良坂から帰ってこられて、本当によかった。
 そう。アナタたちは東京ドミネーターズによって、本物の黄泉比良坂。現世と冥府の境界に送られてしまっていたのです。
 危ういところでしたが、皆さんひとりの欠員もなく戻ってこられて何よりでした。

 話は変わりますが――
 大変勝手かつ突然ながら、ボクは皆さんにお別れを言わなければいけません。
 ボクは罪を犯しました。
 罪は購われなければならない。購われない罪など、あってはならない。
 ボクは裁かれる必要がある。
 
 連絡のつく関係者には、あらかじめ事情を話しておきました。
 あとは、アナタたち四人だけです。

 ノエルさん。
 ボクのことをともだちと思ってくれて、ありがとうございます。
 ボクも、ノエルさんのことをかけがえのないともだちだと思っています。
 でも。それも今日までです。もう、アナタとボクはともだちじゃない。いいや、最初からアナタとボクに付き合いなどなかった。続き42行
213:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/21(木) 18:42:59
「やった……!」
 祈が投擲したたった一つの桃へと群がり、互いに潰し合う巨頭の妖怪達。
邪気を払うどころかむしろ桃に惹かれて集まってしまっているが、それが幸いした。
ノエルによって放られた葡萄が地面に落ちると急速的に成長し、
妖怪達の密集する場所へ驚異的な速度で蔓をぎゅるりと伸ばし、
妖怪達に絡みついてその動きを拘束したのである。一網打尽とはこのことだ。
タケノコもまた急成長を見せ、強靭な青竹の壁となって妖怪達を阻む。
桃と葡萄とタケノコ。これらによって時間を稼ぐことに成功したのだった。
 祈は思わずガッツポーズを決めるが、一匹、桃など見向きもせずに、
ブリーチャーズを見据えている妖怪がいた。
青竹と青竹の間にできた隙間。その向こうに浮かぶ、不気味な眼光。

《テン……ソウ……メツ……テン……ソウ……メツ……》

 それは巨頭の妖怪とも、くねくねした妖怪とも違う、一本足の人間のような形をした妖怪だった。
但し首から上はなく、顔面は胸にはりついている。
その顔は深い皺の刻まれた老齢の男のもので、ニタニタとした、べとつくような嫌な笑みを湛えていた。
 先程から耳鳴りのように聞こえてくる気味の悪い言葉が、
その妖怪が一歩一ミリ近付くだけで強まるのを祈は感じ、この妖怪こそが声の主だろうと思われた。
続き35行
214:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/21(木) 18:53:29
 その背を見て、足を止めた影がある。
一本足の妖怪、ヤマノケだった。
胸に付いた顔を歪めて、忌々し気に祈の背を見つめている。
祈は気付いていないが、服の背には血液が付着していた。
瘴気すら放つ、強き悪鬼の穢れた血だ。
祈が大岩を目で追っているときに、尾弐が飛ばしたものが付いたのである。
 神聖なものを穢すことによって力を増す、そんな特性を持ったヤマノケにとって、
ここに迷い込んできた者達は尾弐を除いた全員がある種ご馳走であった。
 妖怪の血が混じっているとはいえ、人間の少女。
白雪のように美しく穢れを知らず、子を為させることもできる雪女。
雌ではないようだが、名が大神から転じた者であり、神の御使いとも言われる狼の血族。
そのご馳走に一時とは言え穢れを纏わせる尾弐の行動はまさに、
上等な料理に蜂蜜をぶちまけるが如きもので、ヤマノケにとって許されざる所業であった。
 しかもあの鬼が少女だけでなく、
雪女や狼の血族にも血を放っていたようにヤマノケには見えていた。
忌々しさに怒気が込み上げて顔面を紅潮させるヤマノケだったが、だが、と嗤う。
 拳を砕き血を振り絞って、一時穢してまで守りたいと思う彼の鬼にとって尊き存在。
それらを捕らえ、より穢して、あの鬼の前で破壊するのはどれ程の愉悦だろうと。
 ヤマノケは猛然と走り出す。その背後に大量の巨頭やくねくねを従えながら。
まずは――。続き29行
215:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/21(木) 19:02:03
>「……大丈夫かい?家出少女」
 そして気が付けば、男が立っている。
 駅員のような制服に身を包み、祈をヤマノケから守るように立つその男は、
肩越しに祈を見てそんな風に言う。
 ヤマノケが男を警戒してか、後方に飛び退いて距離を取る。
 見覚えはなかったが、声とその呼び方で気付いた。
「その声……あんた、さっきの!」
 トイレに閉じこもっていた祈に声を掛けてくれた者だと。

>「わたしの言うことを信じて、ここまで辿り着いたな。偉いぞ……あと一息だ、がんばれ」
>「ここはわたしが押さえる、君たちは先へ行け。もう、迎えは来ている」
 その男はトンネルの奥を指差し、祈達に行けと言う。
「助かるけど、押さえるってそんな、無理だって! 妖怪がたくさんいんだよ!? 一緒に逃げよう!」
 そう。追ってきているのはヤマノケだけでない。
巨頭の妖怪の群れもくねくねした妖怪達もいるのだ。
先程は運よくヤマノケを弾けたようだが、ただの駅員の幽霊だかにどうこうできるものではない。
 祈と男がそうこう言っている間に、巨頭の妖怪達が雄たけびを上げながら追いついてきた。
ヤマノケが巨頭の妖怪達に指示し、男へと差し向ける。
「ほら早く――」
>「雷は木気に通ず。建御雷之男神に御願奉りて、此処に暴魔羅刹を掃う金鎗を振り下ろさん!急急如律令!」続き21行
216:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/21(木) 19:11:07
>「禍々しき神よ。山の怪(やまのけ)よ――」
>「生憎だが、この子には指一本触れさせん。まして、中に入るなどもっての他だ」
>「おまえはこれからもここにいろ。ずっとだ……わたしが祭壇を拵えてやる」

 その言葉を聞いて、どうしてだろう、と祈は思う。
どうして初めて会った自分にこんなにも良くしてくれるのだろう、と。
 男の腕を跳ね除け、ヤマノケが暴れ出す。
更には巨頭やくねくね達も群がるが、
男は再び札と呪によって地面から無数の土の棘を生み出し、妖怪達を串刺しにして退けた。
 土の棘が壁となり、一時妖怪達との距離が開く。
再び妖怪達との交戦が始まるまでの僅かな間ができ、その間に男は振り返って、祈の方を見た。
 男を見ていた祈と目が合う。
>「……仲間たちを信じなさい。最後まで……その想いが君を強くする、希望を切り拓く――忘れるんじゃないよ」
 男は祈に微笑んで、子どもに言い聞かせるような優しい声音でそう言った。
「わ……わかった、よ。忘れない……ようにする。多分」
 温かな笑みを向けられて、何故だか祈は照れてしまって、ぎくしゃくとした奇妙な返事になってしまった。
男はその返事を聞いてどう思っただろう。次に男は尾弐へと向けて、
>「黒――……を……願――ます」
 何事か言って、頭を下げた。
それは土の棘を破壊する音や巨頭の妖怪の雄叫びで掻き消されて、祈には聞こえなかった。続き10行
217:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/21(木) 19:17:57
 やがてトンネルの出口へと辿り着いた。
しかしそこでブリーチャーズを迎えたのは、またしても大岩だった。
トンネルの出口を塞ぐ大岩は、入口を塞いでいたものよりも大きく、
誰が押そうが引こうがびくともしない。
当然、祈が押したところで一ミリたりとも動かない。
「尾弐のおっさんの浸透剄でもやっぱ無……うわっ! つーか尾弐のおっさん手、大丈夫なの!?」
 尾弐の右拳が砕けてボロボロになっていたことに今になって祈は気付いた。
祈があのような提案をして、無茶をさせた所為だろう。
「つーかあたしの所為か。ごめん、尾弐のおっさん。無茶させて」
 視線を合わせないながらも、祈はそう謝罪する。
尾弐がこの状態では先程のような一撃は放てまいし、放てたとしても放たせては駄目だ。
そして放ててもきっと、この大岩は動かせまい。
 地面もアスファルトのように固く、ポチが掘ったり壊すことも出来なさそうである。
ここまできてまた足止めだなんて、と思っていたが、
大岩の先から聞こえてくる声があった。

――れて。
――離れて。
――離れてください!
続き16行
218:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/21(木) 19:29:20
「はっ」
 目を開けると同時にがばっと上体を起こす祈。
前方に伸ばした両腕に跳ね除けられた布団の端が、膝の上に落ちる。
そこはトンネルのような暗い場所ではなかった。
見慣れた自分の部屋で、どうやら祈は布団の上で寝ていたようだった。
明るい窓の外では雀が鳴いている。 
 さっきまでトンネルにいた筈なのに、と思い体を捻って確認してみるが、
衣服や髪についていた土埃や血やら泥やらはなくなっているし、手指から桃の匂いがすることもなかった。
そう、祈は悪夢から覚めて、現実へと戻ってきたのだ。
学習机の上を見遣れば、置かれた時計は7時を指しており、
祈は疲労感から寝た気があまりしないながらも、起きることにした。
今日は土曜日だ。
 履いたままの風火輪を脱ぎ、布団を片付けて居間に行くと、祖母の姿はなかった。
普段なら土日は休みだが、珍しく仕事で朝から出かけているのだった。
 祈は卓袱台の上に置かれた「朝食は冷蔵庫に。温めて食べなさい」というメモに従って
冷蔵庫に収められた朝食をレンジで温め、ベーコンエッグや食パンを足して一人で食べた。
 軽くシャワーを浴びていつもの私服に着替えると、祈は風火輪を鞄に詰めて事務所へと向かった。
 悪夢から目覚めることができたのは、
迎えに来てくれた橘音や仲間達のお陰であるから礼を言わねばと思ったし、
何より、聞かねばならないことや、言わねばならぬことがある。続き16行
219:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/21(木) 19:39:32
――――――
――――

「……?」
 暫し立ち尽くして便箋を眺めていた祈だったが、
ふと便箋に記された言葉の中に、重要なものが抜け落ちていることに気付いた。
 “東京を守って欲しい”というような文言がないのだった。
いや、東京ブリーチャーズが解散したのならその任務も消えるのかもしれないが、
東京ブリーチャーズが解散したからといって
ドミネーターズまでも解散する訳ではないし、妖怪大統領の侵攻は続くだろう。
事態は何一つ解決していないのだ。
むしろ妨害する者がいなくなったことで、ドミネーターズの侵攻は容易になるだろう。
 そして、それを指を咥えて見ていれば、
己が目的を達成する為ならば虐殺も辞さない、
そんなテロリストの親玉のような妖怪がやってきて東京を支配する。そうなれば日本は終わりだ。
東京だけでなく日本の全てが彼の支配下に置かれるだろう。
そこが迷い家だろうが雪山の奥であろうが関係ない。
なんせ結界破りのプロがその配下にいるのだ。安全圏などどこにもない。
妖怪も人間も、全てが彼に傅く。傅くまで彼の暴虐は続くだろう。
 ……なのに、解散をした後はまるで、そんなものは関係ないかのように、続き12行
220:
多甫 祈 ◆MJjxToab/g[sage] 2017/12/21(木) 19:48:45
「橘音を探さなきゃ」
 橘音の言う通りに祖母に父母のことを聞くつもりなど祈には毛頭ない。
橘音と尾弐から直接聞き出すつもりでいたし、
橘音のいない日常を平然と受け入れることもしなかった。

 ポチがその場にいなければ、祈は靴や靴下を脱いでポチを呼ぶか、
あるいは事務所を飛び出してポチを探し出し、説明した上でこう持ち掛けるだろう。
「ポチ。橘音の捜索を頼みたいんだけど、ケンタッ○ーのチキン三個でどう? 今ならポテトも付けるよ」
 と。
 あの便箋は少なくとも、
橘音が現世と冥府の境界から事務所に戻った後に書かれたものだと推測できた。
でなければ“皆さんが無事に黄泉比良坂から帰ってこられて、本当によかった”などとは書けない。
 そして、祈が目を覚ましたのが7時。
この時間が仮に、トンネルを抜けて精神が肉体に戻った時間と同一だとするなら、
橘音が事務所に戻るにはこれと同等か、あるいはそれ以上の時間を要することが予測された。
(精神だけそこに飛ばしたのか、生身で赴いたのかなどに因るだろう)。
 その後、仲間への連絡やらをして、便箋に文を書いたりするのだから、
最低でも戻ってから10分、いや、20分は掛かったに違いない。
朝食などを摂ったり多少休めばもっとかかる。
 それを考えれば、橘音がどれ程早く事務所を出られたとしても7時20分そこら。続き8行
221:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2017/12/23(土) 05:54:49
駄目でもともとの精神で投げてみた桃とぶどうとたけのこは、想像以上の効果を発揮した。
こんなことなら早く投げとけば良かった、という感じである。
雑魚に任せてはおけぬと思ったのか、ついに真打ちらしき妖壊が姿を現した。

>《テン……ソウ……メツ……テン……ソウ……メツ……》

「気を付けろ――あれは紳士じゃない方の変態! 変態の風上にも置けぬ輩だ! いや、あんな奴を変態とは認めてやらないぞ!」

現れた妖壊――ヤマノケを見て、嫌悪感を露わにする乃恵瑠。
見るだけで怖気を誘うような姿なので当然といえば当然だが、それだけではない。
ノエルの中で変態には由緒正しき紳士な方の変態と邪道の紳士じゃない方の変態の二種類があり、ヤマノケはまごう事なき後者であった。
かつて雪の女王の元で修行していたころ、里の者に被害が続出したことがあるのだ。
憤った乃恵瑠は従者とペットと共に討伐に赴き、辛くも討伐に成功したのだが――
追いつめられた時のおぞましい記憶がまざまざと甦る。
紳士じゃない方の変態というのはどうにも存在が受け付けないのだった。

>「掘れた!けど……そのやり方だけじゃ駄目だ、ソイツだけは!」
>《テン……ソ「ガタガタうるせぇ有象無象――――こいつらに手ぇ出すなら、地獄にすら逝けると思うなッッッ!!!!!!!!」

尾弐の一撃が炸裂し、ついに大岩が動き出した。続き29行
222:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2017/12/23(土) 05:59:10
「こっちに来い! 妾が相手をしてやる」

乃恵瑠は自らにターゲットを移すべく、必死の色仕掛けを敢行する。
具体的には片方のスカンツの裾を太腿までたくし上げ、もう片方の手で上衣の裾を胸の下まで上げて脇腹をチラ見せする。
ふざけているようにしか見えないが、本人は大真面目である。
裸ストールになるのもやぶさかではないが、それでは駄目なのだ。
全見せよりも見えそうで見えないチラリズムが良い、といつか毛玉の妖怪が言っていたのである。
しかし、慣れないチラリズムに挑戦した努力も空しく、ガン無視されるのであった。
乃恵瑠は毛玉の妖怪を洗濯機に放り込みたい謎の衝動に駆られた。

「貴様――さては紳士じゃない方のロリコンかぁあああああああ!!」

いたたまれなくなった乃恵瑠はヤマノケロリコン説をプッシュするのであった。
とはいえヤマノケに取り付かれた噂では、取り憑かれたのはまだ年若い少女ばかりであるため、満更有り得なくもないかもしれない。
誘い受けにひっからないなら自ら襲い掛かるしかないわけだが――

「あれ? 置いて行かれてる……!」

乃恵瑠が無い色気を出そうと無駄な努力をしている間にヤマノケは乃恵瑠を追い越して先を走っていた。
こうして成す術もなく、ヤマノケの魔手がついに祈に届かんとする。続き21行
223:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2017/12/23(土) 06:02:32
>「雷は木気に通ず。建御雷之男神に御願奉りて、此処に暴魔羅刹を掃う金鎗を振り下ろさん!急急如律令!」
>「紅蓮は火気に通ず。火之迦具土神に御願奉りて、此処に不浄を清める燎原を顕さん!急急如律令!」

「凄い……! 難しい呪文を噛まずに言っている!」

男が呪文で妖壊達を軽々と焼き払うのを見て、感嘆の声を漏らす乃恵瑠。感心しどころが微妙にずれているのはともかくとして。
呪文を聞く限りその業は五行説に則っているようで、陰陽師か東洋系の退魔師だろうな、とは思うがそれ以上のことは分からない。
ただ一つ確かな事は滅茶苦茶強いということだ。
戦いの最中の束の間に、男は振り返って祈の方を見た。
男の顔をまじまじと見て、それから祈の方を見て、首をかしげる乃恵瑠。

>「……仲間たちを信じなさい。最後まで……その想いが君を強くする、希望を切り拓く――忘れるんじゃないよ」
>「わ……わかった、よ。忘れない……ようにする。多分」
>「黒雄さん、この子をよろしくお願いします」

――なんだろう、この蚊帳の外な感じ。
と、同じことを感じているかもしれないポチに視線で語りかけるのであった。

>「わたしがバケモノどもを押さえている間に行くんだ!時間がない……振り返らず走れ!」
続き29行
224:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2017/12/23(土) 06:05:35
その時、洞窟内が地震のように揺れ始めた。
しかし、橘音が外側からダイナマイト的なもので破壊したのだろうか、大岩が砕け散る。
お助けキャラの人が時間がないと言っていたのは、もう少し遅かったら洞窟が崩落して帰れなくなっていた、ということなのかもしれない。

>「いや~ははは、ギリギリで間に合ったみたいですね!」
>「怖い夢を見たようですね。でも、安心してください――夢は。覚める時間ですよ」

「きっちゃん、やっぱり助けに来てくれたんだね……!」

乃恵瑠は眩い光を背に手を差し伸べる橘音に飛びついて――

「大好きだよきっちゃん! ご褒美にモフモフモフモフしてあげる!」

橘音を抱きしめてモフモフの刑を敢行する乃恵瑠。
――いや、橘音は常に人間態をとっているためモフモフはしていないはずだ。

「あいたたたた! 痛いよ乃恵瑠! それにぼくきっちゃんじゃないよ。寝ぼけてるの?」

橘音とは明らかに違う声で我に返ると、乃恵瑠は白い兎――ペットのハクトを力いっぱい抱きしめてモフモフしていた。
続き27行
225:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2017/12/23(土) 06:10:36
「大変だ、橘音くんに言わなきゃ!」

「ちょっと待って!」

慌てて橘音の事務所に向かおうとするノエルをハクトが引き留める。

「服を着て! 風邪引いちゃう!」

「――あっ」

理由は若干ずれているものの(雪女は風邪をひかない)結論的には至って常識的な進言をするハクト。
服を着たノエルは、頭の上に乗ってついて来ようとするハクトをこの場に留まらせ、
気を取り直して階下へと降りていく。
しかし、中に入っても橘音は見当たらない。

「さては隠れんぼだな――そこか! そこか! そこかぁあああああああああ!!」

祈と橘音が顔を合わせる前に知らせておかなければと思って来たのだったが、結局橘音が見つかる前に祈が来てしまった。
総出で風呂場に突入したり、原型にならないと入れないようなヤカンの中なども探索したが一向に見つからない。
最終的には、所長デスクの上に手紙にたどり着くこととなる。続き15行
226:
御幸 乃恵瑠 ◆4fQkd8JTfc[sage] 2017/12/23(土) 06:11:26
つまりこれは、勝てないと悟り仲間を無駄死にさせることは出来ない思った結果か、
もしくは――確実に勝てる方法を突き止めたか。
どちらにせよ共通するのは、橘音が特攻隊になろうとしているということ。
取り返しのつかないことになる前に、見つけ出して踏みとどまらせなければならない。

>「もしかして橘音のやつ……一人でドミネーターズと戦う気なんじゃないのか?」
>「橘音を探さなきゃ」
>「ポチ。橘音の捜索を頼みたいんだけど、ケンタッ○ーのチキン三個でどう? 今ならポテトも付けるよ」

橘音は探偵なので追跡できるような痕跡は残っていないかもしれないが、試してみる価値はある。
が、ポチの方を心配そうに見るノエル。

「ポチ君――」

何も知らないまま、ロボから力を受け継いでしまったポチ。
獣として生きている彼が小難しい世界の理を知る由もなく、誰かが教えない限り、強力な力を受け継いだ、という認識しか無かったはずだ。
教えることで悪影響になってはいけないと思って黙っていたのだが、こんな形で知ってしまうことになるとは。
ノエルは屈んでポチを抱きしめ、そっと耳打ちするのであった。

「大丈夫――僕も君と同じだ」
227:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2017/12/28(木) 00:36:05
>「ガタガタうるせぇ有象無象――――こいつらに手ぇ出すなら、地獄にすら逝けると思うなッッッ!!!!!!!!」

怒号と共に振り下ろされる憤怒の拳。
地響きのような轟音が響き……そしてほんの僅かに、トンネルを塞ぐ大岩が、動いた。
固唾を呑んで見守っていたポチが、その場を横に飛び退く。

「やった……動いたよ!祈ちゃん、ノエっち!行こう!」

岩はまず氷の板の上をゆっくりと滑る。
そうして緩やかに山の斜面に至り……そこから急激に加速して、坂を転がり出す。
巨頭とくねくねの群れが薙ぎ倒されていく様は爽快だったが、じっくり見物している暇はない。
皆がトンネルへ駆け込むのを待ってから、ポチもその後に続いた。

>《テン……ソウ……メツ……テン……ソウ……メツ……》

「……アイツ、まだ付いてきて……!」

腐っても、怪異に堕ちても、山の神は山の神。
あの大岩も山の一部であるとすれば、仕留められなかったのは必然。
振り返ればヤマノケの眼光は、祈のみを、まっすぐに捉え続けている。続き39行
228:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2017/12/28(木) 00:36:39
>「わたしの言うことを信じて、ここまで辿り着いたな。偉いぞ……あと一息だ、がんばれ」
 「ここはわたしが押さえる、君たちは先へ行け。もう、迎えは来ている」

駅員の制服に身を包んだその男が左手で洞窟の奥を指す。
だがポチはその言葉よりも……彼がまとうにおいに、強く心を奪われていた。
強い、強い、親愛のにおい……はるか昔に、嗅いだ事があるような、だが思い出せないにおい。

>「雷は木気に通ず。建御雷之男神に御願奉りて、此処に暴魔羅刹を掃う金鎗を振り下ろさん!急急如律令!」
>「紅蓮は火気に通ず。火之迦具土神に御願奉りて、此処に不浄を清める燎原を顕さん!急急如律令!」

そのにおいにポチが戸惑っている内に、男は見慣れない術を用いて怪異の群れを迎え撃ち始めた。

>「……仲間たちを信じなさい。最後まで……その想いが君を強くする、希望を切り拓く――忘れるんじゃないよ」

……けれども、祈へ語りかける時、一際強くなる、この親愛のにおい。

>「黒雄さん、この子をよろしくお願いします」

それに……どうやら彼は、尾弐と既知の仲らしい。
……だがポチはそこで思考を中断した。続き55行
229:
ポチ ◆CDuTShoToA[sage] 2017/12/28(木) 00:37:01
 
 

……気がつけば、ポチはいつもの寝床にいた。
夢の中で負った傷も、ケ枯れ寸前だったはずの疲れも残っていない。

「……夢だった?いや、まさか……」

真偽を確かめるべく事務所に向かう。
しかし事務所に近づくに連れて、ポチに違和感が生じる。
……狼の嗅覚は鋭い。故に、分かってしまう。
同じにおいでも……そこににおいの主がいるのか。
それともそれが、ただの残り香にすぎないのかが。
元から駆け足気味だったポチが、一層強く地面を蹴る。
そして事務所に辿り着くと……

>「さては隠れんぼだな――そこか! そこか! そこかぁあああああああああ!!」

「……何やってんの、ノエっち」
続き77行
230:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2017/12/30(土) 17:29:16
洞窟の奥。その先に在るであろう明日の光を目的に彼等は走る。

既に策は弄し終え、手も尽くした。
黄泉を抜ける為の三種の供物――――即ち、桃、筍、葡萄。其れ等をもって、退路を進む為の時間を得た。
転がり落ちる巨岩を以って、追いすがる総体を削りもした。
これが神話の世界で在るのなら、後は道を駆け抜けるだけであっただろう。

だが……東京ブリーチャーズの面々が黄泉路を抜ける為には、神話を準えても尚、一手足りなかった。

悪鬼、雪妖、妖犬、半人半妖
如何な力を持つとはいえ、『所詮』彼等は妖怪だ。

神話の主神格が持つ様な、単身で岩を動かす力も
数多の亡者から逃げ切る神足も、穢れし山神を払いのける神格も有してはいないのである。

故に、彼らが黄泉路から逃げ切る為には、神話を越える為の後一手が必要であった。
――――けれど、その一手こそが届かない。
先に述べた通りに、策は弄し終え、手も尽くしたのだ。

メンバーの各々があらゆる手段を講じた結果が齎した状況が今なのである。続き17行
231:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2017/12/30(土) 17:29:48
>「……大丈夫かい?家出少女」
>「その声……あんた、さっきの!」
>「もしかしてさっき言ってたお助けキャラの人!?」

「なっ……!?」

突如の援軍に喜色を浮かべる祈とノエル。だが、尾弐だけは反応が異なっていた。
ほんの一瞬。擦れ違った瞬間にだけ見えた男の姿とその声に、尾弐は思わず足を止め驚愕する。
男が放つ紅蓮の業火も、奔る雷光さえも目に入らない程に。
それは……その男の姿が、声が。泣きたい程に懐かしいものであったから。

>「わたしの言うことを信じて、ここまで辿り着いたな。偉いぞ……あと一息だ、がんばれ」
>「ここはわたしが押さえる、君たちは先へ行け。もう、迎えは来ている」

そうして、祈へと優しい声で言葉を投げかけ、反対に怜悧な声と共にヤマノケ達を屠る男は、最後に背を向けたままの尾弐へと向けて言葉を掛ける

>「黒雄さん、この子をよろしくお願いします」

その言葉を受け、祈へと視線を向ける尾弐だが……男へと振り返る事はなかった。
……本当は、振り向きたかった。振り返って、懺悔の言葉を述べたかった。続き15行
232:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2017/12/30(土) 17:30:13
>「……嘘でしょ」

辿り着いた洞窟の最奥。
されど其処には、最後の関門が立ち塞がっていた。
先の巨岩とは比較にならない巨岩。もはや岩盤とでも言うべきそれが道を塞いでいたのである。

「……こいつぁ、流石に砕くのも動かすのも無理そうだな」

>「尾弐のおっさんの浸透剄でもやっぱ無……うわっ! つーか尾弐のおっさん手、大丈夫なの!?」
>「つーかあたしの所為か。ごめん、尾弐のおっさん。無茶させて」
>「きっと大丈夫だよ。これが夢なら生きて帰りさえすれば元通りだ。
>さっきの人、もう迎えは来ているって言ってたけど……もしかして岩の向こうにいるのかな?」

「……心配すんな嬢ちゃん。こんなもん狼王の時に比べり掠り傷だし、ノエルに言う通り、起きりゃ痣くらいしか残んねぇよ。
 ただ……悪ぃが浸透徑は無理だ。つか、仮に打ててもこのサイズ相手にゃ力不足だしな」

尾弐は、声を掛けて来た祈に対し少し驚きをみせつつも、大した怪我では無いと強がりを見せる。
そして苦々しい表情で岩の周りの土を蹴ってみるが、先ほどと違いまるで金属のように固い土は僅かにも削れる事はなかった。
幸い、未だ怪異の群れは追ってきてはいないが、時間の猶予は少ない事に違いは無いだろう。
ここに来ての手詰まりに、東京ブリーチャーズの面々が思案に暮れ、もはや岩の向こうへと声を掛ける以上に出来る事が無い中続き25行
233:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2017/12/30(土) 17:30:46
「っぐ……」

目覚めと共に訪れる、体の中を金属の棒でかき回されているかの様な激痛と不快感。
思わず声を漏らす程のその苦痛が、皮肉にも尾弐にここが現実である事を告げた
痛みを紛らわす為、或いは不快の原因を鎮める為に、寝起き早々にウイスキーを一瓶胃に流し込んだ尾弐は、
シャワーを浴びて汚れを流すと、クリーニングから帰ってきたばかりの皺の無い背広の横に掛けた
普段着代わりに使用している皺の多い背広を羽織ると、財布と鍵だけを持ち、自室の玄関の扉を開く。


>「さては隠れんぼだな――そこか! そこか! そこかぁあああああああああ!!」
> 「……何やってんの、ノエっち」

「あー……何かあったのか?」

那須野の事務所へ足を踏み入れると、ノエルと祈がそこら中の扉を開け、荷物をひっくり返し、
それをポチが眺めているという奇怪な状況となっていた。
ノエルだけなら『なんだノエルか』で済む話であったのだが、その行動に祈が追随している事を確認した尾弐は、
何か異常事態でも起きたのかと声を掛け

そして知る。
那須野橘音の失踪と、東京ブリーチャーズ解散の号令を。
234:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2017/12/30(土) 17:31:16
>「……酷いよ橘音くん。もう友達じゃないって。罪ぐらいなんだ! 雪の女王はキツネ一匹かくまうぐらい朝飯前だ!
つーか解散!って……ホームレス中学生のお父さんじゃないんだから! どうすんの東京侵略されちゃうよ!?」
>「もしかして橘音のやつ……一人でドミネーターズと戦う気なんじゃないのか?」

「罪ってのが判らねぇが……東京ブリーチャーズを解散しても、漂白計画は止まらねぇ。
 方針を決める権限が那須野にはねぇ以上、嬢ちゃんの言う通り那須野が独力で問題を解決するつもりだって可能性は十分あるだろうな」

己に宛てた手紙を読み終えた尾弐はそれを懐に仕舞うと、取り乱す様子も無く腕を組む。
そして、ポチとノエルがそれぞれの中に宿る『力』について語っている、その内容を聞き終えてから
祈の推測に賛同の意を見せた。

>「橘音を探さなきゃ」
>「尾弐っち、まさか橘音ちゃんの意志を尊重しよう……なんて言わないよね。
> いや、尊重するなら責任持って僕らの保護者をしてもらわなきゃ。
> ……何かないかな、尾弐っち。橘音ちゃんを見つける為の、足がかりとか」

当然、この場に居る妖怪の面々は那須野を探す事を提案する。
追って見つけ、理由を問いただし、力を貸そうとする。
短い付き合いではない、共に死線を潜り抜けた間柄だ。それはある意味当然と言えるだろう。
続き18行
235:
尾弐 黒雄 ◆pNqNUIlvYE[sage] 2017/12/30(土) 17:31:33
「……俺の知る限り、大将への足がかりになりそうな場所は三つだ」

そして、ガシガシと頭を掻いてから手の甲を前に向けて指を三本立てた尾弐は、
一本目の指を折りながら口を開く。

「一つは、妖狐族を束ねる『御前』の膝元だ。傘下である那須野が、頭目に事前に通している可能性は十分に有る」

そして、指を更に一つ折り尾弐は続ける。

「もう一つは、『迷い家』の富嶽だ。国中に網を張ってる様なあの御老体なら、大将の尻尾を掴んでるかもしれんねぇ」

そして、一瞬祈へと視線を向けてから三本目の指を折る

「最後に……人間側の霊的戦力の本拠地『日本明王連合』。
 本質的に妖怪の敵対者だからな、今は強力しているとはいえ、東京ブリーチャーズへの監視は怠ってねぇだろうよ」

そこまで言い切ってから、突然に己の知る心当たりを語りだした尾弐に対し訝しんでいるであろう3人へと苦笑を向ける。

「そんな不思議そうな目ぇすんなよ。俺だって、こんな別れ方に納得してる訳じゃねぇんだ。
 一人でも那須野を追うつもりだったが……お前等、放って置いたらバラバラに那須野を追い出すだろ?続き24行
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